材料の結晶構造

材料の結晶構造( Crystal structure of the material )
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Contents
1. エンジニアリング材料の分類
我々技術者は驚くほど多様なエンジニアリング材料に遭遇します。金属、プラスチック、セラミックスは、エンジニアリング分野で材料の特性を説明するのに使われる一般的な用語の一部です。
これらの材料は、人工物を創り出すものとして、マイクロチップのシリコン材料のように非常に小さい場合もあれば、明石大橋のような大型の溶接鋼構造物のように非常に大きい場合もあります。このような多様な材料は、我々が現代を生き抜くために必要な材料であり、第一次産業革命とときの鋳鉄・錬鉄のようにその性質が大きな影響を与えていることは明白です。
ものづくりを行うエンジニアは多くの場合、コンポーネントや構造物の機能、そして故障のリスクなしにすることに関心を持っています。その基礎となる適切な材料の選択には、材料科学者が必要な設計データを提供し、新しい材料を合成および開発し、不具合を分析し、最終的に望ましい形状、形態、特性を持つ材料を許容可能なコストで製造する必要があります。これらものづくり、その基礎となる材料開発について、両法の分野の専門家間のコラボレーションが重要です。
エンジニアが利用可能な材料をクラスとして分類すると、図1のようになるのではと考えられます。主要なセクターとしては、金属、セラミック、ポリマー(プラスチック)が考えられます。これらの材料は何れも、非結晶の形で製造できますので、図の中央には、コアとしてガラスが示されています。
異なる特性を持つ2つ以上の材料を組み合わせることは、何世紀も前からある方法で、重要な複合材料が製造されています。最近の例としては、炭素繊維強化ポリマー(CFRP)や金属マトリックス複合材料(MMC)があります。
図1材料の分類 出典(参考):Modern Physical Metallurgy and Materials Engineering 6th ed.
以下に、各種材料についてそれらが取られる結晶構造について示します。
2. 金属材料の結晶構造
金属材料は、その結晶構造によって特性が大きく異なります。ここでは、金属材料を鉄系、非鉄金属系、その他に分けて、それぞれの結晶構造と特性について記述します。
2.1 鉄系金属
鉄系金属は、鉄を主成分とする金属材料であり、その結晶構造は温度によって変化します。この結晶構造の変化は同素変態(allotropic transformation)と呼ばれ、鉄系金属の特性に大きな影響を与えます。
2.1.1 鉄の同素変態
純鉄は、温度変化によって以下の結晶構造に変化します(図2)。
・ α鉄(α-Fe): 常温から910℃までは、体心立方格子(BCC)構造を持つα鉄が安定です。α鉄は強磁性を示し、硬くて脆い性質があります。
・ γ鉄(γ-Fe): 910℃から1390℃までは、面心立方格子(FCC)構造を持つγ鉄が安定です。γ鉄は常磁性を示し、α鉄よりも延性と靭性に優れています。
・ δ鉄(δ-Fe): 1390℃から融点(1538℃)までは、再び体心立方格子構造(BCC)を持つδ鉄が安定となります。δ鉄はα鉄と同様に強磁性です。
図2純鉄の温度変化による結晶構造の変化 出典:機械マンのための実用熱処理読本 他
2.1.2 鉄の変態点
鉄の同素変態が起こる温度は、加熱時と冷却時でわずかに異なります。この温度差をヒステリシスと呼びます。
・ Ac3変態点: 加熱時にα鉄からγ鉄に変態する温度(約910℃+)
・ Ac4変態点: 加熱時にγ鉄からδ鉄に変態する温度(約1390℃+)
・ Ar4変態点: 冷却時にδ鉄からγ鉄に変態する温度(約1390℃-)
・ Ar3変態点: 冷却時にγ鉄からα鉄に変態する温度(約910℃-)
2.1.3 急冷による準安定状態
鉄を高温から急冷すると、高温時の結晶構造が低温まで保持されることがあります。このような状態を準安定状態と呼びます。例えば、オーステナイト (γ鉄に炭素が固溶した組織) を急冷すると、マルテンサイトと呼ばれる非常に硬い組織が生成されます。
2.1.4 鉄系合金の組織
鉄に炭素などの元素を添加することで、様々な組織を持つ鉄系合金が得られます。これらの組織は、鉄系合金の機械的性質、耐食性、耐熱性などに大きな影響を与えます。
・ フェライト(ferrite): α鉄に炭素が固溶した組織です。フェライトは軟らかく、延性に優れています。炭素含有量が少ないほど、フェライトの割合が増加し、鉄鋼は軟くなります。
・ オーステナイト(austenite): γ鉄に炭素が固溶した組織です。オーステナイトは高温で安定であり、非磁性です。炭素含有量が多いほど、オーステナイトの安定温度範囲は広がります。
・ セメンタイト(cementite): 鉄と炭素が化合してできた化合物(Fe3C)です。セメンタイトは非常に硬く脆い性質があります。
・ パーライト(pearlite): フェライトとセメンタイトが層状に交互に並んだ組織です。パーライトは、オーステナイトからの共析反応によって生成されます。パーライトは強度と硬さが高いですが、延性は低くなります。
・ マルテンサイト(martensite): オーステナイトを急冷することで得られる準安定な組織です。マルテンサイトは非常に硬く脆い性質があり、強度と硬さを必要とする部品に利用されます。
2.1.5 鉄鋼の種類
鉄系合金の中でも、特に炭素含有量が比較的少ない鉄鋼は、構造材料として広く利用されています。鉄鋼は、炭素含有量によって、低炭素鋼、中炭素鋼、高炭素鋼に分類されます。また、炭素以外の元素を添加した合金鋼も広く利用されています。
・ 炭素鋼: 炭素を主たる合金元素とする鉄鋼です。炭素含有量によって、機械的性質が大きく変化します。炭素含有量が多いほど、強度と硬さは高くなりますが、延性と靭性は低下します。
/ 低炭素鋼(炭素含有量 0.25%以下): 軟鋼とも呼ばれ、溶接性、加工性に優れています。建築材料、自動車車体などに使用されます。
/ 中炭素鋼(炭素含有量 0.25%~0.6%): 強度と靭性のバランスが良く、機械部品、シャフトなどに使用されます。
/ 高炭素鋼(炭素含有量 0.6%以上): 硬さと耐摩耗性に優れていますが、脆いため、工具、刃物などに使用されます。
・ 合金鋼: 炭素以外の元素を添加した鉄鋼です。添加元素によって、強度、硬さ、耐食性、耐熱性などの特性を向上させることができます。
/ ステンレス鋼: クロム(Cr)やニッケル(Ni)を添加した耐食性に優れた鉄鋼です。台所用品、医療機器などに使用されます。
/ 工具鋼: 高硬度、耐摩耗性を必要とする工具に使用される鉄鋼です。タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)などを添加することで、硬さと耐摩耗性とを向上させています。
/ 耐熱鋼: 高温強度、耐酸化性を必要とするボイラー、タービンなどに使用される鉄鋼です。クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)などを添加することで、高温強度と耐酸化性を向上させています。
2.2 非鉄金属
鉄以外の金属を主成分とする金属材料を非鉄金属と呼びます。非鉄金属には、アルミニウム、銅、マグネシウム、チタンなど、様々な金属があります。非鉄金属は、鉄系金属と比較して軽量である、耐食性に優れている、電気伝導性や熱伝導性に優れているなどの特徴があります。
以下に、各種非鉄金属の特徴と用途を示します。
・ アルミニウム(Al): 軽量で、耐食性に優れており、加工しやすいという特徴があります。航空機、自動車、建築材料、包装材などに広く利用されています。 アルミニウムは、面心立方格子(FCC)構造を持ちます。
・ 銅(Cu): 電気伝導性、熱伝導性に優れており、耐食性も比較的高いという特徴があります。電線、電気部品、配管、貨幣などに広く利用されています。 銅は、面心立方格子(FCC)構造を持ちます。
・ マグネシウム(Mg): 非常に軽量で、振動吸収性に優れているという特徴があります。航空機、自動車部品、スポーツ用品などに利用されています。軽量である特徴を利用してPCノートの筐体に用いられます。マグネシウムは、六方最密充填構造(HCP)を持ちます。
・ チタン(Ti): 強度が高く、耐食性、耐熱性に優れているという特徴があります。航空機、宇宙開発、医療機器、化学プラントなどに利用されています。 チタンは、低温では六方最密充填構造(HCP)を持ち、高温では体心立方格子(BCC)構造に変化します。
・ 亜鉛(Zn): 耐食性があり、めっき材として広く利用されています。鉄板に亜鉛めっきを施したものは、亜鉛めっき鋼板またはトタンと呼ばれ、建築材料、自動車車体などに使用されます。亜鉛は、六方最密充填構造(HCP)を持ちます。
・ 鉛(Pb): 軟らかく、耐食性があり、遮音性に優れているという特徴があります。鉛蓄電池、はんだ、放射線遮蔽材などに利用されています。鉛は、面心立方格子(FCC)構造を持ちます。
・ ニッケル(Ni): 耐食性、耐熱性に優れており、鉄鋼の合金元素としても広く利用されています。ステンレス鋼、耐熱鋼、磁性材料などに使用されます。ニッケルは、面心立方格子(FCC)構造を持ちます。
2.3 その他の材料
2.3.1 プラスチック
プラスチックは、高分子化合物からなる材料であり、軽量で、加工が容易である、耐腐食性が高い、電気絶縁性が高いなどの特徴があります。プラスチックは、その分子構造によって、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂に分類されます。
(1)熱可塑性樹脂:
熱を加えると軟化し、冷却すると硬化する性質を持つ樹脂です。分子鎖が鎖状になっているため、熱を加えることで分子鎖が自由に動けるようになり、軟化します。冷却すると分子鎖の動きが制限され、再び硬化します。
・ ポリエチレン(PE): 包装フィルム、容器、パイプなどに広く利用されています。 ポリエチレンは、結晶化の度合によって、高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)に分けられます。 HDPE は LDPE より結晶化度が高く、硬くて強度があります。
・ ポリプロピレン(PP): 自動車部品、容器、繊維などに広く利用されています。 ポリプロピレンは、結晶化の度合によって、アイソタクチックポリプロピレン(iPP)とアタクチックポリプロピレン(aPP)に分けられます。 iPP は aPP より結晶化度が高く、強度があります。
・ ポリスチレン(PS): 容器、食器、断熱材などに広く利用されています。
・ ポリ塩化ビニル(PVC): パイプ、床材、壁紙などに広く利用されています。
(2)熱硬化性樹脂:
一度硬化すると、再び熱を加えても軟化しない性質を持つ樹脂です。分子鎖が三次元的に架橋されているため、熱を加えても分子鎖が動かず、軟化しません。
・ フェノール樹脂: 電気部品、接着剤、塗料などに広く利用されています。
・ エポキシ樹脂: 接着剤、塗料、複合材料などに広く利用されています。
・ メラミン樹脂: 食器、家具、建材などに広く利用されています。
2.3.2 セラミックス
セラミックスは、金属酸化物、炭化物、窒化物などの無機化合物を高温で焼成して得られる材料です。セラミックスは、硬くて耐熱性が高い、耐腐食性が高い、電気絶縁性が高いなどの特徴があります。
・ アルミナ(Al2O3): 耐熱性、耐摩耗性に優れており、電気絶縁性も高いという特徴があります。耐火物、研磨材、電子部品などに広く利用されています。 アルミナは、酸素イオンが六方最密充填構造(HCP)を形成し、その八面体間隙にアルミニウムイオンが占有された構造をしています。
・ ジルコニア(ZrO2): 耐熱性、耐食性に優れており、強度も高いという特徴があります。耐火物、研磨材、センサーなどに広く利用されています。
・ 窒化ケイ素(Si3N4): 硬度が高く、耐熱性、耐摩耗性に優れているという特徴があります。切削工具、ベアリング、エンジン部品などに広く利用されています。
2.3.3 ガラス
ガラスは、非晶質の固体の代表的な材料です。透明で、硬く脆いという特徴があります。ガラスは、高温で溶融した原料を冷却することで得られます。冷却速度が速いため、原子の規則的な配列ができず、非晶質な構造になります。
・ ソーダ石灰ガラス: シリカ(SiO2)、ソーダ灰(Na2CO3)、石灰石(CaCO3)を原料とする最も一般的なガラスです。窓ガラス、瓶、食器などに広く利用されています。
・ 鉛ガラス: ソーダ石灰ガラスに酸化鉛(PbO)を添加したガラスです。透明度が高く、屈折率が高いという特徴があります。光学レンズ、クリスタルガラスなどに利用されています。
・ ホウケイ酸ガラス: ソーダ石灰ガラスに酸化ホウ素(B2O3)を添加したガラスです。耐熱性、耐薬品性に優れているという特徴があります。実験器具、調理器具、耐熱ガラスなどに利用されています。
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参考文献
Modern Physical Metallurgy and Materials Engineering 6th ed. R.E. Smallman, R.J. Butterworth Heinemann
若い技術者のための機械・金属材料 矢島悦次郎、市川理衛、古沢浩一 丸善 S48年
機械マンのための実用熱処理読本 ジャパンマシニスト社
引用図表
図1材料の分類 出典(参考):Modern Physical Metallurgy and Materials Engineering 6th ed.
図2純鉄の温度変化による結晶構造の変化 出典:機械マンのための実用熱処理読本 他
ORG:2025/01/13