バイオガスから水素製造 北海道 鹿追町の取組み

バイオガスから水素製造 北海道 鹿追町の取組み
(Shikaoicho Biogas to hydrogen)
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バイオマスから、水素を生成する取組みについての記事を見つけましたので、少し深掘りしてみたいと考えます。
Contents
1. 酪農の町から生まれた革新的な水素エネルギー:鹿追町の挑戦
北海道の十勝平野に位置する鹿追町は、人口約5,000人弱(令和6年12月)の純農村地帯です。鹿追町は、酪農と農業が基幹産業であり、特に乳牛の飼育頭数は約2万頭、年間出荷乳量は10万トンを超える道内有数の酪農地帯です。しかし、酪農が盛んな一方で、大量に排出される家畜ふん尿の処理は長年の課題でした。
従来、家畜ふん尿は堆肥として利用されていましたが、近年の飼育方法が「つなぎ飼い」から牛舎内を動き回れる「フリーストール」という方法に変化したため、ふんと尿とが混じり合う水分を多く含むふん尿の自然発酵が困難になり、悪臭問題が発生していました。
この問題を解決するため、鹿追町は2007年に国内最大級のバイオガスプラントを導入し、家畜ふん尿をメタン発酵させてバイオガスを生成し、発電事業を開始しました。この取組みは、単なる廃棄物処理にとどまらず、地域資源を有効活用したエネルギー創出への第一歩となりました。
さらに、鹿追町はバイオガスの新たな可能性を模索し、水素エネルギーに着目しました。2015年から環境省の委託事業として、エア・ウォーター、鹿島建設などの企業と共同で、バイオガスから水素を製造する実証事業を開始しました。そして、2022年には、この実証事業の成果を基に、株式会社しかおい水素ファームを設立し、国内初の家畜ふん尿由来の水素サプライチェーンを確立しました。
鹿追町の取組みは、地域課題を解決しながら、持続可能な社会を目指す、革新的な挑戦といえます。酪農という伝統的な産業から生まれた水素エネルギー事業は、町の新たな希望となり、地域活性化の原動力となっています。
2. バイオガスから水素へ:鹿追町環境保全センターの技術
鹿追町の水素製造の基盤となっているのが、鹿追町環境保全センターです。この施設は、バイオガスプラント、堆肥化プラント、コンポスト化プラントの3つの施設で構成され、地域循環型プラントとして機能しています(図1)。
環境保全センターでは、1日に約94.8トンの家畜ふん尿がバイオガスプラントに搬入されます。このふん尿は、まずメタン発酵槽で発酵され、バイオガスを生成します。バイオガスは、主にメタンと二酸化炭素で構成されており、これらの内メタンが水素製造の原料となります。バイオガスプラントには、箱型と円柱型の2種類の発酵槽があり、それぞれ異なる発酵プロセスを経てバイオガスを生成します。
図1 鹿追町環境保全センター 出典: 鹿追町産業振興課
以下に示す4つの段階を経て、バイオガスから水素が生成されます(図2)。:
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(1)家畜のふん尿を発酵させてバイオガスを発生:
メタン菌の作用で有機物が分解されバイオガスが発生します。
(2)バイオガスからメタンガスを抽出:
膜分離プロセスにより、バイオガスから二酸化炭素を除去し、メタンガスを濃縮します。
(3)メタンガスから水素と一酸化炭素を発生:
メタンガスを水蒸気改質により反応させ、水素と一酸化炭素を生成します。
(4)一酸化炭素と水蒸気を反応させ水素を発生:
水性ガスシフト反応により、一酸化炭素をさらに反応させ、水素を生成します。
図2ふん尿から水素を生成するプロセス 出典: 「しおかい水素ファーム」
これらのプロセスを経て精製された水素は、純度99.97%以上という非常に高い品質を誇ります。また、バイオガスプラントでは、発電時に発生する熱エネルギーも有効活用されており、発酵槽の加温や近隣施設への温水供給に利用されています。
鹿追町のバイオガスプラントは、単に廃棄物を処理するだけでなく、エネルギーを創出し、さらにそのエネルギーを多角的に活用する、高度な技術の結晶と言えます。
水素ステーションの全体像を全体像を図3 に示します。
図3 水素ステーションの全体像 出典:環境省資料
3. 「しかおい水素ファーム」:国内初のふん尿由来水素ステーション
「しかおい水素ファーム」は、鹿追町環境保全センター内に設置された、国内初の家畜ふん尿由来の水素を製造・販売する施設です。2022年4月、エア・ウォーター北海道と鹿島建設の合弁会社として設立され、本格的な商業運転を開始しました。
しかおい水素ファームの主な事業内容は以下の通りです:•
・ 水素の製造: 鹿追町環境保全センターから供給されるバイオガスを原料として、水素を製造します。
・ 水素ステーション運営: 製造した水素を、施設に併設された水素ステーションで燃料電池自動車(FCV)や燃料電池フォークリフトに充填販売します。
・ 水素の供給: 高圧容器で水素を運搬し、鹿追町内や近隣施設の燃料電池に供給します。
・ 産業用水素の販売: 工場などへ産業用水素を販売します。
しかおい水素ファームの水素ステーションは、70MPaと35MPaの2種類の充填圧力に対応しており、FCVと燃料電池フォークリフトの両方に水素を供給できます。この施設は、道内初の定置式水素ステーションであり、地域における水素エネルギー普及の拠点としての役割を担っています。
また、しかおい水素ファームは、環境への配慮を最優先に考えています。家畜ふん尿を由来とする水素は、製造過程で排出されるCO2は、家畜の飼料となる牧草が光合成で吸収したものであり、カーボンニュートラルであるとされています。さらに、回収率を高めることで、カーボンネガティブ(CO2吸収量が、排出量を上回る状態)も目指しています。
しかおい水素ファームは、革新的な技術と環境への配慮を両立させた、未来型のエネルギー供給モデルを体現しています。
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4. 水素エネルギーの地域利用と未来:FCV、燃料電池、そしてその先へ
鹿追町で製造された水素は、FCVへの燃料供給だけでなく、さまざまな形で地域利用されています。
・ FCV(燃料電池自動車): 鹿追町では、公用車の一部にFCVを導入し、しかおい水素ファームで製造された水素を燃料として利用しています。また、町内企業や住民にもFCVの導入が奨励され、2022年時点で19台のFCVが町内を走行しています。
・ 燃料電池フォークリフト: 鹿追町内の物流倉庫などでは、燃料電池フォークリフトが導入され、水素を動力源として活用されています。
・ 定置型燃料電池: 鹿追町環境保全センターや近隣の酪農家、公共施設では、定置型燃料電池が導入され、水素から電気と温水を供給しています。例えば、チョウザメの養殖施設では、燃料電池の排熱を水槽の加温に利用し、マンゴー栽培では、ハウスの暖房に利用しています。
鹿追町では、水素エネルギーの活用をさらに拡大するため、以下のような取組みも検討されています。
・ 農業用車両への導入: トラクターやコンバインなどの農業用車両への燃料電池導入を検討しています。
・ FCバスやFCトラックの導入: 物流や公共交通機関への燃料電池車両の導入を検討しています。
・ 家庭用燃料電池の普及: 家庭用燃料電池の普及を促進し、地域全体の水素利用を拡大する構想があります。
鹿追町は、水素エネルギーを地域全体で活用する、自立分散型のエネルギーシステム構築を目指しています。この取組みは、地域のエネルギー自給率向上だけでなく、災害時の電源確保にも貢献すると期待されています。
5. 資源循環型社会のモデル:鹿追町の取組みが示す持続可能性
鹿追町の取組みは、単なる水素エネルギーの利用にとどまらず、資源循環型社会の実現に向けたモデルケースとして、注目されています。
鹿追町の取組みが示す持続可能性のポイントは以下の通りです。
・ 未利用資源の活用: 家畜ふん尿という未利用資源を、バイオガス、水素というエネルギーに変え、資源を最大限に活用しています。
・ 廃棄物の削減: ふん尿の処理問題を解決し、環境負荷を低減しています。
・ 再生可能エネルギーの地産地消: 地域で生産したエネルギーを地域で消費する、エネルギーの地産地消を実現しています。
・ 地域経済の活性化: 新たな産業創出や雇用機会の増加により、地域経済の活性化に貢献しています。
・ 脱炭素化への貢献: 化石燃料への依存度を減らし、温室効果ガス排出量の削減に貢献しています。
鹿追町のモデルは、地方の資源を活用したエネルギー自給の可能性を示しており、他の地域でも応用可能な取組みとして、広く共有されることが期待されます。
このブログ記事を通して、鹿追町の革新的な取組みと、持続可能な未来への挑戦が、より多くの人々に伝わることを願っています。
参考文献
元記事:「国内唯一、ふん尿由来ガスで水素つくる施設 酪農盛んな北海道鹿追町、脱炭素燃料」 沖縄タイムスプラス 2025/01/22
「再生可能エネルギーを活用したまちづくり 鹿追町環境保全センターの取組み」 北海道鹿追町
「鹿追町における水素関連プロジェクトの取組み」 鹿追町農業振興課
「環境省 地域連携・低炭素水素技術実証事業 家畜ふん尿由来水素を活用した水素サプライチェーン実証事業」 パンフレット
ORG:2025/01/23