油タンク(oil reservoir)

油タンク(oil reservoir)

 

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1. 油タンクの役割と基本構造

油タンクは、油圧システムにおいて非常に重要な役割を果たします。油圧システム内の作動油をたくわえて、必要に応じて油圧系統に供給するだけでなく、作動油の冷却、異物の沈殿・除去、気泡の除去など、多くの役割を担っています。適切に設計された油タンクは、油圧システムの効率性と機器や作動油の寿命を向上させるために不可欠です。

油タンクは、一般的には鋼板(多くはSS400)を溶接して製作されます。タンクの容積は、いろいろな条件を考慮する必要があります。

ほとんどの油タンクは、作動油充填用のキャップ付き開口部、通気口、オイルレベルインジケーターまたはディップスティック、戻り系統接続、ポンプ入口または吸引系統接続、排油系統接続、および排油プラグが付属しています(図1:後述、開放タンクの例)。

油タンクの内部には通常、作動流体の過度の揺れを防ぎ、作動油戻り系統とポンプ吸引または入口系統の間に仕切りを置くためのバッフル板があります。この仕切りにより、戻り作動油はタンクの周囲をさらに移動してから、ポンプ入口系統を通ってメインのシステムに戻されます。この際、コンテミナントが沈殿し、作動油から空気が分離されます。

 

 

2. 油タンクの種類

油タンクは大きく分けて、開放タンクと予圧タンクの二種類があります。開放タンクはタンク内の空気が大気と通じており、油の自由表面を保ちます。一方、予圧タンクは完全に密閉されており、内部に圧縮空気を加えることでキャビテーションや気泡の発生を防ぎます。

 

2.1 開放タンク

海面もしくは海面近くで運転される油圧システムには、通常は開放タンクが採用されます。産業機械や建設機械、船舶関係の設備で一般に使用されます。

開放タンクは最も一般的な形式であり、タンク内の作動油が大気と接触するため、圧力の急激な変化を防ぐことができます。開放タンクには通気フィルタが装備されており、タンク内の圧力を一定に保ちます(図1)。

図1開放タンクの例  出典:油圧教本 増補改訂版

 

2.2 予圧タンク

予圧タンクは、主に航空機などの特殊な用途で使用されます。 雰囲気圧力が低圧で、ポンプへの正味吸引ヘッド (NPSH) を維持できない油圧システムでは、タンクを加圧して、作動油の泡立ちやキャビテーションを防ぎ、油圧システムの安定性を確保します。

与圧タンクの与圧方式には、液体加圧と空気加圧の2種類があります。

(1)液体加圧タンク

航空機用の油圧システムで、タンクを加圧するために液体圧力を使用する、液体加圧タンクの例を、図2に示します。このタンクは、フローティングピストンによって、2つのチャンバーに分割されています。フローティングピストンは、加圧シリンダー内の圧縮スプリングと、シリンダーの加圧ポートに入るシステム圧力によって、与圧タンク内で、下方に押し下げられます。

加圧ポートは、圧力ラインに直接接続されています。システムが加圧されると、圧力が圧力ポートに入り、与圧タンクが加圧されます。これにより、ポンプの吸引ラインと与圧タンクの戻りラインが同じ圧力に加圧されます。

図2に示す液体加圧タンクには、ポンプの吸込、戻り、加圧、オーバーボードドレイン、ブリードの 5つのポートが設けられています。加圧液体は、ポンプの吸込ポートからポンプに供給されます。作動流体は、戻りポートを通じてシステムからタンクに戻ります。ポンプからの圧力は、加圧ポートからタンク上部の加圧シリンダーに入ります。排出ドレンポートは、メンテナンス中に作動油を排出するために使用され、ブリードポートは、加圧タンクの保守時に補助として使用されます。

図2液体加圧タンク  出典:Fluid Power NAVEDTRA 14105

 

(2)空気加圧タンク

空気加圧タンクの例を、図3 に示します。空気加圧タンクは、多くの高性能軍用機に使用されています。加圧タンクは円筒形で、内部にピストンが取り付けられており、空気室と作動油室とを分離しています。

空気圧は通常、エンジンのブリードエアによって供給されます。ピストンロッドの端部は、加圧タンクのエンドキャップから突き出ており、作動油の量を示します。

作動油量は、ピストンロッドが加圧タンクのエンドキャップから突き出ている寸法を読み取ることで確認できます。加圧タンクには、継手やコンポーネントを接続するためのタップ穴が設けられています。図3には、加圧タンクに出入りするラインに取り付けられたいくつかのコンポーネントを示していますが、実際の取り付けではそうではない場合があります。エアリリーフ弁、ブリーダー弁などは、加圧タンクに直接取り付けられる場合もあります。

タンクは加圧されているため、通常は航空機がどのような高度でも、ポンプへの流体の流れを維持できます。

図3空気加圧タンク  出典:Fluid Power NAVEDTRA 14105

 

航空母艦や潜水艦に搭載される空気加圧タンクの場合、作動油と空気とが直接接触する形式もあります。このような加圧タンクは、大規模なシステムに設置され、円筒形または長方形の形状になります。オイルレベルインジケーター、ポンプ入口または吸込ラインの接続、戻りライン、ガス加圧および排ガスの接続、およびドレンライン接続またはドレンプラグが含まれています。これらの加圧タンクは、船のサービス空気システムまたは窒素貯蔵部からのガスによって加圧されます。

 

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3. 油タンクの設計条件

油タンクを設計する際には、以下の条件を満足させる必要があります:

(1)必要な油量を貯蔵できること。

油圧システムの作動中に適切な油面を保持して、正常運転中に発生する熱を放散させ、作動油中のコンタミナントや気泡を分離させるのに十分なサイズで、油圧システムが停止した際に管路内の作動油がタンクに戻っても溢れないことが必要です。

このことから、冷却装置の有無、圧力、流量、作動油の種類、使用環境、使用条件によりタンクの大きさは異なります。一般的に、タンク内の作動油の油量は、油圧ポンプの1分間当たりの平均吐出量の3~5倍以上とすることが経験的に示されています。ただし、最近は極力油量を低減させる傾向があります。

(2)タンク内を大気圧に保持するため、タンク上部に通気口を設け、またタンク内部に塵埃などの異物が侵入しないように、通気口や給油口に適切なフィルターを設ける必要があります。

(3)作動油中の気泡分離と、高温の戻り油が直接ポンプに吸込まれることを防止するために、吸込管と戻り管との位置の中間に、仕切り板(バッフルプレート)が設けられていること。また、管の末端は最低油面以下にある必要があります。

(4)作動油の油量の点検が可能なように、油面計が付属している必要があります。

(5)作動油を排出可能なように、排油口が設けられていることが必要です。

(6)ポンプが異物を吸い込まないように、吸込配管にストレーナを設ける必要があります。一般的には150~200メッシュの金網が適用されます。

(7)清掃窓を設けるなど、掃除がしやすいような構造に設計する必要があります。

(8)タンクは、作動油を貯蔵する目的以外に、ポンプ、バルブ、フィルタ、電動機などの設置台を兼用することが多いので、タンクが変形したり、振動しないだけの強度・剛性を有する必要があります。

(9)タンク内面の発錆を防止するために、タンク内面は塗装などの防錆処理が必要です。

(10)消防法が適用される場合、タンク設置場所の所轄消防署に認可を受ける必要があります。

 

 

4. 油タンクの保守とメンテナンス

油タンクの保守とメンテナンスとは、システムの長寿命と効率的な運転のために欠かせません。定期的な清掃、ストレーナの清掃、油面の確認などが重要です。また、タンク内の作動油の状態を常に監視し、必要に応じて交換することも重要です。

 

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5. 油タンクのトラブルシューティング

油タンクに起因する問題として、油面低下、油温上昇、作動油の白濁(気泡の混入、水分)などが考えられます。主要なトラブルについて、原因と対策を示します。

(1)油面低下
 原因:シリンダロッドなどの容積が変化するアクチュエータの体積を考慮していない。
 対策:アクチュエータの最大容積を計算して、許容最低油面を確保する。

(2)油温上昇
 原因:発熱量が放熱量を上回る。
 対策:タンクの表面積を大きくする、冷却器を設置する、風を当てるなどの方法で放熱量を増加させる。

(3)作動油の白濁
 原因::エアが作動油中に混入、または冷却器の損傷等で外部から水分が侵入して撹拌されて白濁する。
 対策:エア混入の場合は、戻り管を作動油中に確実に浸漬させる、仕切り板を設ける、タンク内で作動油が長くとどまるように循環っ距離を長くする。
    水分の侵入の場合は、原因を速やかに排除するとともに、ただちに作動油を交換する。

 

 

6. 油タンクにおける最近の技術動向

最新の油タンク技術には、より効率的な冷却システム、異物除去フィルタの高性能化、耐腐食性材料の使用などがあります。特に、ステンレス鋼板を使用することで、油圧機器の寿命を延ばし、メンテナンスコストを削減することが可能です。

また、IoT技術の導入により、油タンク内の油量や油温、異物の混入状況をリアルタイムで監視するシステムも開発されています。これにより、常時観測することにより、迅速な対応が可能となり、システム全体の効率と信頼性を向上させることができます。

 

 

 

参考文献
実用油圧ポケットブック 2012年版  日本フルードパワー工業会
油圧教本 増補改訂版  日刊工業新聞社  S53年
新版 知りたい油圧/基礎編  ジャパンマシニスト社  1978年
Fluid Power NAVEDTRA 14105   DISTRIBUTION STATEMENT A

 

引用図表
図1開放タンクの例  出典:油圧教本 増補改訂版
図2液体加圧タンク  出典:Fluid Power NAVEDTRA 14105
図3空気加圧タンク  出典:Fluid Power NAVEDTRA 14105

 

ORG:2024/06/26