2.10 鋳鉄における微量元素の影響
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2.10 鋳鉄における微量元素の影響(Effect of Impurities on Cast Iron)
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鋳鉄は、Fe(鉄)とC(炭素)の主要構成成分の他に、少量のSi(ケイ素)、S(硫黄)、Mn(マンガン)、P(リン)が含まれています。
本項では、これらの鋳鉄に含まれる微量元素の影響について示します。
1. Si(ケイ素)
Siは、普通鋳鉄には1.5~2.5%含まれています。 ケイ素は溶湯の流動性を改善し、収縮も少なく、脱酸作用も有するなど鋳造性を改善します。
炭素とケイ素の量は、鋳鉄の種類や、形状、肉厚によって適切の選択する必要があります。ケイ素は炭素を最も黒鉛化する元素です。セメンタイト(炭化鉄;Fe3C)を分解する作用が強力です。そのため鋳鉄中のケイ素の増加はねずみ鋳鉄をフェライト+黒鉛の組織に移行し、硬さが低く耐摩耗性が悪化させます。
一般に、薄肉鋳物は流動性を確保する必要があるが、冷却速度が速く炭素の黒鉛化の影響は小さいので、炭素とケイ素の量を多くし、厚肉鋳物では冷却速度が遅いと黒鉛化しやすいため、硬さを保つため炭素とケイ素の量は少なくします。鋳物の肉厚とケイ素量との関係を表2.10.1に示します。
表2.10.1 鋳物の肉厚とケイ素量との関係
また、鋳物の種類別に、一般的な炭素とケイ素の含有量を、表2.10.2に示します。
表2.10.2 鋳物の種類と炭素量とケイ素量
さらにケイ素には、耐酸性や耐熱性を高める働きがあります。鋳鉄中のケイ素を7%くらいまで増加させると、前述のように片状黒鉛とフェライトの組織になり、硬さは低くなりますが耐酸化性や耐成長性が増加します。シラール(Sillal)や高ケイ素ダクタイルと呼ばれる種類の特殊鋳鉄があります。
2. Mn(マンガン)
鋳鉄には、通常マンガンが0.4~1.0%含まれています。マンガンや溶湯中で、硫黄と化合して硫化マンガン(MnS)を生成して、溶湯の表面に浮かぶため、硫黄を除去する役割を行います。硫化マンガンの生成のための必要量は、硫黄の約3倍と言われていますが、実際には、さらに0.2~0.3%過剰に添加します。
硫化マンガンを生成しないマンガンは、黒鉛の析出を妨げ、鉄とマンガンとの炭化物を生成します。また、マンガンを組織を緻密にして、鋳鉄の硬さや強さを増加させます。また、マンガンは焼入れ効果を増加させる働きをします。マンガンの含有量が1%以上になるとチル化するようになります。
鋳造性に及ぼす影響は、流動性を低下させ収縮を大きくする短所があります。一方、溶湯中のガスを除去します。
3. P(リン)
鋳鉄には、リンが0.05~1.0%含まれています。薄肉鋳物、美術鋳物のなどでは1%前後、ピストンリング、ブレーキシューライナーなどでは0.5%程度、機械鋳物では0.2%以下になります。
一般に、リンは鋳物に有害であり、鉄と化合してステダイト(Fe3P)を生成します。ステダイトは、切削性を悪化させ、非常にもろくなります。また、鋳物に巣をつくりやすくする性質があります。
流動性は良好になりますが、その効果は炭素の約1/3です。リンは鋳鉄を硬くし、強さを増すので耐摩耗性を向上します。
4. S(硫黄)
硫黄は鋳鉄の凝固点を高くするので、溶湯の流動性が悪くなります。また、炭化鉄が増加して鋳物を硬くもろくします。また、収縮率が増加し割れが発生しやすくなるので、普通鋳鉄では0.1%以下になるようにしなければなりません。
長所としては、切削性をわずかに良好にするのと、耐摩耗性が良好なことが挙げられます。
5. その他の元素の影響
合金元素の種類によって、セメンタイトを安定化するものと、黒鉛化を促進するものに大別さtれます。
セメンタイトを安定化する合金元素としては、Cr(クロム),V(バナジウム),Mo(モリブデン),Te(テルル),Mg(マグネシウム),Ce(セリウム)などがあります。
黒鉛化を促進する合金元素としては、Al(アルミニウム),Ni(ニッケル),Cu(銅),Ti(チタン),Zr(ジルコニウム)などがあります。
(1) Cr(クロム)
クロムは、セメンタイトを安定化し、組織を緻密にします。耐食性や耐摩耗性を与えるために特殊鋳鉄では、一般的には0.15~0.9%添加しますが、特殊な目的で鋳鉄の酸化や成長を防ぐのに1.5~2.0%添加します。
また、耐熱鋳鉄では数十%クロムを含有させるものがあります。
(2) Cu(銅)
銅は、炭素の黒鉛化を促進しますが、その能力はケイ素の1/10程度です。引張強さや抗折力を改善します。
また、耐摩耗性、耐摩擦性、耐衝撃性についても改善します。
(3) Mo(モリブデン)
モリブデンは、炭化物を安定化させますが、その能力は高くありません。モリブデンは焼入れ効果を良好にして、鋳鉄の硬さを増加させます。この性質を利用したアシキラー鋳鉄は、モリブデンを添加して熱処理することにより、ベーナイト組織にした鋳鉄です。
(4) Ni(ニッケル)
ニッケルは、黒鉛化を促進して、チル化するのを防いで、切削性を良好にします。ニッケルの添加量が1%以下の場合、黒鉛の粗大化を防いで組織を緻密化し、機械的性質を著しく改善します。
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参考文献
若い技術者のための機械・金属材料 丸善
A Text Book of Machine Design by R.S.Khurmi, J.K.Gupta
(株)岡本HP 鋳物データブック
引用図表
[表2.10.1] 鋳物の肉厚とケイ素量との関係 (株)岡本HP 鋳物データブック
[表2.10.2] 各種鋳物の炭素量とケイ素量 (株)岡本HP 鋳物データブック
ORG: 2018/3/24