3.1.2 作動油の種類

3.1.2 作動油の種類(Type of hydraulic fluid)

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作動油は、大きく分類すると、鉱物油系作動油、生分解性作動油、難燃性作動油に分類されます。ここではISO6743-4:1999で規定される油圧システム用の作動油(液)の製品分類を、表3.1.2.1 に示します。 ちなみに、JIS規格は作動油についてはまだ規定されていません。

作動油の種類_ISO

表3.1.2.1 ISOに規定される油圧システム用の作動油

油圧作動油の性能を考えると、、圧力やエネルギーの伝達効率・潤滑性、化学安定性、安全性などを考慮しなければなりません。それらを満足するためには、適度な粘性、耐摩耗性、熱・酸化安定性、さび止め性、シール材との適合性、使用状況(鉄鋼設備など)により耐火性が要求されます。 以下には、比較的詳細な規定がある流体静力学用の作動油について見ていきたいと考えます。

 

1. ISO11158に規定される鉱物油系作動油

ISO11158:2009では、ISO6743-4で規定された鉱物油系油圧作動油について、HSを除く6種類について、各粘度グレード毎に製品規格を設定しています。

無添加鉱物油はHH 規格に規定されています。無添加タービン油やマシン油などがこれに相当します。圧力や温度などの使用条件が緩やかで、比較的漏れの多い設備に使用されます。

HL規格はR&Oタイプ(防錆剤と酸化防⽌剤添加)が含まれており、添加タービン油がこれに該当します。軸受の潤滑等に主に使用されます。この規格で「油圧専用油」として市販されているものは、低温流動性や耐摩耗性を若干向上させたものが多いです。無添加鉱物油のHH規格には規定されていない銅板腐⾷、防錆性、泡⽴ち性、放気性、酸化安定性の項⽬が追加されています。

HM 規格は、HLに更に耐摩耗添加剤を添加して、高圧ベーンポンプ(13.7MPa以上)に対する耐摩耗性および焼付き防止性を向上させた規格です。これには、HL規格に、さらに耐摩耗性の規格項⽬として、Vickers社のFZG V104Cベーンポンプを用いて、13.7MPaの圧力条件で100時間運転後のベーンとカムリングとの摩耗量を測定するASTMD2882に規定する試験が規定されています。一般的には、この摩耗量が100mg以下になるものを、耐摩耗性油圧作動油としています。 市販の多くの油圧作動専⽤油はこのHM規格に該当すると考えられます。油圧作動油(液)のISO規格の耐摩耗性に、ギヤ試験であるFZG試験を規定しているのが⼤きな特⻑です。

HR及びHV規格は、HL及びHMの粘度温度特性を改善したものです。粘度指数を数値で規格化すると共 に、流動点については低い値を要求しています。建機⽤油圧作動油として最も適切なものは、HV規格になります。

HG規格については、⼯作機械⽤としての性能を持った油圧作動油と定義されていますが、スティックスリップに関する要求項⽬はまだ制定されていません。

2.ISO12922難燃性油圧作動液

鉱物油系油圧作動油は、可燃性のため、火源がある環境で稼働する油圧装置では、引火や火災の危険があります。災害を防止するため、鉄鋼設備やダイカストマシンの油圧装置には、難燃性油圧作動油が多く使われています。また、市街地に立地する工場や鉱山の油圧装置でも、火災が起こった場合の被害を最小限にとどめるため、難燃性油圧作動油に切り替える傾向にあります。 ISO12922には6種類のカテゴリーで種別された油圧作動液の規格内容が⽰されています。
大きくは、80%以上の水を含有するHFAE及びHFASと、その他の油圧作動液に分類されており、油種としては大きく異なります。
また現時点では、HFDR(リン酸エステル)とHFDU(その他合成油)は同⼀の規格内容となっています。 HFAE及びHFASは、合含水作動油で、難燃性試験は規定されておらず、⽐較的簡単な規格内容となっています。 HFBからHFDについては、乳化安定性、貯蔵安定性、せん断安定性、シール適合性試験など多くの規格項⽬が含まれいます。また、難燃性試験も規定されており、発火試験など3種類の試験法が規定されています。耐摩耗性についても、ベーンポンプ試験、⾼速四球試験、FZGギヤ試験などが試験項⽬として含まれていますが、個別の要求値ではなく、多くは供給者と使⽤者側との協議により制定されることとなっています。 これらのことは、カテゴリ-が同一であっても製品性能の幅が⼤きいことを⽰しているといえます。

代表的な種別について記述します。

HFAE(O/W乳化型)は、水中に油を乳化分散したものです。HFASともども、水分含有量が80%以上と定められています。安価で耐火性も優れるが、潤滑性が極めて悪いので、作動油としての使用範囲は限られます。

HFAS(ケミカルソリューション)は、水、グリコール、水溶性ポリマー(増粘剤)を主成分とし、各種添加剤が添加されたものです。難燃性の要求から水分は35%以上と規定されています。鉱物油系耐摩耗型に近い耐摩耗性を有するとともに、保守管理が比較的容易なため、ダイカストマシンなどの高温になる油圧機器に適用される難燃性油圧作動油の主流を占めています。しかし、工場廃水の総量規制強化が実施されるなか、ケミカルソリューション形に比較して、格段に廃水処理性の良いW/O乳化型が再び注目を集めており,鉄鋼業以外の一般産業の設備(ダイカストマシン等)にも、積極的に採用される傾向にあります。

HFB(W/O乳化型)は、油中に水を分散させたものに、摩耗防止剤、酸化防止剤、さび止め剤などを添加したものです。難燃性油圧作動油の中で最も安価ですが、鉱物油系油圧専用油に比較し耐摩耗性、さび止め性、保守管理面で難点があります。HFASと比較すると、廃水処理性に優れているとともに、転がり疲労寿命に優れます。

HFD(不含水作動液)は、2つのサブカテゴリに分けられます。すなわち、リン酸エステルからなるHFDRと、その他の成分の合成油からなるHFDUです。 何れも良好な潤滑性および耐摩耗性、良好な貯蔵安定性、並びに耐熱性を持っています。一般的には粘度/温度特性は、鉱物油系作動油と比較して劣ります。
特に、HFDUで脂肪酸とポリオールより合成された化合物を主成分とする脂肪酸エステル系油圧作動油は、生分解性を有するため、環境保護の面から近年注目されています。

HFC(水溶性ポリマー)は、水溶性ポリマーに水が35%以上含有したものです。鉱物油系作動油の適合材料(金属,エラストマー)とは、ほぼ同様に適合します。

3.ISO15380⽣分解性油圧作動油

ISO15380は、2003年に制定された最も新しい規格です。 森林や河川などで作業する建設機械などから作動油が漏れた場合、バクテリアなどによって自然に分解される性能(生分解性)を求められます。 生分解性については、ISO14593:1999もしくはISO9434:1999で規定された⽣分解性試験法により、28⽇間の試験で⽣分解率60%以上が要求されます。⽣分解性の他に、水辺で使用される機械に用いられることを想定して急性⿂毒性などの毒性試験も含まれています。 油圧作動油としての要求項⽬は鉱物油系油圧作動油に⽐較的近いですが、エステルの酸化安定性、、⽔混⼊に対応するため複数の酸化安定性試験などが規定されています。耐摩耗性試験はFZG試験、ベーンポンプ試験が要求されており、FZGの規格数値は鉱物油系油圧作動油と同じ要求値です。

筆者の個人的経験ですが、20年くらい前に菜種油系の生分解性作動油を、油メーカより頂いてピストンポンプの耐久試験を実施したことがあります。詳しく書くことはできませんが、耐摩耗性は良好でした。ただ加水分解性は強く長期保管でドロドロになった記憶があります。もちろん、現在は色々な面で改善されていると思いますが、 本項を記述するに当たり、昔のことを懐かしく思い出します。

 

 

 

参考文献
油脂技術委員会HP
JIS B9938  油圧-難燃性作動油-使用指針
実用油圧ポケットブック 2008年版 日本フールドパワー工業会
石油便覧   JXTGエネルギー 

 

HP 引用図表  
[図3.1.2.1] 油圧システム用の作動油(液)の製品分類 石油便覧他

 

ORG: 2018/1/20
REV: 2018/1/21
Crrect: 2020/03/13