2.3 焼入れ(JIS記号;HQ)

2.3 焼入れ(JIS記号;HQ)(Quench hardning)

 

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2.3.1 焼入れの目的

焼入れとは、鋼材を所定の温度に加熱した後、急冷することで硬化させる熱処理です。焼入れを行う主な目的には以下のようなものがあります。

1. 硬さの向上

焼入れを行うことで、鋼材の硬さを大幅に向上させることができます。これは、急冷によってオーステナイトと呼ばれる高温相が、マルテンサイトと呼ばれる硬い組織に変態するためです。
硬さは、材料の変形に対する抵抗力を示す尺度であり、押し込まれたり、引っ掻かれたりすることに対する抵抗力を表します。
硬い材料は、一般的に以下のような長所があります。

(1)耐摩耗性が高い: 硬い材料は、摩擦や摩耗に対して強い抵抗力を持ちます。そのため、鋼材表面が摩耗しにくくなり、切削工具や軸受など、耐摩耗性が要求される部品・箇所に使用されます。

(2)強度が高い: 焼入れにより、鋼材の強度を向上させることができます。硬い材料は、変形しにくく、高い強度を示します。これは、外部からの力に対して、形状を維持する能力が高いことを意味します。

(3)切れ味が良好:硬い材料は、鋭利な刃先を形成することができ、切れ味が良くなります。刃物や工具など、切断や加工を行う用途に適しています。

 

2. 耐摩耗性の向上

焼入れは、鋼材の耐摩耗性を向上させるために重要な熱処理です。耐摩耗性とは、摩擦や摩耗に対する抵抗力を指します。耐摩耗性の高い材料は、長期間の使用に耐えることができ、交換頻度を減らすことができます。
耐摩耗性を向上させる要因としては、以下のようなものが挙げられます。

(1)表面硬度: 表面硬度が高いほど、摩擦や摩耗に対する抵抗力が高くなります。焼入れは、鋼材の表面硬さを大幅に向上させる効果があります。

(2)硬化層の深さ: 硬化層の深さが深いほど、摩耗による性能低下を抑制することができます。

(3)組織の均一性: 組織が均一であるほど、摩耗が均等に進み、局所的な摩耗を防ぐことができます。

(4)残留応力: 焼入れは圧縮残留応力を発生させます。圧縮残留応力は、材料表面の強度を高め、摩耗に対する抵抗力を向上させます。

 

3. 強度の向上

焼入れによって、鋼材の強度を向上させることができます。強度は、材料が破壊されずに荷重に耐える能力を表します。焼入れによって強度が向上する理由は、マルテンサイト組織が微細で、転位と呼ばれる結晶欠陥がマルテンサイト晶の境界に集中して、移動を阻害するためです。
鋼材の強度は、様々な要因によって影響を受けますが、主なものとしては以下が挙げられます。

(1)化学組成: 炭素含有量や合金元素の種類と量が、鋼材の強度特性に大きな影響を与えます。

(2)熱処理: 焼入れ、焼戻し、焼なましなどの熱処理によって、鋼材の組織が変化し、強度が向上します。

(3)結晶粒度: 結晶粒が細かいほど、強度が高くなる傾向があります。

(4)加工硬化: 冷間加工などによって、鋼材に加工硬化が生じ、強度が向上します。

 

4. その他の特性向上

焼入れは、疲労強度や耐食性など、他の機械的特性も向上させる効果があります。
焼入れは、鋼材の種類や用途に応じて適切な方法で行う必要があります。適切な焼入れ方法を選択することで、必要な特性を得ることができます。

(1)疲労強度: 疲労強度とは、繰り返し荷重に対する材料の強度です。焼入れによって、鋼材の疲労強度を向上させることができます。これは、マルテンサイト組織が微細であるため、疲労き裂の発生と進展を抑制する効果があるためです。

(2)耐食性: 耐食性とは、腐食に対する材料の抵抗力です。焼入れによって、鋼材の耐食性を向上させることができます。これは、マルテンサイト組織が緻密であるため、腐食性物質の侵入を防ぐ効果があるためです。

焼入れは、鋼材の特性を大幅に向上させることができる熱処理ですが、適切な方法で実施することが重要です。焼入れ方法を誤ると、焼割れや変形などの不具合が発生する可能性があります。

 

2.3.2 焼入れの実施方法

1. 焼入れ準備

焼入れを実施する前に、以下の準備が必要です。

(1)鋼材の選定: 焼入れを行う鋼材は、焼入れに適した材料である必要があります。焼入れに適した鋼材としては、比較的炭素量や合金成分の多い炭素鋼、合金鋼などにあります。

(2)焼入れ温度の決定: 焼入れ温度は、鋼材の種類や目的とする硬さによって異なります。一般的には、A3変態点またはA1変態点よりも約50℃高い温度が適温とされています。
通常の炭素鋼の場合、800~850℃でオーステナイト化することが多いです。ダイス鋼や高速度鋼など、より炭素・合金元素量が多い鋼材は、さらに高い温度で焼入れを行います。

(3)焼入液の選定: 焼入液は、水、油、ポリマー、塩浴など、様々な種類があります。焼入液の種類によって冷却速度が異なり、焼入れ後の硬さや組織に影響を与えます。水は冷却速度が速く、油は冷却速度が遅く(水の約1/3)なります。一般的に液温は、水の場合は20 ~ 30℃、油は60 ~ 80℃に設定されます。また、撹拌することで冷却が促進されます。そのため焼入液は良く撹拌するようにします。
水溶性焼入液は、水の添加割合により水と油の中間の冷却速度を得ることができます。また火災の心配が少ないため、近年注目されています。

(4)治具の準備: 形状の複雑な製品を焼入れする場合、変形を防ぐために治具を使用することがあります。

(5)安全対策: 焼入れは高温で行う作業であるため、火傷やその他の事故に注意が必要です。保護メガネ、保護手袋、保護服などを着用し、作業中は周囲に人がいないことを確認しましょう。

 

2. 焼入れの手順

焼入れは、以下の手順で行います。

(1) オーステナイト化

オーステナイト化は、鋼材をA3変態点以上の温度に加熱し、オーステナイトと呼ばれる面心立方格子構造の固溶体にする工程です。この工程は、焼入れの基礎となるもので、適切な温度と時間で加熱することが重要です。
加熱温度は、鋼材の種類や炭素量によって異なりますが、一般的には800℃から950℃の範囲で行われます。
加熱時間は、昇温時間と保持時間とからなります。昇温時間は、ワーク全体が内部まで均一に焼入れ温度になるまでの時間で、保持時間は焼入れ温度に到達してから保持する時間をいいます。
加熱時間が短すぎるとオーステナイト化が不十分となり、長すぎると結晶粒が粗大化して焼入れ後の機械的性質が低下する可能性があります。

1) 昇温: 鋼材を焼入れ温度まで加熱・昇温させます。加熱・昇温は、炉、ソルトバス、高周波誘導加熱装置などで行います。鋼材の表面と内部が均一に焼入れ温度になるように、昇温時間を適切に調整することが重要です。
昇温時間は、鋼材の種類や大きさによって異なりますが、一般的には、1インチ角の鋼材で約30分程度といわれています。

2) 保持: 鋼材を焼入れ温度(オーステナイト化温度)で一定時間保持します。保持時間は、鋼種により異なります。
構造用鋼のようにパーライト系の場合、パーライトがオーステナイトに変態(A1変態)するのは瞬時であり、フェライトがオーステナイトに固溶するのは、A3変態点以上なので、保持時間を必要としません。
一方、カーバイド系の工具鋼では、A1~Acm間の温度がオーステナイト化温度であり、カーバイドをオーステナイト中に約70% 固溶させる必要があります。そのため、カーバイド系鋼では保持時間が必要となります。おおよそ、10~15分となります。この保持時間は、カーバイドの種類や粒形、量、分布状態によって変化します。

図1 鋼種による保持時間の要否  出典:熱処理108のポイント

 

(2) 急冷

急冷操作は、オーステナイト化された鋼材を急激に冷却することで、オーステナイト中に固溶していた炭素原子の排出が間に合わず、体心立方晶内に残留した、マルテンサイトと呼ばれる硬い組織に変態させる工程です。冷却速度は、鋼材の種類や要求される硬さによって調整されますが、一般的に水、油、ポリマー系の焼入液などが用いられます。
オーステナイト化が終了すると、炉から取り出した後急冷操作に移行します。ただその際、ただちに焼入れ操作をする必要は無く、100℃程度までなら低下しても問題ありません。むしろ、ワーク全体が同じ加熱色になっていることを確認してから、素早く焼入れ槽に投入するようにします。全体が同じように加熱されていないと、焼ムラや焼曲りが発生しがちです。

 

(3) 冷却方法

冷却速度が遅すぎると、マルテンサイト以外の組織が生成し、硬さが低下します。逆に、冷却速度が速すぎると、焼割れや変形などの不具合が発生する可能性があります。
また、焼入れ操作で注意すべき点があります。冷たくなるまで焼入れ槽に入れたままではダメで、臨界区域だけ早く冷却し、その後危険領域はゆっくり冷却することが大切です。

そのための冷却方法については、主として以下に示す3つの方法があります。

1) 引上げ焼入れ

引上げ焼入れは、焼入液に浸漬後、一定時間経過後に取り出し、空冷する方法です。冷却時間を制御するので、時間焼入れともいいます。焼入液への浸漬時間は、ワークの直径や肉厚により異なります。焼入液ごとの目安は以下の通りです。
・水焼入れの場合: 品物の直径3mm につき、1秒間水冷(板厚のときは。板厚2mmにつき1秒間水冷)
・油焼入れの場合: 品物の直径3mm につき、3秒間油冷(板厚のときは。板厚2mmにつき3秒間水冷)

必要な浸漬時間が経過したら、引上げて空冷します。
特に、水焼入れの場合は、引上げてから油冷または湯冷するのがよいとされています。
引上げのタイミングは、水焼入れの場合は、「ジュク、ジュク・シューッ」という水鳴りが止まる瞬間。油焼入れの場合は、引上げたときに、付着した油に火がつかない程度(油に火がつく温度は、約270℃)、いいかえれば油の蒸気がもやもやと白く立つ程度に冷えてきたときです。
図 2は、この引上げ焼入れの作業を示します。

図2 引上げ焼入れの作業  出典:鋼・熱処理アラカルト

 

2) マルクエンチ(JIS記号:HQM)

マルクエンチは、鋼のMs点直上の溶融ソルトの熱浴(約250 ~ 300℃)に浸漬して、鋼材の温度をMs点直上まで急冷し、ワーク直径1インチにつき、約4分の割合で保持してから引上げて、空冷する方法です。なおマルテンパとも言われます。
ソルト熱浴の冷却速度を高めるために、溶融ソルトを撹拌します。さらに有効な方法は、溶融ソルトに水を添加することです。この際、溶融ソルト表面にジョウロで撒くようにすると、熱水が飛び跳ねることはありません。ソルト浴の温度にもよりますが、0.25 ~ 2%添加することができます。一般には、ソルト温度200℃では1 ~ 2%、370℃では0.25%と文献には示されています。

マルクエンチの特徴は、焼割れを防ぐことができることです。それは、ワーク表面と中心部とが同一温度になるまで、Ms点直上で等温で保持するためです。しかも、保持時間後引上げて空冷するので、ベイナイト変態を起こさず、マルテンサイト変態になります。そのため、焼き戻しが必要です。図3にマルクエンチの作業を示します。

図3マルクエンチの作業  出典:熱処理108のポイント

 

3) オーステンパ(austempering)(JIS記号:HTA)

オーステンパとは、熱浴に浸漬して、鋼材をベイナイト組織に変態させます。熱浴の温度は、Ms点(250℃)とAr‘(550℃)の間とし、その温度で焼入れして等温保持(60分以上)する焼入れを、オーステンパといいます。
Ms点までは冷却しないので、マルテンサイトにはならず、ベイナイトという組織になります。そのため、ベイナイト焼入れともいわれます。
通常の焼入れ後のように、焼きがチンチンに入ることはありませんが、じん性を有します。チンチン焼入れにはなりませんが,じん性と強度とがバランスの良い性質が得られます。
Ar’点に近い温度での熱浴によるものを高温オーステンパ、Ms点に近い温度での熱浴によるものを低温オーステンパといいます。図4にオーステンパの作業を示します。

図4オーステンパの作業  出典:鋼・熱処理アラカルト

 

(4)焼もどし

焼入れ後の鋼材は硬いですが脆いため、靭性を向上させるために焼戻しを行います。焼戻しは、焼入れ後の鋼材を150 ~ 650℃に加熱し、一定時間保持した後、冷却する熱処理です。焼戻し温度により、鋼材の硬さとじん性のバランスを調整することができます。
具体的には、別コンテンツで記述します。

 

2.3.3 焼入れ時の注意点

1. 焼入れ性の定義

焼入れ性とは、鋼材が焼入れによって硬くなる性質をいいます。言い換えると、鋼材の内部までマルテンサイト組織に変態しやすさを表す指標とも言えます。焼入れ性は、鋼材の化学組成、特に炭素量と合金元素の種類と量によって大きく影響を受けます。

(1)焼入れ性に影響を与える要因

炭素量: 炭素量が多いほど焼入れ性が高くなります。炭素はマルテンサイト変態を促進する元素であるため、炭素量が多いほど硬化しやすくなります。

合金元素: ニッケル、クロム、マンガン、モリブデンなどの合金元素は、焼入れ性を高める効果があります。これらの元素は、オーステナイトの安定化、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)の低下、焼入れ後の残留オーステナイト量の抑制などの作用により、焼入れ性を向上させます。

 

(2)焼入れ性と機械的性質

焼入れ性は、鋼材の強度、じん性、耐摩耗性などの機械的性質に大きく影響を与えます。
強度: 焼入れ性が高いほど、焼入れ後の硬さが高くなり、強度も向上します。

じん性: 焼入れ性は、一般的にじん性とは相反する関係にあります。焼入れ性が高いほど、焼入れ後の硬さが高くなるため、じん性は低下する傾向があります。しかし、適切な焼もどし処理を行うことにより、じん性を確保することができます。

耐摩耗性: 焼入れ性が高いほど、焼入れ後の硬さが高くなり、耐摩耗性も向上します。

 

(3)焼入れ性と熱処理

焼入れ性を正しく理解することは、適切な熱処理を行う上で非常に重要です。鋼材の焼入れ性に応じて、焼入れ温度、冷却速度、焼もどし温度などを適切に調整することで、要求される機械的性質を得ることができます。
例えば、焼入れ性の低い鋼材の場合、水冷のような急冷を行うと、焼割れが発生する可能性があります。そのため、油冷などの比較的緩やかな冷却方法を選択する必要があります。また、焼入れ性の高い鋼材の場合、焼入れ後の硬さが高くなり過ぎるため、適切な焼もどし処理を行うことで、じん性を確保することが重要になります。

 

2. 焼入れ性の評価

焼入れ性を評価する試験方法としては、ジョミニー試験が広く用いられています。ジョミニー試験では、標準寸法の試験片を一定温度に加熱した後、一端を水冷し、試験片の長さ方向に沿った硬さの分布を測定します。この硬さの分布から、焼入れ性を評価することができます。

 

(1)ジョミニー試験

ジョミニー試験は、焼入れ性、特に鋼材の深さ方向の硬化能を評価するための標準的な試験方法です。ジョミニー試験は、正式にはジョミニー式一端焼入方法と呼ばれます。
この試験では、標準寸法の試験片を用い、一端を水冷することで冷却速度の勾配を作り、試験片の長さ方向に沿った硬さの分布を測定します。
ジョミニー試験は、GMの研究部門に所属する、ジョミニー(Walter E. Jominy)、ボーゲホールド(A.L. Boegehold)が1937年に発明しました。

[試験方法]:
1)直径25mm、長さ100mmの円柱状の試験片を用意します。
2)試験片を所定の温度に加熱し、オーステナイト化します。
3)加熱後、試験片をジョミニー試験機にセットし、一端を一定流量の水で急冷します。
4)冷却後、試験片の両側を研削して、試験片の長さ方向に沿って一定間隔で硬さを測定します。一般的には、ロックウェル硬さ試験機を用いて、HRC硬さを測定します。
試験方法について、図5 に示します。

図5 ジョミニー式一端焼入れ試験装置_測定例  出典:JIS G0561:2020,Wikipedia

[評価方法]:
得られた硬さ分布から、以下の項目を評価することができます。
硬化層深さ: 表面から内部に向かって硬さが低下していく中で、特定の硬さ値を示す位置までの深さを測定します。

硬さ勾配: 表面から内部に向かって硬さが低下していく様子を評価します。

理想臨界直径(DI): 完全焼入れが得られる丸棒の最大直径を推定します。

ジョミニー試験の結果は、鋼材の化学組成、オーステナイト化温度、冷却速度などによって変化します。

 

(2)焼入れ性の重要性

焼入れ性を把握することは、適切な熱処理を行う上で非常に重要です。焼入れにより、焼入れ温度、冷却速度、焼もどし温度などを適切に調整することで、要求される機械的性質を得ることが可能になります。
例えば、軸受鋼のような焼入れ性の高い鋼材は、軸受のように高い硬さと耐摩耗性が要求される部品に適しています。一方、焼入れ性の低い鋼材は、溶接構造用鋼のようにじん性や加工性が求められる部品に適しています。

 

3. 焼割れ

焼割れとは、焼入れ処理中に、鋼材に亀裂が入ってしまう現象のことです。焼入れは鋼材を硬くするために有効な熱処理方法ですが、急激な温度変化を伴うため、焼割れのリスクが常に存在します。焼割れが発生すると、鋼材の強度が著しく低下し、使用不能になる可能性があります。

 

(1)焼割れ発生のメカニズム

焼割れは、主に以下の2つの応力の複合的な作用によって発生します。
熱応力: 焼入れ冷却時に、鋼材の表面と内部で温度差が生じます。表面は急冷によって急速に冷却されるのに対し、内部は熱伝導に時間がかかるため、冷却速度が遅くなります。この温度差によって、表面には引張応力、内部には圧縮応力が発生します。

変態応力: 焼入れ冷却中に、オーステナイト組織からマルテンサイト組織への変態が起こります。この変態に伴い、体積膨張が生じます。しかし、冷却中の鋼材は収縮しようとするため、変態による膨張と収縮が同時に起こり、内部に応力が発生します。

これらの熱応力と変態応力が、鋼材の強度を超えた場合に、焼割れが発生します。

 

(2)焼割れが発生しやすい箇所

焼割れは、応力が集中しやすい箇所に発生しやすいため、鋼材の形状にも影響を受けます。特に、以下のような箇所が焼割れを発生しやすい箇所です。
エッジ部: 角張った部分ではノッチエフェクトにより応力が集中しやすいため、焼割れが発生しやすくなります。

肉厚急変部: 厚さが急激に変化する部分では、冷却速度に差が生じやすく、熱応力が集中しやすいため、焼割れが発生しやすくなります。

内部欠陥: 材料内部に空隙や介在物などの欠陥があると、その部分に応力が集中しやすいため、焼割れが発生しやすくなります。

 

(3)焼割れの防止

焼割れを防止するためには、以下の対策を講じることが重要です。

1) 材料の選択
焼入れ性の低い鋼材を選択する: 焼入れ性の高い鋼材は、急冷時にマルテンサイト変態が急速に進行し、変態応力が大きくなりやすいため、焼割れが発生しやすくなります。一方、焼入れ性の低い鋼材は、マルテンサイト変態が比較的緩やかに進行するため、焼割れが発生しにくくなります。
介在物や偏析の少ない清浄な鋼材を選択する: 介在物や偏析があると、その部分に応力が集中しやすいため、焼割れが発生しやすくなります。

2) 設計による工夫
エッジ部をR形状にする: シャープコーナーのエッジ部を丸めることで、応力集中を緩和することができます。
寸法急変を避ける: 厚さの変化を緩やかにすることで、冷却速度の差を小さくすることができます。
応力集中部の肉厚を厚くする: 応力集中部を肉厚にすることで、応力を分散させることができます。

3) 熱処理条件の調整
焼入れ温度を適切に設定する: 焼入れ温度が高すぎると、オーステナイト粒が粗大化し、焼割れが発生しやすくなります。
冷却速度を調整する: 冷却速度が速すぎると、熱応力や変態応力が大きくなり、焼割れが発生しやすくなります。冷却速度を調整するためには、油冷や空気冷却などの方法を採用することができます。
焼もどし処理を行う: 焼入れ後に焼もどし処理を行うことで、残留応力を除去し、じん性を向上させることができます。

4) その他
焼入れ前の予熱: 焼入れ前に予熱を行うことで、熱衝撃を緩和することができます。
治具の使用: 焼入れ時に適切な治具を使用することで、変形や応力集中を防止することができます。

 

参考文献
鋼・熱処理アラカルト  大和久重雄  日刊工業新聞社 S53年
熱処理108つのポイント:テクニカブックス  大和久重雄  大河出版 1986年
熱処理のおはなし  大和久重雄  日本規格協会 1986年
JIS鉄鋼材料入門  大和久重雄  大河出版 S53年

図表
図1 鋼種による保持時間の要否  出典:熱処理108のポイント
図2 引上げ焼入れの作業  出典:鋼・熱処理アラカルト
図3 マルクエンチの作業  出典:熱処理108のポイント
図 4オーステンパの作業  出典:鋼・熱処理アラカルト
図 5 ジョミニー式一端焼入れ試験装置_測定例  出典:JIS G0561:2020,Wikipedia

ORG:2024/11/16