2.3 抵抗温度計(測温抵抗体)

2.3抵抗温度計(測温抵抗体)
(Resistance thermometer (resistance temperature sensor))

 

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Contents

1. 抵抗温度計(測温抵抗体)とは

抵抗温度計(測温抵抗体)は、温度変化に応じて電気抵抗が変化する特性を利用して温度を測定するセンサです。主にプラントや工場の設備、さらには空調システムなどで温度管理が必要な場面で使用されています。抵抗温度計は高精度かつ安定した温度測定が可能であり、特に長期的な温度モニタリングが求められる産業用途で幅広く採用されています。
一般的に測温抵抗体は「RTD(Resistance Temperature Detector)」とも呼ばれ、プラチナ(Pt)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)などの金属が使用されます。中でも、プラチナを使用したPt100やPt1000が最も多く用いられています。これらのセンサは、線形な温度特性を持ち、特定の温度範囲で安定した測定が可能です。
測温抵抗体は精度が高く、長期的な測定でも劣化が少ない特性があります。そのため、医療機器、化学プラント、食品製造、製薬業界など、温度の厳密な管理が求められる領域でも多く採用されています。また、絶対温度の測定だけでなく、温度の変動や微細な変化を正確に捉えることができるため、プロセス制御の要としても重要な役割を果たしています。
なお、別項目でサーミスタも温度による抵抗の変化を利用して温度を測定します。

 

2. 抵抗温度計(測温抵抗体)の基本原理

抵抗温度計は、物質の電気抵抗が温度によって変化する性質を利用して温度を測定します。物質の温度依存性は、特に金属や半導体などの導電体や半導体で顕著に現れます。一般的に、測温抵抗体に用いられる金属は、温度の上昇とともに抵抗が増加しますが、一方サーミスタに用いられる半導体は、温度の上昇とともに抵抗が減少する性質を持ちます。抵抗温度計はこの原理に基づき、温度によって変化する抵抗値を測定し、それを温度情報に変換します。本コンテンツでは、抵抗温度計の紹介として、金属を用いる測温抵抗体を取り上げます。

測温抵抗体は、金属の電気抵抗値が温度変化に伴い規則的に変化する現象(温度抵抗係数)を利用して温度を測定するセンサーです。具体的には、多くの金属において温度が上昇すると原子の熱振動が激しくなり、電子の自由な移動が妨げられるため電気抵抗が増加します。抵抗値を測定するためには、抵抗体(温度センサーの感温部)に一定の電流を流し、その両端に発生する電圧降下を測定します。オームの法則(V = I * R)によれば、電圧降下(V)は流れる電流(I)と抵抗値(R)の積に等しいからです。この抵抗値と温度の関係は非常に安定しており、再現性が高いため、高精度な温度計測が可能です。

一定の電流を精密に供給し、発生する微小な電圧変化を正確に測定することで、抵抗体の抵抗の値から、その温度を知ることができます。この一連の測定・変換を行う装置は、抵抗測定器と温度指示計が一体となっている場合もあります。この原理の大きな利点は、抵抗値という電気的な量として温度を捉えるため、電気信号として容易に伝送・処理できる点です。これにより、センサーから離れた場所で温度を表示したり、自動制御システムに組み込んだりすることが可能になります。また、金属(特に白金)の電気抵抗と温度の関係は非常に直線性が高く、再現性も優れているため、高精度な温度測定に適しています。

図1 測温抵抗体の原理  出典:わかる。温度計測 測温抵抗体編 キーエンス

しかし、抵抗測定には注意点もあります。センサー自体や配線抵抗も温度によって変化するため、これらの影響をいかに排除または補償することが、正確な測定に必要です。特に長距離の配線では、配線抵抗が測定誤差の原因となるため、これに対処するための特別な配線方式が用いられます。
抵抗温度計の原理は比較的シンプルでありながら、その正確性と安定性から、実験室の高精度測定から過酷な産業環境における温度監視まで、幅広い分野で活用されています。

 

 

3. 抵抗温度計の種類と特徴:白金測温抵抗体とサーミスタ

材料の抵抗を利用して温度測定する機器を、抵抗温度計といいます。測温体に使用される材質には、金属を用いるものと金属酸化物を主体とする半導体セラミックを用いるものがあります。いろいろな分類法がありますが、金属を用いるものを抵抗温度計(測温抵抗体)といい、半導体セラミックをサーミスタといいます。本項では、測温抵抗体として代表的な白金測温抵抗体とサーミスタについて概要を示します。

3.1 白金測温抵抗体(Pt測温抵抗体)

白金測温抵抗体は、純度の高い白金を感温体として使用しています。白金が選ばれる理由は、その化学的な安定性が高く、広い温度範囲にわたって電気抵抗の温度に対する変化が安定しており、かつ再現性に優れているためです。特に、低温から高温まで比較的広い温度範囲での使用が可能であり、その精度と信頼性から温度計測の標準としても用いられています。JIS規格においても、白金細線の温度による抵抗変化を利用した温度計として、公称抵抗値が0℃で100Ω(Pt100)や50Ω(Pt50)のものが採用されています。
白金測温抵抗体の実用温度範囲は広く、-200℃から+660℃とされています。その他、白金・コバルト測温抵抗体では、-272℃から+27℃ と、低温側の測定に用いられます。

深冷空気分離装置のような極低温(-196℃まで)を取り扱う設備においても、白金測温抵抗体は低温特性と経年安定性に優れることから温度センサーとして採用されています。このように、Pt測温抵抗体は幅広い温度域で高い信頼性を示すことが特徴です。精度、再現性、長期安定性に優れるため、精密な温度管理が求められるプロセスや、長期間交換が困難な設置場所(深冷空気分離装置の保冷槽内など)に適しています。

 

3.2白金以外の材料による測温抵抗体

JIS規格には制定されていませんが、白金以外の材質の測温抵抗体について、少し記述します。
測温抵抗体の抵抗素子の材質は、白金の他に、白金の他に先ほど挙げた白金・コバルト合金や、銅、ニッケルなど、大別して4種類が用いられます(表1)。ただし、JISで規定されているのは、白金測温抵抗体だけです(JIS C1604:2013「測温抵抗体」)。

表2 測温抵抗体の材質別測定温度範囲  出典:わかる。温度計測 測温抵抗体編 出典:キーエンス

また、白金・コバルトを除く各材質について、0℃の時の抵抗値を基準として抵抗値をそくていしたけっかを図 に示します。

図3 材質毎の温度―抵抗特性  出典:Measurement and Instrumentation Principles-4th Edition.pdf  pp364

(1)銅測温抵抗体

温度特性のばらつきが小さく、安価なことが特徴です。白金に比べて使用頻度は低いが、特定の用途で採用されています。ただし、抵抗率(固有抵抗)が小さいため小型化できません。また、高温で酸化しやすいので、高温環境での使用には不向きです。+180℃程度が使用上限温度になります。
温度係数(α)は、約4.27×10-3 /℃ になります。HVACシステムや電子機器の温度管理に適用されます。

(2)ニッケル測温抵抗体

1℃あたりの抵抗値変化が大きく(温度係数(α):約6.72×10-3/°C)、安価なためコスト重視の用途で使用されます。ただし、温度特性の非線形性が高く、+300℃付近に変態点があるなどの理由で使用上限温度が低いです。実際に使用される温度範囲は、-80 ~ 300℃程度になります。家電機器や暖房機器などに適用されます。

(3)白金・コバルト測温抵抗体

抵抗素子に白金・コバルト希薄合金を使用したセンサで、極低温計測用に使用されます。

 

3.3 サーミスタ

サーミスタは、酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルトなどの金属酸化物を主成分とする半導体セラミックを感温体として使用した抵抗温度計です。サーミスタの最大の特徴は、温度変化に対する抵抗変化率(感度)が非常に大きいことです。特に、温度上昇とともに抵抗値が急激に減少するNTC(Negative Temperature Coefficient)サーミスタが一般的です。この高い感度により、狭い温度範囲での微細な温度変化を高精度に検出することが可能です。また、素子自体を非常に小さくできるため、応答性に優れているという利点もあります。
ただし、サーミスタの使用温度範囲は白金測温抵抗体に比べてやや狭く、一般的には-100℃から300℃程度とされています。また、抵抗値の温度特性が非線形であるため、広い温度範囲で使用する場合には複雑な補正回路が必要になることがあります。しかし、感度と応答性の高さから、特定の温度帯の精密な測定や、温度変化への素早い追従が求められる用途において広く使用されています。

プラントや工場設備では、測定対象の温度範囲、要求される精度、設置環境、応答性など、様々な要素を考慮して最適な抵抗温度計の種類が選定されます。高精度と広い温度範囲が求められる場合にはPt測温抵抗体が、比較的に狭い温度範囲で高い感度や速い応答が必要な場合にはサーミスタが選択されます。

 

4. 白金測温抵抗体(Pt測温抵抗体)の詳細:素子・構造、JIS規格、導線方式

プラントや工場設備において最も広く使用されている抵抗温度計の一つである白金測温抵抗体(Pt測温抵抗体)について、その詳細をさらに掘り下げて解説します。

 

4.1 素子の構造とJIS規格

Pt測温抵抗体の感温体は、純度の高い白金細線または白金薄膜を加工して作られます。白金細線を用いたタイプは、白金線をセラミックやガラスのボビンに巻いたり、素管に通したりして作られます。この構造は安定性に優れますが、応答性はやや遅くなる傾向があります。一方、白金薄膜を用いたタイプは、絶縁基板上に白金を蒸着やスパッタリングによって薄膜として形成したものです。薄膜型は素子を非常に小さくできるため、応答性に優れ、大量生産にも向いています。JISC1604:2013においては、白金細線の温度による抵抗変化を利用した温度計として、0℃における公称抵抗値が100Ω(Pt100)と500Ω(Pt500)、及び1000Ω(Pt1000)のものが採用されています。この公称抵抗値と温度の関係は、標準的な曲線として定められています。
白金抵抗素子の温度係数は、何れも α = 3.851×10-3 /℃-になります。
温度係数の定義は、

\( \alpha = \displaystyle\frac{ R_{ 100 } – R_{ 0 } }{100 ℃ × R_{ 0 } } \)

ここで、
\( R_{ 100 } \):t=100 ℃における抵抗値
\( R_{ 0 } \):t=0℃における抵抗値

 

図4 代表的な抵抗素子の構造  出典:How To Measure Temperature with RTD Sensors G. M. Smith DEWESoft

 

4.2 構造

実際のプラントや工場設備で使用されるPt測温抵抗体は、感温素子だけでなく、それを保護し、測定点に取り付けるための様々な部品と組み合わされたアセンブリとして構成されます。一般的な構造としては、「シース測温抵抗体」と「保護管付測温抵抗体」とが挙げられます。

・ シース測温抵抗体:

抵抗素子や内部導線を金属製の細管(シース管)に収め、酸化マグネシウム(MgO)などの絶縁粉末を充填・固定したものです。シース管はステンレス鋼などの耐食性・耐熱性のある材質が用いられ、感温素子を物理的、化学的な損傷から保護します。シース径は様々ですが、細いほど応答性が向上します。また、形状を自由に曲げることができます。

図5 シース測温抵抗体  出典:わかる。温度計測 測温抵抗体編

・ 保護管付測温抵抗体:

抵抗素子に内部導線を接続し、保護管に納め、端子を取り付けて使用する、測温抵抗体の最も基本的な構造です。
耐震性・耐蝕性の高い保護管も選ぶことができ、また、安価で扱いやすいことがメリットです。その反面、シース測温抵抗体と比較するとサイズが大きくなりますので、応答性が悪いことがデメリットです。

図6 保護管付測温抵抗体及び端子箱  出典:わかる。温度計測 測温抵抗体編

・ 端子箱:

シース測温抵抗体のリード線の端部に取り付けられ、外部配線との接続を容易にし、端子部を保護する役割を果たします。

・ センサー保護管:

測定流体や環境が過酷な場合、シース測温抵抗体をさらに保護するために使用されます。保護管はプロセス圧に耐え、流体の腐食や摩耗を防ぐためのもので、シース測温抵抗体はこの保護管の中に挿入されます。保護管の材質や形状は、測定流体や温度、圧力条件に合わせて選定されます。深冷空気分離装置のように、取り外しが困難で信頼性が不可欠な場所では、保護管の使用が一般的です。

 

4.3内部導線の結線方式

抵抗温度計で正確な抵抗値を測定するためには、センサー自体の抵抗値だけでなく、センサーと測定器を繋ぐ導線の抵抗値も考慮する必要があります。導線の抵抗値は温度によって変化し、特に導線が長い場合や周囲温度が変化する場合、測定誤差の原因となります。この問題を解決するために、抵抗温度計の接続にはいくつかの導線方式があります。

・ 2導線式:

最も単純な方式で、センサーと測定器を2本の導線で接続します。しかし、導線抵抗がセンサー抵抗に直列に加算されるため、導線抵抗やその温度変化がそのまま測定誤差となります。簡易的な測定や、導線が非常に短い場合以外は、実用的ではありません。

・ 3導線式:

センサーと測定器を3本の導線で接続する方式です。電流供給用の導線と、電圧測定用の導線を分け、ブリッジ回路などと組み合わせて使用することで、導線抵抗の温度変化による影響を大幅にキャンセルすることができます。プラントや工場設備において、Pt測温抵抗体の接続に最も一般的に採用されている方式です。

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・ 4導線式:

センサーと測定器を4本の導線で接続する方式です。電流供給用の導線と、電圧測定用の導線を完全に分離することで、導線抵抗の影響をほぼ完全に排除できます。最も高精度な測定に適しており、標準器や高精度な測定が必要な場合に用いられます。

図7 内部導線の結線方式  出典:わかる。温度計測 測温抵抗体編

プラントや工場設備では、設置場所から測定器までの距離があることや、高い測定精度が求められることから、3導線式のPt測温抵抗体が標準的に使用されています。規定電流はDCS(分散制御システム)等の受信計器の仕様に準拠し、例えば1mAが採用されています。

 

 

5. 抵抗温度計の応用例:プラント・工場設備での採用事例

白金測温抵抗体は、その高い信頼性と精度から、プラントや工場設備の様々な箇所で温度計測に活用されています。ここでは、具体的な応用事例をいくつかご紹介します。

5.1 深冷空気分離装置

深冷空気分離装置は、空気を液化・蒸留して酸素や窒素などのガスを製造する設備であり、極めて低い温度(-196℃まで)を取り扱います。このような超低温環境での温度計測には、温度変化に対して安定した特性を持ち、かつ経年劣化が少ないセンサーが求められます。白金測温抵抗体は、低温域での優れた特性と長期安定性から、深冷空気分離装置の保冷槽内などで温度センサーとして採用されています。
深冷空気分離装置の温度計測点は、設備の構成や製造するガスの種類によって異なりますが、熱交換器の出入口や装置の近辺などで数点から数十点の温度が計測されます。これらの計測点には、保冷槽のように一度設置すると装置を停止・昇温し、断熱材を取り出すといった非常にコストのかかる作業を行わなければ容易に取り外せない場所が含まれます。このような交換が困難な環境では、センサーの信頼性、特に経年安定性が極めて重要となり、白金測温抵抗体が選定される大きな理由となっています。
また、深冷空気分離装置の運転高度化に伴い、より高い精度の温度計測が求められるようになっています。これに対応するため、一般的に3導線式の許容差クラスAの白金測温抵抗体が採用されています。規定電流は受信計器であるDCS(分散制御システム)の仕様に合わせて1mAと設定されることが多いようです。このように、極低温かつ交換が困難な厳しい環境下で、白金測温抵抗体は設備の安定稼働と高精度なプロセス監視を支えています。

 

5.2 一般的なプラント・工場設備

深冷空気分離装置のような特殊な例だけでなく、一般的な化学プラント、石油精製プラント、食品工場、医薬品工場、発電所など、様々な産業分野の設備で抵抗温度計は広く使用されています。
・ 配管やタンクの温度監視:

プロセス流体の温度を監視し、反応温度の制御や品質管理、配管の凍結防止などに利用されます。センサー保護管を介して液体や気体の温度を測定することが一般的です。

・ 熱交換器や炉の温度測定:

高温または低温の流体や物質の温度を測定し、熱効率の監視や安全管理を行います。白金測温抵抗体は比較的高い温度にも対応できるため、これらの用途に適しています。

・ 機械設備の温度監視:

ポンプやモーターの軸受温度、ギアボックスの油温などを測定し、異常過熱の検出による設備の保護や予知保全に活用されます。メイン油温温度計として抵抗温度計が使用されている例もあります。

・ 恒温槽や試験装置の温度制御:

高精度な温度制御が求められる恒温槽や、材料試験装置などの温度管理に使用されます。白金測温抵抗体の高精度・高安定性が活かされる分野です。

これらの応用例からもわかるように、抵抗温度計は幅広い温度範囲と多様な環境で利用されており、プラント・工場設備の安定稼働、品質維持、効率向上に不可欠な温度センサーとしての役割を担っています。

 

5.3 HVACシステム

抵抗温度計(測温抵抗体)は空調システム(HVAC)でも利用されています。冷暖房や換気の効率を最大化するため、室内外の温度を正確に測定し、自動調整を行うことでエネルギー効率を高めます。大規模なビルディングマネジメントシステムでは、数十箇所の温度計測をリアルタイムで管理し、快適な環境を維持しています。

 

6. 抵抗温度計の選定と設置・使用上の注意:現場での実務的視点

抵抗温度計をプラントや工場設備で使用するにあたっては、単に仕様表を確認するだけでなく、実際の現場での条件を考慮した選定、適切な設置、そして日々の使用における注意点が不可欠です。開発設計、生産技術、品質管理に携わる技術者にとって、これらの実務的な側面を理解することは、トラブル防止や正確なデータ取得に繋がります。

 

6.1 選定時の考慮事項


・ 測定温度範囲:

プロセスの通常運転温度範囲だけでなく、異常時の最大・最低温度も考慮し、センサーがその範囲に対応しているか確認します。白金測温抵抗体は比較的広い範囲に対応しますが、一方、サーミスタは狭い範囲で高感度です。

・ 要求精度:

プロセスの要求精度に合わせて、適切な許容差クラスのセンサーを選定します。JIS規格では、測定温度に対する許容差として、表 に示す4種類が定められています。許容差クラスAA及びAについては、2導線式の測温抵抗体には適用されません。

表8 測定温度に対する許容差  出典:JIS C1604:2013

・ 応答性:

温度変化への追従速度が求められるプロセスでは、応答性の速いセンサーを選びます。シース径が細いものや薄膜型の素子は一般的に応答性が良い傾向があります。

・ 設置環境:

測定流体の種類(液体、気体、固体)、圧力、流速、腐食性、振動、温度(高温物体近傍でのセンサ本体の過熱など)、電磁ノイズの有無などを考慮し、それに耐えうる材質や構造(保護管の有無など)のアセンブリを選定します。特にノイズ対策としては、高耐圧半導体リレーによる絶縁が有効な場合があります。

・ 設置場所:

測定点までの距離を考慮し、適切な導線方式(3導線式が一般的)を選びます。また、センサーの交換頻度や容易さも考慮します。深冷空気分離装置のように、交換が困難な場所では長期安定性に優れたタイプを選定する必要があります。

・ 価格と納期:

要求仕様を満たす範囲で、コストと納期も考慮した現実的な選定を行う必要があります。

 

6.2 設置・使用上の注意


・ 感温部の温度一致:

温度計は、感温部と被測定物の温度が一致した状態で正しい温度を示します。感温部を被測定物に十分に接触させ、熱伝導が適切に行われるように設置することが最も重要です。例えば、配管の温度を測る場合は、保護管を流体中に適切に挿入する深さを確保する必要があります。表面温度測定の場合は、センサーを表面に密着させ、周囲からの熱影響を遮蔽する工夫(遮蔽板の使用など)が必要になる場合があります。

・ 熱伝達の影響:

センサーの測定精度は、熱伝導、対流、放射という3つのモードの熱伝達に影響されます。特に、流速が遅い場合や測定点周囲との温度差が大きい場合、放射や対流による誤差が生じやすくなります。適切な保護管の選定や、周囲からの熱影響を考慮した設置が必要です。

・ 自己発熱:

抵抗温度計は、抵抗値測定のためにセンサー自身に電流を流すことで自己発熱します。この自己発熱による温度上昇が測定誤差の原因となることがあります。規定電流を小さくする(JIS規格では0.5mA、1mA、2mAを規定電流としている)、熱伝導の良い環境に設置するなどの対策が有効です。

・ 導線抵抗とノイズ:

3導線式や4導線式を採用することで導線抵抗の影響を低減できます。また、長距離配線や電磁ノイズが多い環境では、シールド線を使用したり、信号変換器をセンサー近傍に設置して電流信号(4 ~ 20mAなど)に変換して伝送したりする対策も有効です。ノイズ耐性の高い測定器を選定することも重要です。

・ センサーの損傷:

過酷な環境で使用する場合、保護管やシースが腐食、摩耗、または物理的な衝撃によって損傷する可能性があります。定期的な外観点検や、必要に応じて抵抗値測定による健全性診断を行うことが望ましいです。
適切な選定と慎重な設置、そしてこれらの注意点を踏まえた運用を行うことで、抵抗温度計の性能を最大限に引き出し、プラント・工場設備の信頼性と効率的な運転に貢献することができます。

 

 

7. 抵抗温度計の校正と信頼性維持:精度確保のために

プラントや工場設備における温度計測の信頼性を維持するためには、定期的な校正が不可欠です。温度計が正しい温度を指示するためには、感温部が被測定物の温度と一致していることに加え、指示値が真の温度を正確に示している必要があります。長期の使用や過酷な環境下では、センサーの特性が変化し、指示値に誤差が生じることがあります。校正は、この誤差を確認し、必要に応じて調整を行うことで、測定精度を保証するプロセスです。

7.1 校正の重要性

温度計は、感温部と被測定物の温度が一致した状態で正しい温度を指示するように作られており、長さ測定の場合と同様に、温度を一致させることが正しい温度を測定できることになります。さらに、その指示値が正確であること、すなわち校正されていることが信頼性の基礎になります。特に、設備の保安・性能を判断する重要な指標である温度の信頼性維持は不可欠であり、低価格で信頼性の高い温度計が求められています。校正は、この信頼性を担保するための重要な手段です。

 

7.2 校正方法

抵抗温度計の校正は、一般的に他の温度計と同様、校正対象の温度計と標準温度計を、温度が均一に保たれた恒温槽などの環境に設置し、様々な温度点で両者の指示値を比較する「比較法」によって行われます。

・ 恒温槽:

校正したい温度範囲をカバーできる液体槽(水槽、油槽など)、乾式校正器(ドライウェル)、炉などが用いられます。これらの装置は、内部の温度分布が均一になるように設計されています。

・ 標準温度計:

校正対象の温度計よりも十分に高精度で、国家標準に対してトレーサビリティを有する標準温度計(例えば、標準白金抵抗温度計や標準棒状温度計など)を使用します。標準温度計の精度は、校正対象の温度計の要求精度に応じて選択されます。例えば、標準棒状温度計で-50~350℃の範囲を校正する場合、温度帯によって±0.2℃~±0.6℃程度の精度が要求される例があります。

・ 指示検査と実温検査:

校正作業としては、温度計の指示値が基準値通りかを確認する「指示検査」や、実際の使用環境に近い条件で温度を測定し、真の値と比較する「実温検査」などが行われます。客先炉での実温検査や、客先の検査室、使用場所付近での指示検査などの例が示されています。

・ 校正点:

校正は、温度計の使用範囲内で複数の校正点(例えば、数点から1点まで)を設定して実施されます。校正点数や校正値は、客先指定やNKS標準などに基づいて決定されることがあります。

7.3 トレーサビリティ

校正された温度計の測定結果が信頼できるものであるためには、「トレーサビリティ」が確保されていることが重要です。トレーサビリティとは、測定結果が、分かれていない比較の連鎖によって、定められた基準(通常は国家標準や国際標準)に結びつけられる状態を指します。
日本国内では、産業技術総合研究所(AIST)が国家計量標準を維持しており、JCSS(計量法校正事業者認定制度)で認定された校正機関が実施する校正サービスは、国家計量標準にトレーサブルであることが証明されています。抵抗温度計の校正を外部委託する際には、JCSS認定事業者を選ぶことで、測定結果のトレーサビリティと信頼性を確保できます。

プラント・工場設備において、温度計の指示値の信頼性は、設備の安全、製品品質、エネルギー効率に直接影響します。定期的な校正とトレーサビリティの確保は、これらの重要な要素を維持するために不可欠な活動です。

 

8. まとめ:抵抗温度計の優位性と今後の展望

前項まで、抵抗温度計(測温抵抗体)がプラントや工場設備においていかに重要な役割を担っているかを見てきました。以下に、抵抗温度計の主な優位性をまとめます。

(1)高い測定精度と再現性:

一般に抵抗温度計(測温抵抗体)は、測定精度が高く、再現性にも優れています。特に白金測温抵抗体は、幅広い温度範囲で抵抗値と温度の関係が安定しており、経年劣化も比較的少ないため、精密な温度管理が求められる用途に最適です。許容差クラスAAのような高精度な仕様もJIS規格で定められています。

(2)優れた安定性:

安定性は、長期間にわたって温度センサーの交換が困難な設置場所において重要な特性です。白金測温抵抗体は、例えば深冷空気分離装置のような過酷な極低温環境でもその経年安定性が評価され、採用されています。

(3)電気信号として温度情報を扱える:

温度データを電気信号として扱えるため、センサーから離れた場所への信号伝送や、自動制御システムへの組み込みが容易です。電圧信号や電流信号(4-20mAなど)として信号を取り出すことで、集中監視や自動化に対応できます。

一方、抵抗温度計には以下のような課題があります。
・ 応答性は熱電対に比べてやや遅い傾向があること。
・ 正確な測定値を得るためには、リード線抵抗の補償が不可欠であること。
・ サーミスタの場合、使用温度範囲が限られる場合があること。

などがあります。
しかし、これらの課題に対しては、細径シース構造による応答性の改善、3導線式・4導線式によるリード線抵抗補償、信号変換器の活用など、技術的には対策が確立されています。

プラントや工場設備の運転は、安全性、効率性、そして品質の維持がますます厳しく求められています。このような状況において、信頼性の高い温度計測は今後さらに重要になると考えられます。抵抗温度計は、その基本的な原理の確かさと、長年にわたる使用実績に基づいた信頼性から、今後も温度計測の主要な手段であり続けます。

今後の展望としては、より過酷な環境(高温、高圧、腐食性雰囲気、振動など)に対応できるセンサー素材や構造の開発、応答性のさらなる高速化、小型化、ワイヤレス化、自己診断機能の搭載などが考えられます。また、IoTやAI技術の進展に伴い、抵抗温度計から得られる温度データをリアルタイムで収集・解析し、設備の予知保全やプロセス最適化に活用する取り組みも加速していくでしょう。

 

 

参考文献
わかる温度計測 測温抵抗体編  キーエンス AS_114808_TG_117170_KJ_JP_2100_1
Measurement, Instrumentation and Sensors Handbook  R. J. Sandberg CRC Press LLC 2000年
温度はどうすれば正しく測れるか  服部晋  化学教育Vol.25 No.1
ガス製造業における温度計測  坂上誠一、中村勝弘、国見忠 計測と制御Vol.42 No.11 2003年
DOE FUNDAMENTALS HANDBOOK INSTRUMENTATION AND CONTROL Vol1 of 2 FSC-6910
JIS C1604:2013  測温抵抗体
Measurement and Instrumentation Principles 4rd ed  Alan S. Morris  Butterworth-Heinemann 2012年
How To Measure Temperature with RTD Sensors  Grant Maloy Smith  DEWESoft

引用図表
図1 測温抵抗体の原理  出典:わかる。温度計測 測温抵抗体編 キーエンス
表2 測温抵抗体の材質別測定温度範囲  出典:わかる。温度計測 測温抵抗体編 出典:キーエンス
図3 材質毎の温度―抵抗特性  出典:Measurement and Instrumentation Principles-4th Edition.pdf  pp364
図4 代表的な抵抗素子の構造  出典:How To Measure Temperature with RTD Sensors G. M. Smith DEWESoft
図5 シース測温抵抗体  出典:わかる。温度計測 測温抵抗体編
図6 保護管付測温抵抗体及び端子箱  出典:わかる。温度計測 測温抵抗体編
図7 内部導線の結線方式  出典:わかる。温度計測 測温抵抗体編
表8 測定温度に対する許容差  出典:JIS C1604:2013

ORG:2025/05/15