2.25 鋼の熱処理
Contents
2.25 鋼の熱処理
スポンサードリンク
アフィリエイト広告を利用しています。
熱処理という用語は、化学組成の変化をせずに特定の要求条件もしくは特性を得る目的のために固体の状態で金属やその合金の加熱・冷却を含む操作または操作の組合せとして定義されます。熱処理の目的は、以下の目的の一つ以上を達成することです。
1.金属の硬さを増加
2.熱間/冷間加工後の材料に発生する応力の緩和
3.被削性の向上
4.金属の軟化
5.その電気的/磁気的特性を向上させるために材料構造の変更
6.粒形の変更
7.熱、腐食及び摩耗に対して良好な耐性を提供するための、金属の性質の改善
以下に、一般に工学的に実用化されている様々な熱処理プロセスを示します。1項から5項までは全体熱処理、6項は表面熱処理といわれるものです。
1. 焼ならし(normalising):
焼ならしの主な目的は以下のとおりです。
(1)被削性や引張強さ、溶接構造の改善のための鋼の粒径の微細化
(2)鍛造や圧延、曲げなどの金属をもろく、信頼性を低下させる冷間鍛造プロセスに起因するひずみの除去
(3)熱間加工による鋼の内部構造に起因する転移の除去
(4)特定の機械/電気特性の改善
焼ならしのプロセスは、亜共析鋼(C0.8%未満)の上部臨界温度または過共析鋼(C0.8%以上)のAcm線より上に、30~50℃程度、鋼を加熱することになります。この温度に約15分間保持した後、静止空気中で冷却します。
このプロセスは、亜共析鋼ではフェライトとパーライト、及び過共析鋼ではパーライトとセメンタイトとからなる、均質構造を生じます。この均質な構造により、鋼により高い降伏点、及び高い引張強さ、低い延性による高い衝撃強さを与えます。
焼ならしのプロセスは、しばしば鋳造品や鍛造品などに適用されます。合金鋼は焼ならしができますが、既定温度で2時間保持した後、炉内で冷却されなければなりません。
注記:
(a) 鋼の上部臨界温度は、その炭素含有量に依存します。純鉄では900℃、2.2%炭素量で860℃、0.8%炭素量で723℃、1.8%炭素量で1130℃です。
(b)0.8%炭素量の鋼は、共析鋼といいます。炭素量が0.8%未満の亜共析鋼、0.8% を超える鋼は過共析鋼といいます。
2. 焼なまし(annealing):
焼なましの主な目的は以下のとおりです。
(1)機械加工または冷間加工を容易に行うための鋼の軟化
(2)強さや延性などの機械的性質を改善するための金属の粒子サイズや構造の改良
(3)熱間/冷間加工もしくは鋳造における不均一な収縮により発生した内部応力の緩和
(4)電気的、磁気的あるいは他の物理的な特性の改質
(5)鋳造の初期の段階で金属中の閉じ込められたガスの除去
焼なましのプロセスには、次の2種類があります。
(a)完全焼なまし(Full annealing):完全焼なましの目的は、粒子の構造を改良したり、応力を緩和したり、
金属中に閉じ込められたガスを除去するために金属を軟化させることです。本プロセスは次の3つの工程からなります。
(i)亜共析鋼に対しては上限臨界温度より30~50℃、及び過共析鋼に対しては下限臨界温度(即ち723℃)より30~50℃高い温度で加熱。
(ii)内部変化を可能にするために、この温度で一定時間保持。この保持時間は、最も大きい部分の厚み1mmあたりおおよそ3~4分くらいです。
次に
(iii)炉内でゆっくり冷却。この冷却速度は、鋼の組成により変わり、一時間当たり30~200℃の範囲で変化し、幅があります。
焼なまし中に発生する恐れのある脱炭を防ぐために、鋼は鋳鉄の切粉や木炭、石灰、砂、もしくは粉砕雲母の混合物を入れた鋳鉄の箱にいれられます。この箱は適切な加熱をした後、炉内で徐冷されます。
次の表は、鋼に含まれる炭素量毎のおおよその焼なまし温度を示しています。
表2.25.1 焼なまし温度
(b)中間焼なまし(Process annealing):中間焼なましは金属中に設定済の内部応力の緩和や鋼の機械加工性の向上のために実施されます。このプロセスで、鋼は下限臨界温度もしくはそれより低い温度に加熱されしばらく保持された後、ゆっくり冷却します。これは、
過酷な条件で冷間加工された鋼の完全な再結晶化をもたらして新しい粒子構造が形成されます。中間焼なましは、鋼板や鋼線の製作時に一般的に使用されます。
3.球状化焼なまし(spheroidising):
パーライト中のセメンタイトや網状セメンタイトを球状化させるための焼なまし方法です。
球状化焼なましは、通常機械加工が困難な高炭素工具鋼に適用されます。操作は下限臨界温度(730 - 770℃)よりわずかに低い温度まで鋼を加熱し、その温度でしばらく保持した後600℃まで徐冷します。冷却速度は、一時間当たり25 - 30℃です。
球状化焼なましは、鋼の被削性を向上させますが、硬さや引張強さは低下します。 球状化焼なましした鋼は通常の焼なまし鋼より伸び特性が優れています。
4.硬化(hardening):
硬化の主な目的は以下の通りです。
(1)耐摩耗性を向上させるための金属の硬さの向上
(2)他の金属を切削を容易にする。すなわち切削工具に適したものにする
硬化のプロセスには、次の3つの工程からなります。
(a)亜共析鋼に対しては上限臨界温度より30~50℃、及び過共析鋼に対しては下限臨界温度(即ち723℃)より30~50℃高い温度で加熱。
(b)この温度に、厚みに応じて考慮すべき時間保持する。
(c)水や油、塩水など適切な冷却用媒体で焼入れ(クエンチング)。低炭素鋼は、柔らかくて熱処理でも降下しないフェライトが含まれるため、あまり硬くならないことに留意しなければなりません。
炭素量が増加するにしたがって、得られる硬さは増加します。
注記:
1.クエンチングの速度が早いほど、硬くなります。
2.合金鋼や高速度鋼の硬化のためには、1100 - 1300℃に加熱してから、空気の流れにより冷却します。
5.焼戻し(tempering):
急速焼入れにより硬化した鋼は、非常に硬くてもろいです。また焼入れ鋼に割れや破壊を起こす過酷で不均等な内部応力が含まれています。それ故、焼戻しは次の理由で行われます。
(1)焼入れ鋼のもろさを減少させて、延性を増加させる。
(2)鋼の急冷に起因する内部応力の除去
(3)衝撃と疲労に耐えるように鋼を強靭にするため
焼戻し工程は、焼入れ鋼を下限臨界温度より下の温度で再加熱して、冷却を所定の速度で保持することよりなります。正確な焼戻し温度は、物品や工具が使用される目的により異なります。
6.表面硬化(surface hardening )や肌焼入れ(case hardening):
多くの工学的な用途では、鋼は摩耗や断裂に耐えるように表面が硬化されていることが望ましいです。任意の衝撃に耐えうるように、内部や中心は柔らかく強靭である必要があります。これは製品の表面層を硬くし、一方内部は柔らかいままにすることにより達成されます。この熱処理は、歯車や転がり軸受、鉄道の車輪などに適用されます。
以下に、表面層を硬くする硬化方法を示します。
1.浸炭(carburising)
2. 窒化(nitriding )
3.高周波焼入れ(induction hardening)
4.炎焼入れ(flame hardening)