6.5 高温破壊(high temperature destruction)詳述Version

6.5高温破壊(high temperature destruction)詳述Version

 

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1. はじめに:高温破壊とは何か

高温破壊とは、金属材料が高温環境下で使用された際に、常温とは異なる破壊挙動を示し、特有の破断面形状を呈して破損する現象をいいます。
高温条件とは、おおむね材料の再結晶温度(鉄鋼材料であればおおよそ500℃以上)を超える環境を示します。高温破壊は、主として発電プラント、エンジン部品、熱交換器、原子炉体、ジェットエンジンのタービンブレード等、常時高温環境に曝される構造部材に起こりやすいです。
常温破壊と異なり、高温破壊では材料の時間依存性(粘性)や拡散、酸化、相変態といった熱活性過程が支配的になります。破壊の形態は、単純な引張り応力だけでなく、時間に伴う変形(クリープ)、繰返し荷重(クリープ疲労)、さらには材料内部の微細構造変化が複雑に絡み合って進行します。
このため、単に破面状態を観察するだけでは無く、使用温度、応力履歴、雰囲気(酸化、腐食性ガス等)、材料組成、製造履歴など多面的に情報を取得して、統合的に考慮することが求められます。
本コンテンツでは、主要な高温破壊のメカニズムとその特徴について解説します。

 

2. 高温環境下での材料の挙動変化

高温下における金属材料の力学挙動は、常温下とは本質的に異なります。高温下では以下のような特性変化が顕著になります。
(1)クリープ変形:高温・定応力下で時間とともに塑性変形が進行する現象。クリープは初期変形(一次)、定常変形(二次)、急激な変形(破断に至る三次)に分類されます。

(2)微視組織の変化:粒界滑り、粒成長、析出物の粗大化、再結晶、相変態などが進行し、強度低下の原因になります。

(3)拡散現象の促進:原子の拡散速度が増大し、粒界での空孔凝集やキャビティの形成が進みます。

(4)酸化・脱炭・相互拡散:高温雰囲気中の酸素、水蒸気、炭素などの拡散による金属表面および内部の化学的変質が起こり、強度低下や脆化を招きます。

これらの変化が、破壊の進行機構を根本的に変えるため、高温破壊の予測・評価は高度な材料知識と実験的知見が必要です。

 

3. 高温環境下で生じる、主要な破壊の種類とメカニズム

高温環境下では、材料の機械的特性が変化し、常温では見られない特有の破壊モードが発生します。温度の上昇は、材料の降伏応力を低下させ、脆性を高め、表面酸化を促進する可能性があります。
以下に、主要な高温破壊メカニズムとその特徴について解説します。

3.1 クリープ破壊

クリープ破壊とは、高温(一般に材料の融点の0.4倍以上)かつ一定応力の条件下で、金属材料が長時間にわたり塑性変形を蓄積し、最終的に破壊に至る現象です。発電プラントの配管・タービン、航空機エンジンのブレード、炉体構造部材など、クリープ破壊は長寿命・高信頼性が求められる機器の設計において非常に重要な考慮事項となります。
破壊に至るまでの挙動は、単なる変形の延長ではなく、材料内部の微細構造の変化、空孔の発生・成長、粒界の損傷進展など、多段階的な損傷蓄積プロセスによって構成されます。

3.1.1クリープ破壊の過程

クリープ破壊は、一般的に以下の3つの段階を経て進行します。各段階の状況について、微視的な視点と巨視的な視点の両面から詳細に解説します。
(1)一次クリープ(初期クリープ)
荷重が作用した直後から始まる段階であり、ひずみ速度は時間とともに急激に低下します。これは、応力を付加すると、最初移動しやすい転位が移動して、その後次第に動きやすい転位が減少していくこと(枯渇現象)、変形により転位密度が増加してお互いに絡み合うことによる動けなくなる加工硬化とが合わさった効果によるもので、一定応力のもとでは次第に変形速度が小さくなります。

(2)二次クリープ(定常クリープ)
一次クリープよりひずみ速度が低下し、一定となる段階であり、長期間のサービス環境における主要な変形期間です。この領域は、加工硬化と過熱による回復がバランスして釣り合った状態と考えることができます。
一次クリープの終わりで、絡み合った転位が応力が付加されている状態で、次第にすべり面上を移動して正負の転位が相殺して消失したり、空格子が作用して転位を消滅させる一方で、変形のために転位が増殖し、両者が釣り合った状態であり、マクロ的には変形速度が一定になりますが、ミクロ的には粒界への空孔の集積や粒界滑りが徐々に進行しています。

(3)三次クリープ(加速クリープ, 破壊クリープ)
一定速度で進行していたひずみが、時間の経過とともに急速に進行し、短時間で破断に至る最終段階です。この段階では、以下の損傷メカニズムが同時多発的に進行します。
・ 粒界でのキャビティ(空孔)の成長・合体
・ 粒界滑りの局所化
・ 微小亀裂の発生と結合
・ 転位構造の崩壊および粒界脱粘着
この三次クリープの進行が、破断に至る直前の兆候として観測されるため、加速変形の兆候の検知=寿命予測のための重要な判断材料となります。

図 クリープ曲線  ORIGINAL

3.1.2 クリープ破壊の微視的進行メカニズム

(1)キャビティの生成
高温下では、材料内部の空孔拡散(バルク拡散や粒界拡散)が顕著となり、粒界に空孔(ボイド)が集まりやすくなります。この空孔が成長し、粒界沿いに微小な「キャビティ(空隙)」として観察されます。
キャビティの生成は、以下の条件で顕著に現れます。
・ 粒界に偏析元素(S, P, Sbなど)の存在
・ 粒界酸化の進行
・ 粒界に二次相炭化物などが存在

これらのキャビティは数百nm〜数μmレベルの大きさであり、SEMや透過電子顕微鏡(TEM)により観察されます。

(2)キャビティの成長と合体
生成したキャビティは、時間の経過とともに拡大し、隣接するキャビティと合体する。このプロセスは拡散制御型の空孔成長と解釈され、ボイド(空孔)同士の連結により粒界破壊が進行します。
この合体が粒界全体に及ぶと、粒界が完全に断裂し、破断に至る。これが粒界破断型クリープ破断の典型的な進行過程です。

(3)粒界滑りと転位の役割
高温下では、結晶粒同士の相対的な滑り(粒界滑り)が容易になり、これが粒界への局所的な応力集中を引き起こします。これにより、キャビティの発生がさらに促進されます。
また、転位運動が活発になり、転位のクロススリップや回復現象が顕著となるが、三次クリープ段階では転位構造が崩壊し、転位密度が急減し、局所的な塑性変形が困難となり、これにより破断を加速させます。

3.1.3 クリープ破壊の破面の特徴

クリープ破壊の破断面は、そのメカニズムを反映した特徴的な様相を示します。
(1)粒界破壊(Intergranular Fracture)
最も一般的なクリープ破壊の形態です。破面は、結晶粒界に沿ってき裂が進展したことを示す、比較的平坦で粒状の様相を呈します。これは、高温下での粒界すべりや、粒界でのボイドの発生・連結が主な原因です。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると、粒界に沿って微細な空孔(クリープボイド)が多数連結している様子が確認できます。

(2)粒内破壊(Transgranular Fracture)
比較的まれですが、粒内での転位運動や析出物の影響で、結晶粒を横切る形で破壊が進展することもあります。この場合、破面は延性破壊に似たディンプルパターンを示すことがあります。

(3)酸化膜や変色
高温環境下での破壊であるため、破断面には酸化膜の形成や変色が見られることが多く、これが常温での破壊との識別の手がかりとなることがあります。

クリープ破壊の診断においては、破断面の形態観察に加え、材料の組織観察(クリープボイドの有無、分布、連結状態)、硬度分布、元素分析なども総合的に行うことで、破壊原因を特定します。特に、クリープボイドの存在は、クリープ破壊の決定的な証拠となります。

3.1.4 材料組織・元素の影響

(1)粒径とクリープ耐性
一般に、粒径が大きいほど粒界数が少なくなり、キャビティの生成・成長の場が減少するため、クリープ耐性が向上します。しかし、過度な粒成長は脆性破壊の助長要因にもなり得るため、バランスの取れた粒径制御が必要になります。

(2)析出物の安定性
例えば、フェライト系耐熱鋼におけるγ-M23C6炭化物(Mは、主としてCr,Fe)や、ニッケル基超合金におけるγ′相などは、転位の移動を阻害し、クリープ変形を抑制する役割を担います。しかし、高温長時間使用によりこれらの析出物が粗大化・消失すると、強化効果が失われ、クリープ破壊が促進されます。

(3)粒界偏析元素の影響
元素の偏析(例:P, S, Sb)が粒界強度を著しく低下させることが知られており、これがキャビティ生成を加速させます。近年では、ボロン(B)やジルコニウム(Zr)添加による粒界強化技術も開発されています。

3.1.5 まとめ

クリープ破壊は、単なる高温変形の累積ではなく、空孔生成→キャビティ成長→粒界破断という微細損傷の連鎖によって進行する複雑な破壊現象です。
材料開発の観点では、粒界強化、析出物安定化、偏析元素の制御などの技術が不可欠であり、使用条件に応じた寿命予測と破断面解析によって、より信頼性の高い構造設計が実現されます。
高温構造材を扱う技術者は、このクリープ破断のメカニズムを正しく理解し、材料選定・設計・運用の全フェーズで活用することが求められる。

 

3.2 高温疲労破壊

疲労破壊は、繰り返し応力によって材料が破壊する現象ですが、これが高温環境下で発生する場合を高温疲労破壊と呼びます。高温下では、常温疲労とは異なるメカニズムが作用して、材料の疲労寿命が著しく低下することがあります。高温疲労は、熱サイクルを伴う部品(例えば、航空機エンジンのタービンブレードや、発電プラントの熱交換器など)で特に問題となります。

3.2.1 高温疲労のメカニズム

高温疲労のメカニズムは、常温疲労に加えて、以下の高温特有の現象が複合的に作用します。
(1)クリープと疲労の相互作用(Creep-Fatigue Interaction)
高温疲労では、繰り返し応力による疲労損傷と、高温持続応力によるクリープ損傷が同時に進行し、互いに影響を及ぼし合います。例えば、引張保持時間がある場合、その間にクリープひずみが蓄積され、疲労き裂の発生・進展が加速されます。これは、特に粒界でのボイド発生や粒界すべりが促進されるため、粒界破壊の傾向が強まります。

(2)酸化・腐食の影響
高温環境では、材料表面の酸化や腐食が進行しやすくなります。き裂先端部で酸化膜が形成されると、き裂の再鈍化や再鋭利化が繰り返され、き裂進展に影響を与えます。また、酸化によって材料表面に微細なき裂が発生し、疲労き裂の起点となることもあります。

(3)組織変化
高温に長時間さらされることで、材料の結晶粒成長、析出物の粗大化・消滅、相変態などが起こり、材料の機械的特性(強度、延性)が変化し、疲労特性に影響を与えます。

3.2.2 高温疲労破壊の破面特徴

高温疲労破壊の破断面は、常温疲労と同様にビーチマーク(貝殻模様)やストライエーション(縞模様)が見られることがありますが、高温特有の特徴も現れます。
(1)粒界疲労破壊(Intergranular Fatigue Fracture)
クリープとの相互作用が強い場合、疲労き裂が結晶粒界に沿って進展する傾向が強まります。破面は、粒界に沿った平坦なファセットを示すことが多く、常温疲労のような粒内でのストライエーションが不明瞭になることがあります。

(2)酸化膜や変色
破断面全体またはき裂進展経路に沿って、高温酸化による変色や酸化膜の形成が見られます。これは、き裂が長時間高温環境に曝されていたことを示唆します。特に、き裂進展経路に沿って酸化膜が厚く形成されている場合、その部分で高温に晒された時間が長かったことを示します。

(3)ラチェットマーク
複数のき裂が異なる平面で発生し、それらが連結して進展する際に形成される段差状の模様です。高温疲労でも見られることがあります。

(4)き裂起点の多発
酸化やクリープの影響で、材料表面の複数の箇所からき裂が発生し、それが連結して進展するケースも見られます。
高温疲労破壊の診断では、破断面の観察に加え、材料の組織観察(クリープボイドの有無、粒界の状況)、硬さ分布、元素分析などを行い、クリープ損傷や酸化損傷の程度を評価することが重要です。

 

3.3 高温酸化破壊

高温酸化は、金属材料が高温の酸化性環境に曝露された際に生じる表面反応現象であり、材料の断面減少、応力集中の発生、および材料特性の劣化を通じて破壊に至る重要な劣化機構です。高温酸化現象は単純な表面現象に留まらず、酸化スケールの形成・剥離サイクル、酸素の内部拡散、および基材組織の変化などを含む、複合的なプロセスです。

3.3.1高温酸化の基本メカニズム

高温酸化の基本メカニズムは、金属表面での酸素吸着、酸化反応、およびスケール層の成長という一連の過程によります。初期の段階では、金属表面に酸素が化学吸着し、表面原子との反応により薄い酸化膜を形成します。この初期酸化膜は通常数nm程度の厚さであり、基材との密着性は良好です。しかし、時間の経過とともに酸化膜厚は増加して、熱膨張差や相変態に伴う体積変化により内部応力が蓄積されます。

酸化スケールの成長速度は、拡散律速過程によって決定されます。Wagner理論によれば、緻密で保護性のある酸化膜の場合、酸化増量は時間の平方根に比例する放物線則に従う。この関係は以下の式で表されます。

(Δm/A)² = kₚt

ここで、
Δm/A:単位面積当たりの酸化増量
kₚ : 放物線定数
t : 時間である。
です。

放物線定数kpは温度の関数として以下のアレニウス型の関係で表されます。

kₚ = k₀exp(-Q/RT)

ここで、
k₀ : 頻度因子
Q : 活性化エネルギー
R : 気体定数
T : 絶対温度

です。

しかし、実際の高温酸化過程では、直線則(速度一定)が観察される場合が多いです。これは、スケールが厚くなると剥離することにより、新鮮な金属表面が露出し、再び初期酸化が開始されるためです。このサイクリック酸化現象は、材料の消耗を加速し、設計寿命の大幅な短縮を招きます。

3.3.2高温酸化による破壊メカニズム

高温酸化による破壊メカニズムとして、以下に示す3つの形態が挙げられます。

(1)均一酸化
均一酸化は、全表面にわたって一様な酸化が進行し、有効断面積の減少により応力増大を招きます。この場合の破断面は、酸化減肉による表面の凹凸と、最終破断部の延性破面が観察されます。

(2)局部酸化
局部酸化による応力集中型破壊では、材料の組織不均一性や表面状態の違いにより局部的に深い酸化侵食が生じ、急激な応力集中により破壊が促進されます。この形態の破断面では、酸化侵食部を起点とした脆性的な破面と、周辺部の延性破面が混在する特徴的なパターンを示します。

(3)粒界酸化
粒界酸化は、特に重要な劣化形態です。粒界は原子配列の乱れが大きく、酸素が拡散する経路として作用しやすくなります。粒界に沿った酸化の進行により、粒界強度が著しく低下し、粒界破壊を引き起こします。粒界酸化による破断面は、酸化した粒界に沿った平坦な破面と、粒界酸化物の残存が特徴的です。

(4)内部酸化
内部酸化も重要な劣化機構の一つです。合金元素の中で酸素親和性の高い元素(Al、Cr、Si等)は、表面酸化膜形成と並行して内部への酸素拡散により内部酸化物を形成します。これらの内部酸化物は硬質で脆性的な性質を有し、局所的な応力集中源になります。内部酸化の影響を受けた破断面では、酸化物粒子周辺での微小き裂や、酸化物の剥離痕が観察されます。

3.3.3高温酸化の評価

(1)高温酸化の破面解析
高温酸化の破面を解析する際には、酸化スケールの組成・構造解析が重要です。XRD(X線回折)、XPS(X線光電子分光)、EPMA(電子線マイクロアナライザー)などの分析手法により、酸化物の同定と分布状態を把握できます。鉄鋼材料の場合、外層のFe₂O₃(ヘマタイト)、中間層のFe₃O₄(マグネタイト)、内層のFeO(ウスタイト)からなる多層構造が典型的です。

(2)酸化スケールの密着性評価
酸化スケールの密着性評価も重要な解析項目になります。曲げ試験、引張試験、熱衝撃試験などにより、スケールの剥離挙動を定量的に評価できます。密着性の良い場合は破断面にスケールが残存し、密着性の悪い場合は清浄な金属破面が露出します。

(3)高温酸化による材料劣化評価
高温酸化による材料劣化の評価では、酸化減量測定が基本的な手法になります。定期的な重量測定により酸化速度を定量化し、材料の耐酸化性を評価することができます。また、断面観察により酸化侵食深さを測定し、構造部材の有効断面積減少量を把握できます。

3.3.4高温酸化への対策

高温酸化の対策としては、耐酸化性に優れた材料の選定、保護コーティングの適用、および環境制御が挙げられます。耐酸化性合金では、Cr、Al、Siなどの元素添加により保護性酸化膜の形成を促進します。保護コーティングでは、MCrAlY系、熱遮蔽コーティング(TBC)などが実用化されています。環境制御では、酸素分圧の低下、還元性雰囲気の利用、不活性ガス置換などが効果的です。

 

注記:

MCrAlY系:
MCrAlY系とは、耐熱合金の一種で、主にガスタービンなどの高温環境で使用されるコーティング材料です。MはNi (ニッケル)、Co (コバルト)、Fe (鉄)などの金属元素を表し、Cr (クロム)、Al (アルミニウム)、Y (イットリウム)などの元素を組み合わせた合金です。これらの元素の組み合わせにより、優れた耐酸化性、耐食性、耐熱性を実現しています。
MCrAlY系合金は、ジェットエンジンの高温化に対応するために開発され、その優れた特性から、現在では様々な分野で利用されています。特に、航空機エンジンのタービン部品の保護コーティングとして、重要な役割を果たしています。
(1)MCrAlY系の主な特徴::
・ 耐酸化性:高温での酸化による劣化を防ぎます。
・ 耐食性:腐食環境下でも安定した性能を維持します。
・ 耐熱性:高温にさらされても強度を保ちます。
・ コーティング材料:主にガスタービン部品の保護コーティングとして使用されます。
・ 元素の組み合わせ:使用目的に応じて、M (Ni, Co, Fe), Cr, Al, Yなどの元素の割合が調整されます。

(2)MCrAlY系の用途::
・ 航空機エンジン:タービンブレードやノズルなどの高温部品の保護コーティングとして使用されます。
・ ガスタービン:地上用ガスタービンや産業用ガスタービンでも、高温部品の保護に使用されます。
・ その他:高温、腐食環境下で使用される部品のコーティングとして、様々な分野で検討されています。

 

3.4 高温腐食(hot corrosion)

高温腐食とは、高温環境下で金属材料の表面に溶融塩(多くの場合、燃料中の不純物や大気中の塩分が燃焼によって形成される硫酸塩など)が付着し、この溶融塩が保護酸化皮膜を破壊することで、通常の高温酸化よりもはるかに速い速度で材料が劣化する現象を指します。ガスタービンブレード、ボイラーチューブ、焼却炉の部品など、燃料燃焼ガスにさらされる高温機器で特に問題となります。

3.4.1高温腐食のメカニズム

ホットコロージョンは、単なる高温酸化とは異なり、溶融塩の存在がその進行を加速させます。主なメカニズムは、溶融塩による保護酸化皮膜の溶解(フラックスイング)により、硫黄や酸素などの腐食性元素の内部侵入により、硫化や酸化が極めて速い速度で進行します。
高温腐食には、主に以下に示す2つのタイプがあります。
タイプ1は800°Cから950°Cの温度範囲で発生し、タイプ2は650°Cから800°Cの比較的低温側で発生します。

(1)タイプI:ホットコロージョン(高温型高温腐食)
・ 温度範囲: 一般的に 800∼950℃で発生します。これは、主要な溶融塩である硫酸ナトリウム (Na2SO4) の融点(約884℃)付近またはそれ以上で発生するため、「高温型」と呼ばれます。

・ メカニズム:
1) 溶融塩の付着と溶解: 燃焼ガス中のナトリウム(Na)と硫黄(S)が反応して硫酸ナトリウム(Na2SO4)などの溶融塩が生成され、高温部品の表面に付着します。この溶融塩が、材料表面に形成されている保護性の酸化皮膜(例:Cr2O3 や Al2O3)を溶解させます。これは「フラックスイング(Fluxing)」と呼ばれ、酸性フラックスイングと塩基性フラックスイングの2種類があります。
2) 酸性フラックスイング: 溶融塩が酸性(SO3濃度が高いなど)の場合、保護酸化物(Cr2O3 など)が溶融塩に溶解してクロム酸塩などを形成し、保護皮膜が薄くなります。
3) 塩基性フラックスイング: 溶融塩が塩基性(Na2O 濃度が高いなど)の場合、保護酸化物(Al2O3 など)が溶融塩に溶解してアルミン酸塩などを形成し、同様に皮膜が破壊されます。

・ 硫黄の内部拡散と硫化物形成:
保護酸化皮膜が破壊されると、溶融塩中の硫黄成分が合金基材内部に拡散し、クロムやアルミニウムなどの合金元素と反応して内部硫化物(例:CrS、AlS)を形成します。これらの硫化物は通常、酸化物よりも安定ではないため、保護皮膜の再生成を妨げます。

・ 加速酸化:
硫化物の形成により、保護元素が消費され、さらに酸化皮膜が破壊されることで、酸素が合金内部に容易に侵入できるようになり、酸化が加速されます。結果として、厚く、多孔質で非保護性の酸化スケールが形成されます。

(2)タイプII ホットコロージョン(低温型高温腐食)
・ 温度範囲: タイプIよりも低い温度、650∼800℃ 程度で発生します。この温度範囲では硫酸ナトリウム単独では液体になりませんが、燃料中の他の不純物(例:V2O5、NiO、CoO など)が共存することで、硫酸ナトリウムとの共晶反応により融点が低下し、低温でも溶融塩が形成されます。

・ メカニズム:
 1) 低融点共晶塩の形成: 硫酸ナトリウムが、SO3 や合金元素の酸化物(CoSO4、NiSO4 など)と反応し、より低い融点の共晶混合物(例:Na2SO4-CoSO4 共晶など)を形成します。この共晶混合物が低温でも液体となるため、腐食が開始されます。
2) 保護皮膜の不安定化: 溶融塩が、合金表面の保護酸化皮膜と反応し、その安定性を低下させます。特に、合金元素の硫酸塩(例:NiSO4、CoSO4)が形成され、これが保護皮膜を溶解させます。
3) 局部的なピッチング: タイプIIホットコロージョンは、特定の場所に集中して発生し、深いピット(くぼみ)を形成するのが特徴です。これは、溶融塩の組成変化や局所的な酸素分圧の変動に起因すると考えられています。

3.4.2高温腐食の破面の特徴と診断

高温腐食による損傷は、破面観察だけでなく、断面の組織観察や元素分析によっても特徴づけられます。

(1)マクロ観察:
・ 広範囲な表面劣化: 部品の広範囲にわたって表面が荒れていたり、剥離した酸化スケールが見られたりします。
・ 緑色〜黒色の生成物: 部品表面に、クロム酸化物や硫化物を含む黒色、またはコバルト酸化物による緑色の腐食生成物が付着していることがあります。
・ タイプIIでは局部的なピット: タイプIIホットコロージョンでは、深いピット状の損傷が複数観察されることがあります。

(2)ミクロ観察(SEM、光学顕微鏡、EPMAなど):
・ 厚く多孔質の酸化スケール: 表面には、通常保護性を有する緻密な酸化皮膜とは異なり、厚く、多孔質で、保護性に乏しい酸化スケールが形成されています。このスケールは、基材との密着性が悪く、容易に剥離することがあります。
・ 内部硫化物: 酸化スケールの下層、つまり合金基材との界面付近や結晶粒界に沿って、内部に侵入した硫黄と合金元素(主にクロムやアルミニウム)が反応して形成された硫化物(通常は黒色の異相として観察される)が確認されます。これはホットコロージョンの決定的な証拠の一つです。硫化物の形態は、粒状、針状、あるいは連続的な層状など様々です。
・ クロム枯渇層: 保護元素であるクロムやアルミニウムが硫化物や酸化物の形成のために消費されることで、酸化スケール直下の合金基材に、これらの元素が枯渇した層が形成されます。この枯渇層は腐食抵抗性が低いため、さらなる腐食を加速させます。
・ 粒界腐食: き裂が結晶粒界に沿って進展する傾向が見られることがあります。これは、粒界が硫黄などの侵入経路となりやすいためです。
・ 溶融塩残渣: 破断面や表面には、腐食を加速させた溶融塩の残渣(主に硫酸ナトリウム)が検出されることがあります。EDXなどの元素分析でナトリウム(Na)や硫黄(S)が高濃度で検出されることは、溶融塩腐食の重要な証拠です。
・ タイプIIの独特な形態: タイプIIホットコロージョンでは、ピットの底に硫化物が集中しているか、ピット周辺に硫化物が網目状に広がっていることが観察されることがあります。

診断時には、これらの特徴を総合的に評価し、使用環境(燃料の種類、大気中の塩分濃度、運転温度など)との関連性を考慮することが重要です。

3.4.3高温腐食の対策と予防

高温腐食は、部品の寿命を大幅に短縮させるため、その対策は非常に重要です。
(1)耐食合金の選定:
・ 高クロム合金: クロムは保護酸化皮膜の主成分であり、硫化物の形成を抑制する効果もあるため、高クロム含有量の合金が高温腐食耐性に優れます。
・ 高アルミニウム合金: アルミニウムも保護酸化皮膜を形成するため、耐食性向上に寄与します。
・ レアメタル元素の添加: イットリウム(Y)、ハフニウム(Hf)、セリウム(Ce)などの反応性元素を微量添加することで、保護酸化皮膜の密着性や安定性を向上させ、剥離を抑制する効果があります。
・ コバルト基超合金の活用: ニッケル基超合金と比較して、コバルト基超合金はタイプIIホットコロージョンに対する耐性が高い傾向があります。

(2)表面処理・コーティング:
・ 熱バリアコーティング(TBC): セラミックス製の熱バリアコーティングは、基材金属の温度を低下させ、溶融塩との直接接触を防ぐことでホットコロージョンを抑制します。
・ 拡散コーティング(例:アルミナイズ、クロマイズ): 材料表面にアルミニウムやクロムを拡散浸透させて、表面の耐酸化性・耐食性を向上させます。特に、緻密なAl2O3 や Cr2O3 皮膜を形成させることで、溶融塩の侵入を防ぎます。
・ オーバーレイコーティング(例:MCrAlY コーティング): M(Ni、Co、Fe)に Cr、Al、Y などの元素を添加した合金を溶射などで表面に成膜することで、優れた耐酸化・耐食性を付与します。

(3) 燃料・空気の清浄化:
・ 燃料中の不純物低減: 燃料中の硫黄、ナトリウム、バナジウムなどの不純物含有量を低減します。低硫黄燃料の使用や、燃料の脱硫処理、脱塩処理などが有効です。
・ 吸気のろ過: 大気中の塩分(特に沿岸地域や海洋環境)が機器内に吸い込まれるのを防ぐため、吸気フィルターの強化や、より高効率なフィルターの導入を検討します。

(4) 添加剤の利用:
・ 燃料添加剤: 燃料にマグネシウム(Mg)やアルミニウム(Al)などの化合物(例:MgO)を添加することで、バナジウムなどの低融点化合物と反応させ、高融点化合物を形成させ、溶融塩の形成を抑制したり、保護皮膜を安定化させたりする効果があります。

(5) 運転条件の最適化:
・ 温度管理: 高温腐食が発生しやすい温度領域を避けて運転する、またはその温度領域での滞留時間を最小限に抑えるよう運転条件を調整します。
・ 熱サイクル制御: 急激な温度変化は酸化皮膜の剥離を促進するため、熱サイクルの頻度や温度変化速度を管理します。

高温腐食は、複数の要因が複雑に絡み合って進行するため、その対策も多角的なアプローチが必要です。材料技術、表面処理技術、そして運転管理の総合的な知見が求められます。

 

3.5 高温での水素による損傷 (水素アタック)

水素による金属の損傷は、一般的に低温での水素脆化がよく知られていますが、高温環境下でも特有の損傷メカニズムが存在します。これを「水素アタック(hydrogen attack)」と呼び、通常230°C以上の高温・高圧水素環境に炭素鋼や低合金鋼が曝された場合に、材料特性が劣化する現象を指します。低温水素脆化が主に起動・停止時の靭性低下に影響するのに対し、水素アタックは材料が運転温度に達した状態で劣化を引き起こす点が異なります。

3.5.1水素アタックのメカニズム

水素アタックのメカニズムは、原子状水素が鋼中に浸透し、内部の炭化鉄(Fe3C)と反応してメタンガス(CH4)を生成することから始まります。生成されたメタンは、その分子サイズが大きいために金属格子中を拡散して外部へ逃げることができず、材料内部に閉じ込められます。この閉じ込められたメタンガスの圧力が材料の凝集強度を上回ると、粒界に沿って微細な亀裂(fissuring)が形成されます。
水素アタックは通常、以下の3つの段階を経て進行します。
(1)原子状水素が金属中に拡散する段階
(2)鋼中の炭化物が水素と反応し脱炭が発生する段階
(3)粒界に沿った亀裂(fissuring)が形成される段階

です。
最初の段階で生じる延性の損失は一時的なものであり、加熱によって回復可能ですが、第二段階、第三段階で、鋼中の炭素と水素とが化合して、メタンによる内部圧力で亀裂が形成されると、その損傷は永久的かつ不可逆的な脆化となります。

3.5.2水素アタックの破面

大型蒸気タービンの鍛造品などで観察される内部水素亀裂は、その破面がトウモロコシのフレーク状に見えることから、「水素フレーク(hydrogen flakes)」とも呼ばれています。
破面観察では、水素脆化が多様な形態を示すことが確認されています。例えば、水素脆化されたAISI4340鋼は、明確なへき開破壊ではなく、それに近い「準へき開破壊(quasi-cleavage fracture)」と呼ばれる破面を示すことがあります。また、AISI4130鋼では、水素の存在下で「粒界凝着破壊(intergranular decohesive fracture)」、すなわち粒界に沿って材料が分離する形態が観察されています。チタン合金Ti-6Al-4Vは、水素ガス環境下で試験を行うと、熱処理条件によって粒界凝着破壊と粒内破壊(transgranular fracture)の両方が発生しうることが示されています。アンチモンをドープしたニッケル-クロム鋼の事例では、水素環境下で破壊された際、合金成分が枯渇した領域において準へき開を示すことが報告されています。

3.5.3水素によるき裂成長挙動

水素による亀裂成長速度は、温度や水素の分圧、さらには材料の微細組織における水素の挙動によって大きく変化します。水素が、旧オーステナイト粒界のような粒界分離の促進部位と、マルテンサイト格子のような微細空洞合体の促進部位との間でどのように分配されるかを考慮したモデルも存在し、この分配が亀裂成長挙動に影響を与えると考えられています。

3.6 その他の高温環境による誘起破壊

高温環境は、クリープ、高温疲労、高温酸化、水素アタックによる損傷以外にも、様々な材料の劣化や破壊を引き起こす可能性があります。これらの中には、微細組織の変化に起因するものや、加工履歴に起因するものも含まれます。

(1)シグマ相脆化:
シグマ相は、特にクロム含有量が16.5%を超えるオーステナイト系ステンレス鋼やニッケル基超合金において、595°Cから930°Cの比較的広い温度範囲で長時間の使用や熱処理に曝された場合に析出する、硬くて脆い金属間相です。
シグマ相は、材料の常温でのノッチ引張強度、延性、および衝撃靭性を著しく低下させるため、「脆化」の主要因となりますが、通常650°Cを超える運転温度での稼働には問題とならないとされています。
溶接後の状態でもシグマ相が形成されることがあり、これは溶接熱影響部(HAZ)における熱履歴と関連しています。具体的な事例として、25Cr-12Ni鋳造ステンレス製の焼入れ治具では、実質的なシグマ相が観察され、これが亀裂の原因となっていました。また、SUS312ステンレス鋼の溶接金属では、高いシグマ相含有量が脆性的な破壊挙動を引き起こし、破面は微細なディンプルと準へき開が混在する特徴を示しました。

(2)析出脆化:
析出脆化は、材料中の合金元素が特定の温度域で微細な粒子として析出し、それが粒界に集中することで材料が脆くなる現象です。高温で使用される高炭素オーステナイト鋼は、粒界炭化物の析出により特に脆化しやすい傾向にあります。例えば、不適切に熱処理されたACI CF-8のようなステンレス鋳造鋼(AISI 304相当)では、粒界に炭化物が析出することで、その周辺領域からクロムが枯渇し、「敏感化(sensitization)」と呼ばれる状態になります。これにより、使用中に粒界腐食が進行しやすくなり、結果として材料の腐食速度が加速されます。溶体化処理温度からの冷却が遅すぎる場合や、溶体化処理後に低すぎる温度で長時間保持された場合にも、同様の有害な影響が生じます。
オーステナイト系高マンガン鋼(Hadfield鋼)も、不適切な水焼き入れや再加熱によって同様の問題を抱えることがあります。これらの場合、粒界に多量の炭化物が析出したり、ひどい場合にはオーステナイト粒内にまで析出したりすることで、マトリックスの加工硬化能力が低下し、全体的な靭性および延性が損なわれる結果となります。
ニッケル基超合金では、準安定なMC炭化物がより安定なM23C6粒界炭化物に変態し、それが連続的な炭化物膜を形成することで、材料の衝撃特性が劣化します。また、特定の鋼種では、焼戻し脆化と呼ばれる現象により、1CrMoV鋼の破壊靭性が低下するなどの影響が見られます。これらの析出脆化は、材料の微細組織の制御が不適切な場合に発生しやすく、長期的な使用における信頼性に大きな影響を及ぼします。

(3)ホットショートネス:
ホットショートネス(Hot Shortness)とは、特に熱間加工において、材料が変形する際に発生する熱によって、粒界に存在する低融点化合物が局部的に溶融し、粒界に沿って亀裂が発生する現象を指します。この現象は、加工温度が材料中の低融点成分の融点に近すぎる場合に起こりやすくなります。
ホットショートネスを防ぐためには、いくつかの対策が有効です。例えば、変形速度を十分に低く設定し、工具への熱放散を促進することで、局部的な温度上昇を抑制する方法があります。また、より低い加工温度を選択することも有効です。さらに、熱間加工を行う前に均質化熱処理を施すことで、材料中の化学的不均一性を低減し、低融点成分の粒界偏析を抑制することも、ホットショートネスの発生を予防する上で重要です。
多くの金属系では、中間温度域において「低延性」を示す領域が存在します。この温度域では、粒界すべりが粒界亀裂を誘発するのに十分なほど高温であるにもかかわらず、動的再結晶プロセスが亀裂の伝播を効果的に阻止するほどには高温ではないため、亀裂が発生・進展しやすくなります。低融点相を含む合金(例えば、γ′相で強化されたニッケル基超合金)は、一般に変形が困難であり、良好な熱間加工が可能な温度範囲が非常に限られているという特徴があります。合金中の溶質元素含有量が増加するにつれて、低融点相が形成される可能性が高まり、結果として材料の鍛造性が低下する傾向が見られます。ある事例では、オーステナイト系ステンレス鋼の熱間鍛造押出し品に、巨視的なせん断帯から起点とするらせん状の亀裂が観察されており、これはホットショートネスに関連する問題を示唆しています。

 

4. 高温破壊における破面および微細組織の観察

前項までの記述と一部重複しますが、破壊の原因を特定し、将来の故障を防止するためには、破壊した部品の破面や内部の微細組織を詳細に観察することが不可欠です。特に高温環境下で発生する破壊は、常温での破壊とは異なる独特の痕跡を残します。

4.1. マクロおよびミクロ破面観察

破面観察は、故障解析の非常に重要な部分であり、肉眼、ハンドレンズ、低倍率の実体顕微鏡、または走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、1倍から50倍、または100倍程度の倍率で行われます。破面のマクロおよびミクロスケールでの観察は、故障調査に非常に多くの情報を提供します。

(1)マクロ観察:
破面の低倍率観察は、最終破壊領域とは異なる質感を持つ領域を明らかにすることが多いです。疲労、応力腐食、水素脆化による破壊も、これらの違いを示すことがあります。
破面が平坦な場合でも、必ずしも脆性破壊を示すわけではなく、微視的には延性的な破壊(微細空洞の合体)であっても、巨視的には脆性的に見えることがあります。 例えば、ある鋼管の破面では、V字型のシェブロンマークや扇状マークが観察され、これらが明確に亀裂の起点(矢印で示された箇所)を示していました。この起点領域は、破面の他の部分とは異なり、せん断リップがありませんでした。平坦な破面は、破壊を引き起こした応力が管の長手方向に平行な引張応力であったことを示唆していました。

図 鋼管破面の起点領域  出典:ASM Metals HandBook Volume 11 – Failure Analysis and Prevention – 2002

(2)ミクロ観察(電子顕微鏡によるフラクトグラフィ):
破面の微視的観察は、通常、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行われます。SEMは、光学顕微鏡に比べて視野深度が非常に深く、5000倍から10,000倍という非常に高い倍率で観察できるという利点があります。また、SEMにはエネルギー分散型X線分光器(EDS)などの微量分析機能が備わっていることが多く、これにより破面の特徴と化学的組成の関連性を確認するのに役立ちます。SEM分析の主な制約は、試料の大きさです。
いくつかの特徴的な破面の特徴は、特定の破壊モードを示唆します。
・ ディンプル(Dimples):
延性破壊の破面を高倍率で観察すると、通常はディンプルと呼ばれる微細な凹凸が観察されます。引張荷重下での破壊では等軸のディンプルとなる傾向がありますが、せん断応力の高い面での延性破壊では細長く引き伸ばされたディンプルが形成されます。例えば、425℃で試験された銅の試験片は、ディンプル破面を示しました。また、過時効前のCu-2.5Be合金(引張強度930 MPa)は、様々なサイズのディンプルを示す横断的破壊を示しました。これは、微細空洞の形成、成長、合体という過程を経て破壊が進行したことを示唆しています。

・ へき開(Cleavage):
脆性破壊には、粒内へき開と粒界分離の2種類があります。粒内へき開は、体心立方晶(BCC)金属や一部の六方最密充填(HCP)金属(例:フェライト鋼、鉄、タングステン、マグネシウム、亜鉛など)で発生します。面心立方晶(FCC)金属(例:アルミニウム、オーステナイト系ステンレス鋼)は、通常この破壊メカニズムにはかからないとされています。へき開破壊は、結晶学的な破面を示すため診断が比較的容易であり、光沢のある結晶面(ファセット)が観察されることが多いです。破面は最大引張応力軸にほぼ垂直に形成され、せん断リップが「額縁」のように周囲に形成されることがあります。へき開面の「リバーマーク(river marks)」は、局部的な亀裂の成長方向を示唆する特徴的なパターンです。しかし、パーライト鋼やマルテンサイト鋼のへき開破面は、微細組織の影響を受けるため、解釈がより困難になることがあります。例えば、パーライト鋼のへき開破面は、疲労ストライエーションと類似した特徴を示すことがあり、破面モードの混同を避けるには注意が必要です。

・ 粒界破壊(Intergranular Fracture):
粒界分離は、もう一つの脆性破壊の形態です。粒界に第二相粒子が存在する場合に、粒界破壊が発生しやすいことが観察されます。しかし、粒界に原子数層の厚さで元素や化合物が偏析し、それが粒界破壊を引き起こす場合、フラクトグラフィではその偏析を検出できないことがあります。このような場合には、オージェ電子分光法(Auger analysis)やEDSなどのより詳細な表面分析が有用となります。タングステンでは、組成に応じて純粋なへき開破壊またはへき開と粒界破壊の混合モードが観察されています。

・ 疲労ストライエーション(Fatigue Striations):
疲労破壊の際、亀裂の進展に伴って現れる微細な平行模様を疲労ストライエーションと呼びます。このストライエーションの形状や間隔から、亀裂の進展速度や応力状態に関する情報を得ることができます。しかし、破面が損傷している場合や、材料が鋼である場合には、ストライエーションの識別が困難なことがあります。例えば、あるピストンでは、破面に見られる模様が疲労ストライエーションのように見えたものの、詳細なSEM分析の結果、それは実際にはパーライトのラメラ構造であり、間隔もパーライトの寸法と一致したため、疲労ストライエーションではないと結論されました。疲労ストライエーションは、延性のあるアルミニウム合金では非常に明瞭に観察できますが、鋼のサンプルでは表面損傷が少ない場合でも見えにくいことが多いです。

・ 引き裂き地形表面(Tearing Topography Surface, TTS):
これは、新しいフラクトグラフィの概念であり、鋼、アルミニウム、チタン、ニッケル合金など、様々な合金系で過負荷、水素脆化、疲労といった多様な破壊条件下で観察される破面モードです。TTS破面は、複雑な引き裂きとディンプル破面領域が混在する特徴を示します。

(3)破面の清浄化:
破面が錆や腐食生成物、汚れなどで覆われている場合、その特徴が不明瞭になることがあります。このような場合、軽度の酸性またはアルカリ性溶液を用いた洗浄や、セルロースアセテートレプリカによる清浄化が有効です。レプリカ法は、破面を清浄化するだけでなく、除去されたデブリや腐食生成物をプラスチックフィルムに付着させて、その後の分析に利用できるという利点もあります。

 

4.2. 微細組織観察と化学組成分析

金属材料の微細組織観察と化学組成分析は、故障解析において極めて重要な手順であり、破面観察と組み合わせて行われることで、破壊の根本原因に関するより包括的で決定的な情報を提供します。

(1)微細組織観察(メタログラフィ):
メタログラフィは、研磨およびエッチングされた試料の断面を光学顕微鏡や電子光学技術を用いて観察する手法です。この観察により、材料の種類、組織、および異常の有無を特定することができます。
・ 未エッチング観察:
研磨された試料は、まず未エッチング状態で観察されるべきです。これにより、介在物、亀裂、ポア(空孔)、あるいは鋼中の銅や表面めっきのような異物など、エッチング後に見えにくくなる可能性のある特徴をより詳細に観察することができます。

・ 微細組織の特徴付け:
メタログラフィは、材料の組成や加工履歴から予想される微細組織が適切であるか、使用中にどのような損傷(温度、負荷、環境要因による)を受けたか、溶接やその他の接合プロセスが適切であったか、亀裂の発生起点と進展経路、およびそれが介在物や粒界などの微細組織的特徴と関連しているか、などの評価を可能にします。
1)鋳造組織と加工組織の識別: 鋳造品と加工品(圧延、押出しなど)は、その微細組織から区別することができます。鋳造品では偏析効果がより顕著に現れやすいです。方向性凝固によって形成される長い方向性の結晶粒や、急冷表面で形成される微細な等軸粒なども、鋳造品の特徴として観察され、これらが破壊メカニズムと関連する場合があります。

2)異方性と破壊: 機械加工された材料や部品は、通常、最大の引張応力が変形方向に作用するように設計されることが多いです。これは、その方向で強度が最大となるためです。しかし、他の方向に負荷が加わった場合に破壊が生じることは珍しくありません。例えば、鋼製ビームに溶接されたラグが、板厚方向の引張負荷で疲労亀裂を生じた事例では、材料自体は仕様を満たしていたものの、多くのマンガン硫化物介在物を含む帯状領域に沿って亀裂が進展しました。これは、設計者が材料を等方性と仮定したことに起因する問題でした。

3)熱処理の評価: 脱炭層の深さや、浸炭層の深さの確認など、熱処理の適切性を評価するためにもメタログラフィは非常に有効です。これらは通常、微小硬度計による硬さ測定と組み合わせて行われます。

4)脆化の検出: 微細組織観察によって脆化の兆候を捉えることも可能です。例えば、ガスタービン高温ガスケーシングに使用された321ステンレス鋼の事例では、18,000時間の使用後、広範囲にわたる炭化物の形成と、それに伴う脆性的な粒界亀裂が観察されました。

5)内部欠陥の特定: ギアや軸受における高接触(ヘルツ)荷重下での疲労破壊のように、表面下の疲労破壊の性質をメタログラフィによって明らかにすることができます。また、微細組織の不均一性、例えば微細なポア(微細空孔)や粒界欠陥が集合した「マイクロフォルトポケット」と呼ばれる領域が、応力集中下でマイクロクラックを連結させ、破壊の起点となることもあります。このような欠陥は、破面から直接識別することが困難な場合がありますが、研磨された断面の観察によって明確に捉えることができます。

6)高温誘起損傷の微細組織的特徴:
◦ ラジアントチューブ(Cr-Ni鋼)の事例では、亀裂近傍の微細組織に内部空洞の形成が確認されました。これはNi-Cr鋼の場合、1090°Cから1230°Cの局所金属温度で形成されると報告されており、過熱の強力な証拠となります。

◦ オーステナイト系マンガン鋼の再加熱による脆性破壊では、複雑な炭化物、(FeMn)3C炭化物、パーライトがオーステナイトマトリックス中に観察され、樹枝状偏析や微細な収縮ポアも確認されました。この樹枝状パターンは、鋳造後に溶体化処理が行われていなかったことを示唆しています。

◦ 鋳造炭素鋼の銅汚染による脆性破壊事例では、銅が鋼中に溶解するか、液状金属として粒界に浸透したり、銅介在物として凝固したりした結果、破面が以前のオーステナイト粒界に沿ったスケールネットワーク(Fe3O4とFe2O3)に沿って進展しました。これは、材料中の微量元素の偏析や第二相の存在が破壊メカニズムに大きく影響する例です。

◦ オーステナイト系ステンレス鋼は、硫黄、リン、ケイ素、マンガンが豊富な低融点膜が粒界に存在する場合、溶接部のホットクラッキング(凝固割れ)に感受性があることが知られています。

(2)化学組成分析:
微細組織観察に加えて、元素分析も介在物形成の可能性を評価する上で非常に貴重な情報を提供します。

・ EDSによる局所分析: SEMに付属するエネルギー分散型X線分光器(EDS)は、破面や微細組織中の特定領域の元素組成を分析するのに用いられます。A356アルミニウム合金のホットティア領域では、過負荷破壊領域と比較してシリコンとアルミニウムの比率が著しく高いことが確認されました。これは、凝固中に晶間領域や粒界領域でシリコンが濃縮された液体が形成され、これがホットティアの原因となることを示唆しています。

・ 介在物の組成確認: 破損したクロスヘッドの事例では、破面の亀裂起点に存在するスラグ介在物が、高濃度のチタンを含んでいることがEDS分析で判明し、溶接フラックスに由来するものと推定されました。これは、溶接欠陥が破壊の起点となる可能性を示すものです。

・ 偏析の評価: 鋼中のミクロ偏析は、常に鋳造などのプロセスで発生します。鋼鋳造品におけるミクロ偏析の量は、合金成分、特に不純物元素によって影響されます。硫化物介在物は、十分なマンガンが存在しない場合に生成される可能性があります。一般的に、硫黄を硫化マンガンに変換するためには、マンガン含有量が硫黄含有量の約5倍であるべきとされています。

・ 脱炭と腐食生成物: 水素アタックは、鉄炭化物と水素の反応による脱炭反応を伴います。表面に限定されたアタックは表面アタックとして知られ、内部で発生した場合は、生成物であるメタンが逃げることができずに気泡を形成し、永久的な内部損傷につながります。ラジアントチューブの事例では、亀裂下部の金属でクロム含有量が減少していることがEDSで示され、これはCr2O3が形成されたためと結論されました。

これらの観察と分析手法を総合的に適用することで、高温環境下での材料の挙動を深く理解し、破壊の複雑な根本原因を特定することが可能になります。

 

5. 高温破壊の評価と防止策

高温環境下での材料の信頼性を確保し、部品の予期せぬ破壊を防止するためには、適切な評価手法と予防策を講じることが不可欠です。これには、残存寿命の評価、適切な材料の選定と熱処理の最適化、そして設計および運転条件への配慮が含まれます。

5.1. 余寿命評価と破壊力学

高温環境下で使用されるコンポーネントの寿命は有限であり、特にクリープ、熱疲労、高温腐食などの劣化メカニズムが複合的に作用するため、残存寿命の評価が重要となります。

(1)余寿命評価の重要性: 高温での定常負荷条件下では、腐食環境がなければ、部品の寿命は荷重が降伏強度を超えない限り無制限であると考えられがちですが、実際にはクリープのような時間依存性の変形が進むため、寿命は限定されます。ガスタービン部品、配管、チューブなどの高温環境下での寿命評価については、専門的な詳細な情報が提供されています。

(2)破壊力学の適用: 破壊力学は、亀裂状の欠陥を持つ物体において、欠陥が破壊に与える影響を評価するために開発されたアプローチです。破壊力学は、線形弾性破壊力学(LEFM)と弾塑性破壊力学(EPFM)に大別され、それぞれ応力拡大係数(K)やJ積分(J-integral)、CTOD(Crack-Tip Opening Displacement)といったパラメータを用いて亀裂の進展挙動を評価します。
◦ 応力拡大係数(Stress Intensity Factor, K): 材料が直ちに破壊する前に耐えられる臨界応力拡大係数の尺度であり、材料の破壊靭性(Fracture Toughness)とも呼ばれます。板厚が薄い場合は平面応力状態が優勢でKcで表され、板厚が増加すると平面ひずみ状態に移行しKIcで表されます。亀裂長と加えられた応力の組み合わせが材料の破壊靭性未満であれば、静的荷重下では破壊しないとされます。

◦ J積分およびCTOD: これらは弾塑性破壊力学のパラメータであり、塑性変形が顕著な場合の亀裂挙動評価に用いられます。J積分は、材料の引き裂き抵抗(R-curve)を考慮した最も洗練された評価方法の一つであり、真応力-ひずみ曲線といった詳細な材料特性データが必要となります。

◦ 亀裂成長速度の計算: 破壊力学は、サブクリティカルな亀裂成長速度の計算も可能にします。これにより、亀裂が検知された場合でも、その亀裂が許容できるサービス荷重下でどの程度成長するかを予測し、部品を運用し続けるかどうかの判断を支援します。例えば、ミルの焼鈍チタン合金Ti-6Al-4Vの定荷重振幅疲労亀裂成長曲線は、真空中および除湿アルゴン中でそれぞれ示されており、亀裂成長挙動が環境と温度に依存することがわかります。

◦ 応力の推定: 破面観察によって最終破壊時の亀裂サイズがわかっている場合、破壊力学の式を用いて材料の靭性を計算し、予測される靭性と比較することで、材料が期待値よりも高いか低いかを判断できます。逆に、破壊応力が不明な場合は、破壊時の応力を推定することも可能です。これは、過剰な負荷による破壊か、あるいは一般的な運転応力レベルが高すぎたのかを判断するのに役立ちます。

(3)健全性評価図(Failure Assessment Diagram, FAD):
FADは、脆性破壊から完全塑性破壊まで、幅広い破壊形態を評価できる手法であり、欠陥の許容性を評価するためのツールとして広く使用されています。英国規格BS PD 6493:1991は、3つの異なるレベルの評価ルートを提供し、問題の複雑さに応じた評価を可能にします。レベル1は予備評価、レベル2はほとんどの用途で推奨される、より詳細な評価、レベル3は最も洗練された評価レベルであり、広範な材料特性データと延性引き裂き評価が必要です。

(4)クリープとクリープ疲労亀裂成長:
高温下でのクリープとクリープ疲労亀裂成長に関する方法は、近年大きく進歩しています。単純なクリープの場合、亀裂成長速度は駆動力を関数として表現できます。

(5)損傷メカニズムと寿命評価:
ガスタービン初段ブレードの亀裂評価事例では、クリープ、酸化、TMFの評価方法が示され、ブレードの金属温度分布と応力分布を決定し、寿命を予測する方法が示されています。

 

5.2. 材料選定と熱処理の最適化

高温環境下での部品の信頼性は、適切な材料選定と熱処理によって大きく左右されます。

(1)材料選定:
◦ 高温強度と酸化耐性: 高合金鋼は、高温での使用において特に注意深い熱処理が必要です。炭素鋼ボイラーチューブは540°C以上で酸化しやすいため、クロムやモリブデンなどの合金元素を添加することで酸化耐性を向上させることができます。

◦ シグマ相形成の考慮: オーステナイト系ステンレス鋼やニッケル基超合金では、シグマ相形成により室温での靭性が低下する可能性があるため、材料選定時には使用温度と期間を考慮する必要があります。

◦ 水素脆化感受性: 特定の金属や合金における水素の主要な供給源は、高温での水蒸気と液体金属の反応です。高強度鋼など硬度が約35 HRCを超える鋼では、水素吸収により深刻な脆化が発生し、高強度で高応力な部品は水素脆化によって亀裂や破断を起こす可能性があります。水素含有量がわずか1 ppmを超えるだけでも、高強度鋼の機械的特性、特に延性、衝撃挙動、破壊靭性を劣化させることが関連付けられています。

◦ 鋳造時の欠陥: 鋳塊中の過剰なガス含有量は、酸化物介在物が存在する場合に最も深刻な問題となります。介在物はガスの凝集サイトを提供するため、溶融合金は水素含有量やアルカリ元素濃度を低減し、非金属介在物を除去する処理がしばしば行われます。例えば、真空脱ガスは、鋼中の溶解酸素と水素を除去し、固有の非金属介在物の数とサイズを減らし、水素含有量が高い場合に発生する内部の亀裂やフレークの可能性を低減します。

(2)熱処理の最適化:
◦ オーステナイト鋼の粒界炭化物析出: 高温で使用される多くのオーステナイト鋼は、典型的な304タイプよりも炭素含有量が高く、意図的に炭化物を析出させてクリープ耐性を高めるために、チタンやニオブのような炭化物安定化元素を含むことがあります。しかし、不適切な熱処理(低すぎる温度または固溶化焼鈍温度からの遅い冷却)は、粒界に炭化物を析出させ、粒界腐食の原因となる敏感化を引き起こす可能性があります。

◦ オーステナイト系マンガン鋼の脆化: オーステナイト系マンガン(Hadfield)鋼は、1095°Cからの良好な水焼き入れを行った場合に最高の特性を発揮します。そうでない場合、炭化物が粒界に多量に析出したり、ひどい場合にはオーステナイト粒内にまで析出したりして、マトリックスの加工硬化能力を低下させ、全体的な靭性および延性を損なうことになります。再加熱も同様の効果をもたらす可能性があります。あるチェーンリンクの脆性破壊事例では、鋳造後に溶体化処理が行われていなかったこと、そして455~595°Cでの再加熱によって脆化が進行したことが原因と特定されました。

◦ 水素除去のためのベーキング処理: 水素が地金に吸収された場合、ベーキング熱処理によって除去する必要があります。これを行わないと、特に硬度が約35 HRCを超える鋼では、地金に深刻な脆化が発生する可能性があります。

◦ ホットショートネス防止のための均質化熱処理: 鋳造組織は化学的に不均一であるため、熱間加工前に均質化熱処理を施すことで、低融点化合物による粒界亀裂(ホットショートネス)の発生を防止できます。
◦ 焼入れ割れ対策: 鋼の焼入れ時に発生する割れは、鋼中のマンガン含有量や焼入れ前の組織に影響されます。鋳造組織は均質にする必要があり、冷間加工された組織は正常化と焼鈍が必要であり、鍛造組織は正常化によって結晶粒微細化が必要です。

 

5.3 設計と運転条件の考慮

部品の設計と運用方法も、高温破壊の防止に極めて重要な役割を果たします。

(1)応力集中源の排除:
亀裂は、応力集中源から核を形成して進展します。これらは、鋭い再入角を持つマーク、工具痕、フィレット半径が小さすぎる箇所など、様々です。これらの応力集中源は、亀裂開始の頻繁な原因となるため、設計段階での適切な形状設計や、製造工程での丁寧な取り扱い、そして適切な検査によって排除されるべきです。

(2)動的負荷と熱サイクル:
圧力容器や配管は、内部流体やガスの圧力による高い静的応力に加えて、機器の振動やコンプレッサーからの脈動など、機械的な要因による周期的応力に晒されます。また、サービス中にコンポーネントが温度範囲を循環する場合には、熱的要因による熱疲労も発生します。熱疲労は、しばしば運用条件に起因する低サイクル破壊メカニズムと見なされます。このような周期的負荷に対する部品の設計は、疲労寿命予測と疲労限度を考慮して行う必要があります。

(3)残留応力の利用:
残留応力は、高サイクル疲労(HCF)および低サイクル疲労(LCF)負荷下での疲労亀裂の発生および進展に大きな影響を与える可能性があります。例えば、ショットピーニングやレーザー衝撃処理(LSP)などの表面処理によって、圧縮残留応力を意図的に導入することで、材料の疲労耐性を向上させることができます。圧縮残留応力は、実効的な平均応力や最大応力を低下させ、亀裂の発生を抑制し、既にある亀裂の進展を遅らせる効果があります。

(4)環境と相互作用:
高温腐食疲労は、環境による相互作用が複雑であり、予期せぬ挙動を示すことがあります。例えば、高温水中の低合金鋼や炭素鋼では、中程度の∆K(応力拡大係数範囲)または周波数条件で環境による著しい強化(加速)が発生します。これは、MnS介在物が溶解し、硫黄に富む亀裂内化学が形成されることに起因します。これらの複雑な相互作用を理解し、設計と運用に反映させることが重要です。

(5)予防保全と検査:
進行性の破壊モードに感受性のあるコンポーネントは、予防保全プログラムを通じて、破壊前に特定し、交換または修理することが可能です。例えば、重要な蒸気配管システムは、クリープ損傷の初期兆候であるボイド形成や粒界亀裂の有無を調べるために、定期的に非破壊検査(NDE)技術(浸透探傷試験、ボロスコープ検査、超音波探傷試験、放射線検査など)やフィールドメタログラフィ(レプリカ採取やサンプル採取を含む)によって検査されます。

(6)運用条件の調整:
ラジアントチューブの事例のように、局部的な過熱が原因で破壊が発生した場合、バーナーチップの改良や燃焼システムの改善など、部品の金属温度を設計温度以下に維持するための運用上の対策を講じる必要があります。
これらの評価、材料選定、熱処理、設計、および運用に関する考慮事項は、高温環境下で稼働する機械部品や構造物の信頼性と安全性を確保するために、多角的なアプローチで実施される必要があります。

 

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参考文献
ASM Metals HandBook Volume 11 – Failure Analysis and Prevention – 2002
ASM Metals HandBook Volume 12 – Fractography-1987

引用図表
図 クリープ曲線  ORIGINAL
図 鋼管破面の起点領域  出典:ASM Metals HandBook Volume 11 – Failure Analysis and Prevention – 2002

ORG:2025/07/04