産油国別原油性状及び装置設計上の注意

産油国別原油性状及び装置設計上の注意
(Crude oil properties by oil-producing country and considerations for equipment design)
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Contents
1. 原油性状の分類と設計パラメータ
石油精製工場における心臓部である常圧蒸留装置(CDU: Crude Distillation Unit)および減圧蒸留装置(VDU: Vacuum Distillation Unit)の概念設計において、処理対象となる原油の性状を正確に把握することは、プラントの安全性、経済性、および運転の柔軟性を決定づける最も重要なプロセスです。原油は単一の物質ではなく、炭素数1のメタンから炭素数数十以上に及ぶ複雑な炭化水素の混合物であり、産油国や油田によってその物理的・化学的特性は著しく異なります。
初期の概念設計の段階で、塔径、トレイやパッキングの種類と段数、パンプアラウンド(PA: Pump-around)の熱回収ネットワーク(Pinch Analysis)、加熱炉(Fired Heater)の熱負荷、およびオーバーヘッドシステム(塔頂凝縮系)のサイジングを決定するためには、原油のアッセイデータ(Crude Assay)に基づく厳密なシミュレーションが不可欠になります。
以下に概念設計において重要となる主要な性状指標について整理します。
(1)API比重(API Gravity):
原油の軽質・重質を示す指標です。水に対する比重をベースに以下の式で算出されます。
\( API = \displaystyle\frac{ 141.5 }{ Specific \: Gravity \: at \: 60^° \: F } \ – \: 131.5 \)
単位は、「度(◦)」を使います。API度、APIボーメ度ともいわれます。ちなみに、真水のAPI比重は10° として扱われます。
API比重が高いほど軽質(ライト:ガソリン・灯軽油留分が多い)であり、塔頂のガス・ナフサ負荷が高まります。一方、API比重が低いほど重質(ヘビー:残油留分が多い)で、加熱炉、塔底系、およびVDUへの負荷が大きいことを考慮する必要があります。
原油は、API比重では以下の様に分類されます。
◦ 超軽質: 39° 以上
◦ 軽質 : 34~39° 未満
◦ 中質 : 30~34° 未満
◦ 重質 : 26~30° 未満
◦ 超重質: 26° 未満
(2)硫黄分(Sulfur Content):
0.5wt%未満を「スイート(甘味:Sweet)」、それ以上を「サワー(酸味:Sour)」と呼びます。
原油中の硫黄分が高いほど脱硫装置の負荷が増加し、また加熱されることで硫化水素(H2S)などを生成し、配管や機器に高温硫化腐食(High-temperature Sulfidation)を引き起こします。マッコンビー曲線(McConomy Curves)やクーパ・ゴルマン曲線(Couper-Gorman Curves)に基づき、温度が260℃を超える部位には5Cr-0.5Mo鋼、9Cr-1Mo鋼、あるいはSUS410等の高合金材を選定する必要があります。
(3)全酸価(TAN: Total Acid Number):
ナフテン酸に代表される有機酸の含有量を示します。全酸価の値は有機酸を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のmg数で表されます。
全酸価(TAN)が0.5(0.5 mg KOH/g)を超える髙TAN原油(主にカナダ産WCSやベネズエラ産など)は、220℃〜400℃の温度域かつ流速が速い部位(加熱炉チューブ、トランスファーライン、フラッシュゾーン、サイドストリッパー戻り配管など)において激しいナフテン酸腐食を引き起こします。この対策として、モリブデンを2.5%以上含有するSUS316LやSUS317Lの採用が必須となります。
(4)流動点(Pour Point)およびワックス分:
高流動点原油(インドネシア産ミナス等)は常温で固化するため、サイト内の受入タンク、移送配管、および脱塩器(Desalter)に至るまでのコールドトレインにおいて、強力なスチームトレースや二重管保温設計が求められます。
(5)残留炭素(Conradson Carbon Residue)および金属分(Ni, V):
VDUのボトム(減圧残油: VR)を後段の残油流動接触分解装置(RFCC)やコーカーにフィードする際、触媒毒となるニッケルやバナジウムの量、およびコーキングポテンシャルを把握するために重要です。加熱炉内のチューブ内流速(Mass Velocity)を適切に保ち、過熱(Film Temperatureの上昇)によるコークフォーメーションを防ぐ設計が求められます。
2. 産油国別・原油性状および確認埋蔵量
以下に、各産油国別の主要な原油性状や埋蔵量について示します。
埋蔵量はOPEC Annual Statistical BulletinやEnergy Institute Statistical Reviewの国別データを参照し、原油性状はExxonMobil・Equinorの crude assay、S&P Global/Platts の市場仕様資料を中心に整理しています。
図 世界の主要原油のAPI比重・硫黄分 出典:chatGPT
3. 主要産油国・油種別の特性と分留装置設計への影響
3.1 中東産原油(サウジアラビア、イラク、イラン、クウェート等)
中東産原油は世界の製油所におけるベースロードとして最も広く処理されています。代表油種であるアラビアンライト(Arab Light)やアラビアンヘビー(Arab Heavy)は、総じて硫黄分が高い「サワー原油」に分類されます。
分留装置の設計においては、加熱炉(Fired Heater)の対流部(Convection Section)から放射部(Radiant Section)、およびCDUフラッシュゾーンに至る高温部での硫化水素(H2S)による高温硫化腐食が支配的な要因になります。そのため、300℃を超える機器・配管の材質には9Cr-1Mo鋼以上の耐食材料が要求されます。
また、常圧残油(AR: Atmospheric Residue)の歩留まりが比較的大きいため、VDUのフィード量が多くなり、減圧塔のディープカット(Deep Cut: 減圧軽油の回収率最大化)を目的としたフラッシュゾーンの低圧化(エジェクターシステムの大型化)と、ワッシュゾーン(Wash Zone)におけるグリッドパッキングのコーキング防止対策(スプレーノズルによる均一な液分散と十分なワッシュオイル流量の確保)が設計の要点になります。
3.2 北米産原油(アメリカ、カナダ)
北米では、シェール革命により米国のタイトオイル(WTI、Bakken等)の生産が急増している一方、カナダのオイルサンド由来の超重質油(WCS等)の処理も重要です。
タイトオイルはAPI度が40を超える超軽質かつスイート(低硫黄)な原油です。これを主として処理する場合、ナフサやLPGといった軽質留分が極めて多くなるため、CDUの塔頂コンデンサー(Overhead Condenser)の熱負荷とベーパーロードが急激に増大します。既存装置のボトルネックを解消するためには、原油加熱トレインの途中にプレフラッシュドラム(Pre-flash Drum)またはプレフラッシュタワー(Pre-flash Tower)を設置し、軽質分をメインのフラクショネーターを通さずにバイパスさせる概念設計が有効です。
一方、カナダのWCSは超重質でありながらTAN(全酸価)が1.0を大きく超える。ナフテン酸腐食は高温で未気化の重質油流体が高速で流動する部位で発生するため、VDUのトランスファーラインやサイドストリッパーの液面付近には、流速制限(Velocity limit)を設けるとともに、SUS317L等の高モリブデンステンレス鋼を使用する設計アプローチが必須となります。
3.3 中南米産原油(ベネズエラ、メキシコ)
世界最大の原油埋蔵量を誇るベネズエラのオリノコタールや、メキシコのマヤ原油は、API度が20を下回る超重質原油(Extra Heavy Crude)です。これらの油種は、アスファルテン、ニッケル、バナジウム、および残留炭素を大量に含んでいる。 CDUおよびVDUの設計においては、塩化マグネシウムなどの無機塩類がエマルジョンを形成しやすいため、高効率な二段脱塩器(Two-stage Desalter)の導入が不可欠になります。さらに、VDUの塔底(ボトム)における滞留時間を極力短くし、クエンチオイル(Quench Oil)を適切に注入することで、アスファルテンの熱分解によるコーク(炭素質)の堆積を抑制する設計が求められます。ボトムポンプも高粘度流体に対応した特殊な構造(NPSHの確保、メカニカルシールのフラッシング強化)が必要となります。
3.4 アフリカ産原油(ナイジェリア、アルジェリア、アンゴラ)
ナイジェリアのボニーライト(Bonny Light)やアルジェリアのサハラブレンド(Sahara Blend)は、硫黄分が非常に低いライト・スイート原油であり、環境規制の厳しい地域での直留製品(ディーゼル、ジェット燃料)のベースとして極めて価値が高い油種です。
設計上の留意点として、これらはワックス分を多く含むパラフィン系原油であることが多く、流動点(Pour Point)が高めです。そのため、装置停止時(シャットダウン)の配管内での流体固化を防ぐため、スチームアウト用の配管接続(Utility Station)を密に配置し、低流速部には適切な保温とトレース(Steam Tracing)を施す必要があります。また、ディーゼル留分の曇り点(Cloud Point)を制御するため、サイドストリッパーにおけるスチームストリッピングの段数とスチーム比率を最適化します。
3.5 欧州・ロシア産原油(ロシア、北海地域)
ロシアのウラル原油(Urals)は中東産と似たミディアム・サワー原油であるが、産出地域やパイプラインの運用によって塩分(PTB: Pounds per Thousand Barrels)や固形不純物(BS&W)の変動が激しい場合があります。
CDUのオーバーヘッドシステムにおいては、塔頂で塩化水素(HCl)や硫化水素(H2S)が凝縮水と反応して塩酸腐食やアンモニウム塩(塩化アンモニウムや硫化水素アンモニウム)の析出による閉塞・腐食(Under-deposit Corrosion)を引き起こすリスクがあります。概念設計では、塔頂の露点(Dew Point)を正確に計算し、ウォッシュウォーター(Wash Water)の連続注入ポイントの選定と、中和剤(Neutralizing Amine)や皮膜形成剤(Filming Amine)の注入設備をシステムとして組み込むことが重要です。
3.6 アジア太平洋産原油(インドネシア、マレーシア)
インドネシアのミナス(Minas)に代表されるアジア原油は、極めて硫黄分が低いものの、流動点が35℃以上という非常に高いワックス分を持ちます。
このような原油を処理する場合、CDUの熱回収トレイン(Heat Exchanger Network)における低温部での熱伝達係数(U値)の低下(ワックス析出によるファウリング)を考慮し、熱交換器の面積(Area)に十分なマージンを持たせる必要があります。また、常圧残油(AR)も高流動点となるため、VDUへのフィード配管の設計においては、万が一のポンプトリップ時に備えた自動パージシステムや、配管のデッドレグ(Dead Leg)を排除するルーティング設計が不可欠です。
図 原油産出量 出典:ORIGINAL
4. 油種性状の変動を考慮した分留装置(CDU / VDU)の概念設計アプローチ
近年の製油所を取り巻く環境では、単一の油種のみを処理することは稀であり、経済性を最大化するために様々な産油国の原油をブレンドして処理する(Opportunity Crude Processing)ことが一般的です。したがって、分留装置の概念設計には高いフレキシビリティ(Flexibility)が要求されます。
4.1 熱回収ネットワーク(Pinch Analysis)とパンプアラウンド(PA:Pump Around)
軽質原油(北米タイトオイルなど)と重質原油(中東産、中南米産など)を切り替えて処理する場合、塔内の熱バランスが大きく変動します。
軽質原油処理時は、塔上部のトップパンプアラウンド(TPA:Top Pump Around)の抜熱負荷が増加し、重質原油処理時は、ボトムパンプアラウンド(BPA:Bottom Pump Around)やミドルパンプアラウンド(MPA:Middle Pump Around)の抜熱負荷が増加します。 概念設計では、ピンチテクノロジーを用いて原油予熱トレインを最適化するが、この際、PAの抜熱量を広範囲で制御できるように、PAポンプのインペラ設計(可変速駆動: VFD:Variable Frequency Driveの導入検討)や、PA熱交換器のバイパスラインの設置による温度制御の自由度を確保することが推奨されます。
4.2 減圧蒸留装置(VDU)におけるディープカット技術
将来的な重質原油処理(中南米産、カナダ産、中東ヘビーなど)の増加を見据え、常圧残油から付加価値の高い減圧軽油(VGO)を最大限回収する「ディープカット」技術が概念設計の標準となりつつあります。
これを実現するためには、減圧フラッシュゾーンの圧力を10〜15 mmHg abs程度まで低下させる必要があります。エジェクターの駆動スチーム量を抑えつつ低圧を維持するため、塔内の圧力損失(Pressure Drop)を最小化する構造化パッキング(Structured Packing)の選定が極めて重要になります。
また、高真空下での気液分離効率を高めるため、フラッシュゾーンのフィードディストリビューター(Feed Distributor)には、スワールチューブ(Swirl Tube)型やベーン型(Vane Type)の高性能な分散器を設計に組み込みます。
4.3 Metallurgy(冶金)の統合的選定
多様な産油国の原油を処理することは、硫化腐食(中東産)、ナフテン酸腐食(中南米・カナダ産)、塩酸腐食(ロシア・アフリカ産)というすべての腐食リスクに直面することを意味します。
設計初期の配管材料仕様(Piping Material Specification)において、経済性と安全性のバランスを取るため、腐食シミュレーションソフトウェアを活用し、各回路(Corrosion Circuit)の腐食速度(Corrosion Rate, mpy)を予測します。必要に応じて、塔本体の母材を炭素鋼とし、内面にSUS316LやMonelのクラッド鋼(Clad Steel)を貼り合わせる構造を採用することで、設備投資(CAPEX)を最適化します。
5. まとめ:将来を見据えた「フレキシブル・デザイン」
世界の石油資源は長期的に「重質化・高硫黄化・高TAN化」の傾向にあります。しかし、市場が求めるのはクリーンな軽質燃料です。従って、現在のエネルギー情勢を鑑みると、単一の産油国からの原油に依存した設計はリスクを伴います。エンジニアリングの立場から、以下の3つのケースをカバーする「エンベロープ設計(捜査範囲の確保)」を検討する必要があります。
1. Case A(Design Case): アラビアンライト(標準的な中東産中質サワー原油)を中心とした安定運転
2. Case B(Light Case): 北米シェールオイル(LTO)30% + UAEムルバン(Murban)70%(軽質・低硫黄ケース)の混合により、塔頂負荷とナフサ収率が最大となるケース
3. Case C(Heavy Case): サウジアラビア・アラビアンヘビー50% + メキシコマヤ(Maya) 50%(重質サワー・高負荷ケース)の混合により、加熱炉、VDU、およびボトム処理設備の負荷が最大となるケース。
これらのケースにおいて、蒸留塔内の気液負荷を網羅し、いずれのシナリオでも運転可能な「操作範囲(Turndown Ratio)」を確保することが、真に優れた概念設計と言えます。
図 原油性状別分留装置の設計負荷の差異 出典:Google Flow
参考文献
・OPEC Annual Statistical Bulletin 2025 https://www.opec.org/annual-statistical-bulletin.html
・Energy Institute Statistical Review of World Energy 2025 https://www.energyinst.org/statistical-review/resources-and-data-downloads
・ExxonMobil Crude Oil Assays https://corporate.exxonmobil.com/what-we-do/energy-supply/crude-trading/crude-oil-assays
・Equinor Crude Oil Assays https://www.equinor.com/energy/crude-oil-assays
・S&P Global Commodity Insights Platts crude methodology/specifications https://www.spglobal.com/platts/PlattsContent/_assets/_files/en/our-methodology/methodology-specifications/apag-crude-methodology.pdf
図表
表 産油国別・原油性状データ 出典:ORIGINAL
図 世界の主要原油のAPI比重・硫黄分 出典:chatGPT
図 原油産出量 出典:ORIGINAL
図 原油性状別分留装置の設計負荷の差異 出典:Google Flow
ORG:2026/05/10




