1.1 プラスチックとは何か

1.1 プラスチックとは何か(What is plastic?)

 

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プラスチックは、現代社会において非常に身近で不可欠な材料です。その基本的な性質や分類、製造プロセスを知ることは、プラスチック、エンジニアリングプラスチックを理解する上で出発点となります。

1. プラスチックの原料と製造プロセス

プラスチックは、主に合成樹脂と呼ばれる人工的に作られた材料を指します。合成樹脂の多くは、石油を主要な原料としています。石油を精製して得られるナフサなどが、プラスチックの基本的な構成単位であるモノマー(monomer)の原料となります。

図 原油からナフサ、原料ガス精製  参考:https://www.jpca.or.jp/studies/junior/tour01.html :石油化学工業会

このモノマー分子が、特定の条件下で化学反応(重合:polymerization)を起こすことによって、鎖状あるいは網状に多数連結し、巨大な分子であるポリマー(重合体:polymer)が生成されます。このポリマーがプラスチックの骨格を形成する物質です。

図 モノマーからポリマーの形成;重合反応 参考:Dictionary of Science

重合プロセスには様々な触媒(catalyst)が使用されますが、一部のプロセス、例えばポリオレフィン系プラスチック(ポリエチレンやポリプロピレンなど)の製造では、塩素触媒が使われることがあり、その過程でダイオキシンが発生する可能性が指摘されています。また、原料である炭化水素の熱分解によって、多環芳香族炭化水素(PAH)のような難分解性有機物質が発生する可能性も指摘されています。

このように、プラスチックの多くは化石燃料である石油から作られますが、近年ではバイオ系プラスチックの開発も進んでいます。バイオ系プラスチックは、植物中の物質(デンプン、セルロース)や乳酸、あるいはバクテリアを原料として作られるものがあります。バイオ系プラスチックは、環境に優しい材料として注目されています。

 

2. 熱硬化性プラスチックと熱可塑性プラスチックの違い

プラスチックは、加熱した際の挙動によって大きく二つの種類に分類されます。

(1)熱可塑性プラスチック(Thermoplastics)

熱可塑性プラスチックは、熱を加えると柔らかくなり、冷やすと固まるという性質を持っています。熱可塑性プラスチックでは、このプロセスを繰り返すことが可能であり、再加熱すれば再び柔らかくなるため、成形やリサイクルが比較的容易であるという特徴があります。
熱可塑性プラスチックとしては、ポリエチレン(PE:Polyethylene)、ポリプロピレン(PP:Polypropylene)、ポリスチレン(PS:Polystyrene)、ABS樹脂(ABS resin)、ポリ塩化ビニル(PVC:Polyvinyl chloride)、ポリアミド(PA:Polyamide)、ポリアセタール(POM:Polyacetal)、ポリカーボネート(PC:Polycarbonate)、ポリブチレンテレフタレート(PBT:Polybutylene terephthalate)、ポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethylene terephthalate)、ポリフェニレンオキシド(PPO:Polyphenylene oxide)、ポリアミドイミド(PAI:Polyamide-imide)などが挙げられます。
また、これらの熱可塑性プラスチックは、さらに汎用プラスチック、汎用エンジニアプラスチック(汎用エンプラ)、スーパーエンジニアリングプラスチック(スーパーエンプラ)といったカテゴリーに分類されます。
熱可塑性プラスチックの中には、結晶性樹脂と非晶性樹脂があり、荷重たわみ温度を超えた際の変形挙動が異なります。非晶性プラスチックは荷重たわみ温度を越えると大変形を起こしますが、結晶性プラスチックは寸法収縮を起こすものの大きな変形は伴いません。この物理的な意味の違いはデータ利用上の注意点として挙げられています。

(2)熱硬化性プラスチック(Thermosetting plastics)

熱硬化性プラスチックは、成形時に加熱すると硬化し、一度固まると再加熱しても柔らかくならないという性質を持っています。これは、ポリマー分子が三次元の網目構造を形成するためです。この構造は熱に対して非常に強く、寸法安定性に優れます。
熱硬化性プラスチックとしては、フェノール樹脂(PF:Phenol resin)、メラミン樹脂(MF:Melamine resin)、ユリア樹脂(UF:Urea resin)、エポキシ樹脂(EP:Epoxy resin)、不飽和ポリエステル樹脂(UP:Unsaturated polyester resin)、アルキド樹脂(Alkyd resin)、シリコーン樹脂(Silicone resin)、ジアリフタレート樹脂(PDAP:Diarylphthalate resin)、ポリイミド(PI:Polyimide)、ポリピスマレイミド・トリアジン(BTレジン:Polybismaleimide-triazine)などが挙げられます。
熱硬化性プラスチックは、電気絶縁性、耐熱性、耐水性、耐薬品性などに優れるものが多いとされています。用途例としては、プリント配線基板、アイロンハンドル、家電部品、食卓用品、化粧板、合成接着材、浴槽、波板、ヘルメット、釣り竿、塗料、浄化槽などが挙げられています。熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂と比べて、曲げ強さや引張強さが高い値を示す傾向があり、温度上昇による曲げ強さや曲げ弾性率の低下も熱可塑性樹脂に比べて小さいとされています。特に、ポリエステルガラス繊維強化プラスチック(FRP:Polyester fiberglass reinforced plastic)はプラスチックの中でも最も曲げ強さが強く、フェノール樹脂等の繊維強化プラスチックも高い値を示します。

 

 

 

 

3. プラスチックの基本的な性質

プラスチックは、その種類によって多岐にわたる基本的な性質を持っています。これらの性質を理解することは、特定の用途に適したプラスチックを選定する上で非常に重要です。プラスチックの基本的な性質として以下の項目が挙げられています。

(1)靭性(じんせい):

材料の粘り強さを示す性質です。割れにくさや破壊に対する抵抗力を表します。
例えばポリカーボネートは「耐衝撃性はプラスチック中最高」とされており、優れた靭性を持ちます。

(2)電気絶縁性:

電気を通しにくい性質です。プラスチックは一般的に電気絶縁性に優れており、この性質を活かして電気・電子部品に広く使用されています。
例えば、ポリカーボネートは電気絶縁性に優れ、PBT(ポリブチレンテレフタレート)は優れた電気特性を持ち、コネクタやソケットなどに使用されています。PES(ポリエーテルスルホン)も電気特性に優れています。PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)も電気的絶縁性を持ちます。

(3)透明性:

光を透過させる性質です。
ポリカーボネートは透明(光の透過率89%)であり、非晶性樹脂であるポリカーボネート(PC)やポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSU)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)は透明性を示します。この透明性を活かして、照明、レンズ、CDケース、窓、ゴーグル、医療機器などに使用されます。フッ素樹脂のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)も透明性を持ち、反応機ののぞき窓に適用されます。

(4)成形性:

希望する形状に加工しやすい性質です。プラスチックは金属などに比べて比較的低温で加工できるため、複雑な形状の部品も効率的に製造できます。優れた成形性を持つプラスチックが多く、これにより製品の多様化や製造工程の短縮、コストダウンが実現されています。
熱可塑性プラスチックは熱を加えて、溶融させて成形する方法(射出成形、ブロー成形など)が一般的です。POM(ポリアセタール)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)などは成形性に優れるとされています。ただし、スーパーエンプラでは、より高い耐熱性を持つものほど成形条件が厳しくなる傾向があります。

(5)耐摩耗性(摩擦・摩耗特性、摺動性):

他の材料との摩擦によって摩耗しにくい、あるいは摩擦係数が低い性質です。機械部品の摺動部などに重要な特性です。
POM(ポリアセタール)は優れた摩擦・摩耗特性、しゅう動性を持ち、各種歯車やベアリングなどに使用されています。PA(ポリアミド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、FR(フッ素樹脂)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、LCP(液晶ポリマー)、PEI(ポリエーテルイミド)、PAI(ポリアミドイミド)、TPI(熱可塑性ポリイミド)なども耐摩擦・摩耗性や摺動性に優れるものが多く、機械部品などに使用されています。摩擦係数や摩耗量は、応力、すべり速度、組み合せ材料、摩擦面粗度、潤滑油の有無など多くの要因によって影響を受けます。スクラッチ特性として、スクラッチ力や圧子の変位を測定する方法も定められています。

(6)可燃性・不燃性:

燃えやすさ、燃えにくさを示す性質です。用途によっては難燃性が必要とされます。
例えば、ポリカーボネートは難燃性に優れ、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE:Modified polyphenylene ether)やポリブチレンテレフタレート(PBT)も難燃性が必要な用途に使用されています。一部のプラスチックは燃焼時に有害なガスを発生させます。ポリアミド、メラミン樹脂、ユリア樹脂は一酸化炭素と青酸ガスを発生させ、フェノール樹脂は一酸化炭素、青酸ガス、ホルムアルデヒド、フェノールを、ポリウレタンは一酸化炭素、青酸ガス、アセトアルデヒドを発生させる可能性があります。塩化ビニル樹脂を高温で燃やすと、変異原性のある物質が生成される可能性も報告されています。

(7)耐候性:

日光(紫外線)、雨、温度変化などの屋外環境要因に対する耐久性です。屋外で使用される製品には重要な性質です。フッ素樹脂は耐候性が抜群に優れており、太陽電池のバックシートなどに使用されています。変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE:Modified polyphenylene ether)も耐候性に優れ、太陽電池のジャンクションボックスなど屋外用途に使用されています。一方、ポリスルフォン(PSU:Polysulfone)やポリエーテルスルフォン(PES:Polyether sulfone)は耐候性に劣る点に注意が必要です。ポリカーボネートは耐候性が問題点として挙げられており、対策として表面コーティングが施されることがあります。

(8)耐熱性:

高温環境下での使用に耐える性質です。特にエンジニアリングプラスチックにおいて重要な特性の一つです。
スーパーエンプラは、汎用エンプラよりもさらに耐熱性が高く、150℃以上の高温でも長期間使用できるものと定義されています。耐熱性を示す指標としては、融点や荷重たわみ温度などがあります。温度の上昇につれて、曲げ強さや曲げ弾性率などの機械的特性は低下する傾向があります。ポリカーボネートは耐熱性に優れ、m-PPEは耐熱性が必要なプロジェクタのハウジングなどに使用されています。PA(ポリアミド)には融点が300℃前後の高耐熱PAがあり、LEDパッケージのリフレクタなどに使用されています。POM、PBT、PPS、LCP、PAR、PSU、PES、PEEK、PEI、PAI、TPI、SPSなども耐熱性に優れるものが多く、自動車部品、電気・電子部品、機械部品など幅広い分野の高温となる部分に使用されています。

(9)強じん性:

破壊されにくい、丈夫な性質です。
強じん性に優れる材料としては、PC(ポリカーボネート)やm-PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、PAR(ポリアリレート)、PSU(ポリスルフォン)、PES(ポリエーテルスルフォン)、PEI(ポリエーテルイミド)、PAI(ポリアミドイミド)などが挙げられています。

(10)耐クリープ性:

一定の荷重が長時間かかり続けたときに、時間経過とともに変形(クリープ変形)が進みにくい性質です。
POM(ポリアセタール)は広い環境下でのすぐれた耐クリープ性を持ち、PES、PAI、TPIなども耐クリープ性に優れています。

(11)寸法安定性・寸法精度:

温度や湿度の変化、時間経過などによって形状や寸法が変化しにくい性質です。
PC、m-PPE、PAR、PSU、PES、PEI、PAI、PBT、SPSなどは寸法安定性や寸法精度に優れるとされています。特に非晶性樹脂は寸法特性に優れる傾向があります。

 

(12)耐薬品性:

薬品に侵されにくい性質です。使用環境や用途によっては非常に重要です。
POM(ポリアセタール)やPA(ポリアミド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、FR(フッ素樹脂)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)などは耐薬品性に優れるとされています。一方、PC(ポリカーボネート)は耐薬品性が悪いとされています。POMは強酸類には侵されますが、ジュラコン®を溶解する溶剤はほとんどありません。PEEKは耐薬品性に優れ、PAIも耐薬品性を持ちます。FR(フッ素樹脂)は耐薬品性に優れ、医療用配管器具や半導体製造関連器具に使用されています。PBTは耐薬品性に優れますが、耐加水分解性に注意が必要です。PAR(ポリアリレート)は耐煮沸水性と耐アルカリ性に注意が必要です。

(13)吸水性:

水分を吸収しやすい性質です。吸水性が大きいと寸法や物性が大きく変化する原因となります。
PA(ポリアミド)は化学構造上、吸水性が大きいとされています。POM(ポリアセタール)は吸水性の少ないプラスチックです。PBTは低吸湿性を持つとされています。 

 

(14)比重:

材料の軽さの指標です。プラスチックは一般的に金属に比べて軽量です。軽量性は自動車の燃費向上などに貢献します。
非強化品の比重は、m-PPEが1.0台、PAが1.1台、PCが1.2台、PBTが1.3台、POMが1.4台など、種類によって異なります。スーパーエンプラではさらに幅広く、例えばFR(フッ素樹脂)には2.0を超えるものもあります。SPS(シンジオタクチックポリスチレン)は低比重であり、軽量化に貢献します。 

 

(15)安全性・衛生性:

人体への影響や衛生面に関する性質です。ポリカーボネートは安全性に優れるとされています。
フッ素樹脂は生体適合性や衛生性に優れ、医療用配管器具などに使用されています。食品に接触するプラスチック製品については、食品衛生法によって規格基準が定められており、材質試験や溶出試験が行われます。溶出試験では、特定の溶出溶媒を用いて、原料由来のモノマーや添加剤(ビスフェノールA、フタル酸エステル類など)の溶出量が基準値以下であるか確認されます。おもちゃの一部も食品衛生法が適用され、規格基準が定められています。環境ホルモンの疑いがある化学物質として、フタル酸エステル類、ビスフェノールA、スチレン2量体・3量体などが挙げられており、これらのプラスチック原料や添加剤からの溶出が懸念されています。環境問題として、ダイオキシンや環境ホルモンの問題から、食品包装材などで塩ビ製から非塩素系樹脂への切り替えが進んだという事例も報告されています。 

 

(16)環境への影響とリサイクル:

プラスチック製品の製造から廃棄に至る過程は、環境に様々な影響を及ぼします。廃棄されるプラスチックの量は非常に多く、一般廃棄物と産業廃棄物の両方で大量に排出されています。特に一般家庭からは、使い捨ての容器包装材や家庭用品として多くの廃プラスチックが出されています。廃プラスチックの処理方法としては、単純焼却、埋立、サーマルリサイクル(発電付焼却、熱利用焼却)、マテリアルリサイクル(再生原料として利用)、フィードストックリサイクル(固形燃料化、油化など)があります。
日本では単純焼却や埋立の割合が依然として高く、リサイクル率は低い状況です。PETボトルなどの一部を除き、プラスチック容器包装材のリサイクルはあまり進んでいません。埋立処分された産業廃棄物中の廃プラスチックは、土中で安定であると認識されていますが、処分場の浸出水調査では問題が多く残されているという指摘もあります。また、プラスチックの燃焼によって有害物質が発生する可能性も懸念されています。環境負荷を低減するため、「燃やさない政策」や廃棄物の発生抑制、リサイクルの推進が求められています。環境に負荷を与えない商品を選択すること(表示を見て買う、再使用や再生品を優先する、塩ビ製品を買わない/使わない、長寿命なものを選ぶ)や、ごみを出さない暮らしを心がけることが私たちにできることとして挙げられています。
また、エコデザインの観点から、環境負荷の少ない材料選択、材料使用量の制限、寿命の延長、使用後の最適処理システム化なども重要視されています。リサイクルについては、ABSや塩ビは非常に難しいとされています。  

(17)コスト:

プラスチック材料の価格です。様々なプラスチックの原料価格の比較が行われています。
一般的に、汎用エンプラは汎用熱可塑性樹脂より物性(特に耐熱性、機械的特性)に優れるため、価格的には割高になります。スーパーエンプラは、汎用エンプラよりさらに割高です。高い性能を持つ材料ほど、価格も高くなる傾向があります。

これらの基本的な性質は、プラスチックの種類によって大きく異なります。特定の用途に最適なプラスチックを選定するためには、要求される性能を満たす複数の性質をバランス良く考慮する必要があります。

 

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参考文献
エンジニアリングの基礎知識  安田武夫:安田ポリマーリサーチ研究所 (株)イプロス 初版2016年 
Plastics Technology Handbook Fourth Edition Manas Chanda, Salil K. Roy CRC Press 2007年
Plastics Materials and Processes A Concise Encyclopedia Charles A. Harper, Edward M. Petrie Wiley-Interscience 2003年
Handbook of Plastics Technologies  Charles A. Harper McGraw-Hill 2006年
Handbook of Plastc Foams types、Properties, Manufacture and Applications  Arthur H. Landrock Noyes Pubrications 1995年
エンジニアリングプラスチック -実用設計とそのポイント- 機械設計 Vol.22 No.10 1978年
機械部品としてエンジニアリングプラスチックはどこまで使えるか 機械設計 Vol.25 No.5 1981年
プラスチックの基礎を学ぶ  MONOWEB (株)RE 2016年

引用図表
図 原油からナフサ、原料ガス精製  参考:https://www.jpca.or.jp/studies/junior/tour01.html :石油化学工業会
図 モノマーからポリマーの形成;重合反応 参考:Dictionary of Science

ORG:2025/05/07