2.5 洗浄

2.5 洗浄(washing)

 

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1. 洗浄とは

洗浄とは、汚れを除去する操作をいいます。例えば、機械部品(ワーク)を製造する工程では、加工の際に工具の摩耗を減少させたり、冷却、潤滑などの目的で、工作油などの液状あるいは黒鉛抹など粉体状の媒体を加工対象と工具との間に介在させる場合が多く発生します。多くの場合、加工工程でワークに付着した媒体は、最終製品に対しては不要なもので、汚れとして除去される対象として取り扱われます。

なお、洗浄の対象となる物質は、気体、液体、及び固体の何れもありますが、本コンテンツでは、主として固体表面に付着する汚れを除去する操作を洗浄として考えます。これを産業洗浄ということもあります。

 

 

2. 汚れの除去メカニズム

汚れを除去するメカニズムとしては、分離型洗浄(汚れを引きはがして除去)、溶剤型洗浄(汚れを溶解して除去)、及び分解型洗浄(汚れを汚れで無いものに変えて除去)の3つに分類されます。

それぞれの除去メカニズムによる洗浄の特徴について比較したものを示します(図2.5.1 )。汚れを除去する効率は、分解型洗浄が除去する最も良好で、次に溶解型洗浄、最も効率が悪いのが分離型洗浄になります(図2.5.2)。

図2.5.1洗浄メカニズムの特徴   出典:参考;最新洗浄・洗剤の基本と仕組み

図2.5.2洗浄メカニズムの比較   出典:参考;最新洗浄・洗剤の基本と仕組み

 

分離型洗浄は、一旦除去した汚れが再度付着してしまう可能性があり、汚れを完全に除去したい場合には適していません。また、溶解型洗浄についても、基本的には汚れを希釈して除去する方法ですので、洗浄槽でバッチで処理する場合、どうしてもごく微量の汚れが残留してしまいます。分解型洗浄は、汚れを汚れではない状態まで分解しますので、完全な汚れ除去ができる最良の洗浄方法です。

一方で、洗浄対象への影響は、分解型洗浄が一番大きいです。分解型洗浄は汚れを分解する際に強力な負荷を与えます。その結果、洗浄対象の基質に悪い影響を与える可能性が大きいです。溶解型洗浄についても、汚れを溶解する溶剤が、例えば多孔質の洗浄対象の場合、内部に浸み込んで膨潤させてしまう除去しやすくします。性剤は汚れを落とす効果はもちろんありますが、洗浄対象の表面にダメージを与えないクッション効果もあります。

 

2.1分離型洗浄

(1)分離型洗浄の洗浄効率に影響する要因

分離型洗浄は、汚れを引き剥がして除去します。汚れと洗浄対象、及び汚れ同士の反発力を増加させる作用や、汚れを引き剥がすための水流などの機械的作用により、洗浄効率は大きく左右されます。

分離型洗浄に多く用いられる水は、他の液体と比較して汚れ同士に反発力を大きくする性質に優れています。

さらに汚れの反発力は、洗剤中に含まれる界面活性剤やアルカリ剤の作用によって強化されます。油汚れに対しては、界面活性剤が油に吸着され、油分子をバラバラにして除去しやすくします。アルカリ剤も、汚れ同士の電気的な反発力(斥力)を強めて、いろいろな汚れの分解性を高めます(図2.5.3)。

一方、水流などの機械力は、汚れを洗浄対象から引き剥がす作用を行います。機械力が大きいほど分離型洗浄の効率が良くなります。ただし、通常の水流では微小粒子の汚れに対してはあまり有効ではありません。微小粒子の汚れの引き剥がしに対しては、超音波洗浄が有効です。

図2.5.3分離型洗浄の要因   出典:参考;最新洗浄・洗剤の基本と仕組み

 

(2)分離型洗浄の注意点

分離型洗浄は汚れをバラバラにするものですが、他の物質に変化させるものではありません。従って、一旦除去された汚れが及び洗浄対象に再付着する現象が発生する問題があります。つまり再汚染の問題が発生しやすいです。

これは汚れが洗浄液面に浮いている場合に問題になります。洗浄対象を引き上げる際に、洗浄液面に浮いた汚れを、再付着させてしまいます。このような再汚染を防止することが分離型洗浄では考慮する必要があります。再汚染を防止する対策として、界面活性剤やアルカリ剤が有効です。

 

2.2溶解型洗浄

(1)溶解型洗浄の原理

溶解型洗浄とは、汚れを溶質として、その汚れを溶解する液体(溶媒)を洗浄液に用いる洗浄方法です。このとき、汚れである溶質と溶媒との親和性が高いものを選定します。溶媒が水の場合、水と引き合う性質をもつ代表的な物質としては、塩化ナトリウム(食塩)や砂糖などがあります。水の分子がこれらの物質の周囲を包み込むようにして安定的に保持して溶解します。

(2)溶解型洗浄での撹拌の必要性

溶解は、溶媒中に溶解した溶質の濃度により溶解速度が変化します。濃度が薄ければ溶解速度は大きいですが、濃くなると溶解速度は低下します。

溶解現象はその過程で溶質(汚れ)に近い場所では高濃度で、溶質から離れた場所では低濃度になり、不均一な状態になりやすくなります。この場合、洗浄液にまだ溶解できる余力があっても、汚れの助教が進行しない状態に陥ります。それを解消するため、溶媒を撹拌して濃度を均一化して、汚れの近傍の濃度を低下させることが重要です(図2.5.4)。

図2.5.4 撹拌による溶解速度の上昇   出典:参考;最新洗浄・洗剤の基本と仕組み

(3)膨潤の問題点

洗浄液が、洗浄対象の基質と親和性が高い場合、洗浄対象の基質に洗浄液が浸透して、洗浄対象を膨潤させてしまう場合があります。

膨潤の参考例はこちらから。(フッ素系溶液によるバイトンOリングの膨潤)

 

2.3分解型洗浄

分離型洗浄は、多くの場合酸化反応などを利用して有機汚れの分解に適用されます。例として、酸化剤水溶液で分解洗浄を行う場合、天然系の高分子は比較的分解しやすいのに比較して、飽和炭化水素系物質や塩素系高分子等は分解しにくいといわれています(表2.5.5)。

表2.5.5 溶液系酸化剤による分解容易性の物質による差異   出典:参考;最新洗浄・洗剤の基本と仕組み

 

3. 汚れの分類

本コンテンツでは、産業分野で発生する汚れを除去する産業洗浄について考えます。洗浄の対象となる汚れは、その性状により大きく3つに分類されます(図2.5.6 )。

図2.5.6洗浄の対象となる汚れの分類   出典:トコトンやさしい洗浄の本

(1)粒子汚れ
粉体や部粉体による汚れをいいます。空気中に浮遊する塵埃についても含まれます。電気絶縁性の高く静電気を帯びやすい固体表面の「静電汚れ」も、粒子汚れに分類されます。

(2)有機汚れ
加工油などの油分や、離型剤、はんだフラックス、接着剤などの有機物による汚れをいいます。産業分野での洗浄対象として最も多い汚れです。

(3)無機汚れ
チリやほこり、泥、研磨剤等の無機物による汚れです。無機汚れには金属表面の酸化膜も含まれます。特に酸化膜は固体表面の付着力が強い場合が多いので、部品表面の一部と汚れを同時に除去するために、酸洗浄やアルカリ洗浄、電解洗浄なども実施されています。

実際の産業洗浄が対象とする汚れは、これら3種の汚れが混合していることがほとんどです。例えば、はんだフラックスを洗浄する場合、はんだペーストのような有機汚れの中に、粒子汚れである、はんだボールが存在する複合汚れになります。この場合主体となる汚れである、有機汚れを除去することにより、複合汚れが洗浄されます。汚れの実態を見きわめることが必要です(表2.5.7)。

表2.5.7洗浄における汚れの分類   出典:トコトンやさしい洗浄の本

 

 

 

 

参考文献
図解入門よくわかる 最新洗浄・洗剤の基本と仕組み   大矢勝  秀和システム 2011年
トコトンやさしい洗浄の本   日本産業洗浄協議会  日刊工業新聞社 2006年

 

引用図表
図2.5.1洗浄メカニズムの特徴   出典:参考;最新洗浄・洗剤の基本と仕組み
図2.5.2洗浄メカニズムの比較   出典:参考;最新洗浄・洗剤の基本と仕組み
図2.5.3分離型洗浄の要因   出典:参考;最新洗浄・洗剤の基本と仕組み
図2.5.4 撹拌による溶解速度の上昇   出典:参考;最新洗浄・洗剤の基本と仕組み
表2.5.5 溶液系酸化剤による分解容易性の物質による差異   出典:参考;最新洗浄・洗剤の基本と仕組み
図2.5.6洗浄の対象となる汚れの分類   出典:トコトンやさしい洗浄の本
表2.5.7洗浄における汚れの分類   出典:トコトンやさしい洗浄の本

 

ORG:2023/03/26