日本のものづくり

塗装色の表し方

塗装色の表し方(painting color)

スポンサーリンク

 

1. 塗装機能としての色彩

1.1 色彩の役割

塗装色とは、光が塗装面に入射して反射されたものを我々の視神経系が知覚した結果です。光は電磁波の内、人間の眼に知覚できるものの名称です。人間が一般に色として感じられる波長は、文献によって若干差異はありますが、最も一般的に言われているのは、380~780nmの範囲です(図1)。視覚で色と認識される光は、さまざまな波長成分の光が混じり合ったものです。

 

図1 可視光線の範囲

塗膜機能としての色彩の役割は、

(1)美的役割:外観の向上、商品効果の増大
(2)実用的役割:着色力、隠ぺい力

があります。

本HPで取り上げる対象は、主として工業製品であり、製品価値の訴求手段として外観を美しく見せる視覚効果が重要なポイントになります。一般的に工業製品として評価される塗膜の外観についての属性は、色彩と光沢といわれます。これらはいずれも光が製品に照射されることにより生じる人間が受ける感覚です。

 

1.2 塗膜内外の光の挙動

着色塗膜に光が入射する場合の光の挙動は以下の3つの現象が生じます。

(1)塗膜表面での鏡面反射:光沢に影響する
(2)塗膜内での散乱:拡散反射(無機/有機顔料)、拡散透過(染料)に影響する
(3)塗膜内での吸収:色彩に影響する

 

図2 塗膜内外の光の挙動

これらの関係を、図2に模式図的に示します。

塗膜表面での鏡面反射は波長にかかわらず、塗膜表面に照射する光は映像を作るような状態でそのまま反射するため光沢として認識されます。表面が平滑であればあるほど鏡面反射の比率が高くなるので光沢感は強く感じます。
また、塗膜内に入った光は顔料粒子の表面で選択的に吸収された残りの波長分は、反射を繰り返すことにより光の散乱を生じます。その結果、塗膜外へ拡散・反射として現れます。

顔料粒子の場合、すべての光の波長成分を反射する場合は白色になります。逆にすべての波長を吸収する場合は黒色になります。一般に着色顔料では、それぞれの顔料の固有の色素が、ある特定の波長の色を選択的に吸収して、それ以外の波長の光は反射するため拡散反射が塗膜の色として現れます。例えば、赤色の波長領域以外の光が吸収される顔料の塗膜は赤色になります。
一方、染料溶液の場合は、可視光を透過するので吸収されずに透過した波長成分により発色します。

 

2.色の表し方

2.1 色の3属性

色を知覚するためには、次の3つの条件が必要になります。

(1)光源(light source)
(2)光を受ける物体(object)
(3)物体からの反射光または透過光を見て色として知覚する眼から脳に至る視神経系(observer)

これら3つの要素を組み合わせて観察条件といいます(図3)。(3)項からわかるように、色は観察者の眼に可視光が当たることにより視神経が刺激されて感じる感覚の一種で、極めて主観的なものです。


図3 光の観察条件

 

人が色を認識する仕方には、心理的に3つの属性があると言われています。

(1)色相:赤色、青色、黄色など、ある色を他の色と区別するために用いられる単語。白色や灰色、黒色など色相が無い色を無彩色といいます。したがって、赤色などは有彩色といいます。
(2)明度:色が持つ明るさ。明暗を識別するのは、その物体が光を反射する程度によります。
(3)彩度:色の冴え、有彩色の純粋さを示すもの。スペクトルの色に最も近いものがもっとも純粋な色になります。

これらを色の心理的三属性と呼ばれています。これら3つの属性は、厳密には相互に関連する場合もありますが一般的には互いに独立であるとして取り扱います。

色の表示は、色の3属性に基づいて三次元空間内の点としてあらわされます。色を表す表色系として代表的なものに、CIE表色系とマンセル表色系があります。

2.2 CIE表色系:

色光の混合比により色を表すシステムです。物体色(知覚の観察条件(1)、(2)、(3))も光源色(知覚の観察条件(1)、(3))も数値で表すことが出来ます。色表示の正確性も非常に優れています。CIEとは、“Commission International de l’Eclairage”(国際照明委員会)の略号です。

CIE表色系には3つの表色系があります。一番最初に発表されたのはRGB表色系と呼ばれるもので実在する光の三原色(赤、緑、青の光)の加法混合によって色を表すシステムです。

次に、XYZ表色系が発表されました。RGB表色系では、三原色の光の混合では作れない色があったため、これを改善するために考えられた表色系です。これは器械的原刺激であるRGBを数学的な手法で変換して求めた原刺激(X,Y,Z)を用いて色を表すシステムで、XYZ表色系と呼ばれます。R,G,Bは実際に存在するスペクトルなので ”True color” と呼ばれるのに対して、X,Y,Z は ”False color”(虚色)と呼ばれます。XYZ表色系によりすべての色はX,Y,Zで表現することが出来ます。

更に、XYZ表色系では色を表すのにX軸とY軸、Z軸の3軸で示される三次元空間で示されますが、これを平面で表現するために考えられたものがYxy表色系です。このYxy表色系をXYZ表色系という場合もあります(図4)。

図4 CIE表色系

 

2.3 マンセル表色系:

物体の色を心理学的三属性に基づいて系統的・規則的に立体空間に色票を配列して記号・数値を付与する色票系の代表的な表色系です。色票系の表色系は物体色のみに適用され、光源色には適用できません(図5)。

図5 マンセル表色系

三次元空間のz軸に「明度」をとります。この明度軸の周囲に回転方向に「色相」を配置します。さらに同一明度、同一色相において明度軸から遠ざかる方向に「彩度」を、知覚的にいおおむね等間隔になるように段階的に色票を配置することにより、色を記号と数値との組み合わせで表示するものです。
マンセル表色系を三次元極座標で考えると、z軸が「明度軸」になります。正側が白、負側が黒になります。θ軸が色相を表します。そして、z軸を固定した位置でのr軸で表されます。
原点を含むrθ平面は「色相環」を示します。Z軸を含む任意のθ位置で切断した断面ではz軸が明度、z軸に直交してz軸からの距離が彩度を表します。

マンセル表色系では、心理的三属性をそれぞれ、「マンセル色相(Munsell Hue)」、「マンセル明度(Munsell Value)」、「マンセル彩度(Munsell Chroma)」 と称して、それぞれ記号H,V,Cで表します。

なお、マンセル表色系とXYZ表色系は、JIS規格で採用されており、これらの二つの値は互換性があります。

 

3.色を測る

光は電磁波の一種です。その内人間が色として感じられるのは波長が380~780nmの範囲です。この範囲の電磁波を可視光線といいます。色を測る(測色)の基本原理は、可視光線を分光して物体に当てて吸収があるか無いかを計測することです。
可視光線の内その波長成分を吸収するかで物体色がわかります。顔料の場合は反射光のスペクトルを、染料の場合は透過光のスペクトルを観察することになります。例えば図6は赤エナメル(赤色顔料)の分光反射率曲線を示します。

図6 分光反射率曲線の例

色を測る測色計には、測色の原理に基づく分光測色計と、刺激値を直読するタイプの色彩計があります。
分光測色計は、複数のセンサで光を分光し、波長ごとに反射して測定します。その測定値から3刺激値XYZを算出するため、高度な色の解析に適しています。ただし、色彩計に比べて高価なため、主に研究・開発などに活用されています。
一方色彩計は、低価格、小型で携帯に適しています。刺激値直読タイプというのは、マンセル表色系あるいはL*a*b*表色系などで数値化できることを意味します。但し、精度は分光測色計と比較すると落ちます。

 

4.実用的な色見本

4.1 日本:日塗工(日本塗料工業会)色見本帳

日本国内で使用される塗料については、(社)日本塗料工業会が標準色を定めて、塗料業界関係者が共通で使える色番号を定めています。日本塗料工業会が発行する塗料用標準色の色見本帳は現時点(2020年6月)で2019年K版が最新版です。原則として2年に1度更新されます。

 

色票番号は、マンセル表色系を基本にした三属性表示方式を採用しています。

(1)表示記号の構成

 ・無彩色:

 ・有彩色:

 

(2)記号の説明

・色相区分
有彩色は数字2桁で表します。マンセル表色系の10種類の色相および色相を10段階に分けた数値に対応します。ちなみに中央の5がその色相を最も表しているものになります。具体的には表7に示します。

表7 色相区分

・明度区分
マンセル表色系による明度は0~10の範囲で定められています。理想の白(視感反射率 100 % の反射⾯)を明度10とし、理想の黒(視感反射率 0 % )を明度0とします。実際に色票にできるのは1~9.5の範囲です。明度が高いほど明るい色に明度が小さいほど暗い色になります。
日塗工表示では、マンセル明度の数値を10倍して整数表示にしています(表8)。

表8 明度区分

・彩度区分
彩度は色味の強さを表します。ある色相に着目すると同じ明度でも無彩色に近い彩度の低いくすんだ色から、非常に鮮やかな彩度の高い色まで様々な彩度が存在します。同一色相、同一明度の色を無彩色から知覚的に等間隔に彩度が高くなるように配置していきます。したがって、無彩色の軸から最も遠く離れた位置にある色がその色相では最も彩度の高い色になります。これを純色といいます。実際の色票により表現可能な彩度は、色相によりかなり異なります。
日塗工表示では、表9のように数値をアルファベット記号で示すようにしています。

表9 彩度区分

 

(3)色票番号の表示例

日塗工色票表示とマンセル記号との比較表を、表10に示します。塗料についてはマンセル値による指定では必ずしも指定通りの色にならないと、各塗料メーカ入っているようです。日本国内での塗料の調達は、日塗工の色見本帳によるのが確実です。

表10 色票番号表示例

 

4.2  Pantone Color Matching System (US)

アメリカ合衆国では、パントーン(Pantone)のカラーシステムが色見本帳としてよく使われています。日塗工と同様に色見本帳の形で発行していますが、塗料用ばかりではなく、グラフィックデザイン等多くの分野で用いられています。また、中華人民共和国でも、アメリカと同様色見本の標準として用いられているそうです。

 

 

4.3 RAL Color standard (ヨーロッパ)

RAL カラーは、1927年にドイツで、40色でRAL Classicとして発表されました。その後、色名の表し方を数字4桁に統一しされました。現在243色が規定されています。EU圏では広く用いられています。
EU圏では、警告標識や交通標識、公共サービス関係の塗装色として用いられるものも多いです。

 

スポンサーリンク

 

 

 

参考資料
JIS使い方シリーズ 塗料の選び方・使い方[改訂版] 1986年3月 植木憲二他  日本規格協会
トコトンやさしい塗料の本 中道敏彦、坪田実  2008年4月  日刊工業新聞社
塗装実務読本-第2版-  副島啓治他 1983年1月  日刊工業新聞社
小林塗装様HP  https://www.yuzu-tosou.com/column/56759/
(一般)日本塗料工業会様HP  https://www.toryo.or.jp/
コニカミノルタ様HP  https://www.konicaminolta.jp/instruments/knowledge/color/section1/02.html

 

引用図表
図1 可視光線の範囲     ミノルタコニカHP
図2 塗膜内外の光の挙動   JIS使い方シリーズ 塗料の選び方・使い方[改訂版]
図3 光の観察条件    ORIGINAL
図4 CIE表色系     Wikipedia
図5 マンセル表色系   Wikimedia
図6 分光反射率曲線の例   トコトンやさしい塗料の本
表7 色相区分   参考:トコトンやさしい塗料の本
表8 明度区分   参考:トコトンやさしい塗料の本
表9 彩度区分   参考:トコトンやさしい塗料の本
表10 色票番号表示例   参考:トコトンやさしい塗料の本

 

 

 

ORG: 2020/06/27

モバイルバージョンを終了