2.3 設計のための材料選定

2.3 設計のための材料選定(Selection of Materials for Engineering Purposes)

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新しい機械を設計する技術者にとって、適切な材料を選択することは最も難しい問題の一つです。

強度や、剛性、加工性、耐摩耗性、耐食性、熱伝導性、電気伝導性、質量、価格など、様々な要因を考える必要があり、材料の特性が便覧やハンドブックに記載があっても選択に苦慮することが多いです。

材料の選択の際に、最低検討すべきこととして以下のようなものがあります。

1.材料の入手可能性
2.機械の稼働条件に対する材料の適合性
3.材料コスト

材料の有用性を決定する重要な特性である、物理的、化学的、機械的特性のうち、物理的/機械的特性については、次項からのコンテンツで簡単に説明します。

また、すでに使用されているいろいろな機械や製品がどのような材料で作られているかを、機械工学便覧 第6版 β02-01章 から抜粋して示します。
ちなみに、機械工学便覧は非常に優れた資料です。読む機会があれば理解できる範囲で結構ですので、手に取られるとよろしいかと思います。

 

1.機械の三要素

軸受と、歯車、ねじ(ボルト)は、機械の三要素といわれます。機械を構成する部品の中で、使用頻度が高く、基本部品になります。

1.1 軸受

軸受には大きく分けて転がり軸受と滑り軸受があります。図2.3.1 は玉軸受、ころ軸受に使用されている典型的な鋼の種類を示します。軸受鋼としては、鋼種に軸受の名称が入っているSUJが有名ですが、それ以外でも、ステンレス軸受ではSUS440Cなどが用いられます。

滑り軸受はガソリンエンジンのコンロッド軸受など、重荷重が付加される用途で使われます。軸を傷つけないように、軸側より柔らかい材料が使用されます。特に高負荷の滑り軸受では、軸受合金層と裏金として鋼とを接合したバイメタル構造が用いられます。

図2.3.1 転がり軸受の材質例

 

1.2 歯車

歯車は、歯面の小さい面積で,滑りを伴った接触(インボリュート歯形)により動力を伝達します。さらに、高速で歯から歯へ荷重が伝達されるので、動的な力が作用します。これらを満足するために、材料は、これらに耐える強さ(曲げ強さ,歯面強さ,耐焼付き性)が要求されます。

通常、円筒歯車,かさ歯車など大きい動力を伝達する歯車は、鋼が用いられ調質や焼入れなどの熱処理を行い波面を硬くします。表2.3.2に、歯車に用いられる代表的な鉄鋼材料を示します。ただし、滑りが大きいウォームギヤのホイールは、焼付き防止のため、なじみやすい青銅系の非鉄金属が用いられます。

また、自動車用装備品や事務機器、情報機器、家電製品など軽負荷で使用される歯車は、軽量で、無潤滑、低騒音、高耐食性などの長所がある、エンジニアリングプラスチック(ポリアセタール,ポリアミドなど)が多く用いられています。

表2.3.2 歯車用鉄鋼材料

 

1.3 ねじ(ボルト)

ねじは、おねじ側がボルト、めねじ側がナットの組合せが一般的です。ねじ締結の特徴として以下のようなものが挙げられます。

 ① 分解・組立が容易。
 ② 締付けのための工具は、比較的簡単な構造で、トルクなどを調整しながら取付けたり、精密な取付けが可能。
 ③ ねじの取付けはくさび効果を利用しているので、極めて厚い部品でも強力に締付けが可能。

我々の周りを見渡してみると、あらゆる製品にねじが使われていることがわかります。例えば、自動車には1台当たり1000点弱のねじ締結が使用されています。また、その用途により材質や形状が色々設計されています。

ねじ及びねじ部品に使われる材料は色々ありますが、鉄鋼材料系と非鉄金属系とで用いられる代表的な材料を表2.3.3 と表2.3.4 とに示します。

表2.3.3 ねじ及びねじ部品用材料:鉄鋼材料

表2.3.4 ねじ及びねじ部品用材料:非鉄金属材料

 

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2.各種機械に使用されている材質

本項も、機械工学便覧 第6版 β02-01章に記載されている図を転載します。是非、機械工学便覧を御手に取ってください。機械屋には本当に勉強になります。

2.1 建設機械

建設機械は、鉱山や採石場、及び土木・建設工事に使用されるすべての機械類が含まれます。日本では、コマツ、日立建機、アメリカではキャタピラー、中国では徐工集団などが有名です。

建設機械に要求される基本的な機能及び品質上、材料の使われ方から見た特徴を挙げると、

・土砂や岩石、コンクリートなどの硬質の物質を、掘削、積載、運搬を行うため、過酷で非定常なランダム負荷を繰り返し受ける。
・基本的の屋外での使用で、風雨や土砂、泥水、紫外線、時には硫化水素などの腐食性雰囲気の影響下での使用であり、保管も屋外に放置されることが多い。
・熱帯や極寒地、砂漠など、気候的に加工な条件下での作業が多い。
・基本的に自走機能を有するが、走行路面はオフロード(off road;不整地)が原則で、ぬかるみ状態や砂地での走行もある。
・高い信頼性、耐久性が要求される

などがあります。

これらを満足する絶対的な高強度と補修性、およびコストの面から、ほとんどの材料は鉄系の材料が使用されますが、ラジエータ・オイルクーラ、クラッチ・ブレーキのライニング、滑り軸受などには、銅系やアルミ系の非鉄金属材料が、タイヤや、油圧ホース、シール類にはゴム系・樹脂系材料、運転席まわりのキャビン内装や外装カバなどには樹脂系材料が使用されています。

 

ここでは、例として中型油圧ショベルに使用されている材料を示します(図2.3.5)。これはあくまでも一例であり、メーカの考え方や時代によっても大きく変化します。

図2.3.5 中型油圧ショベルの材料構成と主な使用部位

 

2.2 船舶

客船の例を図2.3.6 に示します。船体/外板は普通の炭素鋼材が使用されています。これは、船舶の材料の大部分を占める部材であることよりコストが最重要であること、溶接の容易性などを考慮しているためです。

図2.3.6 客船に使用される材料

 

2.3 遠心ポンプ

管理人が一番よく知っている機械であるポンプの材料例です。ポンプはハンドリングする流体により接液部の材料は種々使用されます。

図2.3.7 はボイラ給水多段ポンプの例です。

図2.3.7 ボイラ給水多段ポンプの材料

 

 

 

 

参考文献
A Textbook of Machine Design  R.S. Khurmi et al.   EURASIA PUBLISHING HOUSE (PVT.) LTD. 2005
機械工学便覧 第6版 β02-01章

 

引用図表
図2.3.1 転がり軸受の材質例  修正:機械工学便覧 第6版 β02-01章
表2.3.2 歯車用鉄鋼材料   機械工学便覧 第6版 β02-01章
表2.3.3 ねじ及びねじ部品用材料:鉄鋼材料  抜粋:機械工学便覧 第6版 β02-01章
表2.3.4 ねじ及びねじ部品用材料:非鉄金属材料   抜粋:機械工学便覧 第6版 β02-01章
図2.3.5 中型油圧ショベルの材料構成と主な使用部位   機械工学便覧 第6版 β02-01章
図2.3.6 客船に使用される材料   機械工学便覧 第6版 β02-01章
図2.3.7 ボイラ給水多段ポンプの材料   機械工学便覧 第6版 β02-01章

 

ORG:2019/11/21