1.5 金属表面の性質

1.5 金属表面の性質

摩擦や腐食などは固体の表面で発生する現象です。これらの現象に関係する接触力の伝わり方や、熱伝導も材料表面を通じて影響を与えます。このように、固体表面は色々な作用の影響を受けています。エロージョン損傷についても、特に損傷の初期の時期や損傷形態については固体表面の状態に大きく影響されます。ここでは固体表面の性質を簡単に解説しておきます。

1. 表面エネルギー

材料表面の性質は、微視的にも巨視的にも内部の状態とは大きく異なります。その一つに表面エネルギーがあります。表面は内部に比べて15~2000mJ/m2程度の内部エネルギーが過剰に存在しています。このため表面は常に励起された状態にあり、材料と環境との相互作用を起こしやすい状態にあります。
材料表面は、固体と気体、液体など2相が接触する界面です。特に固体と気体との界面は、気相部分に比較して気体の密度が大きくなっています。そのため材料表面は、ガスや水分、油分を吸着しやすい性質があり、特に空気中での金属表面は酸素と反応して酸化物の層を表面に形成します。

 

2. 表面の性状

図1.5.1 金属表面層

図1.5.1 金属表面層

一般の金属材料を断面で見ると、図1.5.1のようにその表面層は内部表面層と外部表面層に大別されます。

外部表面層は、汚れの層、吸着分子膜層、酸化膜層からなっています。外部表面層の一番外側は、表面の汚れの層です。その下に固体表面に気相、液相から吸着された分子による吸着分子膜の層があります。更にその下には空気中の酸素により表面に無定形の酸化物の層が存在します。
鉄の場合は、560℃以下の場合大気側からFe2O3/Fe3O4/Fe、より高温ではFe2O/Fe3O4/FeO/Feの構造をとるといわれています。この酸化膜層は、色々な加工中に生成する酸化膜層は加工方法により異なりますが30~65Å程度になります(表1.5.2)。空気中での腐食ではこれより若干薄くなるといわれています。

表1.5.2 加工種類による表面酸化層の厚み

表1.5.2 加工種類による表面酸化層の厚み

内部表面層は、加工変質層とも呼ばれ、金属が機械加工される際に、熱負荷や加工応力などの影響を受けて加工変質層と呼ばれる本来の性質を持った金属とは異なる層と、本来の金属基質から成り立っています。図1.5.3にRatherが示した、加工変質層のモデルを示します。表面近傍は機械加工により変形やすべりを生じて、結晶粒が微細化します。最表面近傍では非晶質に近い状態になっています。

 

図1.5.3 Rather の加工変質層

図1.5.3 Rather の加工変質層

図1.5.4 ベイルビー層

図1.5.4 ベイルビー層

さらに機械加工でも、切削や研削加工では生じないが、摩擦を発生する研摩加工ではベイルビー層と呼ばれる50Å程度の無定形層が生成されます(図1.5.4)。研摩により材料表面は塑性変形して、表面からある深さまでの表層に加工方向に傾いた繊維状組織を生じます。最表面近傍は押しつぶされた微晶層、その下は極めて不均一な塑性変形層になっています。ベイルビー層は、摩擦による局部的な接触により発生する高温のための表面の溶融、接触点で発生する局部的な高圧力による金属の溶融温度の低下によると考えられます。

 

 

修正日:2016/5/23