1.4 油剤による潤滑

1.4 油剤による潤滑(Lubrication with oil)

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1.潤滑の形態と摩擦

油剤による潤滑の形態は、おおよそ図1.4.1 に示す3種類に分類されます。

(1)乾燥摩擦/固体摩擦(dry friction /solid friction)
   相対する二面間に潤滑剤が存在しない状態。

(2)境界潤滑/境界摩擦(boundary lubrication / boundary friction)
   相対する二面間に、分子の大きさ程度の厚さの吸着油膜が存在する状態。

(3)流体潤滑/流体摩擦(hydrodynamic lubrication / hydrodynamic friction)
   相対する二面の相対的な運動により、十分な厚さの潤滑剤の油膜(流体膜)が生じて二面が完全に離れた状態。この状態では、常に流体膜が確保されるように、流体に圧力を発生させることにより荷重と釣り合わせています。

更に、(2)の境界潤滑と(3)の流体潤滑が混在する状態を混合潤滑(mixed lubrication)といいます。

図1.4.1 油剤による潤滑の形態

摩擦の大きさを表す指標として、摩擦係数(coefficient of friction)\( \mu \)が用いられます。
図1.4.2 に示すように、接触面に垂直な荷重(法線力)を\( W \)として、この物体を滑らすのに必要な力(摩擦力)をFとすると、以下の関係が成立します。

\( \mu = \displaystyle\frac{ F }{ W } \)   (式1.4.1)

図1.4.2 摩擦係数の定義

図1.4.1 に示す3つの摩擦状態の摩擦係数を模式的に比較すると、図1.4.3 のようになります。乾燥摩擦の状態では摩擦係数は非常に大きく材質の組合せにより係数の値に幅がありますが、境界潤滑の場合は乾燥摩擦の数十分の一の摩擦係数になります。流体潤滑では乾燥摩擦の場合の数百~数千分の一になります。

図1.4.3 潤滑形態と摩擦係数の目安

 

2.油膜厚さと摩擦

油剤潤滑による滑り軸受の潤滑形態に対する、油膜厚さと摩擦係数との関係を図1.4.4 に示します。横軸の\( \eta N/p_{ m } \) は二面間の潤滑状態を表すのに用いられる無次元量で、軸受特性数(bearing characteristic number)と呼びます。

ここで、
\( \eta \) :粘度(Pa・sec)
\( N \):回転数(sec-1)
\( p_{ m } \):荷重による軸受圧力(Pa)

図1.4.4 滑り軸受の油剤潤滑形態に対する油膜厚さと摩擦係数との関係

この内、図1.4.4(a) はストライベック線図(Stribeck diagram)と呼ばれます。ストライベック線図より、\( \eta N/p_{ m } \) が小さい場合は、潤滑油膜が薄く摩擦は大きくなります。この領域が境界潤滑になります。\( \eta N/p_{ m } \) が増加するにつれて油膜が厚くなると摩擦は低下します。この領域は混合潤滑になります。さらに\( \eta N/p_{ m } \) が大きくなると油膜厚さは十分厚くなり摩擦も低減されます。この領域は流体潤滑の状態になります。

しかし、更に\( \eta N/p_{ m } \) が増加すると、および摩擦は徐々に増加します。この増加は油剤の粘性抵抗によるものです。ストライベック線図から油剤による潤滑は摩擦の極小点付近で行うのが最も効率的です。

垂直荷重と摩擦力との関係を示すクーロンの摩擦法則では、摩擦は速度\( N \)や軸受圧力\( p_{ m } \)に無関係となるとされますが、クローンの摩擦法則が成立するのは無潤滑状態(乾燥摩擦や油膜が極めて薄い境界潤滑に相当します)の場合で、油剤が二面間に十分に存在する場合の摩擦は、速度や荷重によって変化します。

 

 

 

参考文献
トライボロジー入門  岡本純三他  幸書房
大学講義資料  2010年  不明  インターネット

 

引用図表
図1.4.1 油剤による潤滑の形態    トライボロジー入門改
図1.4.2 摩擦係数の定義
図1.4.3 潤滑形態と摩擦係数の目安   トライボロジー入門
図1.4.4 滑り軸受の油剤潤滑形態に対する油膜厚さと摩擦係数との関係   トライボロジー入門

 

ORG:2019/9/14