6.1 延性破壊

6.1 延性破壊(ductile fracture)

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1. 延性破壊とは

延性破壊とは、材料に過大な荷重が加えられて破壊するか荷重破壊(overload fracture)の一つで、破壊までに大きな塑性変形を伴う破壊です。延性破壊は、少なくとも数%、通常は10%以上の永久ひずみを伴います。破断部付近には著しい塑性変形を生じて部材の伸びや、板厚の減少、曲がり、ねじれなどの変形が観察されます

 

2. 延性破壊の破面

一般に延性破壊の破面は2種類に分類されます。例えば、軟鋼丸棒の引張試験片の破断部には2種類の破面が生じます。それぞれ両者の特徴が表れています。図6.1.1 に示すくびれ部のの破面をカップアンドコーン(cup and cone)と呼びます。破面の中央部に形成される引張軸に直角方向の平面をカップといい、外周部の円すい状の斜面をコーンといいます。コーン部の傾きは引張軸に対しておおよそ45度傾いています。

図6.1.1 延性材料のカップアンドコーン

引張試験で丸棒試験片にくびれが生じた段階で、最小断面の中心部に引張軸と直角方向の分離が生じて徐々に拡大します。ある程度まで拡大した後、残りの外周部分が急速に分離してカップアンドコーンを形成します。破面中央のカップ部は灰色で金属光沢がありません。一方、斜面のコーン部は滑らかで鈍い金属光沢があります。

単純引張による延性破壊の形態は丸棒に限りません。例えば板材の破断についても、破面の状態が中央部と外縁部とで異なります(図6.1.2)。板材の外縁部は板材の表面に対して約45度傾斜しています。この部分をシャリップ(shear lip)といいます。この破面は最大せん断応力が作用する方向に形成されます。

図6.1.2 平板の延性破面

延性破壊の破面には、丸棒のカップ部及び板材の中央部に生じる金属光沢が無い繊維状破面(fibrous fracture surface)と、丸棒のコーン部と平板のシャリップ部のせん断破面(shear fracture surface)とがあります。繊維状破面の破壊機構は複雑ですが、ミクロ的にはせん断破面と同様せん断破壊になります。マクロ的な様相は主には延性の発生条件に依存します。

 

2.1 繊維状破面

繊維状破面は、引張負荷によりくびれた部分の内部が長手方向の多数の裂け目が生じることにより金属材料が繊維状に引き裂かれます。さらに、負荷が増加するにしたがって繊維中でくびれが生じて、細くなった繊維が次々に分離します。破断個所は点または線状になります。それにより、破面は細かい凹凸状になり、金属光沢が失われた状態が観察されます。図6.1.3 に繊維状破面のSEMによる観察結果を示します。くぼみが無数に並んでいるように観察されます。このような破面はディンプルパターン(dimple pattern)と呼ばれます。くぼみの境界は材料が極限まで伸びた破断部を示しています。

図6.1.3 ディンプルパターン

ディンプルパターンの生成は、(1)微小ボイドの形成、(2)ボイドの成長と合体による材料の破断、の順序で起こります。

微小ボイドの形成には、金属材料中の介在物粒子が起点になると考えられています。一般に金属は、製錬・凝固の過程で生じる酸化物などの非金属介在物や固相中に析出する粒子が分散した状態であります。これらの粒子は基質の金属と比較すると、硬くて変形能が小さいことが多いです。

したがって金属が塑性変形して延伸した場合、硬質の介在物と基質金属との境界が分離して、微小な空隙(void)が生じます。さらに塑性変形が進むと介在物の両側にできたボイドが延伸される方向に伸ばされます。また、多数のボイドが生成すると、ボイド間の基質金属が細くなります。

さらにボイドが拡大すると、隣接したボイドと合体して繊維状破面が形成されます。破面の方向は引張方向に対して直角方向になりますが、直角な破面が形成されるのは、くびれの底の断面に発達するボイドシート(図6.1.4)によると考えられます。

図6.1.4 ボイドシートによる破面の生成

ボイドシートの形成は、介在物を核とする微小ボイドが、金属内に最大せん断応力の作用方向(引張軸に対して約45度)に形成される滑り帯(slip band)に集中することにより起こります。一方、割れは、くびれ形状により拘束されますので、ジグザグに発達します。割れによる破面の方向を平均すると引張方向に直角になります。これが丸軸引張による延性破壊のカップ部底面の繊維状破面が形成される要因です。

繊維状破壊は、介在物を含まない金属では発生しません。このような金属の延性破壊は、全体的に伸びて破面が点または線状になるまで変形し続けます(チゼルポイント破壊)。

高強度の金属の延性破壊では、破面に放射状の模様が生じることがあります(図6.1.5)。これを放射状破面(radial fracture)もしくは星状破面といいます。放射状破面のひだは亀裂の伝播方向に一致します。カップ底の破面は、軟質金属の場合は繊維状破面、硬質金属の場合は一般に放射状破面になります。これらの中間の強さの金属の場合は、破面の中心部が繊維状破面、その外側に放射状破面が形成されます。 

図6.1.5 放射状破面

延性破壊による破面は、以下の順序で破壊が起こることにより形成されます。
(1)中心部に発生した繊維状破壊が徐々に拡大する。
(2)そのままの引張条件で急速伝播の放射状破面を形成する。
(3)最後に二軸応力状態のせん断破壊に移行する。

放射状破壊は、繊維状破壊と比較して不安定なぜい性型の破壊です。塑性変形の進展によるひずみ硬化と破壊部分の切り欠き作用がぜい性の原因になります。

 

2.2 せん断破面(すべり破面)

延性破壊はミクロ的にはすべてがせん断破壊です。その中で比較的大きな破面が形成される場合には、その破面をせん断破面といいます。例として、引張丸棒のコーン面および板材のシャリップ部はせん断破面です。いずれの場合もせん断応力が作用する方向に平滑な破面が生じます。

塑性変形の大部分は局限された薄い層に集中して、両側の金属が反対方向に移動します。この破壊条件は最大せん断応力説に従うと考えられています。せん断破面の形成では、変形とすべり面の摩擦抵抗にエネルギーを消費します。

せん断破面の断面を金属顕微鏡で観察すると、金属組織がすべりにより流れが認められます。図6.1.6 に軟鋼のせん断破面を示します。破面に沿って結晶粒数個分の厚み方向の層に塑性変形が集中して、一種の加工変質層を形成します。

 

図6.1.6 軟鋼のせん断破面

せん断破面をSEMによりミクロ的に観察すると伸長ディンプル(elongated dimple)が観察されます(図6.1.3 (b))。対抗する破面のディンプルの伸び方向は、せん断によるものなので逆向きになります。

(ディンプルの種類については、5.3 粒内破壊 を参照してください。)

せん断破面において、塑性変形が薄い層で起こり破面が比較的平滑になるのは、塑性変形が断熱的に進行するためと考えられます。コーン部あるいはシャリップ部は延性破壊の最終段階で起こり、高速度の塑性変形が伴います。そのためすべり面の温度上昇が起こり局部的に金属が軟化し、せん断抵抗が低下した状態でせん断破壊が進行します。

したがって、繊維状破壊と比較するとせん断破壊の進行は速く、発生した破壊は不安定破壊として伝播します。せん断面の温度上昇により鋼の組織変化がすべり面に沿って生じます。極端な場合せん断破面にマルテンサイトの薄層が観察されます。

 

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参考文献
機械部材の破損解析   長岡金吾  工学図書出版 1979
Fractography   ASM Handbook Vol.12   ASM International 1987
金属破断面写真集  小寺澤良一  テクノアイ出版部

 

引用図表
図6.1.1 延性材料のカップアンドコーン  ASM_12_Fractography
図6.1.2 平板の延性破面  ASM_12_Fractography
図6.1.3 ディンプルパターン   金属破断面写真集
図6.1.4 ボイドシートによる破面の生成  機械部材の破損解析
図6.1.5 放射状破面  ASM_12_Fractography
図6.1.6 軟鋼のせん断破面  機械部材の破損解析

 

ORG: 2020/03/20