グラスライニング

グラスライニング(glass lining)

 

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1. グラスライニングとは

グラスライニングは、鋼などの金属表面にホウケイ酸(硼珪酸)ガラスを高温で焼き付けることで、優れた耐食性と機械的強度を持つ複合材料を作り出す技術です。この技術は、特に化学工業や医薬品製造において広く適用されており、機器・設備の長寿命と信頼性を確保します。
ガラスの起源は、紀元前の古代エジプト王朝時代にまでさかのぼるといわれています。今日のように一般工業材料として扱われるようになったのは、ローマ時代以降にガラス生産が急激に進歩してからです。日本で初めてガラスが使用されたのは約2000年前の弥生時代で、中国から輸入されたものが最初とされています。

グラスライニングは、金属表面にガラスを焼き付けることで、金属の強度とガラスの耐食性を組み合わせた優れた複合材料を作り出します。この技術は、特に鋼を腐食する化学薬品や高温・高圧の条件下で使用される設備において、その耐久性と耐食性を付与します。また、ガラスの特性として、表面が非常に滑らかであるため、取扱い物質の付着を防止し、洗浄が容易であるという特徴があります。

グラスライニングは、具体的には反応機、貯槽、熱交換器などの主として化学関係の機器・設備に広く用いられています。これらの設備は、化学薬品、食品、医薬品などの製造工程で使用されることが多く、高度の耐食性と衛生性が求められます。例えば、食品製造においては、金属イオンの溶出を防ぎ、製品の品質を維持するためにグラスライニングが利用されます。また、医薬品製造では、グラスライニングが有する衛生性と耐薬品性が重要視され、GMP(Good Manufacturing Practice)に適合する製品が求められます。

さらに、グラスライニングの技術は、近年では環境対策としても注目されています。例えば、廃水処理設備において、腐食性の高い化学物質に対しても長期間使用できる耐久性が求められるため、グラスライニングが採用されています。このように、グラスライニングは多くの分野で利用され、その優れた特性によって産業界で欠かせない存在となっています。

2. グラスライニングの歴史

ガラスの歴史は非常に古く、そのB.C.7000 ~ 3000年の古代エジプト王朝にまでその起源をさかのぼります。今日のように一般工業材料として扱われるようになったのは、ローマ時代以降にガラスの生産が急激に進歩を遂げるようになってからです。
グラスライニングに類似した金属表面の改質法として、ほうろう(琺瑯)があります。ほうろうとは、金属の表面に融点が比較的低いホウケイ酸(硼珪酸)ガラスを融着させたものです。ほうろうに使用するホウケイ酸ガラスは普通ガラスよりSiO2が少なくNa2Oの比率が多く、通常のガラス製品と比較して耐酸性がかなり劣ります。ほうろうは、現在でも台所用品や浴槽、建材等に今でも広く利用されています。ほうろうについては、本コンテンツの最後に簡単に記述します。
日本で初めてガラスが使用されたのは約 2000 年前の弥生式文化の時代に中国から輸入されたもので、日本で製造され始めたのは古墳時代(3 ~ 6世紀)とも言われています。日本における工業製品であるグラスライニングの歴史は、1954年に米国のグラスライニングメーカと日本企業との合弁会社が設立され生産が開始したことに始まります。これにより、特に石油化学工業の成長とともにその分野の製造機器として広く利用されてきました。また、さらに、グラスライニング技術は、食品醸造分野でも広く利用されています。特に清酒やワインの醸造用タンクにおいて、グラスライニングは金属イオンの溶出を防ぎ、製品の品質を維持するために重要です。また、グラスライニングの滑らかな表面は、洗浄が容易であるため、衛生管理が厳しい食品製造現場で重宝されています。
最近では、医薬分野の成長に伴い、医薬品製造機器として広く利用されてきています。

 

3. グラスライニングの製造方法

グラスライニングは、母材金属との密着を担う下引きグラス層と耐食性等の機能を発揮する上引きグラス層とから構成されます.図1にグラスライニング層の断面写真を示します。下引きグラス層の厚みは0.2mm程度、上引きグラス層の厚みは1.2 ~ 1.5mm程度です。下引きグラス層には、母材金属の鉄イオンが焼成時に拡散します。

図1グラスライニング層の断面写真   出典:琺瑯(グラスライニング)(1966年~現在)

グラスライニングの製造工程は、概略以下のとおりです。
① 製缶された機器の金属表面のスケールや不純物を、ブラスト工程で除去します。ブラスト処理により、金属表面が清浄され、ガラスの密着性が良くなります。
② 釉薬(粉末状のガラス(下引きグラス)に粘土などの添加物と水を混合して粉砕してスラリー状にしたもの)を吹き付け、乾燥させた後、軟化溶融温度である800~900℃の高温で焼成します。この工程により、ガラスが金属表面にしっかりと結合されます。
 ③ 耐食性や機能性を持たせるための釉薬(上引きグラス)を同様に吹き付け、焼成します。この工程は、客先の仕様のグラス厚みが得られるまで、複数回施釉、焼成を繰り返します。
④ 最後に、目視検査や高電圧ピンホール検査などの品質検査を実施して、製品が完成します。

グラスライニングの製造において重要なのは、ガラスと金属の密着性を高めることです。ガラスは脆性材料であり、割れやすい特性を持つため、金属との密着性を高めることでその欠点を補います。このため、下引きグラスと上引きグラスの間に複雑な凹凸を持たせることで、密着性を向上させています。

また、グラスライニングの製造工程では、金属とガラスの熱膨張係数の違いによる残留応力が生じます。一般的には、グラス層には200MPa程度の残留圧縮応力が発生します。この圧縮応力により、高い機械的強度と熱衝撃性を得ることができます。この特性により、グラスライニング製品は過酷な使用環境下でも長期間にわたり使用することが可能となっています。

 

4. グラスライニングの特性

グラスライニングは、その優れた特性により、さまざまな産業分野で広く利用されています。特性として挙げられるものを以下に示します。
① 高い耐食性:ガラスは化学的に非常に安定な材料であり、酸やアルカリ、塩類など多くの化学薬品に対して優れた耐食性を示します。これにより、腐食環境下で使用される装置において長期間の使用が可能となります。

② 優れた機械的強度:ガラス自体は脆性材料であるため、割れやすい特性を持ちますが、金属との複合化によりその欠点を補い、高い機械的強度を実現しています。特に、ガラス層には残留圧縮応力が存在するため、機械的な衝撃や熱衝撃に対しても高い耐性を持っています。

③ 優れた洗浄性:ガラス表面は非常に滑らかであり、汚染物質の付着を防ぐため、洗浄が容易です。この特性は、特に医薬品製造や食品製造において重要です。これらの分野では、製造装置の清潔さが製品の品質に直結するため、グラスライニングの衛生性が重宝されています。

④ 耐付着性:ガラス表面は非粘着性であり、製造プロセス中に発生する残留物や付着物が少ないため、製品の品質を維持することができます。このは、化学薬品の製造や食品の加工において重要な特性です。

⑤ 金属イオンの溶出防止:金属イオンの溶出は、製品の品質に悪影響を与える可能性があるため、これを防ぐことができるグラスライニングは非常に有用です。特に、医薬品や食品の製造においては、金属イオンの溶出を最小限に抑えることが求められます。

このように、グラスライニングはその高い耐食性、機械的強度、洗浄性、耐付着性、そして金属イオンの溶出防止といった特性により、多岐にわたる産業分野で広く利用されています。その結果、製品の長寿命化と信頼性の向上に寄与しています。

5. 主要な製品と応用分野

グラスライニングは、その優れた特性により、さまざまな産業分野で利用されています。以下に主要な製品とその応用分野について詳述します。

① 醸造用タンク:グラスライニング表面はは不活性であり、金属イオンの溶出がほとんどないため、内容物の品質や香味に影響を与えません。清酒やワインなどの醸造用タンクとして広く利用されており、特に製品の品質保持と衛生管理が求められる分野で重宝されています。さらに、グラスライニングの表面は滑らかで、洗浄が容易であるため、タンク内部の清掃が簡単であり、再利用が効率的に行えます。

② 反応機:高い耐食性が要求される石油化学分野での反応機として、グラスライニングは非常に重要な役割を果たしています。また、医薬品製造やファインケミカルといった分野でも、グラスライニングの優れた洗浄性と金属イオンのコンタミネーションを防ぐ特性が評価されています。医薬品分野では、GMP(Good Manufacturing Practice)に対応したグラスライニング機器が広く利用されており、高品質な製品の製造に貢献しています。
図2に反応器としての撹拌機の例を示します。

図2反応器への適用例  出典:De Dietrich Process Systemsカタログ

③ 熱交換機:耐食性が求められる液体の熱交換において、グラスライニング製品が多く利用されています。多管式熱交換器や多重管式熱交換器などが製品化されており、化学薬品や食品製造プロセスで重要な役割を果たしています。これにより、熱交換機の長寿命化と効率的な熱交換が実現されています(図3)。

図3熱交換器への適用例  出典:琺瑯(グラスライニング)(1966年~現在)

④ 乾燥機:粉体の乾燥用途において、耐薬品性と耐付着性に優れるグラスライニング製品が利用されています。特に医薬品製造では、コニカルドライヤーなどが多く利用されており、製品の品質保持と効率的な乾燥が求められます。さらに、静電気発生を抑制するために導電性グラスを適用した製品も開発されており、製造プロセスの安全性と効率性が向上しています。

⑤ 放電電極:ガラスの誘電体としての特性を活かし、コロナ放電電極やオゾナイザ電極などに使用されています。これにより、高い耐久性と性能が求められる装置において、グラスライニングが重要な役割を果たしています。

このように、グラスライニングはその優れた特性により、さまざまな産業分野で広く利用されています。各分野での応用により、製品の品質向上と信頼性の確保に寄与しており、今後もその需要はますます増大すると期待されています。

6. グラスライニングとほうろう(琺瑯)との違いについて

 グラスライニングは広義的にはほうろうと同じものといえます。しかし、用途が異なるため、両方の性質は大きな違いが認められます。表4にグラスライニングとほうろう、それぞれの特徴を比較したものを示します。
グラスライニングは、非常に厳しい腐食環境から構造物を成す素地金属を保護する技術で、その目的のために優れた耐酸性を有するうわぐすりを厚くライニングし、かつ目視では見逃す可能性のある欠陥を検出できるような検査方法で品質管理が行われている。

表4グラスライニングとほうろうとの比較  出典:グラスライニングとは  (株)神鋼環境ソリューション様HP

 

参考文献
表面処理 新版材料編  日本金属学会  1961年
琺瑯(グラスライニング)(1966年~現在)  セラミックス 43 No.9 2008年
グラスライニングとは  (株)神鋼環境ソリューション様HP

引用図表
図1 グラスライニング層の断面写真  出典:琺瑯(グラスライニング)(1966年~現在)
図2反応器への適用例  出典:De Dietrich Process Systemsカタログ
図3熱交換器への適用例  出典:琺瑯(グラスライニング)(1966年~現在)
表4グラスライニングとほうろうとの比較  出典:グラスライニングとは  (株)神鋼環境ソリューション様HP

ORG:2024/07/16