1.3 熱処理方法の分類

1.3 熱処理方法の分類(Classification of heat treatment method)

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鋼材の熱処理は、大きく分類する全体熱処理と表面熱処理とに分けられます。

全体熱処理というのは、製品全体を加熱/冷却することにより、製品全体の性質を改善する熱処理をいいます。調質(焼入れ/焼もどし)や焼ならし、焼なましなどが該当します。表面熱処理は製品の表面の性質を改善する熱処理をいいます。浸炭や窒化、高周波焼入れなどが該当します。さらにこれらを組み合わせる複合熱処理もよく実施されます。
概要を示すと、

 

1.全体熱処理

全体熱処理は、製品全体の性質を改善する熱処理です。焼入れや焼もどし、焼なましなどを含みます。図1に主要な全体熱処理の流れを示します。

図1 全体熱処理の概略

詳細は、別項として、概略それぞれの熱処理について見ていきましょう。

(1)焼入れ

焼入れとは、鋼を加熱(約800~1 200℃)した後、急冷して硬い組織に変化させることをいいます。生成した組織はマルテンサイトと呼ばれます。

加熱温度や、冷却速度の差異により、鋼の硬さなどの特性は大きく変化します。もちろん鋼が、普通炭素鋼か合金鋼か、鋼に含まれる合金成分の違いや量によっても大きく影響されます。

 

(2)焼もどし

焼入れした鋼は、基本的に必ず焼もどしを行います。焼入れした状態は、急冷による熱応力が残留応力として残っており、ミクロ組織も不安定です。焼入れだけでは硬いけれども脆い状態です。
この残留応力を除去し、ミクロ組織を均一な安定状態にするために、100~650℃の範囲に加熱することを焼もどしといいます。

この焼入れと焼もどしを行うことを、調質ともいいます。

 

(3)焼なまし

焼なましは、材料を加工しやすくするために、加熱することにより、残留応力がない、軟らかい状態にすることをいいます。昔は焼鈍という言葉も使われました。

 

(4)焼ならし

焼ならしは、焼なましより高い温度から徐冷して、偏析を軽減したり、ミクロ組織の均一化や結晶粒の微細化を図ります。

 

(5)オーステンパ

オーステンパは、焼入れ温度に加熱された鋼材をMs点以上の高温冷却媒体に焼入れし、恒温変態を完了させ、冷却操作のみで焼入れ/焼もどしと同様の結果を得る熱処理方法です。これは特殊熱処理に分類されることがあります。

 

2.表面熱処理

表面熱処理は、製品の表面層だけを硬くして耐摩耗性を向上するための表面熱処理です。特に一般的な表面硬化熱処理について考えると、浸炭、窒化などの化学的表面硬化と、高周波焼入れや炎焼入れなどの物理的表面硬化の2種類があります。

化学的表面硬化とは、表面層の化学成分を変化させて硬くする方法であり、物理的表面硬化法とは、表面層だけを焼入れによって硬くする方法です。どちらも表面硬化を目的とするものですが、浸炭や窒化は表面層の化学成分が変化して、母材とは異質になり、耐摩耗性や耐疲労性が格段に良好になります。一方、高周波焼入れや炎焼入れは、表面層をマルテンサイト化という金属組織の変化を目的とするので、耐摩耗性よりも耐疲労性向上に有効な方法です。

硬化層深さには、有効硬化層深さと全硬化層深さとの2種類があります。有効硬化層深さは硬さが規定値になるまでの深さで規定されます。

例えば、浸炭の場合の有効硬化層深さは、Hv550,HRC50までに深さと規定されています。また、高周波焼入れ及び炎焼入れの場合は、C%によって、以下のように異なった値をとります。

  ・0.23 ~ 0.33%C;HV350,HRC36
  ・0.33 ~ 0.43%C;Hv400,HRC41
  ・0.43 ~ 0.53%C;HV450,HRC45
  ・0.53%C以上  ;HV500,HRC49

一方、全硬化層硬さは、表面層からコア材の硬さになりまでの深さと規定されています。

個々の硬化法については、別項で述べます。

 

3.複合熱処理

熱処理で、数種類の熱処理を複合的に組み合わせて、1種類だけの熱処理よりも、優れた特性が期待できます。機械部品の強度を上昇させる複合熱処理としては、調質(焼入れ・焼もどし)と各種の表面熱処理を複合させたものが考えられます。

 

 

 

参考文献
鋼・熱処理アラカルト   大和久重雄   日刊工業新聞社
金属熱処理の基礎知識1  仁平宣弘   (株)イプロス Tech Note編集部

 

引用図表
図1 全体熱処理の概要  金属熱処理の基礎知識1改

 

ORG:2019/3/10