1.1 金属表面の構造

1.1 金属表面の構造

 

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■金属表面

金属表面には自由電子が存在します。そのため、金属の表面に接する物質と容易に反応するため、原子的に清浄な金属表面を得ることは非常に困難です。

空気中に置かれた金属の表面には、極めて薄い酸化皮膜が生成されています。その上層に、酸素や窒素、二酸化炭素、水蒸気などの気体が吸着された吸着分子膜層を形成しています。更にほとんどの場合、汚れの層が認められます。これらを合わせて、外部表面層といいます(図1.1.1)。

fig_1_1_1_metal surface

 

■原子的に清浄な金属表面の生成方法

金属表面は極めて活性が高く、原子的に清浄な金属表面を作り出すのは非常に難しいものです。
一般には、以下の様な方法で清浄な金属表面を生成します。
(1)金属を水素雰囲気で加熱して、金属表面層の酸化物を還元して、酸素を取り除く。
(2)金属を超真空中で長時間加熱して、金属表面の吸着ガスや吸収ガスを取り除く。
(3)金属の単結晶を超真空中で劈開して、新しい金属表面を作り出す。
(4)金属表面を不活性ガスのイオンをぶつけてその衝撃により金属表面の付着物を除去する。

原子的な金属表面は、金属表面の物理的/化学的な性質を研究するために極めて重要ですが、非常に活性が高く不安定ですので、工業的に利用することは非常に困難です。

 

■工業的に清浄な金属表面

工業的に、清浄な金属表面とみなされるものは、金属表面の酸化物を除去して、完全に脱脂を行い、更に水分や付着物を除去した金属表面です。

金属表面の酸化物や水分、付着物を除去する方法には機械仕上げによる方法と、化学的作用による方法に大別されます。

(1)機械的仕上げによる作用

機械的仕上げを受けた金属の表面層には、ベイルビー層と塑性変形層とが存在します。
ベイルビー層とは、1921年イギリスのG.Beilby氏が金属を研摩すると金属表面が部分的に溶融して流動し、表面のくぼみを埋めることにより平滑面が得られ、非晶質層であると考えました。しかし、現在では研摩も砥粒の微少刃先による切削作用と考えられ、ベイルビー層は微細に砕かれた結晶の集合体で非晶質ではないとされています。
これを示したのが、図1.1.2に示す、銀(Ag)の単結晶を研摩した金属表面の電子線回折像の写真です。図1.1.2 (a)は、研摩したままの表面で、ベイルビー層が存在する状態です。回折リングが観察されますので、微結晶が表面に集合してベイルビー層を形成していると考えられます。図1.1.2(b)は、その表面をエッチングして表面層を取り除いた状態を示します。金属地金の単結晶による回折点が観察されます。

fig_1_1_2_bailby layer description

ベイルビー層の厚さは、1~10nm(ナノメートル)程度との厚さで、化学的には活性で、地となる金属よりはるかに腐食されやすいです。
ベイルビー層の下には歪の方向は単純でほぼ同一でありますが、その分布は極めて不均一な塑性変形層が存在します。図1.1.3にその一例を示します。この塑性変形層の歪の分布は表面の凹凸に敏感に作用します。

Fig_1_1_3_plastic deformation layer

  1. 機械的仕上げを受けた金属表面には、図1.1.4(a)に示すように幾何学的な凹凸があり、凹凸の山と山との間隔は、100nm(ナノメートル)程度はあります。.山と山との距離と谷の深さとの比は、切削面や摩耗した面では10程度になります。例えば、図1.1.4(b)に、面粗さのプロファイルを示します。この図より読み取ると、山と山との感覚は400μmに対して谷に深さはおおよそ35μmで、その比はおおよそ10程度になります。研摩面では、谷の深さは小さくなりますが、山と山との間隔はそれほど変化しないので、その比はもっと大きくなります(表1.1.5)。

    研摩では、表面の酸化物や研摩材が金属内にめり込んでこれが金属表面層の機械的・化学的性質に影響を及ぼします。図1.1.6に研摩面にめり込んだ酸化物の例を示します。

Fig_1_1_4_a_研摩方向による面粗度曲線

fig_1.1.4_b_機械加工面の面粗度例

 

table1_1_5_roughness of metal surface

Fig_1_1_6_摩耗層にめり込んだ酸化物

(2)化学的作用

化学的な作用を受けた金属表面の状態としては、酸化された面と酸洗された面とが一般的です。金属が気体に接触すると、ほとんどの場合、気体の吸着層を生じます。この吸着層の厚さは、通常1nm(ナノメートル)未満で極めて薄い層です。
ただし、気体が酸素の場合は、親和力が大きいので酸化物を生じます。従って金属を大気中に放置すれば、常温でも酸化されて極めて薄い酸化被膜を形成します。その厚さは通常は数nm(ナノメートル)以下ですが、雰囲気温度が高くなるに従って厚くなります。
酸化被膜は薄いほど、下地金属の結晶構造に支配された酸化物の結晶格子を持つ傾向があり、下地金属との密着性は良好です。

酸洗した後面の粗さは、研摩面よりやや粗いですが、化学的な活性点が除去されるので耐食性が改善される場合もあります(表1.1.7)。

table1_1_7_roughness under surface treatment

電解研磨や化学研摩でも多くの場合、極めて薄い酸化被膜を生じます。その厚さは、金属および処理条件によって異なり、1~10nm(ナノメートル)と言われています。

■合金の場合の表面の性状

合金の場合、研摩や酸化、腐食などにより、表面層の組成が合金本体の組成と異なる場合があります。例えば、鉄(Fe)が1.00に対して、クローム(Cr)が0.24含有されるステンレス鋼の場合に、摩耗した表面ではCrが0.7になり、これをさらに研摩すると研摩量に従ってCrの比率が3.8→9.0と非常に比率が高くなります。
また、黄銅では、酸化や溶解時には、亜鉛(Zn)が選択的に酸化あるいは溶解して、表面層は酸化亜鉛(ZnO)や銅(Cu)単体になります。

 

 

修正日:2016/6/14