9.3 溶接構造上の不連続

9.3 溶接構造上の不連続( Discontinuities in welded structures )

 

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ブローホール、スラグの巻込み、融合不良、溶け込み不良、および割れなどの欠陥は、溶接部の構造上の不連続に分類されます。
ただし、溶接部の材質的、金属学的組織の変化には用いられません。

 

9.3.1 ブローホール(blowhole)

他の呼び方として、ボイド(void)、パイプ(pipe)、気孔(porosity)などがあります。その内部は空洞で固形物は含まれません。溶接部に発生する化学反応で発生したガスを含んでいます。これがスラグの巻込みと異なる点です。

化学反応により生成したガスは、温度が低下するにつれて、溶融金属中のガスの溶解度が減少して、溶着金属から分離するか、または溶接部で化学反応が起こり発生したガスが溶接部にそのまま残留します。
ブローホールは、溶接電流が高過ぎたり、アークが長すぎたりした場合に、生成します。その理由は、これらの条件では溶接棒被覆材の脱酸成分を過剰に消耗して、冷却時に溶融金属と反応して、溶融金属中のガスと結合する脱酸成分が不足して、ガスが残留します。

図 1 ブローホール  出典: CSWIP Welder Training TWI Ltd

溶着金属中のブローホールの分布は、次のように分類されます。

(1) 均一に分布したブローホール:

溶着金属全体に、一様に分布したブローホールです。それぞれの空孔の大きさは、微細なものから4mm程度までいろいろあります。ただ、一定の溶接条件では、空孔の大きさはほぼ揃う傾向があります。

(2) 一群となったブローホール:

ブローホールは、しばしば群(かたまり)として発生します。このような群は、溶接条件が急に変化した場合に発生します。溶接の開始点・終点などで発生しやすいです。

(3) 直線状に並んだブローホール:

通常は、ルートパス部分に発生します。これは、溶け込み不良の特殊な場合と考えられます。

 

9.3.2 スラグ(slag)の巻込み

溶着金属内、あるいは溶着金属と母材との境目に捕捉された酸化物や非金属固体が発生します。フィラーメタルが溶融した状態から凝固しようとするとき、溶接部でいろいろな化学反応が起こります。これらの反応からの生成物のうち、溶融金属に溶解しにくい非金属化合物は、その比重が低いので、通常は溶融金属の表面に浮かびます。これをスラグといいます。

スラグは、アークによる撹拌作用で溶融金属の中に巻き込まれることがあります。スラグは溶接棒が溶ける際に、アークの前面に流れようとします。いったんスラグが溶融金属中に混入すると、溶融金属の粘性が高く、凝固も急速に行われるので、スラグが浮き上がることができない場合があります。

図 2 スラグの巻込み  出典: CSWIP Welder Training TWI Ltd

 

(1) ルート部のスラグの巻込み:

ルートパスの溶接に対して、溶接棒径が大き過ぎると、ルート部では無く開先の両側と溶接棒との間でアークが発生します。この場合は、スラグがルート部のすき間に流れ込んだり、ルートの溶着金属中にはいり込みます。
裏はつり作業が不完全な場合、ルート部にスラグの巻込みが残存することがしばしばあります。

(2) 融合部のスラグ:

一層目溶接の次に、次の層の溶接のためにスラグの除去を行う場合、初層にアンダカットが発生していると、境目のスラグを除去することは難しいので、除去が不完全となり、スラグが残存しやすくなります。多くの場合は、次の層の溶接の加熱の熱でスラグは表面に浮き上がりますが、場合により融合部に引き伸ばされた形でスラグの巻込みとして残ることがあります。

(3) 分散したスラグ:

溶接ごとの清浄作業が不完全であると、スラグがビード面に付着し、そのため次層の溶接においてアークをさえぎり、溶融金属の溶け込みを妨げて、スラグの再溶融が出来なくなり、結果として、スラグは溶着金属中に分散した状態で残ることがあります。

 

9.3.3 融合不良(poor fusion)

溶融不良は、溶融金属と母材との境が溶融していないことを示します。つまり、母材温度を溶融点にまで高めることが出来なかったために生じたものです。

図 3 融合不良  出典:Welding Inspection and Metallurgy

 

9.3.4 溶け込み不良(poor penetration)

フィラーメタルと母材とが、ルート部分で完全に溶け合わなかったため、生じる欠陥です。開先のルート間隙間が狭すぎると発生しやすいです。すみ肉溶接でも電流が不足したときに生じます。
継手の熱の伝わり方が、溶け込み不良の欠陥に大きく影響します。仮に、ルート部より先に母材が溶融温度に到達し、開先の側面と側面との間で溶融金属が橋渡しする形になって、ルート部が溶解するより先にアークをさえぎることになります。

被覆アーク溶接では、アークは溶接棒と母材の最も近接した部分に発生し、他の部分はここからの熱伝導により溶融します。従って、溶接棒とアークを発生している母材部が、ルートから総統は慣れた距離にあると、ルート部は溶融温度に到達しない場合があります。その場合、ルートにおいて溶け込み不良を生じます。溶け込み不良があると、裏曲げ試験において割れを生じやすく、また実際に使用条件下でも、この部分に応力集中を生じ、疲れ強さの低下や脆性破壊の原因となります。

実際の構造物の溶接において、溶け込み不良の欠陥は、たいていの場合、開先の設計不良、あるいは継手の肌合せが悪いためです。片側溶接で完全な溶け込みを得ることは、たとえ開先条件が妥当であっても、かなり困難です。まして、ルート間隔が狭すぎたり、開先角度が小さ過ぎたりすると、溶接部がルート部を溶解することは不可能です。
これらの条件以外にも、生産効率を上げようとすると、太すぎる溶接棒を用いたり、運棒速度を早くし過ぎたり、電流が不足している場合に、溶け込み不良が起こります。

図 4 溶け込み不良  出典:Welding Inspection and Metallurgy

 

9.3.5 割れ(crack)

溶接継手に割れを生ずるのは、その個所に材料の強さ以上の応力が作用するためです。単軸応力下では、かなりのじん性を有する材料でも、多軸引張状態になると、ほとんど塑性変形することなく、破損することが知られています。
溶接によって発生する収縮は、しばしば多軸引張状態になり、脆性的な割れ発生の要因となりやすいです。

 

(1) ビード割れ(収縮割れ):

溶接ビード、あるいはビードと母材との境界部に生じる割れで、主として溶接によって生じるビードの収縮に起因するものです。

(a) 縦割れ:

ビードの進行方向の割れで、ビード中心線またはビードと母材との境界部からわずかに母材側に入った熱影響部に生じる割れです。クレータ割れやビード下割れは、ビード割れの特殊な形態です。
冷却速度が速い場合、例えば厚板を溶接するときや、クレータ処理を誤ってクレータが凹型になると、クレータ部に割れを生じます。高炭素鋼や合金鋼の場合、特にこのクレータ割れが生じやすいです。対策は、運棒においてクレータ処理を確実に行うこと、低水素系溶接棒を用いること、余熱を完全に行うことです。
ルート割れは、溶着金属の底部が、母材面と交わる、いわゆるルートに生じる割れで、溶接部の横断面で見ると、の矢印の部分に生じる割れのことをいいます。ルート部分が鋭角の場合、この部分がノッチ(切欠き)になって割れを発生しやすいです。
通常は、表裏両面を溶接して鋭いルート部を残さないようにします。片面からだけの溶接やすみ肉溶接では、ルート割れの危険性が大きいです。
ルート割れの伝播の仕方には2通りあります。一つは、一番もろい熱影響部に伝達するものと、もう一つは、最も力が集中しているビード中心線に向かって進行するものとがあります。
ルート割れは、拘束力が大きいときや、大電流で運棒速度を速くすると発錆しやすいです。ルート割れの対策は、低水素系溶接棒を使用するか、予熱温度を高くすることになります。

(b)横割れ:

横割れは、横方向の割れをいいます。拘束力が大きく、ビード進行方向に伸縮、わん曲が出来ないときに発生します。溶着金属のじん性が特に小さいとき、例えば、肉盛り溶接などで発生しやすいです。
対策は予熱を適正に与えることです。

(c)弧状割れ:

弧状割れは、ビードの波に直角方向に発生する割れです。じん性に乏しい溶着金属のとき発生することがあります。また、母材や溶接棒の硫黄含有量が多い場合や、冷却速度が速すぎる場合にも生じます。場合により、ビード表面に網目状に割れが重なることがあります。
対策は、低水素系溶接棒を使用するか、予熱を適正に与えることです。

 

(2)母材割れ

母材割れは、母材の熱影響部に発生します。母材の硬化能と密接に関係します。
熱影響部の硬さともろさとは、溶接の熱サイクル、特に冷却速度に著しく影響を受けます。冷却速度は、母材の温度、肉厚、熱伝導度や、溶接部断面における単位時間内の入熱量と環境温度に左右されます。

冷却速度が同一であれば、低炭素鋼の方が中炭素鋼より硬化し難いです。低合金鋼は、硬化能を高める合金元素の含有量により、低炭素鋼と同程度か、あるいは中炭素鋼以上に硬化したりします。
合金鋼の溶接については、冷却速度以外にもいろいろな要因を考慮する必要があります。

以下には、一般的な母材割れに対する対策を示します。
 ・ 予熱を十分に行い、冷却速度を遅くする。
 ・ 入熱量を調整する。
 ・ 母材に対して、適正な溶接棒を選定する。

(a) 硫黄割れ:

硫黄を多く含む鋼は、層状偏析(lamination)が生じています。母材としてこのような鋼を採用して、溶接すると、硫黄の偏析層(laminatio)に沿って、割れが発生します。これを、硫黄割れといいます。
対策は、低水素系溶接棒を使用することです。

(b) ビード下割れ:

ビード直下で、溶融線に接近した熱影響部に、溶接線に平行に発生する割れをビード下割れといいます。
ビード下割れは、高炭素鋼や低合金鋼などの硬化能の高い、焼が入りやすい鋼を、低水素系溶接棒以外の種類の溶接棒で溶接すると、発生します。
主な原因は、溶接入熱による熱影響部の硬化、残留応力、および溶着金属側から拡散により熱影響部に侵入してきた水素によるものと考えられます。
対策としては、焼が入りやすい母材に対しては、低水素系溶接棒を使用すること、それでも割れが発生するようでしたら、予熱をより十分に実施するようにします。

(c) トゥ割れ(toe crack):

溶接部の止端(トゥ)に発生する割れをいいます。アンダカット部に生じます。トゥ割れは、溶接の熱影響部の効果が著しい母材で発生しやすいです。
対策としては、予熱を十分に行います。

図 5 割れ  出典:溶接検査マニュアル、溶接用語事典

 

 

参考文献
溶接検査マニュアル   吉田亨 他  工学図書  1978年
溶接用語事典  溶接学会  産報出版  1981年
CSWIP Welder Training Defects/Repairs   M.S.Rogers  TWI Ltd copylight 2003
Welding Inspection and Metallurgy  API RECOMMENDED PRACTICE 577  FIRST ED. 2004年
WELDING SCIENCE AND TECHNOLOGY Md. Ibrahim Khan NEW AGE INTERNATIONAL PUBLISHERS 2007年

引用図表
図1ブローホール  出典: CSWIP Welder Training TWI Ltd
図2 スラグの巻込み  出典: CSWIP Welder Training TWI Ltd
図3融合不良  出典:Welding Inspection and Metallurgy
図4溶け込み不良  出典:Welding Inspection and Metallurgy
図5割れ  出典:溶接検査マニュアル、溶接用語事典

ORG:2024/08/23