ケース55:密封型玉軸受の破損

ケース55:密封型玉軸受の破損(Failure of a Sealed Ball Bearing)

 

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“Failure Analysis of Engineering Structures: Methodology and Case Histories”からの事例です(CASE 55)。

 

要 約

電動機に組み込まれたグリース封入型密封玉軸受が、運転開始後わずか552時間で異常振動を引き起こし、破損に至りました。
調査の結果、軸受内部の内輪転動面および玉表面にクレーターや焼損痕が認められ、電気的なピッチング(pitting;静電放電による金属表面の損傷)が主要因であることがわかりました。さらに、放電によって脱落した金属粒子がグリース内に混入し、軸受の焼付き(seizure)を引き起こしたと考えられます。

 

背 景

軸受は定格回転数1500~2100rpmで使用されていましたが、552時間後に異常な振動が発生。異常の原因調査のため分解されました。

 

外観検査

 ・ 破損玉軸受けの外観を、図CH55.1を示し、分解したものを図CH55.2に示します。
 ・ グリースは黒く変色し、明らかに汚染されていました。
 ・ グリースを溶剤で溶解・濾過すると、細長い金属片が回収されました。
 ・ 外輪軌道は軽度の変色のみでほとんど無傷でしたが、内輪軌道には広範囲にわたる損傷が認められ、大きなクレーターや擦過傷が観察されます(図CH55.3)。
 ・ ボール表面にも小さなクレーターが点在しています(図CH55.4)。
 ・ 保持器には損傷は認められませんでした。

図CH55.1 破損した軸受

図CH55.2 分解状態の軸受。内輪・外輪軌道、分割保持器、軸受玉が見える

図CH55.3 内輪軌道に見られるクレーターと金属の傷

図CH55.4 軸受ボールの1つに見られるクレーター

 

顕微鏡観察(SEM)

 ・ 内輪軌道およびボールのクレーター部には球状の金属粒子が付着していました(図CH55.5)。
 ・ ベアリングの破損後も継続的に運転されたことにより、金属粒子が剥離して、軌道内に入り込んで、さらに変形・損傷が生じました(図CH55.6)。

図CH55.5 クレーターに付着した球状の金属片


図CH55.6 剥離した金属片が内輪軌道に入り込んでいる

 

化学分析(EDAX)

 ・ 回収された金属片はFe-Cr-Ni系合金(軸受鋼)であり、軸受の材質と一致しました。
 ・ クレーターに付着していた金属粒子も、同様の組成でした。
 ・ このことより、金属片、金属粒子は軸受材料の一部が溶融・脱落した結果と判断されました。

 

考察

 ・ クレーターや焼損痕は、静電気によるアーク放電の典型的な形態です。アーク熱により金属が溶融して、ボールと内輪起動との転動により引き裂かれます。
 ・ 電動機運用時には、軸受を通して電流が流れることがあり、接触面で放電(アーク)が発生すると局所的な金属溶融(電食)が生じます。
 ・ 本件で使用されたグリースは非導電性であり、静電気が蓄積しやすい状態にありました。
 ・ グリースの絶縁性が高いと、静電気の蓄積と放電が起こり、金属の溶融と損傷を引き起こします。

 

結論

本玉軸受の破損は、静電気放電による内輪軌道およびボールの損傷が主因です。金属粒子の脱落が続き、これがさらなる内部損傷を誘発し、最終的に焼付きに至ったと推定されます。

 

推奨対策

 ・ 導電性グリースを使用することで、電動機ロータの軸受を経由して適切な接地が可能となり、放電のリスクを低減できます。
 ・ 設計段階において、軸受を通じて電流が流れない構造、または電気的絶縁処理の追加を検討すべきです。

 

元文献
“Failure Analysis of Engineering Structures: Methodology and Case Histories” 2005

引用図表:出典は全て” Failure Analysis of Engineering Structures: Methodology and Case Histories:2005”
Fig.CH55.1 破損した軸受
Fig.CH55.2 分解状態の軸受。内輪・外輪軌道、分割保持器、軸受玉が見える
Fig.CH55.3 内輪軌道に見られるクレーターと金属の傷
Fig.CH55.4 軸受ボールの1つに見られるクレーター
Fig.CH55.5 クレーターに付着した球状の金属片
Fig.CH55.6 剥離した金属片が内輪軌道に入り込んでいる

ORG:2025/06/21