3.1溶融めっきの基礎

3.1溶融めっきの基礎(basic of hot dipping)

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1.溶融めっきの種類

溶融めっき((hot dipping)は、溶融している金属浴に製品(一般的には鋼・鋳鉄)を浸漬して、一定時間後に金属浴から引上げる作業により行うめっき法です。めっきに使用される金属は、比較的融点が低い金属で、Al(アルミニウム)や、Zn(亜鉛)、Sn(スズ)、鉛(Pb)などが適用されます。

図3.1.1に、現在主に製造されている溶融めっき製品の分類を示します。

図3.1.1 溶融めっきの分類

 

溶融メッキの中では、溶融亜鉛メッキが最も広く使用されています。これは、亜鉛の持つ優れた犠牲防食性と鉄との密着性、また経済的にも他のめっきと比較して優位なことによります。溶融亜鉛めっきは鋼板に限らず土木や、建築、動力、通信、農畜産、スポーツ、レジャー関係の大型構造物から小さい製品まで広く利用されています。

 

合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板の表面を加熱して、めっき層を合金化することによって製造されます。合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、これは塗料の密着性や、塗装後の耐食性が通常の溶融亜鉛めっき鋼板と比較して優れていることから、塗装下地用として使用されます。そのため、自動車用を中心に生産量が増加しています。

また、最近では自動車外板用として合金化溶融めっき皮膜の上層に鉄リッチな電気めっき皮膜を有する2層型溶融亜鉛めっき鋼板が開発されました。

 

亜鉛-アルミニウム系めっきは、最近の省資源化 と酸性雨などによる使用環境の変化を背景に建材分野を中心に、従来の亜鉛めっきより更に高耐食性、高耐候性を有する表面処理として、鋼板や線材のめっきに多く使用されるようになってきています。これは、亜鉛が鉄に対する犠牲防食材になるのに加えて、アルミニウムが不動態機能2つの効果を併せ持っています。亜鉛 -アルミニウム系めっきには、Zn-5%Al系のものと、Zn-55%Al-1.6%Si系とがあります。

 

溶融アルミニウムめっきは、1939年米国Armco社で実用化されました。耐食性、耐熱性に優れています。

溶融アルミニウムめっきは、溶融亜鉛めっきと比較してめっき浴温度が高いため、めっき層と鋼板との界面に合金層とよばれる金属間化合物層が厚く成長しやすくなります。この層は硬くてもろいため鋼板の加工性が阻害されます。

溶融アルミニウムめっきには、めっき浴にSiを約10%添加して合金層の成長を抑えたTypeⅠと純AlのTypeⅡとの2種類が開発されました。TypeⅠは、加工性と耐熱性に優れています。TypeⅡは、耐食性に優れるとされています。

日本では、連続めっきラインにはTypeⅠのみが導入されています。最近では、自動車排気系材料や、熱器具、建材などを中心として使用量が増加しています。これらのうちで最大の用途は自動車の排気系材料です。そのため、排気ガスの凝結水についての腐食挙動が調査されています。

TypeⅠを建材用に使用した場合の、10年以上の大気暴露試験の結果からは、腐食量は溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛アルミニウムめっき鋼板と比較して非常に小さいことがわかっています。

 

すずを約15%含む鉛-すず系合金(ターン合金)めっきは、溶融法で主として鋼板めっきに使用されています。このめっきは、耐食性、特に耐薬品性に優れています。さらに合金の性質から半田性も兼ね備えています。

 

本項では、溶融めっきの基礎的な事項について記述します。

 

2.固体金属と溶融金属との反応

固体金属を、別の種類の溶融金属に浸漬すると、一般的には溶融金属によって固体金属が浸食されます。この現象は、腐食(corrsion)現象に分類されます。

この腐食現象には、次の6種類の型があります。

 

固体金属が純金属の場合

 A:固体金属が液体金属中へ溶出する。
  ・一様に溶解する
  ・結晶粒界が選択的に溶出する
  ・結晶方位により溶出する速度に差異が発生する(エッチング)

 B:液体金属が固体金属へ侵入する。
  ・一様に侵入する
  ・結晶粒界に侵入する

 C:固体金属の表面に金属間化合物を形成する

 D:質量移行

 

固体金属が合金である場合には、更に

 E:合金成分が選択的に溶解する

 F:液体金属と合金成分との化合物生成

これらのほとんどは、一種の化学反応で、これらの文言から内容もおおよそ類推可能ですが、質量移行については文言としてわかりにくいと思われます。

質量移行とは、系に温度差がある場合に起こります。高温部で液体金属に溶出した成分が、低温部では溶解度の減少のため析出する現象を言います。

 

溶融亜鉛メッキなどの合金層を形成するめっきはC型に属する浸食が起きます。C型のめっきにはFe-Zn系や、Fe-Sn系、Fe-Al系が該当します。C型では、液体金属からなる融液と共存しうる金属間化合物層がFe表面に層状に形成されます。この層は、融液のその温度におけるFeの溶解度に達するまでFe表面から溶解します。この現象について、最も一般的なFe-Zn(溶融亜鉛めっき)系で説明していきましょう。

Fe-Zn系平衡状態図を、図3.1.2に示します。

図3.1.2  Fe-Zn系平衡状態図

 

純Feと純Znとの反応について考えます。

この反応の速度を調べるのに、Fe面を平らにして溶融Znに接触する方法をとります。これはこの反応が激しく試料の角や隅が、局部的に反応速度が大きくなるためです。純鉄(アームコ鉄)の平らな面に溶融した純Znを接触させて温度条件を一定にして2時間反応させるとZnによる腐食により失われた全Fe量は、図3.1.3の曲線1になります。この曲線1はFe表面に生成した金属間化合物中のFe量(曲線2)とZn中に溶解したFe量(曲線3)との和になります。図からわかるように500℃近傍で極大値が得られています。

図3.1.3  ZnによるFeの浸食量の温度による変化

 

図3.1.2より、Fe-Zn2元系では、Zn側にΓ-Fe3Zn10、Γ1-Fe11Zn39、δ-FeZn7-10、ζ-FeZn13等、数多くの金属間化合物が生成します。

 

3. めっき条件における合金層

実際の溶融めっき作業では、浴への浸漬時間は一般には数秒からせいぜい1分以内です。Pb以外のめっきでは、反応によりFe素地表面に合金層が生成します。ワークを浴から引き上げる際に、ワーク表面に浴組成の金属を引き上げます。この薄い金属間化合物層は脆く、めっき後に変形加工を行う場合には障害になります。従って溶融めっきでは合金層の成長を抑えることが重要な課題になります。

 

合金層の成長を抑える目的のため次のような方法が考えられます。

(1)浸漬時間を極端に短くする。

溶融めっきでは、素地がめっき浴で良好な濡れを得るためには、フラックス作用(fluxing)のためにある程度の時間が必要です。

(2)浴に添加金属を加える。

現在普通に行われている方法です。

溶融亜鉛めっきの場合、Alが添加金属になります。浴への浸漬時間が短い場合、浴中のAlの濃度とともに合金層の厚みは薄くなります(図3.1.4)。浴中のAl濃度を0.2%程度に保持すれば、実際上合金層のないめっきが可能になります(実際作業上は、特別な方策を講じないと難しい)。

ただし、これは浴への浸漬時間が短い場合で、長くなるとAl含有浴はかえって浸漬速度が大きくなります。Al添加の役割は、Fe-Zn合金層の生成を阻止するのではなく、ある程度の潜伏期はありますが発達の開始を遅らせる役割があるだけです。

図3.1.4 Zn浴中のAl含有量が合金層形成に及ぼす影響

 

溶融アルミニウムめっきの場合、作業温度が高いことの他に脆いFexAly層の成長速度が大きいのが欠点ですが、浴中にBe,Si,Cuなどの金属添加により合金層の厚みを薄くことができます(図3.1.5)。Fe-Al合金層は鉄素地に木の根状に侵入しますが、Siの添加により合金層の厚さを減少させるとともに素地への侵入も小さくなります。更に、これらの金属の添加により合金層の硬さが小さくなります。

図3.1.5 Al浴中のBe,Si,Cu添加による合金層厚さの減少

 

(3)合金層組織の改善

合金層の存在がめっきの可撓性を害するのは、めっき層が厚く合金層の境界が明瞭な場合です。このため、全めっき層の厚みが非常に薄い場合や、めっき層を拡散させて、層全体をほぼ均一な合金層組成にすると変形加工に耐えやすくなります。

 

Fe-Sn(ブリキ、めっき厚さは1.5μmもしくはそれ以下)、銅線のSnめっきなどは加工性の問題が大きくありません。

 

4.フラックス作用

溶融めっき作業は、固体金属と溶融金属との反応が金属面でおいてのみ行われるのが特徴です。このような固相と液相との接触状態を「ぬれ」と定義すると、溶融めっき法の重要な要因として「ぬれ」を考慮する必要があります。

 

実際の溶融めっき作業では、固体金属表面から不純物を除去すること、固体金属をめっき浴に浸漬する部位の浴面から、その酸化物を除去するのにフラックス(flux)を用いています。

フラックスによるぬれの程度を比較するのに、溶融金属の液滴の広がりと接触角の測定を行います(表面張力の程度の確認)。

 

前処理を施した板状の試験片を、所定の温度に加熱して、フラックスを塗布します。その試験片に一定容積のごく少量の金属の液滴を置きます。金属液滴は凝固後球の一部を切り取った形状(図3.1.6)を示すことが多くその直径(2x)と接触角(θ)とを求めて、これらの値を比較することにより、ぬれ性の評価を行えます。ぬれ性に影響を与える要因としては、固体面の種類や表面状態、液滴の組成、フラックスの種類などがあげられます。

ただ、フラックスに要求される性能として、ぬれ性の他に固体表面を清浄化する能力も検討する必要があります。

図3.1.6 液滴のぬれ性

 

溶融めっきのフラックス処理作業は、2つの方法があります。

(1)フラックス(主として塩化物、例として塩化亜鉛アンモニウム)の水溶液に、酸洗や機械的な方法で十分な前処理を施したワークを浸漬した後フラックス浴から引き上げて乾燥炉で乾燥させてワーク表面にフラックス層を形成させる方法。溶融めっきはこの状態で行われます。

(2)フラックスを溶融状態に保つもので、さらに、めっき浴と同じ槽でめっき浴の上に溶融フラックス層を置く場合と、めっき層とは別に溶融フラックス層を設ける場合とがあります。前者は、ZnやSn、Alのめっきに、後者はAlの場合の2浴法に適用されます。

 

最も生産量の多い溶融亜鉛めっきについて示すと、

(1)の水溶液によるフラックス処理のフラックスの組成は、

ZnCl2、10%NH4Cl-ZnCl2,ZnCl2・2NH4Cl(ダブル塩)、ZnCl2・3NH4Cl(トリプル塩)などです。これらの水溶液は洗浄作用があります。フラックスを塗布したワークが乾燥(120~200℃,1~2min)される際に濃厚なZnCl2溶液は酸性が強く鉄塩や酸化物を溶解して、フラックスで覆われた下の鋼の表面は清浄な金属面になります。この反応に関与しない残りのフラックスは、ワークを浸漬する場所のZn表面の酸化物を溶解除去する作用を行います。

(2)に示すめっき層の上に溶融フラックス層を作らせる場合の、溶融フラックスはZnNH3Cl2に起泡剤(グリセリンなど)を添加して、アンモニアと水蒸気のガス気泡によりZnめっき浴との間を熱的に絶縁させます(例:めっき浴温度450℃のとき、フラックス層は350~380℃)。この溶融塩は酸化物を溶解します。めっきを続けることによりフラックス層の塩基度が上がりフラックスとしての能力が低下すると塩化アンモニウム(分解してNH3とHClになります)を添加してHCl分をフラックス層に供給します。

 

 

フラックス処理により、鋼表面から以下のものが除去されます。

・酸洗後の水洗で完全に除去できなかった鉄塩が空気酸化により生じた塩基性鉄塩

・酸洗時の反応生成物であるスマット(smut)

・前処理後に金属表面に生じた不可視酸化膜(めっき浴に入れる前の加熱段階で厚く発達)

 

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参考資料
表面処理   日本金属学会
溶融めっきの現状と動向   近藤隆明   表面技術Vol.42,No.2 1991
鉄鋼と溶融亜鉛間の反応拡散に関する基礎研究   貝沼亮介  JFE21世紀財団2008年度技術研究報告書

 

引用図表
[図3.1.1] 溶融めっきの分類     溶融めっきの現状と動向
[図3.1.2] Fe-Zn系平衡状態図   鉄鋼と溶融亜鉛間の反応拡散に関する基礎研究
[図3.1.3] ZnによるFeの浸食量の温度による変化  表面処理
[図3.1.4] Zn浴中のAl含有量が合金層形成に及ぼす影響  表面処理
[図3.1.5] Al浴中のBe,Si,Cu添加による合金層厚さの減少  表面処理
[図3.1.3] 液滴のぬれ性  表面処理

 

 

ORG: 2018/5/29