リチウムイオン電池

リチウムイオン電池(LIB:lithium-ion battery)

 

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1. リチウムイオン電池とは

リチウムイオン電池は、正しくはリチウムイオン二次電池と呼ばれ、充放電が可能な蓄電池の仲間です。

リチウムイオン電池のルーツは、1970年代に実用化された一次電池のリチウム電池にさかのぼります。リチウム(Li)は、酸化還元電位が-3.045Vで最も卑な金属です。そのため電池の負極として用いると非常に大きな電気容量を得ることができます。ただ、一次電池のように放電だけでしたら問題はないですが、二次電池の負極に金属リチウムを用いると、充電時にリチウム電極上にリチウムの針状結晶が生成(デンドライト析出:dendrite formation)して、セパレータを突き破る危険性があり、そのままでは使用できない状況でした。

そこで、負極に用いるリチウムを吸蔵出来る化合物の探索が進み、旭化成工業の吉野彰博士により、当初はポリアセチレンにn型ドーピングを行い導電性にしたものと、イギリスのグッドイナフ(J.B.Goodenough)が提唱したリチウム遷移金属酸化物であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池の原型を1983年に創出しました。その後、ポリアセチレンの不安定さや電池容量を高く出来ないなどの難点を克服するために、最終的には炭素を負極材料としたリチウムイオン二次電池(LIB)の基本概念を1985年に確立しました。

吉野彰博士が着目した点は、

1. 正極材料にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を用いることにより
   ・正極自体にリチウムを含有するので、負極に金属リチウムを用いる必要が無いので安全。
   ・電位が4V 級と高く、高容量が得られる。

2. 負極材料に炭素材料を用いることにより、
   ・炭素材料がリチウムを吸蔵するので、金属リチウムが電池中には存在しないので安全。
   ・リチウムの吸蔵量が大きく、高容量が得られる。

さらに、実用的な炭素の結晶構造(層状)を見出しています。

加えて、リチウムイオン二次電池の本質的な構成要素である、アルミ箔を正極集電体に用いる技術や安全性を高める機能性セパレータの開発や、さらに安全阻止技術、保護回路・充放電技術、電極構造、電池構造など、現在のリチウムイオン二次電池の校正をほぼ完成させた功績があります。

 

商品化は日本が先行し、1991年ソニー・エナジー・テックが世界で初めてリチウムイオン電池を商品化し、続いて旭化成と東芝の合弁会社エイ・ティー・バッテリーが、1994年には三洋電機が負極材料に黒鉛炭素質を用いたリチウムイオン電池を商品化しました。

図1 吉野彰博士:出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/11/attach/1422026.htm)(2022/11/16アクセス)

 

 

2. リチウムイオン電池の主要材料

リチウムイオン電池の主要な構成要素は、正極活物質、負極活物質、電極質、セパレータの4つの部材になります。ここで活物質とは、化学エネルギーと電気エネルギーのエネルギー変換のために行われる電気化学的な酸化還元反応を担う物質のことをいいます。

(1)正極活物質

正極活物質の多くは、リチウムイオンを含んだ金属酸化物です。代表的な物質を結晶構造の観点から分類すると、「層状岩塩型」、「スピネル型」、「オリビン型」の3つに分類することができます。

層状岩塩型:
層状岩塩型の物質は、遷移金属イオンとリチウムイオンとが交互に配列された層状の結晶構造をしています。代表的な物質は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)です。これは、リチウムイオン電池の正極材料として一番最初に提案されたもので、現在でも用い続けられています。理論電池容量は274mAh/gで自己放電も少なく、放電電圧も高く、サイクル特性も高い魅力的な物質ですが、高コストで熱安定性が悪いことがけってとしてあげられます。

結晶中の金属酸化物層には、コバルト(Co)の他、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)が主に使われています。それぞれ、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2であらわされます。

LiNiO2は、KiCoO2とほぼ同じ理論電池容量を持っていますが、合成時にリチウム拡散を阻害したり、熱安定性が低い問題があります。熱安定性や電気化学特性を向上させるために、Alをドーピングした、NCA(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2)が開発されました。しかし、NCAでも高温での容量低下の問題があります。

LiMnO2は、MnがCoやNiと比較して安価でかつ毒性が低いので有力な材料として注目されていますが、リチウムイオンの脱挿入により、層状構造がスピネル構造(LiMn2O4)に変化したり、充放電中にMnが結晶から消失してサイクル特性が悪いなどの問題があります。構造を安定化するためにNi、Coをドーピングした三元系のNCM(LiNixCoyMnzO2)は、LiCoO2と容量的にも放電電圧も同程度で、コスト的にはより安価になります。典型的なNCM材料として、NMC111(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)が実用化されています。

層状岩塩型の活物質は、高容量な材料にしやすい半面、充電時に層間のリチウムイオンを引き抜きすぎると結晶構造が崩壊して、電池の劣化や異常発熱に至る可能性があります。電池はエネルギーを貯蔵するデバイスですので、容量と安全性はどうしてもトレードオフになりがちです。

ニッケル含有率を高めることでエネルギー密度を向上させつつ、その一方でどのように安全性を担保するかとの観点で開発が進められています。

 

スピネル型:
層状岩塩型の場合、リチウムイオンが結晶構造内を2次元的に移動するのに対して、スピネル型の物質の場合は格子状の結晶構造内を3次元的に移動します。スピネル型の活物質は層状岩塩型に比べるとエネルギー密度が低い傾向がありますが、結晶構造が強固な3次元格子であるため、層状岩塩型よりも過充電に対する耐性があることが特徴です。

代表的な材料として、マンガン酸リチウム(LMO:LiMn2O4)があげられます。過充電に対する安全性は高いですが、高温条件でマンガンの溶出が起こり、劣化・性能低下を起こす要因となります。また、マンガンスピネル系の材料にニッケルを添加した、ニッケル酸マンガン酸リチウム(LNMO:LiNi0.5Mn1.5O4)は、従来のリチウムイオン電池よりも、高電圧(5V級)の起電力が可能となり、エネルギー密度の向上が期待されます。

 

オリビン型:
オリビン型の活物質は、リン酸鉄リチウム(LFP:LiFePO4)が最も一般的です。主原料が鉄であることより、他の活物質より安価で、リチウムイオン電池の価格低減に寄与しています。テスラの一部の車両に採用されています。

オリビン型活物質では、鉄、リン、酸素により形成される複雑な構造体の中を結晶軸に沿って、リチウムイオンは一次元的に移動します。

開発の当初は、電子伝導性やリチウムイオンの輸送特性が低く、活物質としては性能が劣っていましたが、活物質をナノ粒子化したり炭素コーティングにより性能が改善され、実用化されるようになりました、また、結晶中のリンと酸素との結合が非常に強いため、過充電や高温環境でも結晶構造崩壊による酸素の放出が起こりにくいので、異常発熱や発火に対する安全性が高い特徴があります。

一方、他の活物質に比べて動作電圧が低くなることがエネルギー密度を高く取れないことが短所としてあげられます。その解決策として、マンガンを添加したリン酸マンガン鉄リチウム(LMFP:LiMn1-xFexO4)により、特性改善、動作電圧向上の検討が進められています。

 

(2)負極活物質

現在、リチウムイオン電池に用いられている代表的な負極活物質は、炭素系材料とチタン酸リチウム(LTO:Li4Ti5O12)です。さらに、より高容量な材料として注目されているのがシリコン(Si)に代表されるリチウム合金系材料です。

 

炭素系材料:
代表的なものは黒鉛(グラファイト)です。グラファイトは炭素のシート(グラフェン)が何重にも層状になっておりその層間にリチウムイオンが挿入・脱離を繰り返すことができます。このとき金属リチウムではなくリチウムイオンの状態で層間に存在することができるという性質がリチウムイオン電池の安全性を担保していることになります。動作電圧が極めて低い(0.1~0.2V vs. Li/Li+)のが特徴で、リチウムイオン電池が高いエネルギー密度を示す一因となっています(図 1)。

また、部分的にグラフェン領域は持つものの、構造的な配列を持たない非晶質黒鉛も負極活物質として用いられます。フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂不活性ガス雰囲気で蒸し焼きすることにより得られるハードカーボン(難黒鉛化炭素)や、タール蒸留後の窯残渣であるピッチ系炭素や、熱可塑性樹脂を1000~1200℃で蒸し焼きにして得られるソフトカーボン(易黒鉛化炭素)などがあります。求められる電池特性により使い分けされています。

チタン酸リチウム:
耐久性や入出力特使絵の改善を目指してチタン酸リチウム(LTO:Li4Ti5O12)が採用されているリチウムイオン電池もあります(東芝のリチウムイオン電池:SCiB)。リチウムイオンを充放電の際に挿入離脱するのは、炭素系材料と同じですが、挿入するリチウムイオンの数が少なく、炭素系材料と比較しても充放電に伴う膨張収縮が小さい特徴があり、充放電サイクル特性が非常に良好です。一方で、黒鉛伝教と比較すると動作電圧が高いため(1.5V vs. Li/Li+)、エネルギー密度の向上は難しいため、EV車両のようなエネルギー密度を優先させる用途ではなく、HEVやトラック・電車などの大型車両向けや、電池寿命が重要な電力貯蔵用システム用途に適しているとされています。

リチウム合金系:
炭素系材料やチタン酸リチウムと比較して、より大きな高体積(質量)エネルギー密度を有する物質として注目されれているのが、充電時にはリチウムイオンとリチウム合金層を形成し、放電時には合金相からリチウムイオンが離脱する性質を利用したリチウム合金系負極活物質が開発されています。リチウムイオンと合金層を作る代表的な金属はシリコン(Si)ですが、他にもGeや、Sn、Alなどが検討されています。

リチウム合金系は、単位体積当たりの理論電池容量が大きいのが特徴です。例えば、黒鉛の理論的な比容量が372mAh/g に対して、シリコンリチウム合金(Li4.4Si)では、4200mAh/gで、極めて高い値が得られます。

シリコンは地球上に豊富に存在する元素ですので、今後徐々に黒鉛系材料からの置き換えが進む可能性があります。ただ、シリコンは容量向上に対して非常に大きな寄与をもたらす一方、充放電時のリチウム合金化に伴って、非常に大きな体積変化や粒子の崩壊を引き起こします。さらに粒子崩壊によるSEI皮膜の形成が繰り返されることにより、容量低下をもたらします。その結果、他の負極活物質と比較して、サイクル寿命が短くなる傾向があります。

体積変化を抑制するために、活物質の名のサイズ化や炭素との混合材料化などの対策が検討されています。

 

(3)電解質

電解質は、正極と負極との間にあって、電荷キャリアとなるイオンを含む物質です。リリウムイオン二次電池は、リチウムイオンが存在して、正負極間を可逆的に移動する物質が電解質です。多くのリチウムイオン二次電池に使用されているのは、リチウムイオン含有結晶(リチウム塩:LiPF6)を炭酸エステル系の有機溶媒に溶解させた、非水分散系の電解液です。

良好な電池性能を得るため、電解液に求められる特性は「イオン伝導率」です。イオン伝導率は、正極・負極間をどれだけ多くのリチウムイオンが高速で移動できるか、つまりリチウムイオンの濃度や移動速度によって決まります。炭酸エステル系の有機溶媒や、LiPF6などのリチウム塩は、粘度、誘電率、溶解度といった種々の特性でイオン伝導率を高め、リチウムイオンを動きやすくすることが可能であることから採用されています。

炭酸エステル系の有機溶媒を使用した電解液は、リチウムイオン電池に適した特性を有していますが、その反面、液漏れや漏れた場合の発火などの可能性が考えられます。そういった危険性を低減するため、電解質を「高分子ゲル化」する方法が検討されるようになりました。いわゆる「リチウムポリマー電池」や「リポバッテリー」などと呼ばれるタイプの電池です。

現在では、高分子ゲルとしてフッ化ビニリデン系共重合体を採用した高分子ゲル電解質を用いた電池が、スマートフォンなどをはじめとする多くの製品に使用されています。

さらに、主として安全性の観点から可燃性の有機溶媒を使用せずに、同レベルのイオン伝導率を有する難燃性の固体材料に置き換えたのが全固体電池です(別項目で示します。)。

 

(4)セパレータ

セパレータは、正極と負極の間に設置され、リチウムイオンを透過し、かつ正極と負極との接触を防ぐ(内部短絡防⽌)ことを目的とする多孔質構造を持つ材料です。多孔質構造は、樹脂フィルムに微小な孔を開孔させた形状の多孔質膜、及び不織布などが検討されています。

セパレータは、基本的な機能として電気絶縁性とイオン電導性が必須ですが、その他電池として安定に作動するために、化学的安定性(耐電解液性、耐湿性)や、電気化学的安定性(負極に対する耐還元性、正極に対する耐酸化性)、機械的強度が必要です。

この他、異常発熱時にリチウムイオンの流れを遮断する機能(シャットダウン機能)やシャットダウン後の異常発熱による短絡を防止する高温形状保持機能(耐熱性)が要求されます。

 

多孔質膜:
基材の材質としては、化学的安定性、電気化学的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、芳香族ポリアミド、フッ素樹脂などが検討されましたが、低温で軟化してシャットダウン機能を発揮するポリエチレンを含むポリオレフィン(軟化点130℃)が採用されています。機械的強度を確保するため、分子量は数十万以上のポリオレフィンが使用されており、さらに10μm以下の薄さになると、分子量が1000万を超えるものの配合されます。

多孔質膜として性能に影響を与えるのは、気孔率(空隙率、空孔率)や、細孔径(最大、平均)及びその分布(細孔径の均一の程度)、貫通孔の曲路率があげられます。それぞれ、

気孔率;セパレータの全体積に占める気孔の比率。機械的強度と電池特性(特に充放電サイクル特性)とのトレードオフの関係にあり、通常は40~50%に設定されます。

細孔径;最大孔径が大きい方がリチウムイオンの透過が容易となり出力密度が向上する一方、小さい方が自己放電や短絡が発生し難いといえます。また平均細孔径が大きい方が電解液の浸透速度が大きくなります。不均一性が大きいとイオンの流れが不均一になりサイクル特性の低下につながります。通常は、0.1~0.5μm程度に設定されます。

曲路率;貫通孔の曲路率は、細孔経路長を多孔質膜の厚みで除した値と定義されます。セパレータに電解液を含侵させて電気抵抗の測定により算出します。定義から曲路率は1.0以上になります。小さいほどイオン透過性が高くなるので電池特性に大きく影響します。通常は、1.5~2.5程度の設定されます。

多孔質膜は、安全性と電池特性のバランスを最適化するため積層膜として使用されることがあります。
機械的強度とシャットダウン機能との両立を目的とした、ポリオレフィン積層体(PE/PP/PE)が商品化されています。さらに耐熱性を付与するため、芳香族ポリアミドやフッ素樹脂などの耐熱性樹脂層や、無機層(アルミナ、チタニアなどの耐熱性無機微粒子と耐熱性バインダー樹脂)の何れかもしくは両方を被覆したものが商品化されています。

多孔質膜の厚みは、全体で10~20μm程度です。

 

不織布:
イオン透過性が良い、安価などの理由から、不織布のセパレータも検討されています。基材としては、芳香族ポリアミドやセルロースなどの耐熱性繊維に無機微粒子で細孔を埋めることで電気絶縁性を改善したものが検討されています。ただ、機械的強度が低い。薄くすることが困難、細孔径が大きく絶縁性に問題があるなどから、商品化は困難とされています。

 

 

3. リチウムイオン電池が電気を作る仕組

リチウムイオン電池は、リチウムイオンが正極活物質と負極活物質の間を移動することにより、充放電を行います。

ここではリチウムイオン電池の代表的な活物質であるコバルト酸リチウム(正極;LiCoO2)と黒鉛(負極;C)との組合せについて充放電の際の化学反応(酸化還元反応)がどの様に行われているかをみてみましょう。

コバルト酸リチウムは層状岩塩型で層状の結晶構造の層間にリチウムイオンを挿入離脱します。黒鉛もグラフェンと呼ばれる炭素シートの層間にリチウムイオンが挿入離脱されます。このように充放電に伴ってリチウムイオンがホスト化合物に電気的に取り込まれたり、放出されたりする、インターカレーション・ディンターカレーション反応が起こっています。

この場合の、各電極の反応と電池としての全反応は以下の通りです。

 正極:\(  \mathrm{ Li_{ 0.5 }CoO_{ 2 } + 0.5 Li^+ + 0.5 e^- } \)     \( \mathrm{ LiCoO_{ 2 } } \)  

 負極:\(  \mathrm{ Li_{ 0.5 }C_{ 6 } } \)      \( \mathrm{ 0.5 Li^+ + 0.5 e^- + C_{ 6 } } \)  

全反応:\(  \mathrm{ Li_{ 0.5 }C_{ 6 } +Li_{ 0.5 }CoO_{ 2 } } \)    \( \mathrm{ C_{ 6 } + LiCoO_{ 2 } } \)  

 

図2 リチウムイオン電池の原理

図3 コバルト酸リチウム/黒鉛の充放電曲線

 

放電時、負極活物質である 黒鉛からリチウムイオンが電解質中に引き抜かれ、電解質中を通ってセパレータの空孔部を通過して、正極活物質であるコバルト酸化物(CoO2)の構造中にはいります。このとき外部回路を経由して電子を得て、コバルト酸リチウム(LiCoO2)が生成します。

充電時はその逆で、コバルト酸リチウムから引き抜かれたリチウムイオンが黒鉛中にはいります。図 2 に、リチウムイオン電池の原理を示します。

図からわかるように、リチウムイオン電池における充放電反応は、リチウムイオンが正極・負極間を移動するだけであり、鉛蓄電池やニッケルカドミウム電池などのように、電極の構造そのものが変化したり、新たな化合物が生成したりするものではありません。

リチウムイオン電池に使用されている材表的な材料については、前項に示しています。リチウムイオン電池の材料については、その性能向上のために現時点でも研究開発が続けられています。

リチウムイオン電池の特徴をまとめると以下のようになります。
 ①動作電圧が高い。
 ②エネルギー密度が大きい。
 ③理論容量が大きい。
 ④サイクル特性に優れる。
 ⑤メモリー効果がない。

 

4. リチウムイオン電池の種類

リチウムイオン電池は、主として正極活物質の違いによりいくつかの種類が実用化あるいは開発がすすめられています。表 4 にそれぞれの電池の概略を示します。

表4 リチウムイオン電池の種類と特徴  参考:Wikipedia他

(1)コバルト系リチウムイオン電池

正極にコバルト酸リチウム(LiCoO2)、負極に⿊鉛(LiC6)を⽤いたコバルト系リチウムイオン電池はが、1991年にソニーエナジーデバイス社が世界で初めて商品化したリチウムイオン電池です。最もバランスの取れた正極材料として、携帯用デバイス機器を中⼼に幅広く使⽤されていますが、コバルトが⾼価で、かつ価格変動が⼤きいのと、熱暴⾛の危険性があるため⾞載⽤への応⽤は安全性に課題があるといわれており、あまり採用実績はありません。。

 

(2)マンガン系リチウムイオン電池

正極活物質として、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を使⽤するマンガン系リチウムイオン電池は、コバルト系リチウムイオン電池とほぼ同じ程度の起電力があります。また、マンガンの価格の安い(コバルトの約1/10、ニッケルの約1/5)こと、及び結晶構造が強固であることから熱安定性に優れ、安全性が⾼いといわれ、⾞載⽤電池の主流となっています。

欠点としては、充放電中に電解質にマンガンが溶出することがあるので電池の寿命が短くなります。

 

(3)リン酸鉄系リチウムイオン電池

正極にリン酸鉄リチウムを使用します。リン酸鉄系リチウムイオン電池は結晶中のリンと酸素との結びつきが非常に強いため、過充電や高温での結晶構造が崩壊しにくく、酸素放出が起こりにくいため、異常発熱や発火に対する安全性が高いことが特徴です。また、サイクル特性も良好です。

さらに、主原料が鉄ですので、マンガン系よりもさらに安価に製造できるメリットがあります。ただし、他のリチウムイオン電池よりも起電力は低くなります。

最近では、テスラの一部の車種に採用されています、安定性に優れる、サイクル寿命が長いことより蓄電池システムへの採用が盛んです。

 

 

(4)三元系リチウムイオン電池(NMC系、NCM系とも)

正極活物質のコバルト酸リチウムの一部を、ニッケル(Ni)とマンガン(Mn)とで置換して、コバルト・ニッケル・マンガンの3種類の原料を使用することで安定性を高めたものです。電気自動車洋の電池として用途が広がっています。将来も含めてリチウムイオン電池の正極活物質としての割合は大きいと予想されます。

 

(5)ニッケル系リチウムイオン電池(NCA系)

元になるニッケル酸リチウム(LiNiO2)は、コバルト酸リチウム以上に高いエネルギー密度を持ちますが、安全性に課題があるといわれていました。NCA系はニッケルベースに構造安定化のためにコバルト(Co)を、耐熱性の改善のためにアルミニウム(Al)を添加したものです。

さらに、負極にもセラミックス層をコーティングすることなどにより耐熱性を高めて安全性を強化しています。

 

(6)チタン酸系リチウム電池

上記の(1)から(5)までは、正極活物質のバリエーションで、負極活物質は何れも黒鉛が採用されています。このチタン酸系リチウムイオン電池は、負極活物質としてチタン酸リチウム(LTO:Li4Ti5O12)を用いたものです。東芝が製造するSCiBは正極にマンガン酸リチウム(LiMn2O4)を採用しています。

特徴としては、外力が作用して内部で短絡しても熱暴走が起きにくい、充放電回数が10000回以上可能、6分程度で急速充電が可能、寒冷地(-30℃)でも使用可能などがあげられます。一方、定格電圧は低く2.3~2.4V程度しかありません。エネルギー密度も他のリチウムイオン電池よりは劣ります。

 

5. リチウムイオン電池はどんなところで使われているか

リチウムイオン電池は、1990年ごろから、ビデオカメラやノートパソコンの電源として市販され、スマートフォンなどの携帯機器用の電源として性能向上が図られてきています。ただこの分野では、ゲル状の電解質を適用したリチウムポリマー電池(構成的にはリチウムイオン電池と同じ)に比重が移ってきたと言われています。

現在では最も多くの比重を占めるのが電気自動車への搭載蓄電池です。この分野はコバルト酸リチウム系以外が適用されてきたが、高性能機にはニッケル酸リチウム系、一般向けには三元系の適用が増加するといわれています。リン酸鉄リチウム系は、中国の大型電池向けが主流で、2016年には中国で新エネルギーバスをリン酸鉄リチウムイオン電池へ実質一本化しました。ただ、乗用車向けには三元系へのシフトがみられるとのことです。

さらには、太陽光発電や風力発電など不安定な再生エネルギーが連携した系統の安定化のため、リチウムイオン電池を用いた大容量蓄電池システムとして国内外に設置されています。

また、地震などの自然災害時に、事業継続を図るBCP対策として、非常用発電機と組み合わせた蓄電池システムが、数多く市販されています。安全性から主としてリン酸鉄系リチウムイオン電池が選択されているようです。

 

6. リチウム電池の安全性

リチウムイオン電池は二次電池として優れた性能を持っていますが、電解液に可燃性の有機溶媒を使用しているため、熱暴走を起こして揮発した電解液に火花が飛ぶと発火する場合があります。電解液から揮発したガスを電池から抜くための安全弁や、過剰な充電をしても短絡を起こさないようにする保護回路が組み込まれていますが、落としたりして強い衝撃を与えないようにしなければなりません。

また、発火にいたらないまでも異常過熱や外筒の膨れなどの不具合を生じる可能性があります。

また、使用する、正・負極活物質による安全性に対して注意を払う必要が、少し異なります。

一般的にいわれているのは、注意の必要な順番から、

1.コバルト系
2.三元系(コバルト、ニッケル、マンガンの複合)
3.マンガン系
4.負極がチタン酸系
5.リン酸鉄系

の順番になります。

ただし、円筒形に代表されるコバルト系でも、複数の安全機構を内蔵した電池パックとして供給され電池セル単体では市販されていません。
また、マンガン系は、電池を釘で貫通する釘刺し試験でも、暴発しにくいとされています。チタン酸系や、リン酸鉄系では、釘刺し試験では発熱のみで、暴発はしないとされています。

 

7. リチウムイオン電池としての全固体電池

全固体電池は、電池から電気を取り出す仕組みについては、リチウムイオン電池とほとんど同じです。電極の材料としては金属が使われ、リチウムイオンが電解質を通って正極と負極の間を移動することで電気の流れを生じます。リチウムイオン電池と大きな違いは、電解質が固体であることです。また、電解質が液体の場合は、正極と負極の間を隔てるセパレータがあり、正極側の液体と負極側の液体が急激に混ざり合ってしまうのを防いでいますが、固体電解質の場合、セパレータは不要になります。

電解質が液体から固体になることにより、電池内でリチウムイオンがよく動き、リチウムイオン電池よりもさらに大容量で高出力な電池が実現できます。また、不燃性の無機系固体電解質を用いることにより、耐熱性・耐寒性に優れ、電極活物質に高性能な金属リチウムや硫化物を用いることが可能になります。高容量で、高出力、広い作動温度範囲、高速充電、長寿命、低コスト化の実現が期待できます。

全固体電池の用途として、期待されているものの一つが電気自動車です。現在、電気自動車にはリチウムイオン電池が用いられていますが、可燃性の有機溶媒を含む電解質を持たない全固体電池であれば、事故などによる発火のリスクが小さくなると期待されます。また、現在の電気自動車は充電時間がガソリンによる給油と比較して時間がかかりますが、全固体電池は急速充電が可能になります。

 

全固体電池については、項を改めて、別のコンテンツでもう少し詳しく記述したいと考えます。

 

 

 

 

参考文献
リチウムイオン二次電池用電極材料   石井壮一郎他  東海大学紀要工学部Vol.,No.,2000,pp.
リチウムイオン電池の発展の歴史と将来展望   薮内直明 横浜国立大学大学院工学研究院  PF NEWS Vol.37 No.4 FEB 2020 KEK高エネルギー加速器研究機構 
リチウムイオン二次電池   Wikipedia
リリウムイオン電池関連製品の製造と安全性   神山敦  (独)製品評価技術基盤機構製品安全センター

 

引用図表
図1 吉野彰博士:出典:文部科学省ホームページ(https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/11/attach/1422026.htm)(2022/11/16アクセス)
図2 リチウムイオン電池の原理   ORIGINAL
図3 コバルト酸リチウム/黒鉛の充放電曲線   PF NEWS Vol.37 No.4 FEB 2020
表4 リチウムイオン電池の種類と特徴  参考:Wikipedia他

 

ORG: 2022/11/25