アドビの赤い箱  ものづくり、ひとづくり

アドビの赤い箱

世界中の企業が直面する共通課題の一つとして、組織としてのイノベーションを生み出す力を高めることが挙げられています。

フォトショップで有名なアメリカのアドビシステムズは2年ほど前からユニークな試みを続けています。

「アドビ・キックボックス」と名付けられた者にプログラムの参加者には表にキックボックスと書かれた赤い箱が配られます。箱の中身は、アイデアをブラッシュアップするための6つのステップが示される説明書と、ペン、付箋2組、ノート2冊、スターバックスのギフトカード1枚、チョコレートバー1つ、そして1,000ドル分のプリベイドクレジットカード。
プログラムの参加者は、このカードを自由に使うことができて、使用目的の説明も精算の必要もありません。

箱の表面には、火災報知機が描かれて、火事になったらレバーを引っ張ってではなく、「アイデアが湧いたら開けてください」とユーモアに富んだ言葉がかかれています。

Adobe kickbox

Inside of Adobe kickbox

このプログラムは、研究所や製品開発部門だけでなく、全社員が参加できます。このプロジェクトを考えた、クリエイティビティ担当のマーク・ランドール副社長は、「我々の最大の資産は12,000人の社員。その眠っている創造力を引き出すために、アイデアとやる気のある社員すべてにチャンスを与えた。」とその狙いを語っています。

これまでに、1,000個以上のキックボックスが参加者に渡されましたが、そのうち製品開発に直接携わる社員は1割程度で、大半は営業やマーケティングなどに所属する、従来はイノベーションとの関わりが比較的小さい人たちです。

箱を受け取った社員は、まずは外に出てアイデアや仮説を検証します。その方法は色々で、ウェブサイトを開設したり、友人・知人にインタビューして潜在需要を探ります。社内で経営幹部の前で発表するのは6段階の最終段階。400人いる経営幹部の一人でも説得して支持を得られれば製品化に向けた次のステップに進むことができます。これまでに3つのアイデアが製品化されたそうです。

1,000個のキックボックスを渡すためには、おおよそ100万ドルの費用がかかるそうです。無条件で1,000ドルを全員に投資する行為は、一見無謀に見えますが、従来の製品開発でも、一つのプロジェクトに一千万ドル単位の予算をかけることもある、従来の製品開発のやり方でも必ず成功するわけではありません。十分の一の費用で1,000個のアイデアを社員から引き出せるなら、「むしろやすいもの」とランドール氏は述べています。

アドビの本気度は、キックボックスの成果を人事評価に一切反映しない点にも表れています。失敗を恐れずに、何回でも挑戦できるようにするためです。以前は社内で新製品や新規事業のアイデアを募集すると、リスクの少ない無難な提案が多かったそうですが、このプロジェクトでは、「社員がより大胆にリスクをとるようになった」そうです。

アドビは、今春、キックボックスのプログラムを外部に無償で公開しました。誰でも自由に使えるだけでなく、改良も加えることができます。すでに数千件がダウンロードされ、世界中の企業や国際機関から問い合わせが来ているそうです。

「イノベーションを生む力は、持って生まれた才能ではなく、学んで身に着けるスキルだ。」というランドール氏は、キックボックスを子供が自転車の乗り方を覚えるプロセスになぞらえています。
社員がたくさん失敗し、たくさん挑戦できる舞台を作り。「イノベーター」を育てるアドビの試みは、偏角を目指す大企業にとっても示唆に富む内容があります。
引用元:日本経済新聞 2015/6/2 朝刊

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA