稼働分析
稼働分析(operating analysis)
Contents
1. 稼働分析とは
稼働分析とは、「作業現場における人・機械・材料の稼働状況を調査・分析し、ムダを排除して生産性を向上させるための手法」と定義されます。製造業だけでなく、顧客対応時間の分析や書類作成の効率化など、サービス業やオフィス業務にも適用可能です。
稼働分析の目的は、大きく分けて以下の3つです:
(1)作業時間の削減:生産時間を短縮し、製品コストの削減に貢献する
(2)作業の標準化:作業者全員が同じ基準で作業できるようにし、品質の安定化を図る
(3)作業負荷の軽減:適切な作業環境や支援具を提供することで、作業者の負担を軽減し、労働環境を向上させる
2. 稼働分析とタイムスタディの違い
稼働分析とタイムスタディ(時間研究)は混同されがちですが、両者は異なります。
(1)タイムスタディは、「作業時間そのもの」に焦点を当て、標準作業時間を設定することを目的とします。
(2)稼働分析は、「動作の質や流れ」に注目し、より包括的にプロセスの改善点を見つけることを目的とします。
3. 稼働分析の基本要素
稼働分析は、以下の基本要素から成り立っています:
(1)観察:実際の作業状況を直接観察し、非効率な点や問題点を発見します。客観的かつ詳細な記録が重要となります。
(2)作業区分:作業を「付加価値作業」と「非付加価値作業」に分類します。非付加価値作業を削減・排除することが改善の鍵となります。
1)付加価値作業:製品やサービスに直接的な価値を加える作業
2)非付加価値作業:ムダや停滞を生み出す可能性がある作業
(3)動作経済の原則:身体の動きや移動を最小限に抑え、両手をバランスよく使い、視線を一定に保つなど、動作を最適化します。
(4)作業環境:温度、照明、騒音、作業台の高さなど、作業効率に影響する環境要因を最適化します。
4. 稼働分析の手法
稼働分析には、様々な手法があります。ここでは、代表的な手法として以下の5つが挙げられます。
(1)時間研究:各工程にかかる時間を詳細に測定し、最適な作業時間を算出する手法。作業の効率化や標準化に役立ちます。
(2)動作研究:作業者の動作を詳細に観察し、無駄な動作を排除する手法。作業者の負担軽減や作業効率の向上が期待できます。
(3)工程分析:作業の流れや工程を詳細に分析し、最適な作業手順を確立する手法。作業の標準化や効率化に役立ちます。
(4)レイアウト分析:作業場のレイアウトを分析し、最適な配置を決定する手法。作業効率の向上や作業者の動線の最適化に役立ちます。
(5)ワーク・サンプリング:作業の一部をサンプリングし、全体の作業効率を推測する手法。短時間で効率的な分析が可能となります。
5. 稼働分析の進め方
稼働分析は、一般的に以下のステップに従って行われます。
(1)目標の確立:稼働分析を行う目的を明確にします。例えば、生産ラインのボトルネックの解明、非稼働時間の特定など、具体的な目標を設定します。
(2)観測計画の策定:観測を行う時間帯、頻度、持続時間などを決定します。目的や対象作業の特性に合わせて計画を立てます。サンプルサイズや観測タイミングは科学的に設計する必要があります。
(3)観測ツールの準備*:観測のためのツールやシステムを準備します。サンプリングシート、モバイルアプリ、携帯型デバイスなどが用いられます。ツールの信頼性を確認するため、事前に試験観測を行うことが推奨されます。
(4)実施と記録:計画に基づき観測を行い、要素ごとに記録します。ランダム選択の原則を遵守し、観察者の主観を排除することが重要となります。観測対象の正確な分類や記録方法を徹底するため、観測者に対する適切な訓練が必要です。
(5)データの取りまとめと分析:記録したデータを集計し、稼働率や不稼働要因を算出します。統計的手法を用いてデータの信頼性を確保し、客観的な解釈を行うことが必要です。
(6)レポートの作成:分析結果を取りまとめたレポートを作成し、関連する改善策提案を含めます。グラフや表を用いて視覚的に分かりやすくまとめることが重要になります。
(7)フィードバックと改善計画:得られた結果を関係部門と共有し、協議を行い、改善計画を策定します。改善計画は、現場スタッフや経営層に分かりやすく伝え、実行可能なものである必要があります。
(8)改善の実施:策定した改善計画に基づき、具体的な改善策を実行します。
(9)効果の検証:改善策実施後の効果を検証し、目標達成度を評価します。必要に応じて、改善策を見直し、継続的な改善サイクルを回していきます。
6. 稼働分析から得られるデータの解析
稼働分析で取得したデータは、作業効率改善のための重要な情報源となります。データ解析の流れは以下の通りです。
(1)データ集計:収集した観測データを基に、各作業ステータスの頻度を集計します。統計的手法を適用して信頼性を確保し、特異値についても確認も行わねばなりません。
(2)稼働率と非稼働率の算出:データから、設備機械や作業員の稼働率と非稼働率を算出し、どのステータスが生産性に寄与しているかを評価します。
(3)トレンド分析:時系列データとして観測結果を解析することで、時間帯や日付ごとのパターンやトレンドを把握します。これにより、ボトルネックや特定の動向を見つけ出すことができます。
(4)異常検出:特定日にのみ現れる異常な動作や、希少なイベントを統計的に特定することにより、不正のアラートを上げることが可能になります。
(5)可視化とコミュニケーション:結果をグラフィカルに可視化し、現場スタッフや経営層に共有することで、理解と合意形成をスムーズに進めるようにします。
(6)改善策の提案と実行:解析結果に基づき、最も影響力の大きい領域に対して改善策を提案します。持続的な改善と長期的な生産性向上を目指します。
7. 稼働分析の実施例
稼働分析は、様々な現場で活用されています。以下に具体的な事例をいくつか紹介します。
(1)自動車製造業:
・ 組立ラインのバランス調整
・ ボトルネック工程の解消
・ 品質問題の原因究明
(2)電子部品製造業:
・ SMTラインの稼働率向上
・ 検査工程の効率化
・ 不良品発生原因の特定
(3)物流業:
・ ピッキング作業の効率化
・ 荷物の仕分け作業の改善
・ 配送ルートの最適化
(4)オフィス作業:
・ 事務作業の効率化
・ 会議時間の短縮
・ 文書作成の改善
8. 稼働分析のメリット・デメリット
8.1 稼働分析のメリット:
・ 短時間で容易に実施できる: ストップウォッチなどを用いた詳細な計測が不要なため、短時間でデータ収集が可能です。
・作業者への負担が少ない: 長時間観察されることにより受けるストレスや、計測されることへのプレッシャーが少ないです。
・ 多様な作業に適用できる: 時間観測が難しい複雑な作業や、複数の作業者が関わる工程にも適用が可能です。
・ コストパフォーマンスに優れている: 特別な機材やソフトウェアが不要な場合が多く、低コストで実施できます。
8.2稼働分析のデメリット:
・ 一度に多くのデータを取得するのが難しいです。
・ 予期せぬ要因やきっかけを短期間で把握することは難しいです。
9. 稼働分析の将来
AIやIoTなどの技術革新により、稼働分析は今後ますます進化していくと予想されます。
例えば、センサーやカメラで取得した膨大なデータをAIや機械学習を用いて自動的に分析することで、従来は困難であった複雑な作業の分析や、潜在的な問題点の発見などが可能になると期待されています。
10. まとめ
稼働分析は、人・機械・材料の稼働状況を分析し、ムダを排除することで生産性向上を目指す手法です。
様々な現場で活用されており、製造業だけでなく、サービス業やオフィス業務にも適用可能です。
稼働分析を効果的に行うためには、目的を明確にし、適切な計画を立て、信頼性の高いデータを取得することが重要です。また、現場の声を重視し、継続的な改善サイクルを回していくことが、成功の鍵となります.
ORG:2024/12/24