4.6 疲労摩耗
4.6 疲労摩耗(Fatigue wear)
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2つの物体が微少部分で接触状態にあり、その接触部分で荷重を受ける場合、接触部分が変形して物体に対して巨視的に見て接触部分が小さく,そこで荷重を受けると弾性変形します。そのときの接触状態はヘルツ接触と呼ばれ、物体に発生する応力はヘルツの式を用いて計算することができます。その結果によると、最大圧縮応力は物体の表面で生じますが、最大せん断応力は表面から少し内部に入った位置で発生します(図4.6.1)。
図4.6.1 円柱と平面との接触域における応力分布
2つの物体が摺動する場合、巨視的にみると接触部分は比率が少なく、その部分に荷重を受けると、変形して面積を持った多くの微少な接触部分ができます。この部分ではヘルツ応力が発生します。上に述べたように材料の内部で歪とせん断応力が発生します(図4.6.2)。
図4.6.2 表面疲れによる変形と応力
このような複数の接触部分の内、1か所の接触面について考えます。今、接触面から離れた材料の内部の一点(点a)に、正方形の微少部分を考えます。接触面付近では、点aで考えた正方形の微少部分は、相手側材料からの荷重を受けてb → c → d のような変形をします。更に接触面から遠ざかると点eのように点aと同じ正方形に戻ります。
摺動面では、点bや点dの形状に変形させるようなせん断応力が作用することにより、接触表面より内部に入ったところで、疲れによるクラックが発生し、表面が剥がれることにより摩耗が発生します。
点b及び点dにおけるせん断応力は、接触面の境界に近い位置で生じます。この位置でのせん断応力は、表面では0で、ある深さ\( y_{ o } \) で最大値\( \tau_{ max } \) になります。最大せん断応力の発生個所では、欠陥やクラックが発します。さらに接触が繰返されると、内部で発生したクラックが表面にまで進展し、最終的には薄片状粒子として、材料表面から離脱します。この付近からクラックが発生するといわれています。この材料の破壊プロセスについて、N.P.Suh(US,MIT)は、デラミネーション理論(Delamination theory)を提案しました(図4.6.3)。
なお、点cにおけるせん断応力は、点b及び点dにおけるせん断応力より大きくなります。ただ点cにおける応力は接触面が移動することにより片振り応力になります。それに対して、点bと点dとでは、この2か所の応力により両振り応力となるので、これが疲れクラックの原因となります。
ここで示した疲れ現象は、転がり接触をする部品で生じます。部品の種類によって、歯車ではピッチング(pitting)、転がり軸受ではフレーキング(flaking)などと呼ばれています。
図4.6.3 デラミネーション理論
参考文献
トライボロジー入門 岡本純三 他 幸書房
摩耗はなぜ起こるのか 水本宗男,宇佐美賢一 ターボ機械Vol24,No5 1996
引用図表
図4.6.1 円柱と平面との接触域における応力分布 摩耗はなぜ起こるのか
図4.6.2 表面疲れによる変形と応力 トライボロジー入門
図4.6.3 デラミネーション理論 摩耗はなぜ起こるのか
ORG:2018/11/10