ナトリウムイオン電池

ナトリウムイオン電池(Sodium-Ion Battery)

 

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1. 基本的な動作原理

ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池と同様に、正極と負極の間を金属イオンが電解質を介して移動することで電気エネルギーを生成します。リチウムイオン電池ではリチウムイオンが電解質になるのと比較して、ナトリウムイオン電池ではナトリウムイオンがナトリウムイオンの役割をします。
充電時には、ナトリウムイオンは正極から負極へ移動し、放電時にはその逆の動きをします。
ナトリウムはリチウムと同じアルカリ金属に属するため、化学的性質が類似しています。

 

2. ナトリウムイオン電池の主要構成材料

(1)負極(アノード):

リチウムイオン電池で使用されるグラファイトでは、ナトリウムイオンを大量に貯蔵できないため使用できません。その代わりに、グラファイトのアモルファス同素体であるハードカーボンが一般的に使用されます。
ハードカーボンは放電によって電圧が変動するためリチウムイオン電池ではあまり⽤いられませんが、⽐容量に劣るナトリウムイオン電池では⾼容量、低作動電位、良好なサイクル安定性といった特性を発揮します。
ハードカーボンは、層状構造を持つグラファイトよりも無秩序な構造をしており、多くの空隙を持つためナトリウムイオンが浸入しやすいとされています。
その以外にも、チタン酸化物(Na₂Ti₃O7)や、スズなどの合金材料も研究されています。

(2)正極(カソード):

ナトリウムイオン電池はリチウムイオン電池と同様に、インターカレーション反応によりナトリウムを蓄積することができます。
ナトリウムイオン電池用正極材は、当初リチウムイオン電池用正極材として検討されていた物質についてリチウムをナトリウムに置換えた物質が候補として検討されています。現状では、酸化物系正極材が有望視されています。

・酸化物系

ナトリウムを蓄積するナトリウム層状化合物は、実際のところ遷移金属酸化物であり、いろいろな材料を候補として検討されています。リチウムイオン電池に適用される層状岩塩型の結晶構造を有するLiCoO2のリチウムをナトリウムに置換したNaCoO2が最初に検討されましたが、コバルトが高価な元素のためナトリウムイオン電池の長所が損なわれます。そこでコバルトをニッケルに代替したものや、コバルトをマンガン、鉄に置換した化合物(NaNi0.5Mn0.5O2)などが候補に上がっています。

・リン酸塩系

やはり、リチウムイオン電池で用いられているオリビン型の結晶構造をもつLiFePO4や、その他のリン酸塩系の正極材のリチウムをナトリウムで置換した材料NaFePO4、NaVPO4、Na2FePO4F、Na3Fe3(PO4)4、Na3V2(PO4)2F3 などが検討されています。
この材料は、リンと酸素の結合が強固であることから、充電状態での酸素放出の懸念が無く安全性が高いことが期待されます。一方、電荷担体のナトリウムとレドックス対としての遷移金属の他に、多くの元素を含むため質量が大きく(かつ体積も大きく)、エネルギー密度の観点では不利な材料です。

・硫化物系

TiS2はリチウムイオン電池において一番最初に市販された正極材であり、ナトリウムイオン電池の正極材としても、良好な可逆充放電プロファイルを示します。
対リチウム金属負極に対する充放電プロファイルは平坦性がよく、その平均放電電圧は約2.2 Vなのに対し、対ナトリウム金属負極に対する充放電プロファイルは、二段のステップが存在し、その放電平均電圧は1.8 Vと約0.4 V程度低い値となります。この電位差は、リチウムとナトリウムの標準電極電位の差を反映しています。

・有機材料系

リチウムイオン電池では、カサが高過ぎて比容積エネルギー密度が低いという課題のある有機材料系正極材についても、オキソカーボン酸のナトリウム塩やプルシアンブルーなど、いくつかの検討例が発表されています。
有機材料系正極材は、かさ高く酸化物系正極材よりタップ密度が低くなることが予想されますが、大きなナトリウムイオンが吸蔵されることで分子系全体のマクロな結晶性が損なわれても、個々の有機分子単体自体が壊れない限り可逆なホストゲスト機能が維持できます。

(3)電解質:

⽔系では低エネルギー密度になるため、⾮⽔系電解質を⽤います。炭酸ジメチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどが候補となります。炭酸プロピレン溶媒、もしくは炭酸エチレンとジエチルカーボネートの混合溶媒は優れた特性を⽰し、100回以上充放電を繰り返しても容量劣化がほとんどありません。

(4)セパレータ:

セパレータの機能は、正極と負極を物理的に分離して、2つの電極が直接接触することなく、化学反応を回避すると同時に、溶媒分⼦の浸透と侵入を確保し、溶媒和ナトリウムイオンの迅速な通過を可能にすることです。
理想的なセパレータ材料は、優れた電⼦絶縁性とイオン伝導性、⾼い機械的強度と可能な限り薄く、電解質と反応せず、正極と負極と反応しない⾼い化学的不活性、および優れた熱安定性を備えている必要があります。
多孔質のPE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、複合フィルムなどのポリオレフィンポリマーセパレータはリチウムイオン電池で広く使⽤されており、これらのセパレータ材料はナトリウムイオン電池に直接移植できます。

(5)コレクタ(集電体):

集電体は、正極・負極ともアルミニウム箔が、使⽤されています。
集電体は、それぞれ正と負の活物質が付着するベース部材であり、電池の質量の約10〜13%を占め、電極材料によって⽣成された電流を収集し、外部に放出するために使⽤されます。 集電体は電極反応に関与しませんが、それは電極材料の性能の基本的な保証であり、その純度、厚さ、応⼒、およびその他のパラメータは、電極の実際の動作性能に間接的に影響します。集電体として使⽤される材料は、優れた導電性、活物質との低い接触抵抗、電解質および正極と負極と反応しない⾼い化学的不活性、優れた加⼯性、および安定した機械的特性を備えている必要があります。
リチウムイオン電池では、低電位条件下でのアルミニウムとリチウムの合⾦化を避けるために、正極電流集電体はアルミ箔であり、負極電流集電体は銅箔です。一方、ナトリウムイオン電池では、ナトリウムとアルミニウムが合⾦化反応を起こさないため、アルミニウム箔を正・負の両⽅の集電体に使⽤でき、⽐較的⾼価な銅箔を使用しなくてすみます。

図 に典型的なナトリウムイオン電池の構成例を示します。

図 ナトリウムイオン電池の構成例   参考:ACE Energy Letters 2020, 5, 3544 – 3547

 

3. ナトリウムイオン電池の特徴

ナトリウムは地球上に豊富に存在(クラーク数;2.63、地表で第6位)するため、リチウムイオン電池と比較して低コスト化が期待されています。また、熱暴走のリスクが低いなど、安全性に優れる可能性も示唆されています。低温環境下での性能もリチウムイオン電池より優れる可能性があります。
さらに、ナトリウムイオン電池の製造プロセスはリチウムイオン電池の製造プロセスと類似しているため、既存の設備を転用しやすいという利点もあります。
ただし、ナトリウムイオンはリチウムイオンよりもサイズが大きいため、イオン伝導性が遅く、エネルギー密度は一般的にリチウムイオン電池よりも低い傾向があります。
公称電圧は3.0-3.1V程度です。

 

4. ナトリウムイオン電池の長所と短所

4.1ナトリウムイオン電池の長所

 ・ 原料であるナトリウムが豊富に存在するため、低コスト化が期待できる。クラーク数;2.63、地表での存在度は第6位です。
 ・ 熱暴走のリスクが低く、安全性が高い可能性がある。
 ・ 低温環境下での性能がリチウムイオン電池よりも優れる可能性がある。
 ・ 環境負荷が低い可能性がある。
 ・ リチウムイオン電池の製造設備を転用しやすい。
 ・ 正極と負極の両方の集電体にアルミニウムを使用できるため、コスト削減や安全性の向上につながる。

4.2ナトリウムイオン電池の短所

 ・ リチウムイオン電池と比較してエネルギー密度が低い。
 ・ ナトリウムイオンはリチウムイオンよりもサイズが大きいため、電池が重く、大きくなる可能性がある。
 ・ リチウムイオンと比較して、イオン伝導速度が遅い。
 ・ イオンのサイズの違いなどの理由で、リチウムイオン電池で実績のある材料を電極材料として、そのまま使用できない場合がある。

 

5. 実用化について

2021年7⽉、中国の電池メーカCATLが、ナトリウムイオン電池の商⽤化を開始すると発表しました。開発した第1世代のナトリウムイオン電池セルの重量エネルギー密度は160Wh/kgでした。これは、3元系リチウムイオン電池(LIB)のエネルギー密度が240〜270Wh/kg、CATLの主⼒製品であるリン酸鉄(LFP)系リチウムイオン電池が同180〜200Wh/kgであることに対して、低い値になります。
⼀⽅、急速充放電性能は⼀般的なリチウムイオン電池より⾼く、15分で80%以上を充電できるとしました。
また、低温特性にも優れ、−20℃の低温環境でも定格容量の90%を利⽤できる。さらに、−40℃の極寒環境でも電池として動作するとしました。
また、詳細は明らかではありませんが、リチウムイオン電池とナトリウムイオン電池とを、並列に接続して、1つのパッケージに集積して、「ABバッテリーパックソリューション」として発表しました。

2025年3⽉、エレコムはナトリウムイオン⼆次電池を採⽤した世界初のモバイルバッテリー製品の発売を発表しました。リチウムイオン⼆次電池製品に対して、発⽕リスクが小さい、-35℃から50℃までの広い温度環境への対応が可能、約5000回の⻑サイクル寿命といったメリットをあるとしています。
⼀⽅、エネルギー密度の低さから⼤型で重く、新素材のため⾼価格といったデメリットがあります。電気⽤品安全法のPSEマークに対して対象外ですが、同等の安全評価を行い、通商産業省の確認を得ているとしています。

 

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参考文献
ナトリウムイオン二次電池  Wikipedia日本語  2025/04/13確認
Sodium-Ion Battery  Wikipedia英語  2025/04/13確認
How Comparable Are Sodium-Ion Batteries to Lithium-Ion Counterparts?  ACE Energy Letters 2020, 5, 3544 – 3547

図表
図 ナトリウムイオン電池の構成   参考:ACE Energy Letters 2020, 5, 3544 – 3547

ORG:2025/04/16