4.4 液圧成形とゴム圧成形

4.4 液圧成形(Hydroforming)
 とゴム圧成形(Rubber Pressing)

 

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1. はじめに

液圧成形とゴム圧成形は、従来の剛体の金型による塑性加⼯とは異なり、流体または弾性体を成形媒体として利⽤する特殊な塑性加⼯技術です。これらの技術は、複雑形状の製品を効率的に製造し、従来の加⼯法では困難とされる薄⾁・深絞り・複雑曲⾯形状の成形を可能にします。特に航空宇宙産業、⾃動⾞産業、電⼦機器産業の分野において重要な役割を果たしています。
液圧成形(Hydroforming)は⾼圧の流体(主に油または⽔)を利⽤して材料を成形する技術であり、ゴム圧成形(Rubber Pressing / Guerin Process)は弾性体であるゴム材料を成形媒体として利⽤して材料を成形する技術です。両者とも、ダイもしくはパンチの一方の金型を流体または弾性体で置き換えることにより、均⼀な圧⼒分布と優れた表⾯品質を実現します。これにより、金型製作コストの削減、成形性の向上、製品精度の向上といった利点を得ることができます。

 

2. 液圧成形(Hydroforming)

液圧成形は、高圧の液体を媒体としてワークピースを金型に押し付けることで成形する塑性加工技術です。主として金属材料の成形に用いられ、複雑な中空部品の一体成形や薄板を継目の無い軽量化に大きな利点をもたらします。
技術です。主にチューブ材または板金に対して適用されます。

2.1 液圧成形の原理

液圧成形の基本的な考え方は、密閉された空間に充填された液体(通常は油圧作動油や水)は、圧力を加えると均一に全ての方向に、その圧力を伝達する性質を利用することです。具体的には、金型内にセットされた金属材料(板材や管材)に高圧の液体を注入し、材料を金型形状に沿って塑性変形させる製造方法です。この際付加される圧力は、数百MPaに達することがあります。

液圧成形の最大の特徴は、材料の全面に均等な液圧がかかるため、材料の伸びが安定し、大きく成形できる点にあります。従来のプレス成形が、一軸方向からの加圧であるのに対し、液圧成形は静水圧的に全方向から圧力を加えるため、板材とダイ(下型)との摩擦が低減され、ワレやしわの発生が抑制できます。均一に圧力を付加することにより、複雑な形状でも材料の局所的な薄肉化を防ぎ、高い成形性を実現します。

液圧成形には主に以下の種類があります。

(1)対向液圧成形: ダイ(下型)の代わりに液圧を使った張出し加工であり、金型が不要なため低コストで、複雑な形状の成形に適しています。

(2)シートハイドロフォーミング(板材):板材をブランクホルダーで固定し、内圧をかけて膨らませるバルジ加工の一種です。複雑な形状を成形する際には、ダイ(下型)を併用して液圧を受けます。

(3)チューブハイドロフォーミング(管材): パイプなどの管材を金型にセットし、内圧と軸圧縮力を加えて膨らませ、外型形状に沿って変形させる成形加工方法です。通常、曲げ加工や潰し加工といった予加工と組み合わせた複合成形が行われます。この軸押しにより、減肉を抑制しながら大変形が可能となり、複雑な中空部品の一体成形が可能になります。

図 チューブハイドロフォーミング  出典:DeGarmo’s MATERIALS AND PROCESSES IN MANUFACTURING TENTH EDITION

2.2 液圧成形の適用例

液圧成形は、その高い成形性と製品品質から、様々な産業分野で利用されています。
このプロセスの大きな特徴は、複数のプレス加工部品を溶接で組み立てる従来の技術と比較して、複雑な形状の部品を一体で成形できる点です。これにより、溶接シームを削減でき、部品の剛性と強度を向上させるとともに、組立てコストを削減することが可能です。
マイクロスケールの応用としては、ポリマーチューブの成形(マイクロブロー成形)にハイドロフォーミングの概念が用いられています。これにより、医療工学分野(カテーテル、医療用バルーンチューブなど)、バイオテクノロジー、化学産業などで使用される機能化されたマイクロチューブ部品が製造されています。

(1)自動車部品: 自動車業界では、燃費向上や性能向上のために軽量化が重要視されており、ハイドロフォーミング技術が広く採用されています。この技術により、軽量でありながら高剛性のフレームやクロスメンバー、排気系部品(マフラー、エキゾーストマニホールド)などが製造されています。特にアルミニウムや高張力鋼を用いた部品が多く、閉断面構造や溶接レス構造の実現により、部品点数の削減、溶接工数の削減、疲労特性の向上、部品強度の向上、工程省略、歩留り向上、スプリングバック低減といった多くのメリットがもたらされます。

(2)航空宇宙産業: 航空機部品においても軽量化は常に課題であり、Flexform™ 液圧プレスがシートメタル成形部品の生産に広く採用されています。複雑な形状の部品を一体成形することで、強度と軽量化を両立させています。例えば、翼のリブやフレームなどがこの技術で製造されており、比較的低い生産量の要件に適しています。

(3)その他の製品: ベローズ(極小、板厚0.3mm)や、ペットボトル(ブロー成形)などの、幅広い分野で利用されています。

2.3 液圧成形の典型的な製作条件

液圧成形における製作条件は、材料特性、製品形状、要求品質などによって決定されます。液圧成形を成功させるためには、これら複数のパラメータを精密に制御する必要があります。

(1)圧力範囲と使用液体: 液圧成形では、通常100MPaから300MPa、場合によっては400MPaに達する高圧の液体が使用されます。アルミニウム合⾦の場合、50〜100MPa、ステンレス鋼では100〜150MPa程度が標準的な成形圧力です。圧⼒上昇速度は材料の変形追従性を考慮して0.1〜10MPa/秒の範囲で調整されます。
圧力媒体としては主に水や油が使用され、液体で材料全体に圧力をかけるため摩擦が生じにくいですが、圧力を保持するためには液体の状態管理が重要です。

(2)成形温度と保持時間: 成形温度は材料の種類により、大きく異なります。常温成形が可能な材料もありますが、チタン合⾦やマグネシウム合⾦では300〜500℃程度の加熱が必要となる場合があります。
保持時間は製品の⾁厚や複雑さに応じて数秒から数分程度に設定されます。また、成形後の冷却条件も製品品質に影響するため、適切な冷却速度の制御が重要です。

(3)主要な適用材料: アルミニウム、真鍮、ステンレス鋼、銅、インコネル、ハステロイ、高ニッケル鋼、ワスパロイなどの金属材料が液圧成形に適しています。特に自動車部品では高張力鋼が多用されます。また、熱硬化性樹脂(エポキシ、ポリウレタン、フェノールなど)も成形に適合する場合があります。

(4)金型と予加工: 金型は最終製品の形状とサイズを決定し、高い精度と安定性、そして機械との良好な連携が求められます。複雑な形状の部品では、金型に装着する前に曲げ加工や潰し加工といった予加工を施すことが多いです。チューブハイドロフォーミングでは、内圧と軸方向の押し込み(軸押し)の組み合わせ、およびその負荷経路が成形可否を決定する重要なパラメータとなります。
金型材料は、⼀般的に⼯具鋼(SKD11、SKH51等)やアルミニウム合⾦が使⽤されます。金型表⾯は滑らかな仕上げが求められ、表⾯粗さはRa0.1〜0.8μm程度に管理されます。また、金型の剛性確保も重要で、流体圧⼒に対して⼗分な強度を持つ設計が必要です。

(5)その他のパラメータと課題: 液圧成形は、その成形条件が複雑であり、熟練技能が必要となる点が課題として挙げられます。また、加工装置が巨大で高価である点、サイクルタイムが長く生産性が低い点も、従来の液圧成形における課題でした。これらの課題は、技術の普及を阻害する要因となっていましたが、近年では小型で安価な装置の開発や、成形限界の向上、他部品との結合技術の開発が進められ、適用範囲の拡大が図られています。

 

3. ゴム圧成形(Rubber Pressing / Guerin Process)

ゴム圧成形は、ゴムパッドをダイセットの片側(通常は雌型側)として使用する成形方法です。ゴムの弾性や流動性を利用して材料を成形します。Guerin processまたはRubber-die formingとも呼ばれます。

 

3.1 ゴム圧成形の原理

このプロセスの原理は、完全に閉じ込められたゴムが、特定の硬さの場合に流体のように振る舞い、圧力を均一に伝達する現象に基づいています。成形は、板金ブランクを雄型となる「フォームブロック」の上に置き、上部ラムに取り付けられた厚さ20〜25cm程度のゴムパッドが下降して圧力を加えることで行われます。ゴムパッドからの圧力がブランクをフォームブロックに押し付け、フォームブロックの形状に沿って成形します。ゴムパッドが発生させる圧力は、比較的低く、約10MPa(1500 lb/in²)程度です。
ゴム圧成形の代表的なプロセスとして、ゲーリンプロセス(Guerin process)があります。
ゲーリンプロセスは、特にシートメタル(板金)の成形に用いられる、最も古く基本的な方法の一つです。1930年代後半にダグラス・エアクラフト社のヘンリー・ゲーリンによって開発されました。
このプロセスでは、油圧プレスの上部ラムに固定されたゴムパッド(通常はポリウレタン製)と、プレスのベッドに置かれた硬質なダイ(型、フォームブロックとも呼ばれる)が使用されます。加工したいシートメタルは、このダイの上に置かれます。プレスが作動すると、ゴムパッドが下降し、シートメタルをダイの形状に押し付けて成形します。
ゴムパッドはその柔軟性と非圧縮性により、シートメタルの表面全体にほぼ均等な圧力をかけることができます。これにより、複雑な形状の部品でも、工具の跡を残さずに高い表面品質で成形することが可能です。

図 ゴム圧成形 出典:FUNDAMENTALS OF MODERN MANUFACTURING Materials,Processes,andSystems
     4th ed Mikell P. Groover JOHN WILEY & SONS, INC. 2010年

3.2 ゴム圧成形の特徴と長所

(1)低い工具コストと短いセットアップ時間: 従来の深絞り加工のように上下の金型を必要とせず、片側(通常は下側)のダイのみで成形が可能です。これにより、金型製作にかかるコストや時間が大幅に削減され、セットアップ時間も短縮されます。

(2)多種多様な材料と厚みに対応: 同じゴムパッドで様々な金属や異なる厚みの材料を成形できる柔軟性があります。

(3)優れた表面品質: ゴムパッドが直接金属に接触するため、工具の跡がつきにくく、傷のないきれいな表面が得られます。

(4)少量生産や試作に最適: 上記の利点から、航空宇宙産業のように多品種少量生産を行う分野で特に重宝されます。

(5)材料の薄肉化の抑制: 従来の深絞り加工で発生するような、材料の薄肉化が大幅に抑制されます。

3.3 ゴム圧成形の短所

(1)ゴムパッドの寿命: 成形の厳しさや圧力レベルによって、ゴムパッドの寿命が制限されます。

(2)成形圧力の限界とシワの発生: 十分な成形圧力が得られない場合、部品のシャープさが不足したり、シワが発生したりする可能性があります。これにより、後工程での手作業が必要になることもあります。

(3)比較的遅い生産速度: 生産速度は比較的遅いため、大量生産には不向きです。

3.4 ゴム圧成形の適用例

ゴム圧成形は、特に薄板⾦属の精密成形において威⼒を発揮します。電⼦機器産業では、携帯電話、パソコン、家電製品の筐体や内部部品の製造に広く使⽤されています。これらの製品では、薄⾁でありながら⾼い⼨法精度と優れた表⾯品質が要求されるため、ゴム圧成形の特徴が活かされます。

航空宇宙産業では、航空機の内装パネル、電⼦機器筐体、⼩型構造部品などの製造に適⽤されています。これらの部品は軽量化と⾼品質が同時に要求されるため、ゴム圧成形による均⼀な加⼯が重要です。
⾃動⾞産業では、計器パネル、内装部品、電装品ケースなどの製造に使⽤されています。
医療機器分野では、⼿術器具、診断機器部品、インプラント部品などの⾼精度成形にゴム圧成形が活⽤されています。
⾷品産業では、厨房機器、容器類、包装材料などの製造にも適⽤されています。これらの分野では、衛⽣⾯での要求も⾼く、ゴム圧成形による清浄な加⼯環境が評価されています。

3.5 ゴム圧成形の典型的な製作条件

ゴム圧成形における製作条件は、使⽤するゴムの特性と成形材料の組み合わせにより決定されます。ゴムパッドの硬度は、ショアA硬度で30〜90度の範囲で選択されます。薄板材料や複雑形状の成形には軟質ゴム(30〜50度)が、厚板材料や単純形状には硬質ゴム(70〜90度)が適しています。

成形圧⼒は材料の種類と板厚により調整され、⼀般的に10〜100MPa程度の範囲で設定されます。アルミニウム薄板では20〜40MPa、ステンレス薄板では50〜80MPa程度が標準的です。
加圧速度は材料の変形追従性を考慮して、0.1〜5mm/秒程度に設定されます。

ゴムパッドの厚さは成形品の深さや複雑さに応じて決定され、通常10〜100mm程度の範囲で選択されます。深絞り成形では厚いパッドが、浅い成形では薄いパッドが適しています。また、ゴムパッドの形状も重要で、成形品の形状に応じて最適化されます。

⼯具材料には、⼀般的にアルミニウム合⾦、亜鉛合⾦、樹脂材料が使⽤されます。これらの材料は⽐較的軟質で、ゴムパッドへの負荷を軽減できます。⼯具表⾯の仕上げも重要で、表⾯粗さRa0.1〜0.4μm程度に管理されます。

3.6 ⼯具設計と材料選定

ゴム圧成形における⼯具設計では、ゴムパッドとの相互作⽤を⼗分に考慮する必要があります。雄型の設計においては、材料の流れ、ゴムの変形挙動、離型性などを総合的に検討します。特に、⾓部のR形状、抜き勾配、表⾯仕上げは製品品質に⼤きく影響するため、慎重な設計が必要です。

ゴムパッドの選定では、材料特性、耐久性、経済性を総合的に評価します。⼀般的に使⽤されるゴム材料には、天然ゴム、合成ゴム(NBR、SBR等)、シリコーンゴム、ウレタンゴムがあります。各材料は異なる特性を持ち、⽤途に応じて最適な選択が必要になります。

天然ゴムは弾性に優れ、⼀般的な成形に適しています。合成ゴムは耐油性、耐熱性に優れ、厳しい使⽤環境に対応できます。シリコーンゴムは耐熱性、耐寒性に優れ、⾷品⽤途にも使⽤できます。ウレタンゴムは耐摩耗性に優れ、⻑期使⽤に適しています。

⼯具の保守管理も重要で、定期的な清掃、⼨法検査、表⾯状態の確認が必要です。ゴムパッドについても、硬度変化、表⾯損傷、⼨法変化を定期的に点検し、適切な交換時期を判断する必要があります。

 

4. 液圧成形とゴム圧成形の⽐較と使い分け

液圧成形とゴム圧成形は、共に流体または弾性体を利⽤した成形技術であるが、それぞれ異なる特徴と適⽤範囲があります。
液圧成形は⾼圧流体の均⼀な圧⼒分布により、⼤型部品や⾼強度材料の成形に優れています。⼀⽅、ゴム圧成形は設備が⽐較的簡単で、⼩型から中型の精密部品の成形に適しています。

成形能⼒の⾯では、液圧成形の⽅が⾼い成形圧⼒を発⽣でき、厚板材料や⾼強度材料への適⽤が可能です。しかし、設備投資が⼤きく、⾼度な技術と管理が必要です。ゴム圧成形は⽐較的低圧での成形になりますが、設備が簡単で初期投資が少なく、⼩ロット⽣産にも対応しやすい特徴があります。

精度⾯では、両技術とも優れた⼨法精度と表⾯品質を実現できるが、液圧成形の⽅がより⾼精度な成形が可能です。
材料適⽤範囲では、液圧成形は各種⾦属材料に広く適⽤でき、ゴム圧成形は主に薄板⾦属材料に限定されます。

経済性の観点では、⼤量⽣産においては液圧成形、⼩〜中量⽣産においてはゴム圧成形が有利とされています。また、製品の複雑さ、要求精度、⽣産量、コスト⽬標などを総合的に考慮して、最適な技術を選択することが重要です。

 

 

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参考文献
『チューブハイドロフォーム(T.H.E)って何?(株)山本水圧工業所様HP 技術資料
https://www.hyprex.co.jp/technology/
Micromanufacturing Engineering and Technology 2nd Yi Qin Elsevier 2015年
FUNDAMENTALS OF MODERN MANUFACTURING Materials,Processes,andSystems 4th ed
Mikell P. Groover JOHN WILEY & SONS, INC. 2010年

引用図表
図 チューブハイドロフォーミング  出典:DeGarmo’s MATERIALS AND PROCESSES IN MANUFACTURING TENTH EDITION
図 ゴム圧成形 出典:FUNDAMENTALS OF MODERN MANUFACTURING Materials,Processes,andSystems
     4th ed Mikell P. Groover JOHN WILEY & SONS, INC. 2010年

ORG:2025/06/13