6.2.4油圧作動油の管理
6.2.4油圧作動油の管理(Hydraulic oil additives)
スポンサーリンク
アフィリエイト広告を利用しています。
Contents
1. 油圧作動油の管理はなぜ必要か
油圧作動油は、油圧ポンプで発生させた運動エネルギーを、油圧シリンダや油圧モータ等のアクチュエータに伝達する機能だけでなく、これらの油圧機器を摩耗や腐食から保護する役割をします。さらに、ポンプによる加圧時の断熱圧縮や油圧機器内部の摩擦で発生する熱を、オイルクーラ等により大気中に放出する機能があります。
ただ、油圧作動油自体、長年の使用に伴う劣化によって上記の機能が損なわれ、油圧機器に悪影響を及ぼすことがあります。従ってこれらの油圧機器に悪影響を与えないように、定期的な作動油の交換や潤滑管理による予防保全が重要になります。
本コンテンツでは、油圧作動油の管理の必要性について示します。
2. 油圧作動油の性状変化
油圧作動油の劣化について以下のように分類されます(表1 )。
表 1 作動油の劣化の分類 出典:参考;(一社) 日本建設機械施工協会HP
2.1 ベースオイル(基油)の酸化・劣化
油圧機器の作動油としては、鉱油系、高含水系、不含水難燃系、および生分解性系などいろいろな油種が使われていますが、油圧作動油のベースオイルは、一般的に石油から精製された鉱油系のベースオイルが主に使用されており、油圧システム内で長期間高温・高圧にさらされると、熱により酸化、劣化します。
これを防止するために、油圧作動油には添加剤として酸化防止剤が処方されています。ベースオイル自体の耐酸化性能は、精製度の高いベースオイルほど不純物が少なく、添加剤が有効に働くため向上しますが、添加剤成分や酸化・劣化によって油中に生成されたスラッジやワニス成分の溶解性が低下するため、注意が必要です。
ここでは、ベースオイルの種類は、API(American Petroleum Institute)では、5種類(グループⅠ~Ⅴ)に分類されています。鉱油系ベースオイルは、硫黄分や飽和分、粘度指数の違いによりグループⅠ~Ⅲで区分されています。合成油系ベースオイルは、グループⅣのポリ-α-オレフィン(PAO)、グループⅤのエステル系合成油などのPAO以外の2つに、区分されます。これらは用途に合わせて使い分けられています。
表 2 APIによるベースオイルの分類
Group Ⅰ:
製油所で得られる減圧軽油(VGO)や減圧残油(VR)を溶剤精製する最も伝統的な製法で得られる潤滑油ベースオイル(基油)です。他の油種と比較して、粘度指数や純度は劣りますが、アニリン点が低い事から添加剤の溶解力が高く添加剤を多量に処方する潤滑油(油圧作動油、エンジン油など)では重宝されます。
日本や欧州に多く工場が存在しますが、老朽化や省エネかの流れにより、工場の閉鎖が加速しています。
Group Ⅱ:
減圧軽油(VGO)を水素化精製(高温・高圧下で触媒と接触させることで不純物を除去)する事で得られる基油です。純度が高く基本的に無色です。
北米、アジア等世界各国に多く工場が存在し、世界的に最も一般的なべースオイルです。
Group Ⅲ:
減圧軽油(VGO)を高度水素化分解する事で得られる極めて純度が高く無色透明なべースオイルです。
アジア及び中東での生産が多く、鉱油系の中では最高品質のべースオイルです。
マーケティングの観点から化学合成油(シンセティックオイル)と呼ばれる事もありますが、原油由来であるので鉱油に分類されます。
Group Ⅳ(Polyalphaolefin/Poly-α-olefin/PAOs):
PAO(ポリアルファオレフィン)は、LAO(リニアアルファオレフィン)を酸性触媒化で重合し、オリゴマー化した混合物を水素化精製した、無色透明、無臭の合成油です。原油の精製により製造されるのではなく、化学プラントで製造される純粋な化学合成基油であり、硫黄、窒素、芳香族等の不純物を一切含みません。
米国及び欧州で製造されており製造量が限られていますが、近年伸びる需要に対応するため各地での増産が計画されています。鉱油と比較すると、高品質であり卓越した性能差がありますが、その分高価です。
Group Ⅴ:
グループ Ⅰ~Ⅳに属さない、すべての基油を含みます。
脂肪酸エステル、ポリアルキレングリコール(PAG)、アルキルベンゼン、リン酸エステル、シリコーン油、PIB(ポリブテン)、ナフテン油、植物油等が、グループ Ⅴ に分類されます。
また、製法の観点で言えば、再生ベースオイル、GTL、CTL等も、正しくはGroup Ⅴに分類されるベースオイル(基油)ですが、性能面からGroup Ⅲに分類されることもあります。
ベースオイル(基油)の劣化により性状が変化する項目には、以下のようなものがあります。
・ 動粘度上昇
・ 全酸化上昇
・ 色相変化
2.2添加剤の消耗
油圧作動油には作動油の性能を向上するため、いろいろな種類の添加剤が添加されています。その割合は、ベースオイル80 ~ 90%に対して、10 ~ 20% にもなります。
主な添加剤としては、酸化防止剤、耐摩耗剤、極圧剤、清浄剤、分散剤、粘度指数向上剤、消泡剤、さび止め剤、腐食防止剤などがあります(表 3)。
耐摩耗性油圧作動油は、耐摩耗添加剤の種類によって、大きくは亜鉛系と非亜鉛系に分類されます。近年、ロングライフ化の観点から非亜鉛系への移行が進んでいますが、従来から広く使用されている亜鉛系作動油も市場において根強い需要があり、多く使用されています。
添加剤の消耗による性状変化の例を示します。
・ 全酸価の上昇 ⇒ きょう雑物の増加
・ 油中銅分増加 ⇒ 極圧添加剤の消耗
・ 消泡性悪化 ⇒ 添加剤消耗による油中のスラッジ増加
・ 摩耗の増加 ⇒ 亜鉛系添加剤の消耗
2.3内部汚染
油圧システムにおいては、各油圧機器の部品の稼働による摩耗や腐食、また何らかの原因で油圧機器内の部品が破損などにより、油圧系内に摩耗分や破損部品の破片で汚染される場合があります。
そのため、定期的に油圧作動油の分析を行い、油中の金属分やきょう雑物の監視を行い、その分析結果に
基づき、作動油や機器の管理を行っていく必要があります。特にラインフィルタに補足される金属分に異常摩耗が認められる場合などは、他の油圧部品に二次被害をもたらしますので、フラッシングを行ったり、油圧部品、オイルタンクの洗浄を必要に応じて実施する必要があります。
2.4空気混入
油圧系において、作動油中に空気が混入し、微細な気泡が発生する現象をエアレーション(aeration)といいます。この気泡は、油圧ポンプを通過する際に圧縮され、熱を発生させます。この熱が油温の上昇を招き、作動油の酸化劣化を促進します。
2.5水分混入
特に建設機械は、稼動中の油温が高く、かつ夜間にはエンジンを停止することが多いため、エアブリーザを介して出入する空気中の水分が油圧タンク内で結露し、作動油中の水分が増加することがあります。 また、メンテナンスミスや、洗浄などでタンクのエアブリーザから直接水分が侵入する事例もあります。水分は外部からの混入する可能性が高い異物として管理する必要があります。
油中に入った水分は、システム内部の錆や腐食の原因となるだけでなく、潤滑性を低下させ、摩耗の原因にもなり、また添加剤の劣化を促進させますので、日常点検で目視による管理や定期的な分析によって水分混入の有無を把握し、始動前にドレンから排出したり、運転中に侵入しないように管理が必要です。作動油に水分が混入するとその程度によって濁りが発生したり、乳化して白濁する現象が、目視で観察されます。
2.6固形分混入
特に野外で運用される建設機械の油圧系に、外部から混入する固形分の大半は土砂と考えられます。トラブルを起こした車体の油圧作動油の成分を定量分析すると、システム内部の摩耗によって発生する鉄や銅の摩耗粉や、土砂分の主成分の酸化ケイ素が多く検出されます。
土砂などの固形物は、空気中の粉塵としてブリーザや油圧シリンダのダストシール等を介して油圧系内に、またブレーカのチゼルシール部から等、様々な経路から混入してきます。
3. まとめ
油圧作動油の管理は、油圧設備を正常に作動させるための極めて重要な要素です。ただ、作動油の種類や油圧機器は多岐にわたるため、作動油メーカ、油圧機器メーカ、および油圧機器の組込みメーカによって、それぞれの経験に基づいた管理値が設定されています。
参考文献
(一社) 日本建設機械施工協会HP
; https://jcmanet.or.jp/jcm/wp-content/uploads/2013/09/9b1ae22f446b7efe8cc12fa29173d801.pdf
引用図表
表 1 作動油の劣化の分類 出典:参考;(一社) 日本建設機械施工協会HP
表 2 APIによるベースオイルの分類
表 3 潤滑油添加剤 出典: トライボロジー入門
ORG:2024/09/03