5.1 電子顕微鏡の原理(Principle of Electron Microscope)

5.1 電子顕微鏡の原理(Principle of Electron Microscope)

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フラクトグラフィは、破面に残された損傷の痕跡を手がかりとして、破壊の原因や機構を調査する技術です。これを調査する方法として、肉眼や、光学顕微鏡などの低倍率装置を用いる方法をマクロフラクトグラフィ、電子顕微鏡をなどの高倍率装置を用いる方法をマイクロクラフトグラフィとがあります。

マクロクラフトグラフィは、破壊現象の診断に極めて有効であり、破損解析の方向付けに重要な手段ですが、観察の精度が低く、破壊力学により導かれる理論との結びつきも不明確です。光学顕微鏡は倍率を上げると焦点深度が浅く、凹凸のある破面の観察には適さないこともあり、破面観察の手段としては非常に限定されたものでした。
その観察の困難さが、電子顕微鏡の発明により克服されました。電子顕微鏡によるマイクロフラクトグラフィでは、破面の微細構造と破壊理論との対応とがかなりうまく説明されるので、その妥当性が明確になったといえます。

電子顕微鏡は、まず透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)が発明され、続いて走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)の発明により、破面観察は容易になりました。それぞれの原理と特徴について見ていきたいと考えます(図5.1.1)。

[図5.5.1] 電子顕微鏡の原理

1. 透過型電子顕微鏡(TEM)

透過型電子顕微鏡の原理は、試料に電子線をあて、それを透過してきた電子を拡大して観察します。対象の構造や構成成分の違いにより、電子線がどれくらい透過するかは異なるので、試料を電子線が透過する場所により電子の密度が変わり、これが顕微鏡像として観察されます。電磁コイルを用いて透過電子線を拡大し、電子線により光る蛍光板にあてて観察したり、フィルムやCCDカメラで写真を撮影します。観察対象を透かして観察することになるため、試料はできるだけ薄いことが要求されます。
破面観察の場合は、通常破面の模様を転写したレプリカを観察することにより、間接的に実施されます。

レプリカの観察の特徴は
(1)分解能に優れた写真が撮影できます。
(2)構造物などの大きな試料から、任意の位置から非破壊的にレプリカを作成できます。
(3)凹凸の激しい試料では、破面の様子を完全に転写することは困難です。また、レプリカが破損することがあります。このため。レプリカの製作条件は、写真の出来栄えに影響するばかりでなく、場合によっては破面の様子からかけ離れた人工像(artifact)が現れて、破面の解釈を誤る場合もあるので、レプリカを製作する際には十分な考慮を払う必要があります。
透過型電子顕微鏡は、最低倍率が500倍程度であり、マクログラフィ的な破面観察との対応が困難なことが欠点です。
破面観察には現在では、圧倒的に走査型電子顕微鏡による事例が多いといえます。

2. 走査型電子顕微鏡(SEM)

走査型電子顕微鏡の原理は、細い電子線(電子プローブという)を試料に照射すると、試料表面から二次電子が放出されます。電子プローブを走査しながら、試料表面から放出される二次電子の多寡を検出して1枚の画像にすると、試料表面の凹凸を観察することができます。

装置の構成
SEMは、電子プローブを発生させるための電子工学系、試料を載せるための試料ステージ、二次電子を検出するための二次電子検出器、画像を表示するための表示装置、いろいろな操作を行うための操作系などで構成されています。電子光学系(鏡筒内部)と試料周囲の空間は真空に保たれています。

対象の表面の形状や凹凸の様子、比較的表面に近い部分の内部構造を観察するのに優れています。以前は観察対象が導電性のないものの場合、電子線を照射し続けると表面が帯電してしまい、反射する電子のパターンが乱れるため、観察対象の表面をあらかじめ導電性を持つ物質で薄くコーティング(カーボンなど)しておくことが行われていましたが、現在では、前処理が不要で低真空にて観察できる製品も増えてきています。

本サイト管理者も、永年電子顕微鏡で非導電体は直接観察できないと思っていましたが、最近新しい電子顕微鏡にさわる機会があり、ゴムの損傷面を直接観察できたことに感激しました。

走査型電子顕微鏡の特徴
(1)破面自体を直接観察できます。
(2)拡大倍率の可変範囲が広くとれます。10倍程度から10万倍程度まで連続的に観察できます。そのためマクロ破面とミクロ破面との対応が良好です。
(3)凹凸が激しく、レプリカでは、観察が困難な試料が観察できます。また、立体感に優れた像が得られます。
(4)試料ステージの大きさに制限があるため、観察するために試料を切断する必要があります。

3. 透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡との比較

TEMとSEMとを比較すると、それぞれ長所と短所とがありますが、破面観察の観点からはSEMの方が優れています。
(1)TEMでは、破面のレプリカを作成して、それを観察するのに比較して、SEMでは、直接破面を観察することができます。レプリカはその再現性に注意を払う必要があります。
(2)SEM は、倍率の範囲が広く、マクロフラクトグラフィとマイクロフラクトグラフィとの接続性に優れています。

 

 

参考文献
フラクトグラフィとその応用   小寺沢良一   日刊工業新聞社
SEMを使うための基礎知識    日本電子株式会社

 

引用図表
[図5.5.1] 電子顕微鏡の原理    https://www.jeol.co.jp/science/sem.html(日本電子株式会社HP)