2.1 液体封入ガラス製温度計

2.1 液体封入ガラス製温度計(Liquid-in—Glass Thermometers)

 

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0. はじめに

液体封入ガラス製温度計は、その名の通り、ガラス管内に液体を封入して温度を測定する装置です。基本的な構造は、ガラス製の球部(bulb)と呼ばれる部分と上端を封止した管状の厚い壁を持つ毛細管(stem)により構成されます。球部には液体(主に水銀または色を付けたアルコールなどの有機液体)が、温度変化によって膨張または収縮し、毛細管部を上下します。この液面(meniscus level)を毛細管部に刻まれた目盛りに対応することで温度が読み取れます。

日本では、JIS B7414 「ガラス製温度計」で規定されています。

このシンプルでありながら効果的なデザインは、数世紀にわたり科学と産業の両方で広く使用されてきました。

 

 

1. 液体封入ガラス製温度計の基本構造

1.1主要部位とその機能

(1)球部(バルブ;bulb)

球部は、温度計の最も重要な部分であり、内部に液体(通常は水銀や着色したアルコールなどの有機液体)が封入されています。この部分は通常、ガラスでできており、外部からの熱が直接液体に伝わるように薄く作られています。温度が変化すると、球部内の液体は熱膨張または熱収縮を起こし、これが球部に接続する毛細管部を上下して、液面の位置で温度を読み取ります。

 

(2)幹部(ステム;stem)

幹部は細長いガラス管で、一端が球部に接続され、もう一端は閉止されています。幹部の内部には細い管(毛細管)があり、この管の中を液体が移動します。温度が上昇すると、液体は膨張して幹部の上方に移動し、温度が下降すると収縮して下方に移動します。

 

(3)目盛り

幹部の外側には、温度を読み取るための目盛りが施されています。これは通常、摂氏(°C)または華氏(°F)で表示され、特定の温度に対応する位置に液体の液面が到達した時点で、その温度が読み取られます。

 

(4)材質

液体封入ガラス製温度計に使用されるガラスは、高い熱安定性と化学的安定性を備えている必要があります。一般的には硼珪酸塩ガラスが用いられることが多く、これは耐熱性と耐薬品性に優れています。また、球部のガラスは特に熱伝導性が高いことが求められるため、薄くて均一な厚さが保たれていることが重要です。

図1液体封入式ガラス製温度計   出典:JIS B7414 「ガラス製温度計」

 

1.2感温液体の種類と特性

(1)水銀

水銀は長年にわたり温度計に使用されてきました。その主な理由は、広い温度範囲で一定の熱膨張率を持ち、温度変化に対して均一な応答を示すためです。

しかし、毒性が高いため取り扱いには注意が必要です。

日本で製造する水銀を使用したガラス製温度計は、除害事項はありますが、2020年12月31日より、国内製造は許可制になりました。また海外製品の輸入についても輸入承認が必要になりました。

 

(2)有機液体

アルコールやペンタンなどの有機液体が用いられます。これら有機液体は着色されて使用され、比較的低温での使用に適しています。また、水銀ほどの毒性はないため、より安全に扱うことが可能です。

 

1.3 液体封入ガラス製温度計の特徴と限界

液体封入ガラス温度計の最大の特徴は、その直感的な読み取りやすさと、電源を必要としないことです。また、比較的低コストで製造が可能であり、幅広い温度範囲に対応できるモデルが存在します。ただし、ガラス製のため衝撃に弱いという欠点もあり、正確な測定を行うためには定期的な校正が必要です。

 

 

2. 液体封入ガラス製温度計の正確性と校正

2,1 温度計の正確性に影響を与える要因

(1)液体の熱膨張率:

温度計の精度は、感温液体の熱膨張率に大きく依存します。水銀や有機液体など、それぞれ異なる体膨張率を持ち、温度変化に対する応答も異なります。感温液体の特性として、広い温度範囲について体膨張率が一定であることが望ましいです。体膨張率が一定でない場合、温度計の読み取りに誤差が生じる可能性があります。

 

(2)ガラスの材質と形状:

ガラスの品質は、温度計の正確性に重要な役割を果たします。不均一なガラスや不適切な形状は、液体の均等な膨張を妨げ、誤った温度表示を引き起こすことがあります。

 

(3)外部環境条件:

直射日光や急激な気温変化など、外部の環境条件も温度計の読み取り精度に影響を与えます。特に、温度計のステム部分の温度が不均一の場合、正確な読み取りが難しくなります。

 

 

2.2 校正の必要性

液体封入ガラス製温度計は、時間が経過するにつれて測定精度が低下することがあります。これは、ガラスの経年変化、液体の化学的変質、または機械的な損傷などによるものです。そのため、定期的な校正を必要とします。校正作業は、温度計が正確な測定を継続するための重要な保守作業の一環となります。

 

[校正方法]

校正は、一般的に以下の手順で行われます:

 

(1)標準温度点の設定:

校正のためには、水の氷点(0°C)や沸点(100°C)など、正確に知られた温度点を使用することが多いです。これらの点での温度計の読み取り値を標準の温度と比較し、誤差を確認します。

 

(2)調整作業:

誤差がある場合、廃棄するか、または校正曲線を作成して使用します。これにより、温度計の読みを正確な値に修正することができます。

 

(3)複数の点での確認:

出来るだけ広い温度範囲にわたって校正を行うことで、温度計の全域での精度が保証できます。複数の温度点で校正を行うことが推奨されます。

 

(4)校正の頻度

校正の頻度は、温度計の使用環境や使用頻度に依存します。一般的には、年に一度の校正が推奨されることが多いですが、高精度を要求する科学的研究や産業プロセスでは、より頻繁な校正が必要とされる場合があります。

 

液体封入ガラス温度計の正確性を維持するためには、適切な校正が不可欠です。この校正により、技術者は正確な温度データに基づいて作業を行うことができ、信頼性の高い測定結果を得ることができます。

図2は、実際に企業で用いられているガラス製温度計の校正手順書を示します(若干、数値を変えています。)。

QGW-041_温度計の校正作業

図2ガラス製温度計の校正手順書の例   ORIGINAL

 

3. 液体封入ガラス製温度計の使用上の注意

液体封入ガラス製温度計は、そのシンプルな構造と信頼性の高さから、多くの場面で活用されていますが、正確な測定を行うためには適切な取り扱いと注意が必要です。ここでは、液体封入ガラス製温度計を使用する際に検討すべき重要な点について記述します。

 

3.1 温度計の取り扱い

(1)破損の防止:

ガラス製の温度計は非常に壊れやすいため、取り扱いには細心の注意を払う必要があります。使用しない時は、温度計を適切な保護ケースに保管してください。

 

(2)清掃:

温度計は定期的に清掃することが重要です。強い洗剤や研磨材は避けて下さい。柔らかい布とアルコールまたは中性洗剤を使用して拭き取るのが最適です。

 

 

3.2 測定時の注意点

(1)正しい挿入深さ:

温度計を測定対象に挿入する際は、適切な深さまで挿入することが重要です。特に液体の温度を測る場合、温度計の感温液体の液面(メニスカス)が液面と一致するまで浸漬して測定するのが正しい測定方法です(全浸漬)。

 

(2)環境条件の影響:

温度計の読み取りは、雰囲気温度や直射日光によって影響を受けます。測定環境が安定していることを確認し、測定対象以外の熱源を避けるようにしてください。

 

 

3.3 校正と保守

(1)定期的な校正:

精度を保持するためには、定期的な校正が必要です。特に公的な取引や製品製造などに使用するためには、最低でも、年次にて校正作業を行うことが一般的です。

 

(2)長期保管時の注意:

長期間使用しない場合は、温度計を適切な温度と湿度の条件下で保管することが重要です。極端な温度や湿度は、温度計の材質に悪影響を与える可能性があります。

 

 

3.4感温液体の取り扱い

(1)水銀の取り扱い:

水銀を使用している温度計の場合、水銀の取り扱いには特別な注意が必要です。水銀は有毒であり、万が一破損して漏れた場合は、適切な清掃方法と廃棄方法を順守する必要があります。

 

(2)有機液体の特性:

有機液体を使用する温度計では、液体を染料等で染色するのが一般的ですが、この染料が経年で変色することがあります。これにより読み取りが困難になることも考慮する必要があります。

 

 

3.5 読み取り誤差の訂正

メニスカスの観察:

液面(メニスカス)は、感温液体の表面張力の違いにより形状が異なります。水銀の場合は、メニスカスの最も高い点を温度の指示点とします。また、アルコールなどの有機液体の場合は、メニスカスの最低面を温度の指示点とします。正しい読み取り方を習得することが大切です。

 

 

液体封入ガラス製温度計は、適切な使用と保守により、高い信頼性と正確性を提供します。これらの注意点を守ることで、日々の測定活動において正確なデータを得ることができ、効率的な作業が可能になります。

 

 

 

参考文献
Measurement Systems Application And Design  Forth Edition  Ernest O. Doebelin  McGraw-Hill  1990
Process Measurement and analysis Volume 1, Fourth Edition    Beka G. Liptak   CRC Press  1995
Measurement_Instrumentation_and_Sensors_Handbook   John G. Webster  CRC Press  1999
JIS B7414 「ガラス製温度計」

 

引用図表
図1液体封入式ガラス製温度計   出典:JIS B7414 「ガラス製温度計」
図2ガラス製温度計の校正手順書の例   ORIGINAL

 

 

ORG:2024/05/14