6.1.1 グリースの分類
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6.1.1 グリースの分類(Classification of grease)
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1. グリースとは
古くから潤滑剤として天然の獣脂類(ラードやヘッド)が使われてきました。グリースの元の意味は”柔らかく溶けた獣脂”になります。その外観や形状がよく似ていることから潤滑に使うグリースもグリースと呼ばれるようになりました。
JIS K2220:2013によれば、グリースとは、”原料基油中に増ちょう剤を分散して半固体又は固体状にしたもの。特殊な性質を与える他の成分が含まれる場合もある。” と定義されます。また、原料基油とはグリースの原料となる潤滑油をいいますが、大別すると精製鉱油、合成潤滑油及びそれらの混合油があります。
増ちょう剤というのは、原料となる基油を固める骨格の役割をします。大きく分けると、金属石けん型と非石けん型に分けられます。金属石けん型の代表的なものは、リチウムやカルシウム、ナトリウムなどの金属石けんです。非石けん型の代表的なものは、ベントナイト、シリカゲルなどの無機化合物や尿素誘導体、フタロシアニンなどの有機化合物があります。グリースの基本的な性能を決めるものです。
特殊な性質を与える成分は、一般的には添加剤と呼ばれます。基本的には潤滑油の添加剤と同等ですが、それ以外に粘着性向上剤、構造安定剤なども使用されます。
2.グリースの製造方法
グリースの製造方法は、一般的大きくは6つの工程に分けることが出来ます。
けん化工程→ 冷却工程 → 混合工程 → ミーリング工程 → 脱泡工程 → 充填工程
図6.1.1.1 グリース製造工程例
これらについて詳しく見ていきましょう。
(1)けん化工程
けん化工程は、グリースを生成する最も基本となる工程です。けん化工程では、けん化の方法に大きく分けて2種類があります。一つは「けん化法」、もう一つは「混合法」です。どちらの方法も原料の基油に増ちょう剤を適当に分散させる方法です。
けん化法は、原料の基油の一部に、脂肪酸もしくは脂肪と金属塩類とを溶解させて、さらにアルカリ水溶液を添加して、常圧または加圧下で加熱撹拌して、脂肪酸と金属塩とでけん化反応を起こさせます。けん化反応で得られた石けんは、生成と同時に基油中に溶解・分散します。けん化法は、最も代表的な石けん系グリースの製造法です。
混合法は、各種の金属石けん、またはその他の増ちょう剤を、原料基油中に機械的に分散させる方法です。非石けん系の増ちょう剤を適用する場合に多く用いられます。
(2)冷却工程
石けん繊維を適当な構成にするために、放冷または急冷します。放冷の場合は石けん繊維が長くなり、急冷すると短くなります。
(3)混合工程
基油や、各種添加剤、必要に応じて着色剤などを添加、混合します。
(4)ミーリング工程
コロイドミルや、ロールミル、ニーダー、ホモジナイザーなどを使用して、ミーリングを行い、石けん繊維を均一に分散させて、グリースを滑らかな状態にします。
(5)脱泡工程
グリース中の気泡を除去します。この工程はグリースの外観を整えるとともに、貯蔵安定性や潤滑性能の維持に関連があります。
(6)充填工程
フィルターメッシュを通過させて、グリース中のごみや異物を除去した後、グリースガン用のカートリッジや、ペール缶、ドラム缶などに充填して、規定の表示および梱包をします。
3.グリースの分類
グリースに分類として、JIS K2220では用途別の分類がされています。しかし、グリースの性質に一番影響するのは、増ちょう剤です。本項では、用途による分類の他、増ちょう剤による分類、潤滑油による分類について、順に見ていきましょう。
(1)用途による分類
JIS K2220 によれば、グリースは用途により、次に示す7種類に分類されます
a) 一般用グリース;耐水性、耐熱性
1) 1種;主に原料基油とカルシウム石けんの増ちょう剤とからなり、耐水性が良好なもの。
2) 2種;主に原料基油とナトリウム石けんの増ちょう剤とからなり、耐熱性が良好なもの。
b) 転がり軸受用グリース;機械的安定性、耐水性、さび止め性
1) 1種;主に原料基油と増ちょう剤とからなり、機械的安定性、耐水性及び防せい性が良好なもの。
2) 2種;主に原料基油と増ちょう剤とからなり、低温性、耐水性、機械的安定性及び防せい性が良好なもの。
3) 3種;主に原料基油と増ちょう剤とからなり、低温性、耐熱性、機械的安定性、耐水性及び防せい性が良好なもの。
c) 自動車用シャシーグリース1種;耐荷重性、圧送性
主に原料基油とカルシウム石けんの増ちょう剤とからなり、耐荷重性、圧送性が良好なもの。
d) 自動車用ホイールベアリンググリース1種;耐熱性、耐水性、機械的安定性、耐漏えい性
主に原料基油と増ちょう剤とからなり、耐熱性、耐水性、機械的安定性及び耐漏えい性が良好なもの。
e) 集中給油用グリース;圧送性、機械的安定性など
1) 1種;主に原料基油とカルシウム石けんの増ちょう剤とからなり、圧送性が良好なもの。
2) 2種;主に原料基油と増ちょう剤とからなり、圧送性、耐熱性及び機械的安定性が良好なもの。
3) 3種;主に原料基油とカルシウム石けんの増ちょう剤及び極圧添加剤とからなり、圧送性及び耐荷重性が良好なもの。
4) 4種;主に原料基油、増ちょう剤及び極圧添加剤とからなり、圧送性、耐熱性、耐荷重性及び機械的安定性が良好なもの。
f) 高荷重用グリース1種;耐荷重性、機械的安定性、耐熱性
主に原料基油、増ちょう剤及び二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤とからなり、耐荷重性、機械的安定性及び耐熱性が良好なもの。
g) ギアコンパウンド1種;耐荷重性
主に原料基油とアスファルトとからなるもの。
さらに、種別、ちょう度番号によって、表6.1.1.2 に示されます。
表6.1.1.2 グリースの種類
表に示すちょう度番号毎の混和ちょう度範囲については、表6.1.1.3に示します。
表6.1.1.3 ちょう度番号
また、それぞれの種類の性質については、JIS K2220を参照してください。
(2)増ちょう剤による分類
増ちょう剤は、基油をグリース状にする材料で、グリース中の5 ~ 20%程度の割合で含まれています。すなわち、グリースの骨格をなすものです。増ちょう剤はグリースの性質や性能(特に耐熱性、耐水性、せん断安定性)へ大きく影響する成分です。
グリースに使用される増ちょう剤については、大きく分けると石けん(正しくは金属石けん)系と非石けん系に分類されます。
石けん系は、グリース生産量の90%以上を占めているといわれます。石けんとは脂肪酸と金属水酸化物とから、例えば次式に示す化学反応で生成される脂肪酸の金属塩です。
CH3(CH2)16COOH + LiOH → CH3(CH2)16CooLi + H2O
(ステアリン酸と水酸化リチウムからリチウム石けんと水とを生成)
石けんの金属には、Ca,Na,Li,Al などが用いられます。それによりグリースは異なった性質を示します。
石けんは、太さ0.1 ~ 0.5μm、長さ3 ~ 100μmの繊維状で、これらが無数に集まって微細な三次元の網目状になって、潤滑油を含有します。
非石けん系は、ベントナイトやシリカなどの無機物、フタロシアニンやPTFEなどの有機物が使用されます。
主な増ちょう剤によるグリース特性の差異について以下に示します。
a) カルシウム石けん基グリース
主として、脂肪酸のカルシウム石けんと鉱物油とからなるグリースを総称していいます。古くから使用されています。外観はバター状で、代表的なものにカップグリースがあります。
このグリースの内牛脂系脂肪酸を用いた石けん基の場合、石けんと鉱物油とを結合するために、常時水分(0.5 ~ 2%)必要です。そのため使用温度が高すぎると水分が蒸発してしまい網目構造が破壊されてしまいます。従って、耐熱性は無く使用温度範囲は、約-10 ~ 60℃になります(一般用グリース1種)。特長としては、耐水性に優れ、機械的安定性もかなり良好です。一般機械の常温、低荷重のベアリング潤滑や、水蒸気が接触する個所に適しています。但し、高速で回転するベアリングなどには、遠心力で容易に振り飛ばされる恐れがあり使用には適しません。
b) リチウム石けん基グリース
リチウム石けん基のグリースは、日本で生産されるグリースの50%以上を占めています。主として脂肪酸のリチウム石けん基と鉱物油とからなるグリースを総称していいます。また、各種の合成油に対しても増ちょう効果を示します。万能型(Multi Purpose Type)グリースの代表的なものです。
外観はいろいろで、脂肪酸及び基油の種類、製造方法によりバター状、繊維状、またはアルミニウムグリースのような透明で粘着性のものも生産されます。
特長としては、
1) 高温度でも組織が破壊されず、また原料となる基油を適切に選択すれば低温特性も良好で、使用温度範囲が低温から高温まで広く使用できます。
2) 他の金属石けん基のグリースと比較して、ベアリングの内部等で撹拌作用を受けても軟化することが少なく機械的安定性に優れたグリースです。
3) 集中給油等でポンプで圧送給油される場合でも配管抵抗が小さいです。
以上のように、石けん基グリースとしては、最も優れた性質を持っています。
c) 複合石けん基グリース
複合石けん基グリースは、低分子量脂肪酸と高分子量脂肪酸のそれぞれの金属塩または金属石けんとの複合によって出来た複合石けんを増ちょう剤として使用しています。金属塩にはカルシウムを代表に、アルミニウム、リチウムなどが用いられます。
このグリースは、カルシウム石けん基の耐熱性を改善することから出発しており、高滴点で、かつ熱安定性に優れ、耐水性も有しています。
d) ウレアグリース
非石けん基グリースの一種です。アミンとイソシアネートとの重合体で、ジウレア、テトラウレア、ポリウレアなどが開発されています。
石けん基系のグリースと異なり、金属類を含まないので酸化安定性に優れ、長寿命を有します。また、耐熱性、耐水性、無残渣などの特長があります。
e) 非石けん基グリース
非石けん基グリースは、有機化ベントナイトやシリカなどの無機質の増ちょう剤を基油に分散させたものです。
基油が鉱物油系の場合は、主としてベントナイトが使用されており、そのままでは分散しにくいので、分散剤として極性のある有機溶剤を使用します。
f) その他のグリース
1) グラファイトグリース:基グリースに、微粉末のグラファイトを3 ~ 10%添加しています。グラファイトは高温でも分解されず、酸やアルカリに侵されず、しかも活性が大きいので付着力が強いので、断続的な衝撃荷重を受けるすべり軸受けや高温の軸受に適しています。
2) 二硫化モリブデングリース:基グリースに、微粉末の二硫化モリブデンを2 ~ 10%添加しています。基グリースと二硫化モリブデンとの相乗効果を狙っています。
二硫化モリブデンの潤滑原理は別項でも述べますが、油潤滑とは異なり二硫化モリブデンは多数の薄膜が多層積層したものが、せん断作用でずれて動きます。いわゆるへき開性により潤滑されます。一般の添加剤と異なり、潤滑面の凹部に二硫化モリブデンを埋め込んで、接触面積の拡大により、耐荷重性及び耐摩耗性を与えます。
これ以外の、使用先がリチウムグリースにより減少しつつあるナトリウムグリースやアルミニウムグリースなどを含めた、主要な増ちょう剤によるグリースについて、代表的な性状を表6.1.1.4 に示します。
表6.1.1.4 増ちょう剤別グリースの性質
また、増ちょう剤の顕微鏡写真を示します(図6.1.1.5)。
図6.1.1.5 増ちょう剤の顕微鏡写真
(3)潤滑油(基油)による分類
使用する潤滑油により、鉱油グリースと合成潤滑油グリースとに区別されます。それぞれの基油についても、粘度が異なる油が使用されます。基油の種類、粘度によっても、グリースの性質は大きく変化します。
基油は、グリースの成分のおおよそ80%を占めています。現在は、鉱油系の潤滑油を用いられることが多いです。スピンドル油、モータ油からシリンダ油程度までの、幅広い動粘度の製品が使用目的に応じて用いられます。一般に高粘度の鉱油を基油に用いたグリースは、低速、高荷重及び比較的高温の用途に、逆に低粘度の鉱油を用いたグリースは、高速、低荷重、低温の用途に適しています。また、特殊な用途に使用される合成潤滑油には、エステル油、シリコン油、ポリアルファオレフィン油などが使用されます。合成油の中では、ジエステル油、ネオペンチポリオールエステル油がグリースの基油として用いられることが多いです。なお、フッ素系のグリースは高価ですが、耐熱性に優れています。
表6.1.1.6 に、各種のグリースの基油の性質を示します。また、図6.1.1.7 にそれらの使用温度範囲を示します。
表6.1.1.6 グリース基油の性質
表6.1.1.7 合成潤滑油の使用可能温度範囲
4. グリースの添加剤
潤滑油と同様に、グリースにもその特性を改善、向上させるために、いろいろな添加剤が使用されています。主なものを以下に示します。
(1)酸化防止剤(Antioxidant)
潤滑油や増ちょう剤から生成する過酸化物を分解して、酸化の連鎖反応を停止させるものや、グリースと接触する金属もしくは金属イオンを不活性化して、酸化触媒作用を停止させるものがあります。フェノール系、アミン系、有機金属化合物などがあります。
(2)防錆剤(Rust inhibitor)
酸化防止剤と同様の効果と、合わせて金属表面に強固な油膜を吸着配列させるものと、界面張力を低下させ適当に乳化させて金属表面の発生を防止するものがあります。金属スルホネート類やアミン類等,種類が多く通常は数種類を組みあわせて使用します。
(3)極圧剤(Extreme pressure additive)
金属と反応して、低融点物質を生成し、金属表面の凹凸をならして平滑にし、滑りやすくするものです。硫化油脂や塩素化パラフィンなどがあります。
(4)腐食防止剤
グリース中の酸性物質や二酸化硫黄等の大気中の腐食性ガスにより、金属表面が腐食されるのを防ぐ添加剤です。ベンゾトリアゾール等の含窒素化合物があります。
(5)油性向上剤
金属表面に吸着して低荷重下での摩耗や摩擦を減少させるための添加剤です。高級脂肪酸や高級アルコール,アミン,エステル等があります。
(6)摩耗防止剤
低荷重から中荷重での摩耗を防止する添加剤です。りん酸エステルやチオリン酸塩等があります。
(7)その他の添加剤
その他、グリースに用いられる添加剤には、流動点降下剤や、粘度指数向上剤、粘着剤、構造安定剤、清浄分散剤、さらに特殊なものとして、消泡剤、防腐剤、帯電防止剤、着色剤、乳化剤、抗乳化剤等があります。
(8)固体潤滑剤
本来は、単独でも潤滑剤として効果があるものです(リンク先参照)。代表的なものに、グラファイトや、二硫化モリブデン、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)などがあり、摩耗摩擦の低減や、衝撃荷重性能の向上を目的としています。
→ リンク先: 6.2.1 固体潤滑剤の種類
参考文献
トライボロジー入門 岡本純三 他 幸書房
メインテナンス グリース潤滑技術百科 1981年10月
グリース解説(S629月改訂) (株)日本礦油
合成潤滑油 南部昌生 油化学 Vol.30 No.12 1981
引用図表
図6.1.1.1 グリース製造工程例 ORG
表6.1.1.2 グリースの種類 JIS K2220
表6.1.1.3 ちょう度番号 JIS K2220
表6.1.1.4 増ちょう剤別グリースの性質 メインテナンス’81/10 他
図6.1.1.5 増ちょう剤の顕微鏡写真 メインテナンス’81/10
表6.1.1.6 グリース基油の性質 メインテナンス’81/10
表6.1.1.7 合成潤滑油の使用可能温度範囲 合成潤滑油 油化学1981
ORG:2019/3/27