大型洋上風車、三菱重工業、実は初製品

大型洋上風車、三菱重工業、実は初製品

概要
三菱重工業が製造した、世界最大の7,000kWの洋上風力発電用風車が、福島県、いわき市の小名浜港で組立作業が完了しました。
三菱重工業が、洋上風車を手掛けるのはこれが初めてです。三菱重工業は、陸上風車では欧米勢や新興国税に大型化やコスト競争で後れをとって、事業縮小に追い込まれました。陸上でつまずいたものを洋上で取り戻そうとしています。背水の陣で及び世界に挑戦します。

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本機は、経済産業省の「浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」を受託した福島洋上風力コンソーシアム が 2011年にはじめた実証事業の第2号機になります。
「三菱重工の技術を結集した」と、披露式典で同社の前川篤副社長は、述べました。
高さ190m、羽根の直径167mのこの風車を、海に浮かべるための浮体は長崎、風車の柱は神戸、発電装置の基幹部品は下関、羽根の組立は横浜と、同社の製造拠点がこぞって参加しました。12月から沖合20kmで実証運転に入ります。

三菱重工業は、風車の世界大手で、洋上の風車の実績も豊富なデンマークのヴェスタスと折半出資で洋上風車の製造・販売会社「MHIヴェスタス・オフショア・ウインド」を設立しました。その結果、一躍、この分野で独シーメンス社に次ぐ世界第2位になりました。出力だけでいうと、ヴェスタスは既に8,000kWの風車も開発済です。

では、三菱重工業が自ら製作に乗り出したのはなぜでしょうか。理由は、三菱側に「洋上風車はこれからもっと大型化する。ヴェスタスの既存技術では難しい。」(平本康治常務執行役員)との危機感があったからです。

洋上は、障害物が無いので風車を大きくしやすいですが、一方陸上より設置に手間が難しく、メンテナンスにも手間がかかります。風車を単純に大型化しても建設・維持費がかさめば、顧客からは敬遠されます。

そこで、開発したのが世界初の「油圧ドライブトレイン」ナセルと呼ぶ風車の基幹部品です。刻々と変化する風のエネルギーを油圧に変換して、発電機の回転数が一定になるようにデジタル制御します。従来の風車では風車の回転数を発電機に最適な回転数にするために必要な増速機などの重量物が不要になります。「小さく軽くできる」(平本康治常務執行役員)ことが、製品の強みになります。

MHI 油圧ドライブトレイン実証図

世界2位といっても、実際は独シーメンス社の独走に近い状態です(例えば、欧州市場のシェアでは、独シーメンス社が86.2%に対して、MHIヴェスタス・オフショア・ウィンド社は9.5%。2014年欧州市場シェア新規導入分)。今回の開発成果を、MHIヴェスタスにトランスファーして、ヴェスタスのブランド力を生かして世界に売り込みを進める方針です。

洋上発電は、現在は欧州中心に設置が進んでいますが、世界中で注目が集まっています。米国では東北部のロードアイランド沖などで、風力発電の建設計画が進み、台湾でも2020年迄に60万kW規模を導入する計画があります。

調査会社の富士経済によると、2020年の洋上発電関連の世界市場は2012年の約3倍にあたる8,814億円に拡大すると予測しています。

MHIヴェスタス・オフショア・ウィンド社の2014年度の売上高は、約400億円。同社を含む洋上発電関連で、三菱重工業は2018年度に売上高1000億円を目指しています。自前主義を捨てて、ヴェスタスと組んでまでも再挑戦した風車事業だけに失敗は許されません。

三菱重工業には、風車事業で苦い経験があります。日本では、狭い国土の制限から山間部への設置が多く、陸上風車では1,000~2,000kW規模の中型風車が中心でした。そのために、欧米のメーカが進めた大型化の波に乗り遅れ、一方中型風車の分野では、安価な中国製品などに追い上げられました。
2013年3月期には、北米の陸上風力事業で、約200億円の特別損失を計上して、北米から実質的に撤退するなどして、風力事業は縮小の道をたどっていました。先をどう読むかが問われました。

注記
油圧ドライブトレイン:
三菱重工業のホームページより、
油圧ドライブトレインは一種のHST(Hydraulic Static Transmission)です。HSTというのは、原動機(この場合は風車)で油圧ポンプを回転させて、昇圧した作動油で、今度は油圧モータを回転させるものです。風車の回転数が変化しても油圧ポンプの吐き出す作動油の量は、簡単に調整できます。
大きな減速機が必要ないので、風車のように高所(ナセル部)に主要な機械要素を設置する必要がある場合は、軽量化に非常に有効です。
三菱重工業のHPを見ると、この機構は、DDT(Digital Sisplacement (R) Transmission)と名付けられています。

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引用元:日本経済新聞 2015/6/23

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