Ⅳ 1.1 レーザ加工

Ⅳ 1.1 レーザ加工(laser material processing)

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1. レーザ加工の基礎

レーザは、1960年にアメリカ合衆国のメイマン博士がルビーを使ってレーザの発振に成功してから、各分野でレーザ項を応用する研究が進みました。特に加工分野では実用化が進み、生産現場で不可欠な加工技術になっています。

レーザ光には、コヒーレンス、単色性、指向性に優れています。レーザ加工への応用でも、これらの特性が生かされています。レーザ加工の特徴を列挙すると、

(1)微小なスポットに集光できるため、1013 W/m2 以上の高いパワー密度が得られます。そのため、高融点材料、耐熱材料、高密度材料、セラミックスの難加工材の他、プラスチックやゴム、布、複合材料などの軟質材料の加工も可能です。

(2)非接触加工なので、作業距離が確保でき、ワークに加わる力も非常に小さく、保持具が簡略化できます。さらに加工システムの自動化が容易に可能です。

(3)レーザによる熱影響の範囲が加工部とそのごく狭い周辺に限られるので、残留応力や熱ひずみが小さくて済みます。

(4)レーザ加工の波長は選択可能なので、熱加工や、アブレーション加工、化学反応を利用したりなど、広い範囲の加工が可能です。

(5)光による加工なので、電気的に中性であるために電界や磁界の影響を受けないので、半導体過度の完成品に対する加工も可能です。

(6)レーザ光に対して透明な材料を通過させて加工が可能です。

2. 加工用レーザ光の種類

レーザ光は広い波長の範囲で発振していますが、加工に用いられるレーザ項について代表的なものを表Ⅳ.1.1.1に示します。

表Ⅳ.1.1.1 レーザ加工に用いられる代表的なレーザ光源

2.1 YAG(yttrium aluminium garnet)レーザ:

YAGレーザは、発振形式が多様なので、厚板の溶接・切断から超微細加工まで、幅広い領域で使用されます。
従来のランプ励起では発振効率が3%程度と抵抗率だったものが、レーザダイオード(LD;laser diode)励起によって効率20%以上のYAGレーザが開発されています。LD励起による固体レーザ方式を、図Ⅳ.1.1.2に示します。
(a)のロッド方式は、結晶を有効に利用できて、高出力化が容易になHG)は、光ファイバは伝送可能なため、フレキシブルな加工システムの構築が可能です。これらの特徴から、LDはレーザ加工における主要な光源になりつつあります。

  図Ⅳ.1.1.2 LD励起固体レーザ方式

2.2 CO2レーザ

CO2レーザは波長がYAGレーザより1桁大きいため、金属表面での反射率は大きいですが、高ビーム品質と高出力のため、金属材料の切断、溶接、表面処理に使用されます。また、μsオーダのパルス幅を有するパルスCO2レーザは、ガラスや高分子材料への吸収率が大きいため、プリント基板材料の微細穴あけに必要不可欠です。

2.3 エキシマレーザ

紫外線の領域で発振するエキシマレーザは、水銀ランプのi線に代わってリソグラフィー分野で活躍しています。また、液晶パネルのアニーリングにも活用されています。しかし、短波長を活用したマイクロ加工では、YAGレーザの高調波に変化しつつあります。

2.4 半導体レーザ

ビーム品質に欠点を有する半導体レーザは、50%程度の高効率発振が可能で、高出力も達成されるため、高パワー密度を必要としない表面処理、はんだ付け、フォーミング、溶接などに応用がはじまっています。

3. レーザ加工の応用

レーザ光の特徴と各種レーザ光を活用することにより広範囲の材料加工が行われます。

3.1 穴あけ

最も古くから実用化されている分野です。ルビーレーザやYAGレーザを用いて、伸線用ダイヤモンドダイスの下穴あけ加工、時計用ルビー軸受の下穴加工、噴射用ノズルの微細穴加工に実用化されています。

セラミックス、プラスチック、紙タバコフィルタ部の紙などの非金属材料の穴あけには、それらの材料に対して吸収率の大きいCO2レーザが用いられます。

航空機用ジェットエンジンのタービンブレードの冷却穴加工には、YAGレーザが用いられます。

エキシマレーザやYAGレーザ高調波によるバブルジェットプリンタのノズル加工により、穴径の微細化と高品質化が達成されており、プリント性能が大幅に向上しました。

さらに、最近では、紫外光の短波長レーザおよびピコ秒やフェムト秒の短パルスレーザ光を利用したアブレーション現象により、熱影響層の少ない高品質の超微細穴あけ加工も可能となります。

3.2 切断

金属切断には、高ビーム品質と高出力の特徴を持つCO2レーザがよく用いられます。また、CO2レーザは、非金属材料への吸収率が高いため、紙器抜き型用ダイボードや、洋服生地、プラスチック複合材料、セラミックスの切断にもよく用いられます。

YAGレーザでは、短パルス光により、従来から薄板の高精度切断に用いられていますが、最近では高ビーム品質化と高出力化により、厚板の高速切断への応用がなされています。

また、YAGレーザは光ファイバによる伝送が可能ですので、人間が近づくことができない原子炉や大型構造物の解体作業にも応用がされており、ステンレス鋼の100mmの厚板の切断にも成功しています。

また、CO2レーザ、YAGレーザとも、非接触での加工になりますので、複雑形状の自動切断にも有利です。

3.3 微小量除去

半導体製造分野で、主としてYAGレーザを用いた、微細な加工がなされています。その他の方式のレーザ光も使用されています。

(1)スクライビイング(scribing)

半導体素子の分割に、レーザが用いられます。シリコンやサファイアにはYAGレーザが、ガラスやセラミックスにはCO2レーザが用いられます。

(2)トリミング(triming)

LSIの中の厚膜抵抗の抵抗値やコンデンサの容量を微調整するために用いられるのは、QスイッチYAGレーザです。数値を測定しながら、高精度で高速、清浄な状態でのトリミングができます。

(3)マスクリペア(mask repair)

半導体製造に使用されるマスクの修正に用いられ、回路の変更が容易に行えます。

(4)マーキング(marking)

LSIの品質管理や、工具、ベアリング、水晶振動子などのマーキングに用いられます。YAGレーザ加工機の大きな市場です。

(5)ダイナミックバランシング(dynamic balansing)

ジャイロやモータなどの高速回転体のダイナミックバランスを回転中に計測しながらアンバランス量を除去します。

(6)彫刻

木材やプラスチックの表面をマスキングして、CO2レーザを走査して彫刻する方法です。非常に精密な彫刻ができます。レーザ彫刻機として市販されています。
スキャナを使用して、画像や写真を取り込むことが可能なので、イベントの記念品製作に用いられます。

正確には除去する方法ではないが、ガラスの内部に焦点を合わせて、発生した微細なクラックを組み合わせる彫刻も行われています(図Ⅳ.1.1.3)。

図Ⅳ.1.1.3 レーザ彫刻

3.4 溶接

レーザ溶接の原理を、図Ⅳ.1.1.4に示します。レーザ溶接は、「集光することにより、レーザのエネルギー密度を高めた状態で材料に照射して、材料を溶解して固化する。」 加工方法です。

   図Ⅳ.1.1.4 レーザ溶接の原理

一般的に、大出力化が進んでいるCO2レーザとYAGレーザとが用いられます。発振機で発振されたレーザ光は、CO2レーザではミラーによる折り返し光路で伝送され、YAGレーザの場合は、ミラーによる伝送以外に、光ファイバによる伝送も用いられます。

特定の場所にのみエネルギーを付与できるので、熱変形が少なく、溶接部の幅も狭い特徴があります。溶融した金属は、非常に酸化されやすいので、再度凝固するまで酸素と触れ合わないように、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガスをシールドガスとして溶接部に吹き付けます。

応用例としては、原子力関連機器の溶接では、炭素鋼と比較して熱膨張率の大きいステンレス鋼が多用されるので、溶接による熱変形を少なくするため使用に好都合です。また自動車のボディの溶接に、高速深溶込みの特徴を生かして適用が広がっています。

 

 

参考文献
機械工学便覧 第6版 β03-07章
現場の即戦力 よくわかるレーザ加工  瀬渡直樹

 

引用図表
[図Ⅳ.1.1.1] レーザ加工に用いられる代表的なレーザ光源  機械工学便覧より
[図Ⅳ.1.1.2] LD励起固体レーザ方式  機械工学便覧
[図Ⅳ.1.1.3] レーザ彫刻
[図Ⅳ.1.1.4] レーザ溶接の原理    よくわかるレーザ加工より

 

ORG: 2017/10/28