4.5.3 アキュムレータ

4.5.3 アキュムレータ(Hydraulic Accumulators)

 

 

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アキュムレータは、作動液の圧力エネルギーを蓄積するための要素です。圧力エネルギーの蓄積以外に、サージ圧力・ポンプの脈動の吸収や、停電や故障時の非常用油圧源あるいは補助油圧源として使用されます。

 

1. アキュムレータの種類

アキュムレータを構造上から分類すると、表1および図2のようになります。

表1アキュムレータの構造上の分類  出典: 疑問に答える油圧(上)

図2 アキュムレータの種類  出典:いろいろ

 

(1)重錘型(Weight-loaded)
重錘型は、縦型シリンダのプランジャ部に錘を吊り下げて、圧力を発生させる構造です。この形式の特徴は、液面に影響されずに、常に一定の圧力が保持できますが、慣性が大きいために脈動や衝撃の吸収には、ほとんど効果が無く、またコストが高いのが欠点で、現在はほとんど使用されていません。

(2)ばね型(Spring-loaded)
ばね型は、シリンダのピストンに圧縮ばねを対向させた構造で、比較的安価に製作できますが、ばね荷重に制限されますので、吐出量は小さなものになります。

(3)ガス圧縮直庄形(Gas-charged without separating element)
ガス圧縮直圧形は、円筒容器の中で、気体と作動液が直接接している構造になります。本形式では、気体は作動液に溶解し、気体の圧カが低下するばかりでなく、作動液の圧縮率が増加したり、キャピテーションが発生しやすくなります。また、回路圧力が低下し過ぎると、気体が油圧回路内に侵入するので、注意が必要です。
現在、大形プレスなど、ごく一部の用途で大容量形アキュムレータとして使用されていますが、他はほとんど使用されません。

(4)ピストン形(Piston type of gas charged with separating element)
ピストン形は、シリンダ内を摺動するピストンにより、気体と作動液とが分離される構造です。この形式の特徴は、高温・低温でも、また特殊な液体にも使用できることですが、ピストンの慣性が比較的大きいこと、および摺動部の抵抗により、作動上円滑さを欠き、脈動や衝撃吸収には適していません。
また、摺動部のガスケットの摩耗により、内部漏れが起こるおそれがあります。

(5)金属ベローズ形(Metal bellows type of gas charged with separating element)
金属ベローズ形は、金属の薄板であるため、繰返し疲労によって破壊しやすく、高圧・大容量には適していません.

(6)ダイヤフラム形(Membrane type of gas charged with separating element)
ダイヤフラム形は、半球形の2つの容器を合わせて球形として、その接合面にダイヤフラム(隔膜)を挟み、気体と作動液とを分離しています。容積に対して重量が小さく済みますが、構造上大容量のものが不可能で、放出量が少なく、ダイヤフラムの寿命はブラダ形のゴム袋より短いです。主として小容量の蓄圧や脈動吸収用に使用されます。

(7)ブラダ形(Bladder type of gas charged with separating element)
ブラダ形は、継目無高圧鋼管で形成したシリンダの中に、ブラダと呼ばれるゴム袋が入っている構造をしており、上方の給気弁から気体をブラダの中に封入する構造になっています。また、シリンダ下部にはポベットが付いていて、ブラダが作動液の出入口の方に、はみ出すのを防いでいます。
ブラダの材質は、鉱物油系作動液や、水+グライコール系作動液にはNBR(ニトリルゴム)が、リン酸エステル系作動液にはEPR(エチレンプロピレンゴム)が用いられます。
ブラダ形アキュムレータは、広く油圧回路に採用されています。

(8)インライン形(Inline type of gas charged with separating element)
インライン形は、ポンプの脈動の吸収と衝撃の緩衝とに、最も効果的なアキュムレータの形式です。回路の途中に、直接取り付けて使用します。
構造は、外筒と内管との聞にゴム製のチューブが装着されており、ゴムチューブと外筒との間に気体が封入されています。

なお、アクチュエータに封入される気体は不活性ガスである窒素ガスが用いられます。

 

 

2. アキュムレータの役割

アキュムレータの用途は、大別してエネルギー蓄積の用途と、脈動・衝撃吸収の用途とがあります。

油圧ポンプで発生した動力の一部は、アキュムレータに圧力エネルギーとして蓄積することができます.。そしてこの圧力エネルギーは、必要なときに、必要な量だけ、必要な速さで、アクチュエータに送られ作動させる役割をします。一方、この圧力エネノレギーは、アクチュエータが作動していないときは、アクチュエータを加圧し続けます。アキュムレータを有効に利用することにより、油圧装置の運転コストを低減させ、しかも動力損失を小さくすることができます。

アキュムレータによるエネルギー蓄積の用途としては、以下のようなものがあります。

① 常時作動 : ポンプ容量を小さくすることができ、省エネルギーの油圧装置が設計可能。
② 緊急時作動 : 停電や緊急時の作動させる。
③ 圧力保持 : クランプなどの加圧状態の保持。
④ 重量パランス : 重量物を油圧でパランスさせ、小さな力で上下運動が滑らかに行える。

 

また、油圧ポンプは脈動をともないますので、油圧機器や配管の固有振動数によっては、油圧装置が振動や騒音を発生することがあります。あるいは、切換弁の切換えが急速に行われた場合、配管にサージ圧が発生して大きな音を発生することがあります。このような場合にも、それらの防止のためにアキュムレータが使用されることがあります。

このように、アキュムレータによる脈動・衝撃の吸収の用途としては、以下のようなものがあります。.

① ポンプの脈動吸収 : ポンプ出口の近傍に取付て、アキュムレータ入口の抵抗をできるだけ小さくすると効果的です。
② 回路のサージ吸収 : サージ圧の発生源のすぐ近くに取り付ける。

 

 

3. プラダ形アキュムレータの構造・作動の仕組み

本項では、油圧装置に広く適用されているブラダ形アキュムレータについて構造と作動の仕組みについて記述します。

 

3.1 ブラダ形アキュムレータの構造

ブラダ形アキュムレータの構造を、図3に示します。

図3ブラダ形アキュムレータの構造  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018

 

3.2 アキュムレータが作動する仕組み

図4に、アキュムレータ作動の仕組みを示します。概略を示します。

A: 使用前の状態
ブラダ内に窒素ガスが封入されていない、配管に取付けた状態です。

B:準備段階
窒素ガスが封入された状態です。作動液圧力が、窒素ガス封入圧力より低いと、ブラダが本体内部いっぱいに膨張します。

C:流入(蓄圧)
作動液圧力が、窒素ガス封入圧力より高くなると、窒素ガスが圧縮され、エネルギーが蓄積されます。

D:吐出
作動液圧力が低下すると、窒素ガスが膨張して、蓄積されたエネルギーを放出します。

通常のサイクルでは、CとDとを繰り返します。

図4アキュムレータ作動の仕組み  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018

 

 

4. アキュムレータの容積計算

アキュムレータの容積計算は、いわゆるポリトロープ変化 PVn=const に基づきますが、アキュムレータの用途ごとに計算式が異なります。それぞれについて記述します。

本項は、NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018記載の計算方法参考にして記述します。

 

4.1 計算時の記号とその定義

・最高使用圧力:

アキュムレータを日本国内で使用する場合、「高圧ガス保安法」、および「労働安全衛生法」の適用を受けます。容積にかかわらず、1MPaG以上で使用されるアキュムレータは、「高圧ガス保安法」が優先されます。

アキュムレータの使用圧力の最高値を、最高使用圧力と呼びます。

・システム圧力:

回路上にこれ以上負荷されない圧力をいいます。通常、設備・機械に設けられたリリーフ弁の開放圧力です。従って、アキュムレータの最高使用圧力が、システム圧力以上であることが選定の第一条件です。

ガス封入圧力 P1 : 窒素ガスの封入圧力

最低作動圧力 P2 : アキュムレータから作動液を吐出した時の最低圧力

最高作動圧力 P3 : アキュムレータに蓄圧する時の最高圧力

吐出平均圧力 Pm : ポンプなどから吐出された作動液の平均圧力

常用圧力 PA : 衝撃圧力が発生していない状態時の配管内圧力

許容衝撃圧力 PB : 許容可能な最高の衝撃圧力。許容衝撃圧力が高いほど、小容積のアキュムレータに設定できます。

アキュムレータ設計時の圧力の定義を図5 に示します。また、アキュムレータの作動状態を図6 に示します。

図5アキュムレータ設計時の圧力の定義  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018

図6アキュムレータの作動状態  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018

 

4.2 エネルギー蓄積用の必要ガス容積計算

アクチュエータの作動が間欠的な場合、アキュムレータに圧力エネルギーを蓄積する時間がありますので、アキュムレータの適用により、ポンプやモータの容量を小さくすることができ、省エネルギーになります。

・封入ガス圧力P1の設定

ただし、P1 ≧ (1/最大圧縮比)× P3  を満足する必要があります。ここで、最大圧縮比はアキュムレータの形式により決められた数値です。NOK EKK アキュムレータの場合、ブラダ形アキュムレータで、4になります。

 

・ポリトロープ指数 m,nの設定

流体流入時のポリトロープ指数mと、吐出時のポリトロープ指数nとを、次式により求めます。ただし、流入時間が40sを超える場合は、等温変化とみなしてm=1 とします。

ここで、

Δt:流入または吐出に要する時間(s)

ただし、Δtが10s未満の場合は、m,nとも表7のΔt = ~10未満

の値を使用してください。

 

・必要ガス容積V1の算出

算出時の圧力は、絶対圧力で計算してください。

絶対圧力 = ゲージ圧力 + 0.1013 (MPaA)

表7ポリトロープ指数  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018

 

4.3 脈動吸収用の必要ガス容積計算

アキュムレータを使用することにより、ポンプから発生する脈動を減衰させることができ、騒音・振動の低減

及び作動の安定が可能となります。

・ポンプの種類による定数K1の設定

ポンプ形式、ピストン本数により変化する脈動の程度による定数を、表8を参照して下さい。

表8ポンプ形式ごとのK1  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018

 

・封入ガス圧力P1の設定

次式より求めてください。


・ポリトロープ指数nの設定  
  n=1.41とします。

・ポンプ1回転当たりの吐出量qの算出

\( q = \displaystyle\frac{ ポンプ吐出量(l/min) }{ ポンプ回転数(rpm) } \)

・目標最高ライン圧力P3の設定

\( P_{ 3 } = P_{ m } + \displaystyle\frac{ \delta P }{ 2 } \)

\( P_{ 3 } = \left( 1 + \displaystyle\frac{ 目標脈動率 }{ 100 } \right) \times P_{ m } \)

\( \delta P \) :アキュムレータ有りの場合の圧力振幅

\( 脈動率 = \displaystyle\frac{ P_{ 3 } – P_{ m } }{ P_{ m } } \times 100 (%) \)

・必要ガス容積V1の算出

 

 

算出時の圧力は、絶対圧力で計算してください。

絶対圧力 = ゲージ圧力 + 0.1013 (MPaA)

 

4.4衝撃吸収用の必要ガス容積計算

アキュムレータを使用することにより、弁を急に閉じたり負荷の急変による衝撃圧力を緩和させることができ、機器の破損を防止します。

・衝撃吸収の例
衝撃吸収の例として、ソレノイド弁の切換え時、ラム急停止時について、図9 に示します。

図9 衝撃吸収の例  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018

・封入ガス圧力P1の設定
ただし、P1 ≧  (1/最大圧縮比) × P3  を満足する必要があります。ここで、最大圧縮比はアキュムレータの形式により決められた数値です。NOK EKK アキュムレータの場合、ブラダ形アキュムレータで、4になります。

 

・許容衝撃圧力PBの設定 
 通常、常用圧力PAの110%とします。
 PB = 1.1 × PA

・ポリトロープ指数nの設定
 n=1.41とします。

・必要ガス容積V1の算出

 

 常用圧力PA時のガス容積 V

  

  上式は、アキュムレータの衝撃吸収効率を最大限に活かした場合の容積が算出されます。実際は、配管抵抗等により計算された容積以下でも効果は変わらない場合もあります。

算出時の圧力は、絶対圧力で計算してください。

絶対圧力 = ゲージ圧力 + 0.1013 (MPaA)

 

 

 

5. アキュムレータの使用上の注意

(1)取付姿勢:
取付姿勢は、油口を下にした鉛直取付が推奨される。

(2)充填ガス種別:
充填ガスは、不活性ガスである窒素ガスを用いること。酸素ガスの充填は厳禁です。

(3)点検等の考慮
アキュムレータの点検やガスの封入のため、油口の配管にアキュムレータ内に封入されている作動液を抜く弁を取付けておくなどの注意が必要です。

(4)型式ごとの注意点:
ダイヤフラム形、ブラダ形アキュムレータの場合、セパレータの弾性が高いため、追随性は良好なのに対して、ピストン形アキュムレータの場合、ピストンの慣性やピストンシールの抵抗などの影響で、圧力脈動やサージ圧の吸収が十分に行えないことがあります。

 

 

 

参考文献
疑問に答える機械の油圧(上)  ダイキン工業油機技術Gr  技術評論社 S49
油圧教本(増補改訂版)  塩崎義弘 他  日刊工業新聞社  S48
実用油圧ポケットブック(2012年版)  日本フルードパワー工業会  H24
Fluid Power Engineering   M. Galai Rabie, Ph.D. Mc Graw Hill 2009年
Industrial Hydraulics third edition Tyler G. Hicks  1979年
NOK EKKアキュムレータ カタログ Cat. No. 239・10-2018

 

引用図表
表1アキュムレータの構造上の分類  出典: 疑問に答える油圧(上)
図2 アキュムレータの種類  出典:いろいろ
図3ブラダ形アキュムレータの構造  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018
図4アキュムレータ作動の仕組み  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018
図5アキュムレータ設計時の圧力の定義  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018
図6アキュムレータの作動状態  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018
表7ポリトロープ指数  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018
表8ポンプ形式ごとのK1  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018
図9 衝撃吸収の例  出典:NOK EKKアキュムレータ カタログNo.239-10-2018

 

ORG:2023/12/23