ダイアフラム型圧力計

ダイアフラム型圧力計
(Diaphragm type pressure gauge)

 

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Contents

1. ダイアフラム型圧力計の基本原理と弾性式圧力計における位置づけ

1.1. 弾性式圧力計の多様性とダイアフラム型が占める役割

圧力計測の分野において、弾性式圧力計は不可欠な存在です。これは、ブルドン管、ベローズ、チャンバ(空盒)、そしてダイアフラムといった、金属や非金属の弾性素子を受圧部に持ち、その物理的な変位や変形を圧力として定量的に検出する計測器の総称です。これらの弾性素子は、それぞれが異なる特性と得意とする圧力範囲を有しており、計測用途に応じて最適なものが選択されます。
この多様な弾性式圧力計の中で、ダイアフラム型は特に重要な位置を占めています。ダイアフラム(Diaphragm)は、周囲を固定された柔軟な円形または波形の薄板からなる弾性素子であり、圧力が加えられると中心部が変位します。このシンプルながらも効果的な構造により、ブルドン管では困難とされる、極めて小さな圧力差(微差圧)や低圧の計測において、高い感度と精度を発揮します。これは、ダイアフラムが「面」で圧力を受け止めるため、受圧面積を調整することで感度を意図的に高めることができるという物理的な特性に基づいています。加えて、流体の種類を選ばない汎用性や、後述する過負荷に対する高い耐性から、幅広い産業分野で採用されています。

 

1.2. ダイアフラムの変位とフックの法則:計測の物理的根幹

ダイアフラム型圧力計の計測原理は、物理学の基本的な定義に基づいています。圧力(P)は、単位面積(A)あたりに垂直に作用する力(F)として定義されます(P=F/A)。ダイアフラムは、この流体圧力をその表面で均等に受け止め、その圧力に応じた力が生じます。この力によって生じるダイアフラムの機械的な変位、あるいは表面に発生する歪みを測定することで、圧力を定量化するのです。
この変形量は、ダイアフラムの材質が持つ弾性特性と、その板厚や形状に依存します。弾性限度内であれば、変形量は加えられた圧力に正確に比例します。この線形な関係は、弾性変形におけるフックの法則として知られており、圧力計測の信頼性を担保する物理的な根幹となります。
初期の機械式ダイアフラム圧力計では、この変位を歯車やリンク機構といった機械的な拡大機構によって指針に伝達し、指示値を得ていました。しかし、この方式は部品の摩耗やバックラッシュ、摩擦によるヒステリシスといった機械的な伝達誤差を避けられません。現代の工業計測においては、このような機械的要因を排除し、より高精度な計測を実現するために、この変位や歪みを電気信号に直接変換する圧力変換器(Pressure Transducer)や圧力発信器(Pressure Transmitter)が主流となっています。これにより、アナログまたはデジタルの電気信号として遠隔地にデータを送信することが可能となり、自動制御システムへの統合が飛躍的に進みました。

図 ダイヤフラム型圧力計:機械式から電気信号変換式へ  出典:Mechanical Pressure Measurement David Gardellin, P.E.、Electronic Pressure Measurement  Eugen Gaßmann, Anna Gries Süddeutscher Verlag onpact GmbH 2010年

 

1.3. ブルドン管圧力計との対比:性能、用途、そして技術的優位性

ダイアフラム型圧力計は、同様の作動原理であるブルドン管圧力計と常に比較されます。ブルドン管は、楕円断面の管を円弧状に曲げ、一端を閉塞した構造を持ち、内圧により管が膨張・変位する原理を利用しますこのブルドン管は、0.6 barから10,000 bar(約1 GPa)までの広範な圧力に対応できる汎用性の高さが最大の強みです。構造が比較的単純で、堅牢かつ取り扱いが容易であるため、現在も最も広く使用されている圧力計です。
しかし、ブルドン管は微圧測定の精度や感度が劣るという技術的な限界を抱えています。これは、圧力による変位量がわずか3〜4mm程度と小さいため、これを拡大機構で増幅する必要があり、その過程で伝達誤差やヒステリシスが発生しやすいことに起因します。

一方、ダイアフラム型はブルドン管が苦手とする領域でその真価を発揮します。
1. 低圧・微差圧計測への適性:
ダイアフラムは、その構造上、わずかな圧力変化に対しても大きな変位を生じさせることが可能です。この特性は、微圧・微差圧の計測に最適であり、マノメータ(液柱形圧力計)が持つ液体取り扱いの煩雑さや汚染リスクといった欠点を回避しつつ、高い測定感度を実現します。
2. 高い過負荷耐性:
後述するバックアッププレートを併用する設計により、定格圧力の数倍に及ぶような急激な圧力サージ(ウォーターハンマーなど)に対しても、永久変形や破損を起こしにくいという決定的な利点があります。
3. 腐食性・粘性流体への適応性:
ダイアフラムシール(ケミカルシール)を組み合わせることで、腐食性や高粘性のプロセス流体がセンサ本体に直接接触するのを防ぎ、圧力計の寿命を大幅に延ばすことが可能です。
この比較から浮かび上がるのは、ダイアフラム型圧力計がブルドン管の技術的限界を補完・克服するために発展してきたという歴史的経緯です。ブルドン管が「万能な圧力計」として広範な用途をカバーするのに対し、ダイアフラムは「特定の課題を解決する専門家」として独自の地位を築いてきました。特に、プロセス計測において流量や液面を間接的に測定する差圧トランスミッタとしての役割は、他の方式にはないダイアフラム型ならではの強みであり、現代のプロセス制御に不可欠な技術的基盤となっています。

 

2. 高精度・高耐久性を実現するダイアフラムの構造と材料選定

2.1. 波形成形とバックアッププレート:過負荷耐性と信頼性の技術

ダイアフラム型圧力計は、そのシンプルさゆえに、内部構造と材料の選択が性能と信頼性を決定づけます。特に、金属製のダイアフラムは、その弾性特性と変位の安定性を向上させるために、波形に成形されるのが一般的です。この波形構造は、同一の有効面積を持つベローズと比較した場合、直径が大きくなるという不利な側面もありますが、その設計上の最大の利点は、ダイアフラムと同形状のバックアッププレートを併設できる点にあります。
バックアッププレートは、ダイアフラムの変位が許容範囲を超えた際に、物理的にダイアフラムを支持する役割を担います。これにより、プロセスラインで発生しうるウォーターハンマーや急激な圧力サージ(オーバー圧力)による永久変形や破損を効果的に防止します。この設計は、ダイアフラム型圧力計が、比較的低い測定範囲を持ちながらも、過酷なプロセス環境下で高い安全性を確保するための重要なフェイルセーフ設計として機能していることを示しています。ブルドン管の場合は、スナッバーや圧力リリーフ弁といった外部保護機構を付加することが一般的であるのに対し、ダイアフラム型はセンサ自体が保護機能を内蔵できるという点で、その設計思想に大きな違いがあります。この堅牢な構造が、現場での不測の事態から計測器を守り、メンテナンスコストとダウンタイムを削減する上で極めて有効となります。

 

2.2. 過酷なプロセス流体への対応:耐食性材料の特性と選定基準

ダイアフラムの材料選定は、測定媒体(プロセス流体)の腐食性、温度範囲、および要求される精度に大きく依存します。不適切な材料選定は、単に圧力計の故障に留まらず、流体漏洩や重大事故に繋がる可能性があるため、技術者にとってプロセス安全管理における最重要課題の一つです。

以下に、主要なダイアフラム材料とその特性を示します。

表 主要なダイヤフラム型圧力計の材質  出典:ORIGINAL

材料選定は、サプライヤーが提供する耐食性データを鵜呑みにせず、実際のプロセス流体の濃度、温度、圧力といった条件を総合的に考慮した上で、専門的な判断が求められます。特に、複数の流体が混合される場合や、温度・濃度が大きく変動するプロセスでは、複合的な腐食リスクを評価する能力が不可欠となります。

 

2.3. ダイアフラムシール(ケミカルシール)の役割:プロセス流体との隔離技術

腐食性、粘性、または高温のプロセス流体を測定する場合、ダイアフラムと計測器本体の間にダイアフラムシール(ケミカルシール)を組み込むことが一般的です。この技術は、プロセス流体が圧力計の内部機構、特に電気式センサの敏感な部分に直接接触するのを防ぎ、腐食や詰まりを回避するために不可欠です。
ダイアフラムシールは、プロセス流体と接触するダイアフラムと、圧力計本体の間に不活性な封入液(通常はシリコーン液など)を充填することで機能します。プロセス側の圧力がダイアフラムを介して封入液に伝わり、その圧力がそのまま圧力計本体のセンサに伝達される仕組みです。
この技術は、センサ本体の保護だけでなく、プロセス流体とセンサ間の界面を最適化する役割も担います。例えば、粘性の高い流体やスラリーを測定する場合、直接接触を避けることで、導圧配管の詰まりを防止し、メンテナンス頻度を大幅に削減できます。さらに、高温流体の場合は、封入液が熱を拡散させる役割を果たすことで、センサ本体が耐熱温度を超えるのを防ぎます。このように、ダイアフラムシールは、センサの信頼性を高め、メンテナンスコストを削減し、プロセス全体の安定運用に貢献する、地味ながらも極めて重要な技術要素です。

 

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3. 半導体技術によるダイアフラムセンサの進化と高機能化

3.1. ひずみゲージからモノリシックMEMSへ:センサの小型化と高信頼性

ダイアフラム型圧力計が現代の工業計測において不可欠な存在となった背景には、半導体技術の飛躍的な進展があります。初期の電気式圧力計は、ダイアフラムの変形による歪みを検出するために、金属製の抵抗ひずみゲージを接着する方式が主流でした。しかし、この方式は接着剤の経時劣化や、接着作業のばらつきが精度や信頼性に影響を及ぼすという課題を抱えていました。
この課題を克服し、圧力センサに革命をもたらしたのがシリコンマイクロマシニング(MEMS)技術です。MEMS技術は、半導体製造プロセスを用いて、シリコンの単結晶板にダイアフラムと抵抗ゲージ部を一体化(モノリシック化)することを可能にしました。この一体化された半導体圧力変換器は、従来の接着方式が抱えていた製造上の難しさを根本から解決しました。

図 MEMS技術  出典:PRESSURE MEASUREMENT IN VACUUM TECHNOLOGY   mks Technical Note  2021年

MEMS技術によるモノリシックセンサは、以下のような画期的な長所があります。
1. 高信頼性・高精度:
接着工程が不要になったことで、センサの製造ばらつきや経年劣化が大幅に低減され、高い信頼性と長期安定性を実現しました。
2. 小型化・低コスト化:
半導体製造プロセスの一括加工により、超小型で高精度なセンサを低コストで大量生産することが可能となり、圧力センサの応用範囲を携帯機器から医療機器まで一気に拡大させました。
3. 集積化:
センサチップ上にアンプや温度補償回路といった信号処理回路を内蔵できるようになったことで、センサは単なる受動的な計測素子から、自律的に信号を処理する「インテリジェントセンサ」へと進化しました。
この技術的変革は、現場での設置後のチューニング作業を簡素化し、複雑な制御システムへの統合を容易にしました。半導体センサが産業界の様々なアプリケーションで広く採用されるようになったのは、このMEMS技術による高信頼性、小型化、そして高機能化が背景にあります。

図 モノリシック化されたダイヤフラム型圧力計  出典:Lessons In Industrial Instrumentation by Tony R. Kuphaldt Version 1.0 2009年

 

3.2. ピエゾ抵抗型センサの核心:ホイートストンブリッジ回路と信号検出

MEMS技術を用いたダイアフラム型センサで最も広く利用されているのが、ピエゾ抵抗型センサです。その検出原理は、ダイアフラムのひずみによって生じる抵抗値の変化を、ホイートストンブリッジ回路で検出することにあります。
ホイートストンブリッジ回路は、4つの抵抗で構成される回路で、圧力によるダイアフラムのたわみで一部の抵抗に生じる応力(ひずみ)を、電圧の差として正確に捉えます。シリコン半導体は、金属ひずみゲージよりも応力に対する抵抗変化率(ゲージ率)が格段に高いため、高感度かつ高出力の信号を得ることが可能です。この差電圧は、圧力に比例した電気信号として出力され、高精度な圧力計測を実現します。

 

3.3. 高精度計測の鍵:温度ドリフトと温度補償回路の原理

半導体センサは、その物性上、周囲温度の変化によって出力値が変動する温度ドリフトという課題を抱えています。このドリフトは、測定値の信頼性を損なうため、高精度な計測を実現するには、温度による変動を補償する技術が不可欠となります。
現代のセンサは、この温度ドリフトを克服するために、チップ内に高度な温度補償回路を組み込んでいます。
1. オフセット温度補償:
センサ出力がゼロ圧力時に示す温度による変動(オフセットドリフト)を補正するために、センサ信号を増幅するOPアンプの温度特性を制御し、センサ自体の温度特性と逆方向の特性を持たせることで、オフセット変動を相殺します。
2. 感度温度補償:
圧力に対する出力感度の温度変動を補正するために、センサを定電流で駆動し、NTCサーミスタのような温度によって抵抗値が変化する素子をブリッジ回路に並列に挿入することで、感度変化を補正します。NTCサーミスタは、温度上昇によって抵抗値が低下する特性を利用して、温度による特性変化に対して補償をかける用途で広く使用されています。

これらの温度補償技術が高度に組み込まれているからこそ、現代の半導体センサは、温度変化が大きい過酷な環境下でも安定した計測を可能にしています。高精度を謳えるセンサは、単にセンサ素子の性能が高いだけでなく、この「見えない技術」によって支えられているのです。

 

3.4. 静電容量型センサ:微圧・高感度計測を可能にする技術

ピエゾ抵抗型センサが汎用性とコストパフォーマンスに優れる一方で、静電容量型センサは、極めて高い感度と安定性を追求したもう一つの重要なダイアフラムセンサ技術です。
静電容量型センサは、感圧ダイアフラムを2枚の固定された電極の間に配置し、圧力によってダイアフラムが変形することで、電極間の静電容量が変化する原理を利用します。圧力が印加されると、一方の電極との距離が縮まり静電容量が増加する一方で、もう一方の電極との距離は広がり静電容量が減少します。この容量変化を交流ブリッジなどで高精度に検出することで、圧力を測定します。
静電容量型センサの大きな特徴は、その卓越した感度と広いダイナミックレンジです。単一のヘッドで10-6 torr(約0.133 mPa)の真空から大気圧まで、4〜5桁にわたる広い圧力範囲を測定できる製品も存在します。その高い精度から、研究開発や半導体製造プロセスのような、微小な圧力変化が品質に直結するアプリケーションで特に価値を発揮します。また、他の圧力計を校正するための標準器として使用される場合もあります。
以下に、ピエゾ抵抗型と静電容量型センサの技術比較を示します。

表 ピエゾ抵抗型センサと静電容量型センサの技術比較  出典:ORIGINAL

このように、ピエゾ抵抗型が汎用性とコストパフォーマンスに優れる一方、静電容量型は高感度・高精度を徹底的に追求した技術です。技術者は、自身のアプリケーションがどちらの特性をより重視するかを判断し、適切なセンサ技術を選定するための深い洞察を持つべきです。

 

4. 差圧トランスミッタとしての応用技術とプロセス計測

4.1. 差圧計測の基本:コモンモード圧力除去能力の重要性

ダイアフラム型圧力計の最も重要な応用の一つが、差圧トランスミッタ(Differential Pressure Transmitter; DP Transmitter)としての利用です。DPトランスミッタは、その優れたコモンモード圧力除去能力により、流量、液面、密度といった多くのプロセス変数を、圧力差から間接的に(推論的に)計測するために使用されます。
DPトランスミッタは、ハイ側(H)ポートとロー側(L)ポートの間にダイアフラムを配置し、両ポート間の圧力差(ΔP)のみを測定するように設計されています。ここで、コモンモード圧力とは、両ポートに等しく加えられるゲージ圧力のことであり、プロセスラインの静圧に相当します。例えば、DPトランスミッタの測定範囲(スパン)がわずか100 kPaであっても、最大使用圧力(MWP: Maximum Working Pressure)が10 MPaと設定されている場合、両ポートに9 MPaのゲージ圧力が等しく加わっていても、その圧力差がゼロであればトランスミッタの出力はゼロを示します。このとき、トランスミッタは9 MPaという高圧成分を無視し、微小な圧力差にのみ応答するのです。
この機能は、高圧プロセスラインで微小な物理量を計測する上で不可欠な技術的基盤です。もしコモンモード圧力除去能力がなければ、微小な差圧は高圧に埋もれてしまい、計測そのものが成り立ちません。これは、ダイアフラム技術が工業プロセス制御の根幹を支えている証拠であり、ダイアフラムが単なる圧力計ではなく、高度なプロセス診断ツールとして機能していることを示しています。

図 差圧トランスミッタの作動原理  出典:Lessons In Industrial Instrumentation by Tony R. Kuphaldt Version 1.0 2009年

 

4.2. プロセス計測への応用①:液面計測(ウェットレグ・ドライレグ)の原理と実用計算

DPトランスミッタは、タンク内の液面レベル計測の最も一般的なアプリケーションの一つです。これは、液体の静水圧が液体の高さと比重(SG: Specific Gravity)に比例するという物理原理を利用しています。
計算ワークシート例:密閉タンクでの液面計測(ウェットレグ方式)
密閉タンクでは、液面レベルに加えて、タンク上部の静圧を補償する必要があります。ウェットレグ(湿式脚)方式では、タンク上部のタップからDPトランスミッタのLo側までの配管を、常に液体で満たすことで、タンク上部の静圧がキャンセルされるように設計されます(図参照)。

図 密閉タンクの諸元  出典:Measurement and Control Basics, 3rd Edition  Thomas A. Hughes ISA Press 2002年

条件設定:
・ タンクの種類:密閉タンク
・ プロセス流体:比重 SGp=0.95
・ ウェットレグ液:比重 SGw=1.2
・ ウェットレグ高さ:h=120 インチ
・ 液面レベル範囲:Lmin=0 インチ から Lmax=100 インチ

基本原理:
ΔP:トランスミッタが測定する差圧 ΔP は、Hi側とLo側の圧力差です。
PHi = Pstatic+L×SGp
PLo = Pstatic+h×SGw
ΔP = PHi – PLo = (Pstatic + L×SGp) − (Pstatic + h × SGw) = (L × SGp) − (h × SGw)
このように、タンク上部の静圧(Pstatic)は式からキャンセルされます。

計算結果:
・ 4 mA点(Lmin=0 インチ)
ΔP4mA = (0×0.95)−(120×1.2)=0−144=−144 inH2O
・ 20 mA点(Lmax=100 インチ)
ΔP20mA = (100×0.95)−(120×1.2)=95.0−144=−49 inH2O
・ スパン(20 mA−4 mA)
Span = ΔP20mA − ΔP4mA = (−49) − (−144) = 95 inH2O
この計算例は、DPトランスミッタが単なる圧力計ではなく、物理法則に基づいた高度なアナログ計算器として機能していることを示しています。静圧がキャンセルされるメカニズムを理解することは、現場技術者が「なぜこのような配管をするのか?」という疑問を解消する上で非常に重要です。

 

4.3. プロセス計測への応用②:オリフィス式流量計の原理と流量計算

ダイアフラム式差圧計のもう一つの重要な応用が、流量計測です。管路内にオリフィスプレート、フローノズル、またはベンチュリ管といった絞りを入れると、その絞り部の前後(上流側と下流側)に圧力差(差圧)が生じます 。この差圧は、流体の体積流量または質量流量の2乗に比例するため、この差圧を測定することで流量を求めることができます。
オリフィス式流量計の流量計算は、ベルヌーイの定理と連続の式を基本とします。
体積流量をQとすると、
\( Q = C \varepsilon A_{ 2 } \displaystyle \sqrt \frac{ 2 \Delta P }{ \rho \left( 1 – \beta^4 \right) } \)

質量流量 \( \dot{ m } \)は、体積流量Q に密度 \( \rho \) を乗じて次のように示されます。
\( \dot{ m } = \rho Q = C \varepsilon A_{ 2 } \displaystyle \sqrt \frac{ 2 \rho \Delta P }{ ( 1 – \beta^4 ) } \)

ここで、
\( Q \): 体積流量 \( [ \mathrm{ m^3/s } ] \)
\( \dot{ m } \): 質量流量 \( [ \mathrm{ kg/s } ] \)
\( C \): 流量係数(規格や実験で決定) ; 無次元
\( \varepsilon \): 膨張係数(圧縮性流体補正、非圧縮性の場合は \( \varepsilon = 1 \) )
\( A_{2} = \displaystyle\frac{ \pi d^2 }{ 4 } \):オリフィスの断面積 \( [ \mathrm{ m^2 } ] \)
\( \Delta P \):オリフィスによる差圧 \( [ \mathrm{ Pa } ] \)
\( \rho \):流体密度(上流条件) \( [ \mathrm{ kg/m^3 } ] \)
\( \beta = \displaystyle\frac{ d }{ D } \):オリフィス径比(オリフィス径 (d)、配管内径 (D)) ; 無次元
この計算式が示すように、流量は差圧の平方根に比例するという関係があります。流量計を設計する際は、目的の流量範囲に合わせてオリフィス径や流出係数を調整します。
ここで重要なのは、差圧\( \Delta P \)は、オリフィス直後に生じる急激な圧力降下は圧力損失ではないということです。オリフィス通過後、流体の圧力が回復した後の静圧と、一次側の静圧の差が真の圧力損失となります。
差圧式流量計は、構造がシンプルで安価、高温・高圧や腐食性流体にも強いというメリットから、石油・ガス、化学、発電といった過酷な環境のプラントで長らく使用されてきた歴史があります。また、導電性の低い純水など、電磁式流量計では計測が困難な流体にも適用できるという長所があります。

 

4.4. その他の応用事例:フィルター詰まり監視とポンプ性能診断

差圧計は、流量や液面計測以外にも、プロセス全体の健全性を監視する「診断ツール」として多様な役割を果たします。
・ フィルター詰まり監視:
液体や気体のフィルターの前後にDPトランスミッタを設置し、差圧を監視することで、フィルターの目詰まり度合いを推測できます。差圧がある一定値を超えた場合にアラームを発報することで、フィルター交換のタイミングを適切に判断でき、予期せぬライン停止を防ぐことができます。
・ ポンプ性能診断:
ポンプの吸込口と吐出口に圧力計を設置し、その圧力差を監視することで、ポンプの稼働効率やキャビテーションの兆候を診断できます。これにより、ポンプの劣化や異常を早期に発見し、計画的なメンテナンスを実施することが可能になります。
・ 蒸気ラインでの計測:
高温・高圧の蒸気ラインの流量や圧力管理に、差圧計が使用されることもあります。これは、過酷な温度・圧力条件下でも安定した計測が可能なダイアフラム技術の堅牢性が評価されているためです。
これらの応用例は、差圧計が単なる計測器ではなく、予防保全や予知保全といった現代の生産技術・品質管理のトレンドと完全に一致する機能を提供していることを示しています。

 

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5. 現場技術者のための実践ガイド:選定、設置、保守、校正

5.1. 最適な圧力計を選定するための総合的チェックリスト

優れた圧力計を選び、その性能を最大限に引き出すためには、単に測定範囲や精度といったスペックシートの数字だけでは不十分です。現場で遭遇する様々な課題を考慮した、総合的な判断が求められます。
以下の要素を慎重に評価することが、最適な圧力計を選定するための鍵となります。
・ 測定範囲と精度:
通常運転時の圧力(常用圧力)が、圧力計の最大圧力の3/4(変動圧力の場合は2/3)となるように選定することが推奨されます。これにより、圧力計は最適な精度範囲で動作し、過度な負荷も回避できます。JIS B 7505-1:2017などの規格で定められた精度等級(例:1.6級)や、レンジの両端における許容誤差の増加を理解し、適切なレンジで運用することが信頼性確保に繋がります。
・ 流体適合性(接液部材料):
プロセス流体との化学的適合性が最も重要です。腐食性のある流体には、接液部材質(例:SUS630、ハステロイ、モネル)が十分に耐えられるかを確認し、必要に応じてダイアフラムシールの利用を検討します。
・ 過負荷耐性:
プロセス流体の急激な圧力変動からセンサを保護するため、メーカーが規定する許容過負荷(通常、定格容量の150%など)や、バックアッププレートの有無を確認します。
・ 環境条件:
使用温度範囲、結露の可能性、そして振動環境を考慮します。特に電気式センサは結露に弱いため、適切な対策が必要です。
・ 応答時間と固有振動数:
動的な現象を測定する場合、センサの応答時間と固有振動数が重要になります。立ち上がり時間の短い現象を正確に捉えるには、十分に高い固有振動数を持つセンサを選ぶ必要があります。

 

5.2. 信頼性を最大化する設置方法:トルク管理、近接性、振動対策

圧力変換器の性能は、適切な設置方法によって最大限に引き出されます。
・ トルク管理:
取付ねじ部の締付けトルクは、メーカー推奨値を厳守します。過大なトルクはセンサに歪みを与え、計測精度に影響を及ぼす可能性があります。
・ 圧力源との近接性:
変換器は、可能な限り圧力源に近接して取り付けることが推奨されます。これにより、導圧配管の詰まりや圧力損失、応答遅延といったリスクを最小限に抑えられます。
・ 振動対策:
プロセス配管の振動やウォーターハンマーは、圧力計の指示値の不安定化や故障を招くため、ケーブルの固定や振動止めといった対策が不可欠です。特に、ウォーターハンマーは配管の破損にもつながる危険な現象であり、その影響を考慮した設計が必要です。

 

5.3. センサの経年変化とドリフト:定期的な保守・点検の重要性

圧力計、特に電気式センサは、長期の使用に伴い、出力値が時間とともに徐々に変化するドリフトという現象が発生します。ドリフトの主な原因には、温度変化、電源電圧の変動、そしてセンサ素子自体の経年劣化が挙げられます。
ドリフトは、誤った測定値や不正確な制御につながるため、製品の品質やプラントの安全に深刻な影響を及ぼす可能性があります。これを防ぐためには、定期的な点検と校正が不可欠です。

 

5.4. 圧力校正の基盤:重錘形圧力天びんとJIS規格に準拠した不確かさ評価

圧力計の精度を維持し、計測の信頼性を担保するためには、定期的な校正が不可欠です。校正は、国家基準にトレーサブルな基準器を用いて行われます。
・ 校正基準器:
重錘形圧力天びん(Dead-weight tester / Piston gauge)は、正確な質量とピストン-シリンダーの有効面積から、極めて高精度な圧力を発生させることができ、圧力計校正の基準器として広く使用されています。
・ 不確かさの評価:
現代の品質保証においては、校正結果を単なる器差(真値との差)だけでなく、「不確かさ」として評価する手法が不可欠です。これは、校正器自体の不確かさ、測定環境(温度、湿度など)、そして被校正器の再現性やヒステリシスといった複数の要因を統合的に評価する手法です。
JIS規格は、圧力計の校正に関する重要な指針を提供しています。JCSS認定事業者が発行する校正証明書は、国家基準へのトレーサビリティを保証します。品質保証業務に従事する技術者にとって、この「不確かさ」の概念を理解することは、単に「校正済み」という証明書を受け取るだけでなく、その校正結果が自社の要求精度を本当に満たしているかを自律的に判断する能力を身につける上で極めて重要です。JIS B 7505-2やJIS T 1115に準拠した校正は、計測の信頼性を客観的に証明する上で不可欠なプロセスです。

 

6. まとめと将来展望

6.1. 本稿の要点と現場におけるダイアフラム型圧力計の価値

本稿では、ダイアフラム型圧力計が弾性式圧力計の重要な一角を占め、特にブルドン管では難しい微圧・差圧計測や、腐食性・粘性流体の対応において、その独自の技術的優位性を発揮することを詳細に解説しました。その高い信頼性は、バックアッププレートによる過負荷耐性や、プロセス環境に応じた多様な材料選定によって担保されています。
また、ダイアフラムは半導体製造技術(MEMS)と極めて高い親和性を示し、高精度な電気式センサへと進化しました。ピエゾ抵抗型や静電容量型といったセンサ技術、そして高度な温度補償回路は、現代の制御システムが要求する高機能化と小型化を可能にしました。さらに、差圧トランスミッタとしての応用は、液面計測や流量計測といったプロセス制御の根幹を支え、現場における診断ツールとしてもその価値を高めています。
現場技術者にとって、ダイアフラム型圧力計は単なる計測器ではなく、その選定、設置、保守、校正といった一連のプロセスを通じて、プロセス安全、生産性向上、そして品質保証に深く関わる重要なツールであると言えます。

 

6.2. IoT、AI統合型センサなど、圧力計測技術の未来

圧力計測技術は、今なお進化の途上にあります。今後のトレンドは、センサの小型化と高機能化に加え、計測データの活用という側面で新たな価値を創出していくでしょう。
・ スマートセンサ:
センサチップにマイクロプロセッサや通信機能が統合され、計測だけでなく、データのフィルタリング、自己診断、そしてネットワークへの直接送信が可能になるでしょう。これにより、煩雑な配線やアナログ/デジタル変換の手間が削減され、よりシンプルで信頼性の高いシステム構築が実現します。
・ 予知保全への貢献:
センサから得られる連続的なデータをAIアルゴリズムが分析し、センサ自体のドリフトや、プロセスにおける異常な脈動パターンを予知することで、故障やライン停止を未然に防ぐことが可能になります。これにより、計画外のダウンタイムを削減し、生産性を最大化する予知保全の実現に大きく貢献するでしょう。

圧力計測技術の未来は、単に「圧力」を測るだけでなく、そのデータから「プロセスの状態」を推論する方向へと進化しています。これは、計測技術が従来の「監視」の役割から、より能動的な「診断」や「制御最適化」の役割へとシフトしていることを示唆しています。現場の技術者は、この技術の進歩を理解し、自身の業務に積極的に取り入れることで、より付加価値の高い仕事へとステップアップできるでしょう。

 

 

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参考文献
圧力計技術の発展の系統化調査  清水明雄 国立科学博物館技術の系統化調査報告第15集 2010年
Mechanical Pressure Measurement David Gardellin, P.E.
Lessons In Industrial Instrumentation by Tony R. Kuphaldt Version 1.0 2009年
Measurement and Control Basics, 3rd Edition  Thomas A. Hughes ISA Press 2002年

図表
図 ダイヤフラム型圧力計:機械式から電気信号変換式へ  出典:Mechanical Pressure Measurement David Gardellin, P.E.、Electronic Pressure Measurement  Eugen Gaßmann, Anna Gries Süddeutscher Verlag onpact GmbH 2010年
表 主要なダイヤフラム型圧力計の材質  出典:ORIGINAL
図 MEMS技術  出典:PRESSURE MEASUREMENT IN VACUUM TECHNOLOGY   mks Technical Note  2021年
図 モノリシック化されたダイヤフラム型圧力計  出典:Lessons In Industrial Instrumentation by Tony R. Kuphaldt Version 1.0 2009年
表 ピエゾ抵抗型センサと静電容量型センサの技術比較  出典:ORIGINAL
図 差圧トランスミッタの作動原理  出典:Lessons In Industrial Instrumentation by Tony R. Kuphaldt Version 1.0 2009年
図 密閉タンクの諸元  出典:Measurement and Control Basics, 3rd Edition  Thomas A. Hughes ISA Press 2002年

ORG:2025/10/01