一次電池の種類
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一次電池の種類(primary battery type)
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1. はじめに
別のコンテンツでも述べましたが、「化学電池」は、放電のみが可能で使い切った後に廃棄する一次電池と、充放電が可能で繰り返し使用可能な二次電池とがあります。これらの化学電池は、何れも電解質の両端に正負の電極が設けられています。
一次電池は、放電が進むと放電生成物が生じて、逆起電力によって電圧が低下します。放電に伴って生成した放電生成物を減極剤と反応させることにより放電に無害な物質に変換します。 使用に伴って放電電圧は徐々に低下していき、ある放電電圧以下では実際上適用できなくなるので、その時点が寿命となります。これは、充放電を繰り返す過程で起きる性能低下を寿命と考える二次電池とは異なります。
一次電池でも、充電すると実際には電圧が回復しますが、液漏れや破裂の危険性があり、メーカーでは推奨しておらず行ってはいけません。
起電電圧は、化学反応であるため、温かな環境では反応が進み放電電圧の低下も緩やかですが、寒冷地では電圧が低下が大きくなります。
2. 一次電池の種類
一次電池にはどの様なものがあるか、Wikipediaの記述に従って示します(表1)。
表1 一次電池の分類
3. 主な一次電池の特徴
(1)マンガン電池
マンガン電池の起源は、19世紀中頃にさかのぼります。1866年、フランスのルクランシェ(Georges Leclanché)が、マンガン化合物を活物質に用いた乾電池の最初になる、ルクランシェ電池を発表しました。
ルクランシェ電池は、素焼きの筒の中に電解質を溜めて、正極には二酸化マンガン(MnO2)、負極に亜鉛(Zn)を用いたものでした。ルクランシェ電池は電解質が液体のため、可搬性に問題があったため、電解質を流動化させたルクランシェ型マンガン乾電池が19世紀末に発明されました。1880年代のほぼ同時期に、日本の屋井先蔵、デンマークのヘレセンス(Wilhelm Hellesen)、ドイツのガスナー(Carl Gassne)などにより開発されました。これを、屋井は乾電池と名付けました。乾電池は、屋井が世界に先駆けて、1887年に発明しました。ヘレセンスやガスナーは1888年に乾電池を発明したことになっています。ただし、日本での乾電池の特許の第一号は、屋井ではなく、高橋三郎氏により取得されたそうです。
ここで、屋井の業績について簡単に示します。屋井が乾電池の製作会社を設立したのは1892年でしたが、当初はあまり売れなかったそうです。それが、1894年からはじまった日清戦争において、照明や通信機器を使用するための電源として、屋井の乾電池が用いられ、厳冬期の満州で故障も無く作動したことより、日の目を見ることができました。当時、新聞でも「日本がこの戦争に勝利したのは、屋井が発明した乾電池のおかげ」と大きく取り上げられたことで、屋井の乾電池は知名度と信頼度が一気に上昇して、数年後には「乾電池王」の異名を取るまでになりました。しかし、後継者に人材が無く、屋井乾電池は昭和25年には、乾電池工業会の名簿から消えてしまったそうです。
マンガン乾電池は、1880年代後半から現在に至るまで、世界中で生産されています。正極活物質の二酸化マンガンは当初は天然産のものを粉砕加工して使用していましたが、現在では硫酸酸性硫酸マンガン水溶液から電気分解で生成した電解二酸化マンガン(γ-MnO2)が使用されています。二酸化マンガンは導電性が低いため導電助剤として黒鉛を混合させています。
負極活物質には亜鉛が用いられ乾電池の外筒を構成しています。電解液は、1970年代半ばまでは、塩化アンモニウム(NH4Cl)、塩化亜鉛(ZnCl2)の混合水溶液をデンプンノリ状にしたものが用いられましたが、現在では耐漏液特性、連続放電特性に優れた塩化亜鉛主体の電解液が用いられ、二酸化マンガンと混合されてペースト状にして容器に充填されています。
負極に用いられる亜鉛は、自己放電により水素を発生するのですが、発生を抑えるために永らく水銀を用いて合金化する方法が用いられていましたが、1970年代頃から使用済み乾電池の廃棄による水銀の環境汚染が社会的な課題になって、電池の水銀使用ゼロ化が進められました。このために、不純物の除去や、亜鉛合金組成、封口構造の改良などにより自己放電を抑える技術が開発されることにより、水銀ゼロ化が達成されました。
起電力発生に関わる化学反応は、 8H^+
(電解液に塩化亜鉛使用時)
正極:\( \mathrm{ MnO_{ 2 } + H^+ + e^- \longrightarrow MnOOH } \)
負極:\( \mathrm{ 4Zn + ZnCl_{ 2 } + 8H_{ 2 }O \longrightarrow ZnCl_{ 2 } \cdot 4Zn(OH)_{ 2 } + 8H^+ + 8e^- } \)
全反応:\( \mathrm{ 4Zn + 8MnO_{ 2 } + ZnCl_{ 2 } + 8H_{ 2 }O \longrightarrow ZnCl_{ 2 } \cdot 4Zn(OH)_{ 2 } + 8MnOOH } \)
(2)アルカリマンガン乾電池
アルカリマンガン乾電池は、JIS規格(JIS C8500:2022)での呼称です。ただし一般的な通称はアルカリ乾電池となっていますので、以下はアルカリ乾電池として記述を進めます。
アルカリ乾電池は、1960年代にアメリカで研究開発され、1980年代半ばから,マンガン電池からの置き換えが進みました。
アルカリ乾電池は、正極活物質として電解二酸化マンガン(γ-MnO2)と黒鉛とを混合して円筒形状に成形して正極とし、セパレータを介してその内側に、電解液である水酸化カリウム(KOH)水溶液とカルボキシメチルセルロースからなるゲル溶液に、負極活物質の亜鉛をアマルガム化した粉末を分散させた負極ゲルが配置されています。
起電力発生に関わる化学反応は、
正極:\( \mathrm{ MnO_{ 2 } + H_{ 2 }O + e^- \longrightarrow MnOOH + OH^- } \)
負極:\( \mathrm{ Zn + 2OH^- \longrightarrow ZnO + 2H_{ 2 }O + 2e^- } \)
全反応:\( \mathrm{ Zn + 2MnO_{ 2 } + H_{ 2 }O \longrightarrow ZnO + MnOOH } \)
(3)水銀電池
1942年に、アメリカのルーベン(Samuel Ruben)が開発しました。当初は軍用機材の電源として有効活用され、特性が優れていたことも有り、古くからボタン型電池として広く用いられてきましたが、水銀の毒性の問題から,先進国ではほぼ製造中止になりました。
代替品として、1970年代後半に空気亜鉛電池が登場して、市場が置き換わりました。
(4)空気亜鉛電池
空気亜鉛電池は、1917年にフランスのフェリー(Charles Féry)によって考案されました。当時は大型のものしか無く、電話交換機用や気象観測用ブイなどに使用されていたそうです。1970年代後半にアメリカのグールド社(現デュラセル社)によりボタン型の空気亜鉛電池が開発され、補聴器用の電源等に使われるようになりました。
正極活物質は空気中の酸素、負極活物質は亜鉛を使用します。電解液にはアルカリ金属水酸化物が用いられますが、現在では水酸化カリウムを用いるのが主流です。
空気亜鉛電池は、一種の燃料電池です。正極側に穴が開いており、その穴から酸素を電池内部に供給します。そのため、使用前は、酸素を遮断するためにシールが貼られています。
放電時の電圧変動が少ない、比較的大容量、安価などの長所があるが、使用する環境による影響を受けやすい短所があります。低温や高濃度の二酸化炭素に晒される環境では寿命が短くなります。
起電力発生に関わる化学反応は、
正極:\( \mathrm{ Zn + 4OH^- \longrightarrow Zn(OH)_{ 4 }^{ 2- } + 2e^- } \)
電解液:\( \mathrm{ Zn(OH)_{ 4 }^{ 2- } \longrightarrow ZnO + H_{ 2 }O + 2OH^- } \)
負極:\( \mathrm{ O_{ 2 } + 2H_{ 2 }O + 4e^- \longrightarrow 4OH^- } \)
全反応:\( \mathrm{ 2Zn +O_{ 2 } \longrightarrow 2ZnO } \)
(5)酸化銀電池
1960年代になり、正極活物質に酸化銀(主としてAg2O)を用いるボタン形酸化銀電池が民生用小型電子機器や腕時計用の電源として登場しました。
酸化銀電池は、負極活物質にゲル化した亜鉛、電解液に水酸化カリウムもしくは水酸化ナトリウムを用いています。酸化銀はアルカリに溶解し、負極に達して⾃⼰放電を起こすために、セロファンとポリエチレンにメタクリル酸をグラフト重合させた多層フィルムが開発されました。
1980年ごろの銀相場高騰を契機に、ボタン形のアルカリマンガンボタン電池が登場して、酸化銀電池からの切り替えが進みました。
起電力発生に関わる化学反応は、
正極:\( \mathrm{ Ag_{ 2 }O + H_{ 2 }O + 2e^- \longrightarrow 2Ag + 2OH^- } \)
負極:\( \mathrm{ Zn + 2OH^- \longrightarrow ZnO + H_{ 2 }O + 2e^- } \)
全反応:\( \mathrm{ Zn + Ag_{ 2 }O \longrightarrow 2Ag + ZnO } \)
(6)リチウム電池
リチウム電池は、負極活物質に金属リチウム(Li)用いられていますが、日米欧で1960年ごろから研究・開発が行われてきました。正極活物質には、金属酸化物や、硫化物、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物などが検討されました。
現在、最も普及しているリチウム電池は、コイン型リチウム電池(CR++++)で、正極に二酸化マンガン、負極にリチウム、電解液には非水系の有機溶媒(プロピレンカーボネートや、γ-ブチロラクトン、ジメトキシエタンなど)が多く用いられます。
高電圧が得られる(CR系;3.0V)ことや、マンガン乾電池の約10倍の電気容量を持つこと、自己放電が少なく長寿命、放電末期まで電圧降下が少ないこと、低温・高温でも使用可能(使用可能範囲;-40~85℃)などの特徴があります。
起電力発生に関わる化学反応は、
正極:\( \mathrm{ Mn^{ I\hspace{-1pt}V }O_{ 2 } + Li^+ + e^- \longrightarrow Mn^{ I\hspace{-1pt}I\hspace{-1pt}I }O_{ 2 }( Li^+ ) } \)
負極:\( \mathrm{ Li \longrightarrow Li^+ + e^- } \)
全反応:\( \mathrm{ Mn^{ I\hspace{-1pt}V }O_{ 2 } + Li \longrightarrow Mn^{ I\hspace{-1pt}I\hspace{-1pt}I }O_{ 2 }( Li^+ ) } \)
(7)海水電池
海水電池は、鹹水(塩分を含んだ水、海水、汽水など)を電解液として、利用します。原理的にはボルタ電池の一種です。
一般的に、正極には塩化銀(AgCl)、負極にはマグネシウム(Mg)、リチウム(Li)またはそれらの合金が使用されます。なお正極には、過流酸カリウム(K2S2O8)・塩化銅(CuCl2)・塩化鉛(PbCl2)も用いる場合があります。
海水電池は、他の一次電池と比較すると、耐圧性に優れ、長期間にわたって安定した出力が得られます。
海水電池は、電解液に鹹水を用いる特性を生かして、海上または海中で小電力を長期間にわたって使用する用途に適します。具体的には、海上標識灯や、電池の交換が困難な懐中測定機器や、海水に浸漬したときのみ発電を開始する船舶の遭難信号発生装置の電源に用いられます。
起電力発生に関わる化学反応は、
正極:\( \mathrm{ 2H_{ 2 }O + 2e^- \longrightarrow H_{ 2 } + 2OH^- } \)
負極:\( \mathrm{ Mg \longrightarrow Mg^{ 2+ } + 2OH^- } \)
全反応:\( \mathrm{ Mg+ 2H_{ 2 }O \longrightarrow MG(OH)_{ 2 } } \)
(8)溶融塩電池
溶融塩電池は、電解質に溶融塩を用いる化学電池です。加熱することにより活性化されることより熱電池ともいいます。
溶融塩電池は、室温では非導電性で固体の無機塩を電解質として用います。貯蔵時には正極・負極活物質は、絶縁された状態になっています。この状態では長期間10年以上貯蔵可能といわれています。長期保存が可能な性質から、ミサイルや魚雷などの兵器や、ロケット、航空機の緊急脱出装置などに用いられています。
溶融塩電池は、正極活物質としてアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属を、正極活物質には金属塩を、電解質には塩化リチウム・塩化カリウム共有混合物などが用いられます。
現在主流となっている活物質は、負極活物質はアルミニウムと合金化されたリチウム、正極活物質は二硫化鉄(FeS2)や二硫化コバルト(CoS2)などで、リチウム・硫黄系の電池が主流となっています。
参考文献
ネオマグ株式会社様HP https://www.neomag.jp/mailmagazines/topics/letter201211.html
(一社)電池工業会様HP https://www.baj.or.jp/battery/knowledge/structure.html
Wikipedia
引用図表
表1 一次電池の分類 ORIGINAL
ORG: 2022/11/10