4.5 ダイカスト法(die casting process)
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4.5 ダイカスト法(die casting process)
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1.普通ダイカスト法
ダイカストは、精密な金型に溶湯を高圧力を用いて高速で射出注入して、薄肉部位にも溶湯を充てんできるようにした鋳造方式で、大量生産に適しています。
ダイカストは、高圧で溶湯を鋳型愛に注入する機構、その高圧力に耐える型締め力を確保するために、比較的大型の装置になり、これをダイカストマシンと呼んでいます。ダイカストマシンは、大きく分けて2方式があり、コールドチャンバダイカストマシン(cold chamber die casting machine)と、ホットチャンバダイカストマシン(hot chamber die casting machine)といわれるものです(図4.5.1)。
1)コールドチャンバ式は、スリーブ内に注湯された溶湯を、プランジャで加圧射出して金型内へ鋳造します。アルミニウム合金のダイカストはすべてこの方式で製作されています。マグネシウム合金や黄銅にも用いられています。
2)ホットチャンバ式は、スリーブとプランジャが溶湯中に浸漬されていて、溶湯はグースネック(・・・要チェック)を通して加圧されて金型内へ鋳造されます。亜鉛合金ダイカストのほとんどがこの方式で製作されています。また、マグネシウム合金にも用いられています。アルミニウム合金では、スリーブおよびプランジャが溶湯によって侵食されるため、適用が難しいですが、現在小型機については開発されています。
(1)コールドチャンバダイカストマシン
・型締力:0.5~40MN
・射出力:型締力の1/20~1/40
・ダイカストのサイクル:/金型の過熱防止の為、内部を水冷する → /焼付き防止のため離型剤を塗布する → 可動型を固定型に合わせて金型を閉じる → 溶湯をラドルでスリーブ内に注湯する → 注湯後ただちにプランンジャが作動して、溶湯を金型の湯道、ゲートを通じて金型に送られ鋳造する(ゲートは湯道より狭いので、溶湯は金型内に高速で射出される) → 溶湯の凝固後、金型を開き、プランジャと可動中子を元の位置に戻す → 押出しピンを作動させて、製品を金型から押出す。
・アルミニウム合金ダイカストの場合、
/鋳造圧力(射出力):10~200MPa
/溶湯のゲート通過速度:約20~100m/sec
/溶湯充填時間:約0.01~0.7sec
/金型内の溶湯の冷却速度:約30~300℃/sec
/スリーブの移動速度:スリーブ内が溶湯で充填されるまでは低速で射出 ・・・ 0.2~0.5m/sec
溶湯がキャビティ内に入りだした時点で高移動速度 ・・・ 1.5~2.5m/sec
の、2段階方式を取るものが多いです。
/ダイカストの1サイクル:小さい鋳造品で数秒、大きいもので数分。高速生産性があります。
・周辺装置も、自動給湯装置、自動プランジャ潤滑装置、自動離型剤スプレー装置、自動製品取出し装置など自動化が進んでいます。
・中小マシンでは、完全無人化も実施されています。
・特徴としては、
/複雑形状の鋳造品を一工程で量産が可能
/湯回りがよく薄肉部品の鋳造が可能
/寸法精度が高い
/鋳肌がきれい
/急冷により組織が微細
などがあります。
・一方、注意すべき点は、
/高速射出のため、スリーブおよび金型内の空気やガスを溶湯中に巻き込んだまま凝固しやすく、鋳巣対策が必要になります。
/巻き込まれた空気、ガスのため溶体化加熱や溶接が不可能であり、金型に急速拘束されるので鋳造割れの対策が必要になります。
(2)ホットチャンバダイカストマシン
・型締力:0.05~10kN
・射出力:7~25MPa
・特徴としては、
/射出部が溶湯内にあり、1サイクルごとに注湯する必要がなく、完全自動化が行われている。
/射出力が低圧力なので、鋳造サイクルが速い。
などがあります。
・ただし、射出部のプランジャおよびスリーブを含むグースネックが、溶湯中に絶えず浸漬されているので、グースネック材質が溶湯に侵食されない、亜鉛合金や、スズ合金、マグネシウム合金などの鋳造に適用されます。
2. 新しいダイカスト法
普通ダイカスト法では、高速射出充てんに伴う空気とガスの巻込みや、厚肉部のひけ巣は避けるのが難しいです。充てん性や、気密性、機械的性質の向上、熱処理や溶接を可能にするために、新しいダイカスト鋳造技術が考案されています。
(1)真空ダイカスト法(減圧ダイカスト法,vacuum die casting process)
金型キャビティ内の空気やガスを、溶湯射出直前に真空ポンプで吸引して、減圧状態でダイカストする方法です。真空度の保持と溶湯射出のタイミングの制御に工夫を必要とします。
方式により、GF(gas free)法、マスベント法、カットオフピン法、ACURAL法などがあります。
日本ではGF法(図4.5.2)が広く用いられています、金型キャビティ内の空気を短時間に大量に排気して、しかも溶湯が外部に飛び出ないエアベントバルブが用いられます。
最近では、高品質ダイカスト鋳造法として、VACURAL法が日本でも実用化されています。この方法は、スリーブ内も減圧して、注湯も吸引することで減圧時間を長くしています。溶体化熱処理や、溶接が可能です。
(2)PFダイカスト法(無孔性ダイカスト法,pore free die casting process)
金型およびスリーブ内の空気を酸素ガスに置換して、おおよそ80m/sec以上の高速射出により、溶湯を金型内へ噴霧状に鋳造して、酸素をすべてAl2O2として鋳造品内に微細分散させて、空気やガスの巻込みによる鋳巣をなくす方法で、無孔性(PF : pore free)ダイカスト法と呼ばれます。
ガス含有量が普通/重力金型鋳造法と同程度になり、溶体化熱処理や、溶接が可能です。
(3)低速充てんダイカスト法
高速充てんによるスリーブ、金型キャビティ内の空気やガスの巻込みを防ぐため、溶湯のゲート通過速度を1m/sec前後の低速で充てんして空気、ガスの巻込みを防ぐ方法です。
アキュラッド法、低速充てん法、層流充てん法などが開発されています。
充てん時間が長いため、ゲート断面積を大きくして、溶湯の冷却管理が重要になります。強度部品や、耐圧部品の鋳造が可能です。
(4)高速充てんダイカスト法
アルミニウム合金では、おおよそ0.8mm の薄肉製品の鋳造が求められます。このために、低速充てんとは逆にゲート通過速度が80m/sec以上の高速充てんにすることが近年指向されています。プランジャの移動速度と停止機構の精密制御が必要になります。
(5)局部加圧法
ゲートから遠い部位の厚肉部に生じる鋳巣の形成を抑えるために、溶湯充てん後にタイムラグを設けて半凝固状態の厚肉部に局部加圧ピンを作用させて押し込み、加圧して、空げき発生部分を押しつぶす方法で、非常に効果的です。高圧鋳造法にも適用されます。
筆者は、比較的厚肉形状のアルミニウムダイカストの製品を開発した際、厚肉部に鋳巣が残る不具合を解消するために、本方法をダイカストメーカから提案されました。結果は非常に効果がありました。筆者の個人的経験で申し訳ありません。現在も、関係会社に在席しておりますのでこれ以上の詳細は記することができません。約20年前の製品ですが、現在でも生産されております。
参考文献
機械工学便覧 第6版 β03-02章
引用図表
図4.5.1 ダイカスト鋳造法 機械工学便覧 第6版 β03-02章
図4.5.2 真空ダイカスト(GF)法 機械工学便覧 第6版 β03-02章
ORG:2016/11/5
Correct:2020/12/15
本稿(初稿)は、筆者の興味と復習を兼ねているため、参考文献からの引用が主たるものになっています。第2稿ではより内容を絞り、かつより広範囲なデータに基づく記述を企図しております。