S-N曲線

S-N曲線(S-N curve)

 

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1. S-N曲線とは

S-N曲線とは、材料の繰返し負荷に対する強さを知るために、所定の寸法に仕上げた材料に、繰返し負荷を加えて、破壊にいたるまでの繰返し数(\( N_{ f } \) :疲労寿命)を線図にしたものをいいます。通常は、応力振幅を等間隔目盛り、繰返し数を対数目盛りであらわされますが、両方とも対数目盛の場合もあります。S-N曲線は、S-N線図、または最初にS-N曲線の概念を確立したドイツの技術者アウグスト・ヴェーラー(Augst Weller)からヴェーラー曲線ともいわれます。また、この試験を疲労試験といいます。

この場合の負荷には、繰返し引張圧縮、繰返し曲げ、繰返しねじりなどがあります。試験機により付加される一定波形の繰返し負荷により、試験片には例えば図1に示す応力波形が発生します。最大応力\( \sigma_{ max } \) と最小応力\( \sigma_{ min } \) との間を変化します。この場合、応力振幅と平均応力は次のように定義されます。

\( \sigma_{ a } = \displaystyle\frac{ ( \sigma_{ max } – \sigma_{ min } ) }{ 2 } \)

\( \sigma_{ m } = \displaystyle\frac{ ( \sigma_{ max } + \sigma_{ min } ) }{ 2 } \)

 

平均応力が0の場合を両振り応力といいます。疲労試験は両振り応力を用いて行われる場合が多いです

図1応力振幅と平均応力の定義

   出典:金属疲労の基礎と超高サイクル疲労のメカニズム及び評価法 中村孝先生講習会資料

 

2. 材料によるS-N曲線の違い

図1は、炭素鋼と非鉄金属について、大気雰囲気中で引張圧縮両振り応力を付加した場合のS-N曲線を示しています(図2)。S-N曲線は、一般的には繰返し数Nが増加するとともに、応力振幅の傾きが減少します。また、おおよそ下に凸の曲線となって、応力振幅の低下とともに傾きは水平に近づきます。

図2 S-N曲線の例   出典:金属疲労の基礎知識  中村 孝 鋳造工学Vol.79No.2 2007年

フェライト系の炭素鋼(bcc系、図では、S35C焼ならし材)では、繰返し速度が10~100Hz程度で、\( 10^6 ~ 10^7 \)  回程度の繰返し数でS-N曲線は折れ曲がり、ほぼ水平になります。この点より大きい繰返し数では破断しなくなります。通常普通鋼では、明確な変曲点があり\( 10^7 \)  回の繰返しに耐える応力振幅であれば、それ以下の応力振幅では破断せずに、無限回の応力繰返しに耐えるとされています。このような応力振幅の最大値を、疲労限もしくは疲労限度(fatigue limit)といいます。

一方、炭素鋼(bcc)やオーステナイトステンレス鋼(fcc)などを除けば、大多数の金属材料、特に非鉄金属材料の場合、鋼材系に認められる変曲点は存在せず、現実的に試験可能な応力繰返し数である\( 10^9 \) 回程度以下でも下に凸となる右下がりの特性を示します。このような場合は、ある繰返し数の所まで破断にいたらない最大応力振幅を時間強度といいます。変曲点が無い材料では慣例的に\( 10^7\) 回程度の繰返し数での応力振幅をこの材料に疲労限度として、鋼材の疲労限度と区別するため、\( 10^7 \) 時間強度という場合があります。

なお、常温・大気雰囲気中で疲労限度が存在する材料でも、高温環境や腐食環境下では疲労限度は存在しません。

また、疲労曲線が高繰返し領域で水平になる材料の場合でも、さらに多い繰返し数\( 10^8 \) や\( 10^9 \) 回の領域まで応力を負荷すると、疲労破壊を起こす場合があります。このような繰返し数の領域での疲労破壊を超高サイクル疲労やギガサイクル疲労といいます。超高サイクル疲労を起こす材料には高強度材や表面処理材などが、報告されています。超高サイクル疲労のメカニズムは、十分に確定していないようですが、通常の疲労破壊(低サイクル疲労)が材料表面に発生するき裂が進展して起こるのに対して、超高サイクル疲労は、材料内部から介在物(フィッシュアイなど)が起点となってき裂が発生して破断にいたるのが特徴です。つまり破壊のメカニズムが異なる2種類のS-N曲線が重なり合って2重S-N曲線になると考えられます。

図3は、軸受鋼(SUJ2)の超高サイクル疲労までの2重S-N曲線の例です。

図3 2重S-N曲線の例  出典:SUJ2鋼の超長疲労寿命挙動  緒方良et al 九州産業大学工学部研究報告41号

 

3. 疲労寿命分布と疲労強度分布

一般に、実際の材料の強度にはばらつきがあります。疲労強度についてもばらつきがあります。S-N曲線は、実験点のデータから多くの場合中央値を滑らかに結んで得られているといわれています。つまり、平均寿命つまり破壊確率50%を示す限界線をあらわしています。多くの場合、試験片の数が少なく、そのばらつきの度合いを示すことができません。

S-N曲線で、ある応力振幅負荷とそれにより破壊にいたる繰返し数の関係は確率分布で表されます。破断確率Pをパラメータとして、S-N曲線を示したものを、P-S-N曲線といいます。確率分布は2種類考えられます。一つは応力の大きさを同じにしたときの破断にいたる繰返し数の分布(ばらつき)、もう一つは破断繰返し数を同じとしたときの応力の大きさの分布です。前者を疲労寿命分布、後者を疲労強度分布といいます。

⼀般に、疲労寿命分布は、低サイクル疲労領域が該当し、破断繰返し数が少ない短寿命領域では分布は対数正規分布で近似でき、比較的破断繰返し数が多い高寿命領域ではワイブル分布で近似できるといわれます。⼀⽅、高サイクル疲労領域が該当する疲労強度分布は、破断繰り返し数によらず正規分布で近似できることが多いです(図4)。

図4 疲労寿命分布と疲労強度分布   出典:機械工学便覧第6版

 

 

 

 

参考文献
機械工学便覧第6版 α03-10章
金属疲労の基礎知識  中村 孝 鋳造工学Vol.79No.2 2007年
SUJ2鋼の超長疲労寿命挙動  緒方良et al 九州産業大学工学部研究報告41号 2004年

 

引用図表
図1応力振幅と平均応力の定義
   出典:金属疲労の基礎と超高サイクル疲労のメカニズム及び評価法 中村孝先生講習会資料
図2 S-N曲線の例   出典:金属疲労の基礎知識  中村 孝 鋳造工学Vol.79No.2 2007年
図3 2重S-N曲線の例
  出典:SUJ2鋼の超長疲労寿命挙動  緒方良et al 九州産業大学工学部研究報告41号
図4 疲労寿命分布と疲労強度分布   出典:機械工学便覧第6版

 

ORG:2023/05/12