3.1.1 作動油に要求される性質

3.1.1 作動油に要求される性質(Required properties of hydraulic fluid)

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油圧装置は、いろいろな油圧機器を組み合わせて、非圧縮性の液体を媒体として、エネルギーを伝達して要求される仕事を行う機械です。一般的に石油系の鉱物油が作動液体として用いられます。これを一般的に作動油と呼びます。

1.作動油に必要な条件

作動油に要求される条件は、

(1)動力を効率よく伝達するため、必要十分な非圧縮性を持つこと。

(2)低温や高圧が負荷された状態でも、必要十分な流動性を持つこと。

(3)長期間使用しても、物理的、化学的に安定であること。

(4)潤滑性が良好であり、摺動部の密閉性に優れ、耐摩耗性を有すること。

(5)錆や腐食の発生を防止し、促進しないこと。

(6)シール材に対する適合性が良いこと。

(7)水、ゴミなどの不純物の分離性に優れること。

(8)消泡性が良いこと。

(9)引火点が高く、温度変化に対する粘度変化が少ないこと。

2.作動油の実用性能

作動油に要求される性能について簡単にまとめてみましょう。

2.1潤滑性

混合潤滑や境界潤滑の場合、潤滑に関わる性能は、流体の粘性によらず、摺動面の物理的、化学的性質に影響されます。
油圧機器は、流体潤滑条件下で使用される部分ばかりでなく、圧力条件などによっては混合潤滑や境界潤滑の状態で使用される場合も多いです。
作動油の潤滑性は、油圧機器内部部品の摩擦の大小、耐摩耗性に対する最も重要な性能です。

2.2 引火点(flash point)・燃焼点(fire point)

引火点とは、油を徐々に加熱した際に、気化して発生する可燃性ガスに炎を近づけて引火する最低温度をいいます。
通常、引火点温度では着火源である炎を遠ざければ火が消えます。さらに加熱して、炎を遠ざけても5秒以上燃焼が継続する温度を燃焼点と定義します。

引火点は、火災に至る危険性を示し、油の蒸発性と密接な関係があります。油類は、消防法では引火点により危険性が分類されており、引火点の低いものほど、貯蔵数量などの制限が厳しくなります。
引火点の求め方の規格(JIS K2265)のは、引火点の高低により4種類の方法があります。

2.3 流動点(pour point)・曇り点(cloud point)

流動点とは、油を45℃に加熱した後、油をかき混ぜないで規定の冷却方法で冷却した時に、油が流動する最低温度をいい、0℃を基点として2.5℃の整数倍で表します。
また曇り点は、油をかき混ぜないで規定の冷却方法で冷却した時に、パラフィンワックスの析出によって試験管底部の油がかすみ状になるか曇り始める温度をいい、油が流動する最低温度をいい、整数値で表します。

特に、屋外で使用される油圧装置では、冬季に低温状態になるので、流動点が重要です。作動油の選択には使用最低温度よりも、10℃以上流動点の低いものを選定する必要があります。
流動点、曇り点の求め方は、JIS K2269 に示されています。

2.4 熱・酸化安定性

油圧機器内の作動油は、温度や、空気との接触、各種金属、水などの触媒作用により、熱劣化や酸化劣化を引き起こします。酸化によって粘度、酸化度の増加、スラッジの生成などを引き起こし、本来の性能が損なわれます。

熱劣化、酸化劣化を抑制する性能を、熱・酸化安定性と呼び、作動油が使用できる時間を決定する要因となります。
酸化安定性は、空気中の酸素による酸化劣化反応を抑制する性能と定義されます。
熱安定性は、分解やスラッジ化などの熱劣化に対する基油や添加剤の安定性と定義されます。
酸化を抑制するための対策としては、酸化防止剤の配合が有効です。熱劣化を抑制するためには、熱に強くかつ劣化してもスラッジとして析出し難い基油・添加剤を選定することが重要になります。

作動油が劣化して生成したものは、オリフィス穴や摺動部分の隙間などを塞いで、機器の作動不良を起こして摺動部の摩擦を増大させます。また作動油の劣化による粘度の増加は油圧機器の効率を低下させ、磨耗防止剤の消耗により摩耗を増大させます。

2.5 防錆性と腐食防止性

ここで、錆は鉄の表面に生成した酸化物や水酸化物の混合物を意味します。腐食は錆などの酸化生成物や添加剤が主として非鉄金属の表面を化学反応により劣化させることをいいます。
油圧機器内の錆や腐食防止のために、これらの対応のため各種添加剤が、作動油に添加されています。

2.6 消泡性と気泡分離性

作動油は、油圧系統を循環中に拡散されるので、空気が泡となって混入したり、作動油中に含まれている空気が、低圧部で分離して泡になったりします。この作動油に発生した泡を早期に消失させる性能が消泡性です。消泡性能が劣化した作動油では、作動油中に気体の泡が混入した状態で流れるので、軸受などの摺動部に空気が混入した作動油が供給されると、油膜切れなどの損傷が発生する場合があります。消泡性を改善するのが消泡剤です。

作動油は通常、大気圧、常温の状態で、体積比にして8~10%の空気を溶解しています。作動油中に溶解している空気は、圧力が低下した際に作動油から遊離して気泡になる場合があります。作動油中で発生、あるいは混入した気泡の、油中から抜けやすさの程度は、気泡分離性として定義されています。
遊離気泡は、作動油の圧縮性を増加させて、キャビテーションの発生時期を早め、圧力による振動や騒音の原因となります。

気泡の発生は、温度が上昇すると発生しやすくなります。一方、消散速度も増加します。

作動油への空気の混入はできる限り避けるべきですが、油圧装置の構成上難しい場合は、機械的に泡(空気)を除去することも重要です。

2.7 抗乳化性

抗乳化性とは、水が作動油から分離する能力を示します。通常、微量の水の混入については、性能上ほとんど問題にはなりませんが、一定量以上混入すると、発錆の原因となります。

作動油への水の混入は、主として凝縮によって起こり、O/W形の乳化液を生成しやすくなります。油圧機器内への水の混入は作動油の劣化を促進し、劣化により生成した有機酸により、作動油の劣化が加速します。 

これらに示した性能は、多くの場合適切な添加剤を基油に混合することにより、与えられたり、より強化されます。

 

 

 

参考文献
実用油圧ポケットブック 2008年版  日本フルードパワー工業会

 

ORG: 2018/1/14