半固体電池

半固体電池(Semi-solid-state battery)
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1. 二次電池の構造・特性比較:液体LIB・半固体電池・全固体電池
1.1 構造上の本質的な違い(半固体電池を中心に)
二次電池は基本的に「正極 / 負極 / 電解質 / セパレータ」で構成されますが、電解質の状態が3者で根本的に異なります。
・液体LIB(Liquid LIB:Lithium-ion battery):
可燃性有機溶媒を主体とする液体電解液が電極間を満たし、セパレータで短絡を防止する構造です。イオン伝導性は高い一方で、液漏れ・揮発・熱暴走のリスクを内在します。
・全固体電池(All-solid-state battery):
電解質およびセパレータを「固体電解質」に完全置換した構造です。無機固体(硫化物・酸化物など)により高い安全性を実現しますが、固体—固体界面の接触不良による界面抵抗が課題です。
・半固体電池(Semi-solid-state battery):
電解質が「ゲル状 / ペースト状 / クレイ状」といった中間状態をとる固液ハイブリッド構造です。
一般に「自由液体電解液が極めて少量(目安として10wt%以下)」で、構造的には以下の特徴を持ちます。
・ 固体骨格(ポリマー・セラミック)+液体電解質の複合体
・ 電極との密着性が高く、界面抵抗が低い
・ 流動性が低く、安全性が高い
すなわち、「液体の界面適応性」と「固体の安全性」を両立する現実解と位置づけられます。
1.2 各二次電池の構成要素と構造比較
以下に3種類の二次電池の構成要素と構造比較の概要を示します。
表 3種類の二次電池の構成要素・構造比較 出典:各種文献より
1.3 半固体電池の設計上の構造的優位性
半固体電池の本質的な優位性は、液体LIBと全固体電池がそれぞれ抱える問題点を、一つの構造で同時に解決している点にあります。
液体LIBの弱点:
① 「安全性の問題」を解決: 電解液量を大幅に削減し、流動性を排除することで、内部短絡が発生しても電解液が短絡箇所に流れ込む「連鎖反応」を物理的に抑制します。釘刺し試験では液体LIBが爆発的に発火するのに対し、半固体電池は発煙のみか、90℃以下の局所温度上昇に留まることが報告されています。
② 「バインダー劣化」を解決(24M方式): 充放電に伴う活物質の膨張・収縮(シリコン負極では体積変化が300%以上に達する場合もある)によってバインダーが断裂し、電気的ネットワークが崩壊するという液体LIBの主要な劣化モードを、特に24M Technologies社が開発した24M方式によりバインダーフリー構造が実現され、バインダー劣化の問題は根本的に排除されます。
全固体電池の弱点:
① 「界面抵抗増大」を解決: 固体と固体が点接触する全固体電池では、充放電に伴う電極の体積変化で界面が剥離し、イオン移動が妨げられる「界面抵抗増大」が大きな課題です。半固体電池では電解質の柔軟性が界面への密着を維持し続けるため、この問題を大幅に緩和できます。
② 「製造難度」を解決: 硫化物系固体電解質を使用する全固体電池は、数百MPaを超える加圧成形工程や不活性雰囲気中での製造が必要で、既存LIBラインへの適用が極めて困難です。半固体電池(特に24M方式)は、スラリー塗工・乾燥工程を簡素化または撤廃するのみで、基本的な電極製造ラインを流用できます。
2. 半固体電池の材料特性:俯瞰的理解と「クレイ型」技術の革新
2.1 半固体電解質の種類と材料の俯瞰
半固体電池の性能を決定する最重要因子は「電解質の物理的形態」です。現在研究・量産されている半固体電池は、電解質の構成によって大きく三つの系統に分類できます。
・ゲルポリマー電解質(GPE:Gel Polymer Electrolyte)系:
PEO(ポリエチレンオキサイド:Polyethylene Oxide)、PVDF-HFP(ポリフッ化ビニリデン系:PolyVinylidene DiFluoride)、PAN(ポリアクリロニトリル:PolyAcryloNitrile)等のポリマーに液体電解液を含浸させ、ゲル状に固定した電解質です。薄型化・曲面対応が得意で、スマートフォンやウェアラブル機器向けのフレキシブル電池に適しています。イオン伝導率は10⁻³ 〜 10⁻⁴ S/cm程度と液体に近い値が得られますが、高温下での変形や電解液の揮発による長期劣化が課題です。
・液体電解液+ゲル化剤(ハイブリッド系):
従来の炭酸エステル系液体電解液にシリカナノ粒子(SiO₂)やセルロース誘導体などのゲル化剤・増粘剤を添加して粘度を高め、流動性を抑制した方式です。既存のLIB製造設備を最大限活用できるため、量産移行コストが低く、多くの中国系電池メーカーが採用しています。電解液量は削減されるものの完全固定化には至らないため、安全性向上効果はクレイ型やGPEより限定的です。
・固液ハイブリッド(クレイ型・コンポジット型):
活物質・固体電解質粒子・液体電解液を直接混錬し、ペースト状または粘土状の電極を形成する方式です。24M Technologies社のクレイ型はその代表例で、バインダーを使用しない点で他の半固体電池とは一線を画します。日本ガイシの「EnerCera」はセラミックス多孔体に電解液を染み込ませた酸化物コンポジット型であり、耐熱性に特化した独自の設計です。
表 半固体電解質の主要系統と特徴比較 出典:ORIGINAL
2.2 電極材料と活物質の組み合わせ:用途による設計の多様性
半固体電池は電解質の形態だけでなく、正極・負極の活物質の選択においても、用途に応じた多様な組み合わせが可能です。
・ 正極材料の選択:
高い安全性と長寿命が求められる定置型蓄電システムには、熱的に安定したリン酸鉄リチウム(LFP)が最適です。一方、高エネルギー密度が優先されるEV・eVTOL用途には、ニッケル含有率を高めたハイニッケルNMC(Ni₀.₈Mn₀.₁Co₀.₁O₂等)が検討されています。CATLの「凝聚態電池」のように、500Wh/kgという超高エネルギー密度を狙う製品ではさらに先進的な正極材料が採用されています。
・ 負極材料の選択:
現行の量産品ではグラファイトが主流ですが、エネルギー密度向上の観点からシリコン系(SiO、Si/C複合体)やリチウム金属負極の採用が活発に研究されています。特にリチウム金属負極は理論容量がグラファイトの約10倍(3,860 mAh/g)に達しますが、充電時のデンドライト(樹枝状リチウム)成長が内部短絡の原因となるリスクがあります。半固体電解質の固体粒子成分がデンドライトの成長を物理的に抑制する効果が期待されており、SES AI社はこのアプローチを主要戦略として採用しています。
・ 無機系フィラーによる性能強化:
LLZO(リチウムランタンジルコン酸塩 Li₇La₃Zr₂O₁₂)やLAGP(リン酸アルミニウムゲルマニウムリチウム)などのリチウムイオン伝導性セラミックス粒子を半固体電解質のマトリックスに分散させることで、イオン伝導パスを増やすと同時に機械的強度と熱的安定性を向上させる技術が広く研究されています。この手法は特にGPE系の弱点である機械強度の不足を補う有効な手段です。
2.3 24M Technologies社「クレイ型」技術の革新性:他の半固体電池との比較
24M Technologies社(米国、MIT発ベンチャー、創業2010年)が開発した「セミソリッド(クレイ型)電極」は、半固体電池の中でも一般的なゲルポリマー型とは本質的に異なるアプローチです。その革新性は「電極製造の思想を根本から変えた」点にあります。
従来の液体LIBもGPE系半固体電池も、活物質をバインダーで集電箔に固定し、溶媒を乾燥・蒸発させて電極を形成するという製造の基本思想は共通しています。24M方式はこの「塗工→乾燥」という工程自体を否定し、活物質と電解液を直接混錬してペースト状にした電極材料をそのまま使用します。以下に、他の半固体電池との比較において顕著な優位点を挙げます。
2.3.1 クレイ型電極の特徴
24M Technologies社 の技術は、半固体電池の中でも「高濃度クレイ型」に分類されます。
・ バインダーフリーによる根本的な劣化モードの排除:
一般的なGPE系半固体電池を含め、ほとんどの電池ではバインダーが不可欠な構成要素です。しかし24M方式は、活物質と電解液が混錬された粘土状の電極自体が自己保持性(形状維持能力)を持つため、バインダーを必要としません。
バインダーが存在しないことの技術的意義は大きく、充放電に伴う活物質の体積変化(グラファイトで10%前後、シリコン系で数十〜数百%)によってバインダーが繰り返し引き剥がし応力を受け、最終的に断裂して電気的ネットワークが崩壊するという液体LIBおよびGPE系電池共通の主要劣化モードを根本から排除できます。これが他の半固体電池にはない10,000回超という超長サイクル寿命の技術的根拠の一つとなっています。
・ 低曲路率(Low Tortuosity)による厚膜電極の実現:
一般的なGPE系半固体電池の電極厚みは液体LIBと同様に50〜120μm程度に留まります。これは、電極を厚くするとイオンが長距離を移動しなければならず、出力特性が急激に低下するためです。
24M方式では活物質の間が電解液で満たされた状態が維持されるため、イオンの移動経路(曲路率:Tortuosity)が最短化されます。これにより300〜400μmという極めて厚い電極が実現され、集電箔・セパレータなどの非発電部材の比率を大幅に削減できます。この構造によって、非発電部材を含む電池全体のエネルギー密度が向上し、同じセル体積でより多くのエネルギーを蓄えることが可能になります。
2.3.2 製造工程の大幅な簡素化(他の半固体電池との最大の差別化点)
GPE系半固体電池を製造する場合でも、電極の塗工・乾燥工程は液体LIBとほぼ同様に必要です。GPE層を別途形成してラミネートするか、ゲル化剤含浸工程を追加するかたちになるため、工程数は液体LIBと同等か場合によっては増加します。
これに対し24M方式は、スラリー塗工後の乾燥炉工程が原理的に不要です。活物質と電解液の混錬・押し出し成形後、そのまま電極として使用できるため、京セラでの実績では製造工程数を従来比で約半分に削減できるとされています。乾燥炉の撤廃は設備投資(CAPEX)の削減のみならず、大量のエネルギーを消費する乾燥工程の排除による製造時のCO₂排出量の低減にも直結する、持続可能な製造の観点からも重要な優位性です。
ここでは、24M Technologies社のHPに示されている、24M方式と従来の方式との工程比較の図を示します。
図 従来のリチウムイオン電池と24M半固体電池の製造工程の比較 出典:LiForever Semisolid Data Sheet_RGB_0125 24M Technologies 記載図を日本語に翻訳
2.3.3 超長サイクル寿命(他の半固体電池との量産実績における比較優位)
量産品での実証という観点では、24M技術を採用した京セラ「Enerezza Plus II」の長寿命特性は他の追随を許しません。LFPセルで10,000回以上のサイクル試験における高い容量維持率が確認されており、将来的な目標として20,000サイクル(計画値)が掲げられています。
一般的なGPE系半固体電池のサイクル寿命は液体LIBと同等の数千回程度が多く、量産品での10,000回超という実証は24M技術が現時点で頭一つ抜けている指標です。この差異の主たる要因は前述のバインダーフリー構造と、電解質の流動性が極めて低いことによる界面の経時安定性にあります。
表 24M「クレイ型」技術と他の半固体電池との比較 出典:ORIGINAL
2.4 半固体電池の材料・特性における現状の課題
以上、半固体電池の優位性について記述しましたが、現在進行中の技術課題も正確に把握しておくことが重要です。
・ 電解質の長期安定性:
ゲルポリマー系を中心に、高温環境や長期使用によって電解質の粘度・組成が変化し、イオン伝導率が低下するリスクがあります。クレイ型においても、粘土状の均質性を量産ロットで安定維持するための混錬プロセスの精密制御が継続的な技術課題です。
・ 低温特性:
すべての半固体電池において、電解液成分の粘度は低温で上昇するため、0℃以下での充放電性能が液体LIBより低下しやすい傾向があります。寒冷地での車載用途などでは、ヒーティングシステムとの統合設計が必要になる場合があります。
・ 大型セルへの均一分散:
電極材料の均質な分散が確保できないと、セル内の電流分布が不均一になり、局所的な劣化や寿命低下を招きます。容量の大きなEV用大型セルへの適用では、この分散制御技術が量産品質の鍵を握ります。
・ リサイクル・リユースの対応:
バインダーフリーの電極はリサイクル時の活物質回収に有利な面もありますが、従来の液体LIBとは異なる解体プロセスが必要なため、リサイクルチェーンの整備が今後の課題となります。
3. 世界の主要製造メーカー動向
半固体電池の商用化は、全固体電池に先んじて急速に進んでいます。特に、液体リチウムイオン電池(LIB)で圧倒的なシェアを誇る中国勢と、独創的なアーキテクチャで勝負する欧米のスタートアップ企業が激しい主導権争いを繰り広げています。
3.1 中国メーカー:圧倒的な実装スピードと規模の競争
中国企業は、既存の液系LIBの製造基盤を最大限に活用できる「固液混合型」を中心に、すでにEVへの実車搭載を開始しています。
・ CATL(寧徳時代):
2024年の市場シェア約35%を握る世界最大の電池メーカーです。2023年に、高エネルギー密度電池として「凝聚態電池(Condensed Battery)」を発表しています。本電池は半固体に近い構造である可能性が指摘されていますが、詳細な構成は公表されていません。エネルギー密度500Wh/kg級を目標とした技術開発が進められています。
・ WeLion(北京衛藍新能源):
中国のEVメーカーNIOに対し、航続距離1,000km超を可能にする150kWhの半固体電池パックを供給しています。酸化物系とポリマー系を組み合わせた電解質を採用し、セルレベルでエネルギー密度360Wh/kgを実現しています。
・ Gotion High-Tech(国軒高科):
フォルクスワーゲン(VW)が筆頭株主であり、300Wh/kgの準固体電池「G-Yuan」の12GWh規模のラインを建設中です。また、硫化物系全固体電池「Gemstone」のパイロット生産も開始しています。
・ Ganfeng Lithium(贛鋒リチウム):
リチウム資源の採掘から電池製造まで垂直統合を行っているのが強みです。2022年から第一世代の半固体電池の量産を開始しており、SERES等の一部のEVへの採用が報告されていますが、適用範囲は限定的です。
・ Qingtao Energy(清陶能源):
上海汽車(SAIC)と提携し、EV「智己L6」などの一部車種で限定採用されているにエネルギー密度368Wh/kgの半固体電池を搭載しました。
3.2 欧米メーカー:革新的プラットフォームと材料技術の追求
欧米企業は、スタートアップを中心に、独自のセル構造やリチウム金属負極の活用により、液系LIBの限界を超える性能を追求しています。
・ 24M Technologies(米国):
マサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャーで、「粘土状(クレイ型)電極」プラットフォームのライセンス供与を行っています。バインダーレスの厚膜電極により、製造コストを最大40%削減し、エネルギー密度を391Wh/kgまで高める技術を2025年に市場投入予定です。
・ QuantumScape(米国):
セラミックセパレータとリチウム金属負極を組み合わせた全固体電池を主軸して、一部ハイブリッド構造の検討を含む半固体技術を開発しており、VW(フォルクスワーゲン)と提携しています。2025年中に主要な生産設備の設置を完了し、「Eagle Line」と呼ばれる高度自動化パイロット生産ラインの開設イベントを2026年2月に実施しました。パイロット生産ラインの稼働により、自動車メーカーへのサンプルセル(QSE-5)出荷を開始しています。
・ SES AI(米国):
高濃度の塩を含む電解液と固体保護層を組み合わせた「リチウム金属半固体電池」に注力しており、GM、ホンダ、ヒョンデとJDA(共同開発契約)を締結しています。2025年の年間売上げ2100万ドルの内、ホンダ・ヒュンデとのEV開発サービス収益は1360万ドルを占めましたが、2026年には再現しない見込みで、SES AIとしては、EV向けリチウム金属電池から、グリッド蓄電(ESS)・ドローン向けセルへ事業軸を移行しつつあります。
・ Blue Solutions(フランス):
Bolloréグループ傘下で、2011年からポリマー系半固体(LMP)電池をバス向けなどに量産しているパイオニアです。ダイムラーの電動バス「eCitaro」に採用実績があります。
3.3 その他地域の動向:韓国勢の知財・材料戦略
韓国企業は、高い特許競争力を背景に、全固体電池への「ブリッジ」として半固体技術を位置づけています。
・ LG Energy Solution:
半固体電池関連の有力な特許ポートフォリオを保有しており、研究開発投資を加速させています。バイポーラ構造を採用した半固体電池を2026〜2027年頃に量産する計画です。
・ Samsung SDI:
全固体電池のパイロットライン「S-Line」を稼働させていますが、並行して高エネルギー密度の半固体技術の開発も進めています。
4. 日本の主要製造メーカー
日本国内では、米24M社の技術をベースにした量産化に加え、日本独自の材料技術や積層技術を融合させた次世代電池の開発が活発です。
4.1 京セラ:世界初のクレイ型蓄電池の量産と進化
京セラは、米24M社の「半固体(クレイ型)」技術を世界で初めて量産ラインに導入したパイオニアです。
・ 製品展開「Enerezza(エネレッツァ)」:
2020年に住宅用蓄電システムとして発売され、24M社の基本設計を京セラの生産技術で磨き上げました。
・ 圧倒的な耐久性:
最新の「Enerezza Plus II」では、20,000サイクル(容量維持率約60%)という驚異的な長寿命を実現しています(使用条件によります)。これはEnerezzaの前モデルの約1.6倍の寿命に相当し、15年以上の長期保証を支える技術的根拠となっています。
・ 消防法上の優位性:
独自の安全強化設計(ユニットセル構造)により、第三者機関から「非危険物」との判定を受けています。これにより、構造および容量条件に応じて消防法上の規制緩和対象になり、設置場所の制約が少なく、屋内設置や公共・産業施設への導入が容易になるという設計・品質上のメリットがあります。
4.2 APB (All Polymer Battery):量産化の壁と事業再建の課題
慶應義塾大学(日産自動車出身の堀江英明氏)発のベンチャーとして、バイポーラ構造と全樹脂電極を組み合わせた「全樹脂電池」を開発していたAPBは、2021年に福井県越前市の武生工場で量産準備を進めていました。
技術的なコンセプトは先進的で、金属集電体不使用による内部短絡時の発火リスク抑制と製造コスト削減の可能性が注目されていました。
しかし量産化の遅延と資金調達の難航により、2025年2月に全従業員への希望退職募集を告知し、2025年4月23日、福井地裁より破産手続き開始決定を受けました(負債総額約34億8,500万円)。創業者の堀江氏は新会社を設立して技術・事業の継承を目指しており、今後の展開が注目されます。
全樹脂電池が持つバイポーラ構造と乾燥工程レスというコンセプトの技術的優位性は変わらないため、後継事業体による再起に期待が集まっています。
一部では、海外資本による技術詐取のうわさがあり、産業スパイの事案の可能性があります。
4.3 日本ガイシ:IoT向けの超小型・耐熱半固体電池
日本ガイシは、セラミックス技術を応用した「EnerCera(エナセラ)」を展開しています。
・ 液添加型ハイブリッド構造:
多孔質セラミックス板に少量の電解液を染み込ませた構造で、105℃という高温環境下での動作に対応しています。
・ サイクル特性と薄型化:
LIBの約3倍となる9,000回の充放電が可能であり、コイン型や極薄のパウチ型としてIoT機器や自動車の内装用電源向けに量産されています。
4.4 材料・装置・コンソーシアムの動向
日本の強みは、セルメーカーを支える強固なサプライチェーンと国家プロジェクトにあります。
・ 材料メーカーの貢献:
出光興産が硫化物系固体電解質の量産体制を構築中であるほか、住友金属鉱山などの素材大手が次世代電池向けの高機能材料開発を主導しています。
・ 国家プロジェクトの推進:
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)やLIBTEC(技術研究組合リチウムイオン電池材料評価研究センター)を中心に、トヨタ、ホンダ、日産、パナソニック等の企業が連携し、2030年までの全固体電池実用化を見据えた技術開発を加速させています。
5. 今後、伸びが期待される用途:機械系エンジニアが注目すべき市場
半固体電池は、エネルギー密度、安全性、サイクル寿命のバランスが極めて良いため、従来の液体LIBではリスクが高すぎた領域や、全固体電池の実用化を待てない先端分野での採用が急拡大しています。
5.1 次世代モビリティ:電気自動車(EV)から電動航空機(eVTOL)まで
モビリティ分野は最大の成長セグメントであり、半固体電池の「高エネルギー密度」と「衝突時の安全性」が決定的な競争力となります。
・ 長航続距離EV:
固体電解質と高性能負極の組み合わせにより、エネルギー密度は液体LIBの限界(300Wh/kg)を超え、350〜400Wh/kgに達しています。中国のWeLion(衛藍新能源)は150kWhの電池パックをNIOに供給し、航続距離1,000km超を実証しました。
・ 電動垂直離着陸機(eVTOL)および電動航空機:
単位重量あたりのエネルギー密度(400Wh/kg超、1000Wh/L超)が最優先される空のモビリティにおいて、半固体技術は「軽量化」と「故障時の非発火性」を両立できる有力な候補の一つとして期待されています。
・ 重機・大型輸送:
2035年までの排出規制強化を見据え、過酷な振動環境にさらされるトラックや建設機械、農業機械においても、物理的に安定した半固体電極の採用が検討されています。
5.2 産業用ロボティクスと特殊環境対応:AMR・建機・深海
機械設計の視点からは、半固体電池の「衝撃に強い」という物理的安定性が、過酷な産業現場で評価されます。
・ 自律型移動ロボット(AMR)および産業用ロボット:
振動や衝撃が日常的に発生する工場内物流において、内部短絡による火災リスクを極小化できる半固体電池は、防火設計の簡素化を可能にします。
・ ドローンおよび無機操縦装置:
急激な電力バースト(高放電レート)が必要なドローンにおいて、熱安定性の高い半固体電池は信頼性を向上させ、産業用インフラ点検などのダウンタイムを削減します。
・ 深海・極地利用:
APB(All Polymer Battery)の全樹脂電池は、水深3,000mの圧力下でも動作可能であることが確認されており、自律型水中車両(AUV)などの海洋探査機器の電源として新たな可能性を拓いています。
5.3 社会インフラとレジリエンス:グリッド蓄電・家庭用蓄電池
エネルギー効率と長期信頼性、そして消防法への適合性が市場導入の鍵となります。
・ 再生可能エネルギー用グリッド蓄電:
太陽光や風力の出力変動を吸収する大規模蓄電システムにおいて、5,000〜10,000サイクルという超長寿命は、LCOE(均等化発電原価)の低減に直結します。
・ 家庭用および公共・産業用蓄電システム:
京セラの「Enerezza Plus II」は、20,000サイクルの長寿命化に加え、第三者機関から「非危険物」と判定された高い安全性を備えています。これにより、病院や学校、公民館などの避難施設において、設置場所の制約を緩和される可能性があります。
5.4 ウェアラブル・医療・IoTデバイス
小型化と生体親和性が求められる分野です。
・ 医療機器:
輸液ポンプやポータブル酸素濃縮器などの故障が許されない生命維持装置において、安定した電圧供給と長期の充放電耐性が信頼性の根拠となります。
・ ウェアラブル・IoT:
日本ガイシの「EnerCera」のように、セラミックス技術を応用した超薄型半固体電池は、105℃の高温環境下でも動作し、自動車の内装センサーやスマートカードなどへの実装が進んでいます。
6. 追記:2026/04/07
24M Technologies社の業務停止と今後について
先程、24M Technologies社が業務停止という情報を得ました。
以下に概要をまとまます。
6.1 24M Technologies社の業務停止
6.1.1 24M Technologies社の業務停止に関する報道
・ 事業停止の報道: 2026年3月9日〜13日頃にかけて、同社が事実上の運営停止状態にあり、保有する知的財産や設備などの資産を売却するプロセスに入ったと報じられました。
・ 背景: 米国におけるEV需要の伸び悩みや、インフレ抑制法(IRA)の補助金削減・見直しなどの影響を受け、多くのバッテリースタートアップが資金難に直面しています。24Mもその波に抗えなかったと分析されています。
・ 会社側の対応: 共同創業者であるMITのイェット‐ミン・チェン教授を含め、会社側は公式なコメントを控えていますが、メディアの取材(電話やメール)に対して応答がない状態が続いているとされています。
6.1.2 保有技術(SemiSolid™、ETOP™)の動向
24M Technologies社が保有する、「SemiSolid™(半固体)」や「ETOP™」といった革新的な製造プロセス自体については、その動向が取りざたされています。
・ ライセンス先の動向: 24Mは自社生産よりもライセンス供与(京セラやフォルクスワーゲン、富士フイルムなど)に力を入れていたため、技術そのものは提携先の企業内で生き残る、あるいは買収によって他社へ引き継がれる可能性が高いと考えられます。
・ 資産競売の可能性: 資産を競売にかけるということは、その強力な特許ポートフォリオを他の中韓・欧米のバッテリー大手が取得し、自社のラインに組み込む動きが出てくる可能性があります。
6.1.3 エンジニア視点での検討
・ プロセスの検証: 「バインダーレス」「乾燥工程の排除」という24Mのコンセプトは非常に合理的でしたが、量産フェーズでの歩留まりや、既存ラインからの移行コストが想定以上に壁となった可能性があります。
・ 今後の注目点: 今後は「どの企業が24Mの特許を落札するか」が焦点となります。それによって、半固体電池の標準化の主導権がどこに移るかが決まるため、今後の業界再編の大きなトリガーになるはずです。
6.2 24M Technologies社とライセンス契約を結び、同社技術による「Enerezza / エネレッツァ」を製品化した京セラの動向
6.2.1 「Enerezza(エネレッツァ)」シリーズの現状
京セラは、2026年現在も「Enerezza Plus Ⅱ」などのクレイ型蓄電池の販売を継続しています。24Mの技術(SemiSolid™)は、もともと製造ライセンスとして提供されているため、京セラが国内に構築した自社ラインでの生産自体は、24Mの経営状況に直ちに左右されるものではありません。
・ 技術の定着: 京セラは長年かけてクレイ型電池の量産技術を自社で最適化しており、「長寿命(20,000サイクル)」や「安全性」という独自の強みを確立しています。
・ サポート体制: 24Mの経営危機が報じられる中で、京セラは自社ブランド製品としての保証体制を維持しており、既存ユーザーへの影響を最小限に抑えると判断できます。
6.2.2 今後の焦点:特許と製造プロセスの承継
24Mが資産を売却・競売にかけることになった場合、京セラにとっての焦点は以下の2点になります。
・ ライセンスの継続性: 24Mの特許を第三者(他国のバッテリー大手など)が落札した場合、京セラが現在行っている製造ライセンスの契約がどう引き継がれるか。
・ 次世代技術の自社開発: 24Mが目指していた「ETOP™(電極から直接パックを作る技術)」などの将来的な進化を、京セラが独自に、あるいは新パートナーとどこまで具現化できるか。
参考文献
半固体電池技術 石黒隆介 Biz Tech フォーカス 2025 三井物産戦略研究所
Final Scientific/Technical Report DE-AR0000774 24M Technologies, Inc.
Beyond conventional batteries: a review on semi-solid and redox targeting flow batteries-LiFePO4 as a case study Nabil El Halya et.al Royal Society of Chemistry 2024年
Low-cost manganese dioxide semi-solid electrode for flow batteries Thaneer Malai Narayanan et.al Joule 5, 2934–2954, November 17, 2021
マルチ入力型ハイブリッド蓄電システムEnerezza Plus(エネレッツァ プラス)HP https://www.kyocera.co.jp/solar/products/enerezza-plus/#features-of-clay-models
引用図表
表 3種類の二次電池の構成要素・構造比較 出典:各種文献より
表 半固体電解質の主要系統と特徴比較 出典:ORIGINAL
図 従来のリチウムイオン電池と24M半固体電池の製造工程の比較 出典:LiForever Semisolid Data Sheet_RGB_0125 24M Technologies 記載図を日本語に翻訳
表 24M「クレイ型」技術と他の半固体電池との比較 出典:ORIGINAL
ADD:2026/04/07; 6項追加
ORG:2026/03/31



