ドリル加工は貫通出来ないか検討すべし

ドリル加工は貫通出来ないか検討すべし(Consider whether drilling can be done with through-holes.)

 

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0. ドリル加工は貫通穴とすべきか:設計と生産性の視点から

開発・設計段階で穴加工を検討する際、「止まり穴」と「貫通穴(スルーホール)」のどちらにするか、加工性やコストを考慮せずに決めてしまうケースは少なくありません。しかし、貫通穴は加工コストや品質安定性の面で多くのメリットをもたらします。
本コンテンツでは、貫通穴と止まり穴の設計・加工上の違いを理解し、なぜ貫通穴を優先的に検討すべきか、その具体的な理由と注意点について解説します。

 

1. はじめに:ドリル加工における「穴」の重要性

機械設計における穴加工は、製品の機能や性能に大きな影響を与える工程です。穴加工では、止まり穴か貫通穴かの選択は、製造工程全体に大きな影響を与えます。設計段階でのこの意思決定は、切りくず処理、工具寿命、加工精度、検査、そして最終的な組付け作業の容易さにまで及び、製造コスト全体に直結する重要な「ムダ取り」の機会になります。
(1)止まり穴(Blind Hole):
 部品を貫通せず、途中で止まる穴です。止まり穴は加工時のドリル先端の形状が底面に残るので、座ぐり加工やリーマ加工が必要になることがあります。そのため、深さや底面の形状を正確に管理する必要があります。
(2)貫通穴(Through Hole):
 部品を完全に貫通する穴です。ドリルが部品を突き抜けるため、穴の深さ管理が不要になります。

図 止まり穴と貫通穴  ORIGINAL

 

2. 止まり穴の持つ課題

止まり穴は、特定の機能要件(例:密閉、意匠)を満たすために不可欠な場合がありますが、製造工程においては以下のような固有の課題を抱えています。
(1)切りくず排出の困難さ:
 止まり穴加工では、穴の底に切りくずが溜まりやすく、排出が非常に困難です。切りくずが再切削されることで、工具の摩耗が加速し、工具寿命が短縮します。これにより、工具交換の頻度が増え、非稼働時間とコストが増大します。また、切りくず詰まりはドリル破損のリスクも高めます。

(2)加工精度の確保の難しさ:
 止まり穴は、底面の平坦性や深さの精度を厳密に管理するのが難しいです。特に深穴や小径の止まり穴では、ドリルのたわみ、振動、または切りくずの噛み込みによって、穴が真円にならなかったり、軸心からずれたり(偏心)、テーパー状になったりする「穴精度のばらつき」が発生しやすいです。これは、後工程での組付け不良や機能不全に直結する可能性があります。

(3)バリ・面取りの課題:
 止まり穴では、穴の縁や内壁に「バリ」や「かえり」が発生しやすく、その除去には手間がかかります。特に、穴加工時にバリが発生すると、その後の洗浄や表面処理にも影響を与え、品質問題や追加工の原因となります。また、適切な面取りが困難な場合、組付け時に相手部品を傷つけたり、干渉したりするリスクがあります。

図 貫通穴の出口バリ  ORIGINAL

(4)検査の複雑さ:
 止まり穴の深さ、底面の形状、内径の品質(真円度、面粗さ)を正確に検査するには、特殊な測定機器や非接触測定技術が必要となる場合があります。これにより、検査工数が増加し、生産リードタイムの長期化やコスト増に繋がります。

 

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3. 貫通穴(スルーホール)化の長所

止まり穴が抱える上記の課題に対し、貫通穴は多くの点で優位性を示し、製造プロセス全体の効率化とコスト削減に貢献します。
(1)切りくず排出の容易化と工具寿命の向上:
 貫通穴は、加工中に切りくずが穴の反対側へスムーズに排出されるため、切りくず詰まりの問題を大幅に解消します。また、切削油が穴全体に行き渡りやすく、切削熱の冷却工が高まります。
これにより、工具への負荷が軽減され、工具寿命が飛躍的に延び、工具交換頻度とそれに伴う段取り・調整ロスを削減できます。

(2)加工の簡素化と時間短縮:
 穴底の管理や切りくずの排出が容易になるため、加工工程が劇的に簡素化されます。切粉詰まりによるドリル折損のリスクが低減し、加工速度を上げることができます。止まり穴のようにドリルを頻繁に引き抜く「ステップ送り」が不要になるため、加工サイクルタイムが短縮されます。
またタッピング加工を行う場合、貫通穴にすることで、タップの底付きや切りくずの噛み込みによる不良のリスクが低減され、加工時間を大幅に短縮できます。これは、サイクルタイム短縮、ひいては生産性向上に直結します。

(3)検査の容易化と品質安定:
 貫通穴は、穴の内部全体を目視で確認しやすく、深さや底面の状態の検査が不要になります。これにより、検査工数が削減され、品質異常の発見が容易になります。規格や基準を定量化し、目で見てわかる管理を推進することで、異常を早期に発見・処置できるようになります。

(4)組付け性の向上:
 特に締結用としてタッピング加工を施す場合、貫通穴にすることで、ねじの底付きがなくなり、締結作業が安定し、組付け品質が向上します。組付け時に切りくずが残留する心配も少なく、異物混入対策にもなります。これにより、組付け治具の設計も簡素化でき、作業者の負担軽減にも繋がります。

(5)コストダウン効果:
 加工時間の短縮、工具寿命の延長、検査工数の削減、組付け性の向上、そしてそれらに伴う不良ロスの低減は、製造コスト全体の大幅な削減に繋がります。これは、設計段階で「設計コスト」と「生産コスト」を総合的に考慮する「コストテーブル」の概念にも通じます。

 

4. 貫通穴の設計における考慮点と対策

貫通穴は多くのメリットがありますが、その効果を最大限に引き出すためには、以下に示す設計上の考慮が重要です。
(1)材料特性と加工条件の最適化:
 ・ 薄板加工におけるバリ対策:貫通穴の出口側には、切削時の抵抗がなくなる瞬間にバリが発生しやすくなります。特に薄板に貫通穴を加工する場合に顕著に観察されます。バリの発生を抑えるために、バリ取り加工(面取り、ブラシ等)を考慮した設計にする。適切なドリルの選定(例:先端角や切れ刃形状の最適化)や、ワークを軟質の当て板などでサポートする等の工夫が有効です。
 ・ 硬度と切削性:使用する材料の硬度や切削性を考慮し、適切なドリル材質(ハイス、超硬、コーティングなど)や切削条件(切削速度、送り量)を選定することで、加工精度と工具寿命を最適化できます。

(2)穴の曲がり:
 深い穴を片側からドリル加工すると、ドリルのわずかな振れやたわみによって穴が曲がり、出口位置がずれることがあります。
このずれを最小限に抑える対策として、部品の板厚がドリル径の5倍以上になる場合は、両側から加工するトンボ加工を検討します。ただし、この方法では穴の中央にわずかな段差が生じることを許容する必要があります。

(3)隣接穴や端面との干渉:
 穴が部品の端面や他の穴に近い場合、加工中に材料が盛り上がったり、欠けたりするリスクがあります。
これらの対策としては、基本は十分な肉厚を確保する設計にすることです。やむを得ない場合は、加工条件を慎重に設定するか、レーザー加工やワイヤー放電加工など、別の加工方法を検討します。

(4)後処理の考慮:
 貫通穴であっても、加工条件によっては微細なバリが発生する場合があります。特に精密部品やクリーンルームで使用される部品の場合、加工後のバリ取りや洗浄の工程を適切に計画し、防錆処理なども含めて品質基準を確立することが重要です。

 

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5. 貫通穴が不適切なケース

すべての状況で貫通穴が最適であるとは限りません。以下のようなケースでは、止まり穴の採用が適切、あるいは不可欠となる場合があります。
(1)機能的な制約:
 ・ 密閉性や流体制御:密閉容器の一部や油圧・空圧機器の部品など、内部の流体や気体を保持する必要がある場合、貫通穴は機能的に不適切です。
 ・ ガイド・位置決め機能:シャフトの端部でガイドや位置決めを行う止まり穴のように、穴の深さが機能に直結する場合もあります。

(2)意匠・美観:
 製品の外観に穴が露出する場合で、美観が重視される設計では、止まり穴が選択されることがあります。
これらのケースでは、止まり穴が抱える問題(切りくず、精度、検査)に対して、個別の対策(例:特殊工具の使用、精密加工、専用治具の活用)を講じ、そのコストとリスクを総合的に評価する必要があります。

 

6. まとめ

ドリル加工における止まり穴 / 貫通穴かの選択は、製造工程全体の効率化、品質向上、コストダウン、そして組付け性向上に大きく貢献する設計選択です。設計者は、部品単体としての機能だけでなく、その製造プロセス全体(加工、検査、組付け)への影響を深く理解し、可能な限り貫通穴の採用を検討すべきです。
「目で見る管理」の観点からも、切りくずの有無、穴の仕上がり、バリの状態などが一目でわかる貫通穴は、現場での異常発見・処置を容易にし、品質の安定化に寄与します。コストダウンと品質向上を目指す現代のモノづくりにおいて、設計段階で「ドリル加工は貫通穴に出来ないかを検討する。」という視点を持つことは、競争力のある製品を生み出すための不可欠なアプローチと言えるでしょう。

 

図表
図 止まり穴と貫通穴  ORIGINAL
図 貫通穴の出口バリ  ORIGINAL

ORG:2025/08/15