CO2分離・回収技術

CO2分離・回収技術
(CO2 separation and capture technology)

 

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1. CO2分離・回収の現状

CO2を含むガスから、CO2を分離・回収する技術は、古くから石油精製や天然ガス精製の分野で実用化されています。石油精製分野では、水素を製造するときに水素の純度を上げる方法として、また天然ガス精製分野では、ガス田から採掘した天然ガスに含まれるCO2を除去するために使われています。不要な成分を除去することで純度の高い有用物質を生み出します。これらの分野では、数MPaの髙圧のガスからCO2を除去することになります。
それに対して、 近年はCO2排出量の削減が要求されている火力発電や産業分野における燃焼排ガスからのCO2回収は、常圧の排ガスからの回収になります。これは、環境上の要請から地球温暖化に対抗するために行われるもので、利益を生まない工程であることが異なっています。従って、この分野ではコスト上の制約があります。しかも、処理すべき量はけた違いに大きいことが挙げられます。

CO2分離・回収技術が必要な背景には、2050年カーボンニュートラルへの取組みが大きいです。さらにより積極的な取組みとして、グリーン水素の生成時に発生するCO2を回収するCCSのための主要な技術になるからです

 

2. CO2分離・回収技術の概要

現在研究されているCO2分離・回収技術の特徴を図1に示します。現在商用化されている技術は以下のように分類されます。
・化学吸収法
・物理吸収法
・吸着分離法
・膜分離法
・深冷分離法
・固体吸収法

図1 CO2回収技術の比較  出典:CO2回収・利用技術とカーボンプライシングの動向

 

 

3. CO2分離・回収技術の詳細

3.1 化学吸収法

化学吸収法は、化学反応を利用してCO2を分離する方法です。CO2を選択的に大量に溶解できる液体と、排ガスとを接触させて、反応吸収原理により液体中にCO2を溶解させる方法です。常圧の排ガスから、大量のCO2を分離・回収するのに適した技術です。反応吸収法とも呼ばれます。
吸収液の種類により、炭酸カリウム水溶液にCO2を吸収させる熱炭酸アルカリ吸収法(Benfield法、Catacarb法)、アルカリ性吸収液にCO2を吸収させるアミン法(MEA(モノエタノールアミン法)や、近年では冷却アンモニアや常温のアンモニアをCO2吸収液として利用する、冷却・常温アンモニア法の技術開発も進んできています。

これらの中で、もっともよく利用されているのが、アミン法です。
アミン法では、アルカノールアミン水溶液などのアミン系の吸収液を利用する方法です。これらの吸収液は、アミノ基を分子構造の中に有しており、一般的にアミンと呼ばれます。吸収塔内で、40~50℃の温度でアミノ基とCO2とが化学反応により、アミン炭酸塩を生成します。このアミン炭酸塩を、再生塔で110~130℃に加熱すると、CO2は吸収液から解離・気化して、高濃度のCO2が回収できます。CO2を分離したCO2希薄吸収液は、吸収塔に戻されて、繰返し循環使用されます。
CO2が低圧、低濃度でも高い除去率を得られることから、火力発電所の排出ガスのように大規模にCO2を回収する用途に向いています。

アミンによる CO2 の吸収反応は以下の通りです。
  2R-NH2 + CO2 ⇔ R-NH3+ + R -NH-COO
  R-NH2 + CO2 + H2O ⇔ R-NH3+ + R -NH-CO3
  (MEA:モノエタノールアミン では上段の反応が主反応となります。)

図2 化学吸収法の原理  出典:様々な排ガス源に対応可能なCO2分離回収技術  東芝レビュー

3.2 物理吸収法

物理吸収法の装置構成は、化学吸収法と同様です。物理吸収法は、高圧力・低温度下の排ガスを、吸収塔でポリエチレングリコールやメタノールなどのCO2を吸収する吸収液に通過させて、物理的にCO2を吸収する方法です。吸収液は、再生塔で減圧または加熱することで、高濃度のCO2を回収します。本方式は、高圧ガスを対象とする場合には有利になりますが、低圧ガスでは化学吸収法の方が有利になります。
高圧力、高濃度のCO2成分の分離に適しており、H2S(硫化水素)も吸収・分離することが可能であり、天然ガス精製においても、多くの実績があります。
以下に代表的なプロセスを示します。

(1)Rectisol プロセス:

メタノールを、CO2吸収液として使用するプロセスです。Linde AG社、Air Liquide社が提供しています。低温(-40℃)、比較的高圧力(2.76 ~ 6.89 MPa)下で CO2を吸収し、常圧力(0.1 ~ 0.2 MPa)でフラッシュやストリッピングで、CO2を放散させます。

(2)Selexol プロセス:

ポリエチレングリコールジメチルエーテル溶液を、CO2吸収液として使用するプロセスです。UOP社が提供しています。比較的高圧(2.07 ~ 13.8 MPa)で排ガスからCO2、H2Sを溶解吸収します。吸収液をフラッシュさせたりストリッピングさせたりすることで CO2、H2Sを吸収液から放散させます。CO2とH2Sとを選択的に回収できます。

(3)Sulfinol プロセス:

アルカノールアミン,ジイソプロピルアミン(DIPA),スルホラン溶媒を吸収液として使用するCO2回収プロセスです。Shell社が提供しています。いくつかの派生タイプが販売されており、物理吸収溶媒としてだけではなく、化学溶媒としての性質も兼ね備えており、幅広いCO2分圧に対応可能です。

3.3 吸着分離法

吸着分離法は、活性炭やゼオライトなどの多孔質吸着剤を用いて、CO2を吸着させるプロセスです。水素プラントや、製鉄所の熱風炉排出ガスなどの比較的高濃度CO2ガスの回収に用いられます。水素プラントでは、CO2分離により水素の純度を高めるために適用されます。
CO2をppmレベルまで分離することが可能であり、CO2回収の熱エネルギーも小さいですが、吸着剤へのCO2吸着量が少なく、大規模装置へのスケールアップが課題になります。吸着選択性の高い化学吸着材の開発や脱水過程を省略可能な耐水性吸着材の開発が進められています。
CO2を吸着・脱着する際の圧力や温度の取扱いの違いにより、下記のように分類されます。

(1)圧力スイング吸着法(PSA:Pressure Swing Adsorption):

高圧力下で吸着材にCO2を吸着させた後、低圧力下で脱着させてCO2を分離回収する方法です。

(2)温度スイング吸着法(TSA:Temperature Swing Adsorption):

低温度でCO2を吸着材に吸着させた後、高温度で脱着させてCO2を分離回収する方法です。

(3)圧力及び温度スイング吸着法(PTSA:Pressure and Temperature Swing Adsorption):

圧力と温度を同時に変化させることで CO2 を吸着・脱着させ、分離回収する方法です。

図3 吸着分離法の原理  出典:図解でわかるカーボンニュートラル

3.4 膜分離法

膜分離法は、CO2を選択的に透過する膜を用いて分離する方法です。膜を中空糸状に束ねて、カートリッジにしたものを組み合わせて使用することが多いです。
プロセスがシンプルでエネルギー消費が少なく、設備も小型化できると期待されています。ただし、膜分離法は分離対象物質の分子系と分離膜の孔径との差異でガスが分離されます。CO2の分子は水素分子より大きいですが、メタンよりは小さいので、各材質及び排出ガスの組成によってはCO2より分子の小さい気体(N2やH2)が分離時に混じってしまい、回収したCO2の純度を下げることがあります。また、分離膜は膜内外の分圧差を駆動力とするため、供給側のCO2濃度(分圧)が低下すると、回収効率も低下するなどの課題があり、このような課題をクリアするために、より高性能な分離膜の開発が求められています。
膜素材は、高分子膜や無機膜があります。日本ではCO2選択性を持つ高性能の分離膜として、高分子膜である分子ゲート膜や、ゼオライトを素材とする無機膜などが開発されています。

図4 膜分離法の原理  出典:各種CO2回収技術  日本エネルギー学会機関紙

 

3.5 その他の分離法

(1)深冷分離法:

深冷分離法は、排出ガスを圧縮・低温化して液化して、沸点の差を利用して蒸留あるいは部分凝縮により、CO2を分離・回収する方法です。
高濃度のCO2分離として有効であり、高濃度のCO2含有ガスを対象に液化ユニットとしてAir Liquide社や、CO2 固化を利用するExxon Mobil社(CFZ プロセス)などの技術があります。CFZプロセスは、天然ガスとCO2分離に用いられます。
現在までのところ、設備コストが高くなることや排ガスの圧縮エネルギーが大きくなることから、実用化には至っていません。

(2)固体吸収法

固体吸収法は、固体のCO2吸収材を利用します。固体の吸収材には、CO2を化学的に吸収するアミンを多孔質支持体に担持させたタイプなどがあります。化学吸収法と同様の特性を示しながらも、固体であるが故に CO2分離の際の顕熱や蒸発潜熱を削減できることから、化学吸収法に比べて必要なエネルギーを大幅に低減できます
発電所等の大規模施設でのCO2回収方法の本命として期待されていますが、現状は実証段階にあり、2030 年頃の技術の確立を目指しています。

 

参考文献
各種CO2回収技術  上條孝  日本エネルギー学会機関紙 えねるみくす Vol.99 No.4 2020年  99-333
CO2回収・利用技術とカーボンプライシングの動向  増田正夫・宮下真一・太田宗吾 高砂熱学イノベーションセンター報 No.36 2022年  2022-13
様々な排ガス源に対応可能なCO2分離回収技術  北村英夫 東芝レビューVol.74 No.3 2019年
図解でわかるカーボンニュートラル  (一社)エネルギー総合工学研究所 2021年

引用図表
図1 CO2回収技術の比較  出典:CO2回収・利用技術とカーボンプライシングの動向
図2化学吸収法の原理  出典:様々な排ガス源に対応可能なCO2分離回収技術  東芝レビュー
図3 吸着分離法の原理  出典:図解でわかるカーボンニュートラル
図4膜分離法の原理  出典:各種CO2回収技術  日本エネルギー学会機関紙

ORG:2024/07/04

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