鉛蓄電池
鉛蓄電池(Lead–acid battery)
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1. 鉛蓄電池とは
鉛蓄電池とは、電極に鉛を用いた二次電池で、古くから使われてきました。
鉛蓄電池は、1859年にフランスのガストン・ブランテ(Gaston Plante)により発明されました。ブランテが製作したものは、2枚の薄い鉛板の間に2本のゴム帯を挟み込んで円筒形に巻き込み、ガラス容器に入れ、希硫酸で満たしたものでした(図1)。これが、世界最初の、逆電流を流すことにより充電できる二次電池でした。この鉛蓄電池は、駅に停車中の電車のライトに電力を供給するために使用されました。
図1 ガストン・ブランテによる鉛蓄電池 出典:Wikipedia
1881年、カミーユ・アルフォンス・フォーレ(Camille Alphonse Faure)は、酸化鉛の粉末を硫酸で練ってペースト状にしたものをプレスして加熱することによりスポンジ鉛のプレートを製造する方法を発明しました。この発明により、電池の容量は大幅に増加し、さらに大量生産に向いている製法で、現在使われている鉛蓄電池の基本技術になっています。
現在の鉛蓄電池は、正極(陽極板)に二酸化鉛(PbO2)、負極(陰極板)に海綿状の鉛(Pb)、電解液として希硫酸(H2SO4)を用いています。正極・負極の両方から電解液中に硫酸イオンが移動することで充電され、一方放電は、電解液中の硫酸イオンが正極・負極の両方に移動することで放電を行います。
公称電圧は単位セルあたり2.1ボルトと、水系の電解液を用いているのも関わらず⽐較的⾼い電圧を取り出すことができ、また電極材料の鉛も安価であることより、⼆次電池の中では世界でも最も⽣産量が多い。⾃動⾞⽤バッテリーなどでは、これを直列につないで、12Vや24Vのバッテリーとして使用されます。
短時間に⼤電流を放電させても、⻑時間かけて緩やかな放電を⾏っても、⽐較的安定した性能を持ち、、放電しきらない状態で再充電を⾏ってもメモリー効果は表れません。
⼀⽅短所としては、他の蓄電池に⽐べて⼤型で重く、希硫酸を使うために漏洩や破損時に危険性が伴います。また、過放電状態になるとサルフェーション(⽩⾊硫酸鉛化)と呼ばれる現象が⽣じて、電気容量が低下します。
さらに、充電量の低下に伴って電解液の濃度が低下し、凝固点が上がるため、寒冷地では電解液が凍結しやすくなり、凍結時の電解液の膨張によりケースが破損する場合もあります。このことから、こまめに充電して過放電を避けたほうがより⻑く電池としての機能を維持できます。
2. 鉛蓄電池の原理と構造
2.1鉛蓄電池の原理
鉛蓄電池は、負極の鉛(Pb)と正極の二酸化鉛(PbO2)、これらと生成物の硫酸鉛(PbSO4)などの各物質の酸化数の差を利用します。
放電時(図2)
電解液の希硫酸は水溶液なので、H+イオンとSO42-イオンに分離しています。
放電時の反応は、
① 正極では、二酸化鉛(PbO2)が硫酸鉛(PbSO4)に変化して水を生じます。このとき発生する電子が電解液に供給されます。この反応は、PbO2のPbの酸化数が+4、PbSO4のPbの酸化数が+2で、酸化数の変化は-2となり、還元されました。
\( \mathrm{ PbO_{ 2 } + 4H^+ + SO_{ 4 }^{ 2- } + 2e^- \longrightarrow PbSO_{ 4 } + 2H_{ 2 }O ( 1.685V ) } \)
② 負極では、鉛(Pb)が硫酸鉛(PbSO4)に変化します。このとき電極に電子を供給します。この反応は、Pb単体の酸化数は0、PbSO4のPbの酸化数は+2なので、酸化数の変化は+2となり、酸化されました。つまり負極では電子が2個失われました。
\( \mathrm{ Pb + SO_{ 4 }^{ 2- } \longrightarrow PbSO_{ 4 } + 2e^- ( -0.355V ) } \)
この結果、負極から正極に2個の電子が流れていきました。
図2 放電時の反応
放電により、電解液中の硫酸は消費されて水に変化します。そのため電解液の比重は低下します。硫酸が無くなると放電が終了しますが、そこまで放電すると過放電になり、バッテリーの寿命を縮めます。
充電時(図3)
充電時の反応は、
① 正極では、硫酸鉛(PbSO4)が二酸化鉛(PbO2)に変化して、その際に水を消費します。このとき電解液から正極に電子が供給されます。この反応は、PbSO4のPbの酸化数が+2で、PbO2のPbの酸化数が+4なので、酸化数の変化は+2となり、酸化されました。つまり正極では電子が2個失われました。
\( \mathrm{ PbSO_{ 4 } + 2H_{ 2 }O \longrightarrow PbO_{ 2 } + 4H^+ + SO_{ 4 }^{ 2- } + 2e^- } \)
② 負極では、硫酸鉛(PbSO4)が鉛(Pb)に変化します。このとき電解液に電子を供給します。この反応は、PbSO4のPbの酸化数は+2、Pb単体の酸化数は0なので、酸化数の変化は-2となり、還元されました。
\( \mathrm{ PbSO_{ 4 } + 2e^- \longrightarrow Pb + SO_{ 4 }^{ 2- } } \)
図3 充電時の反応
なお、充放電時の化学反応式は、一つにまとめることができます。
\( \mathrm{ Pb +PbO_{ 2 } + 2H_{ 2 }SO_{ 4 } } \) \( \mathrm{ 2PbSO_{ 4 } + 2H_{ 2 }O } \)
2.2鉛蓄電池の構造(図4)
正極:
・電極格子:鉛、または鉛合金
・正極活物質:二酸化鉛(PbO2)
負極:
・電極格子:鉛、または鉛合金
・負極活物質:鉛(Pb)
電解液:
希硫酸(H2SO4)、濃度30~35%
セパレータ:
合成樹脂製で多孔質の隔離板
電槽・ふた:
正極板、負極板、セパレータを組み合わせたセルや電解液を収納する容器
これらの他、電極端子や安全弁、シール材、表示ラベル等からなります。
電極格子は、従来の鉛だけのものから、鉛とスズ(Sn)、カルシウム(Ca)の合金が用いられています。これらの材質の改良などによって、自己放電が減少して、1年に20%程度しか消耗しないレベルになっています。
図4 鉛蓄電池の構造 https://www.baj.or.jp/battery/car/car02.html
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3. 鉛蓄電池の用途
最もよく使用されているのは、自動車JIS D5301:始動用鉛蓄電池)ですが、産業用として商⽤電源が停電した時、バックアップ電源として浮動充電⽤無停電電源装置の⽤途や、バッテリーで駆動する電動フォークリフト・ゴルフカートといった電動⾞⽤主電源(JIS D5303:電気車用鉛蓄電池)などにも⽤いられています。また⼩型⾶⾏機⽤としても広く用いられています。
⾃動⾞・⼩型⾶⾏機いずれの場合も、オルタネーター(交流発電機)で発⽣した交流をダイオードなどによって整流することによって直流にして充電されます。
また、潜⽔艦(通常動⼒型)「ホランド(アメリカ海軍で最初に就役した潜水艦)」(1900年)の誕⽣以来、潜航時の主な動⼒源となっています。メモリー効果が無いなど充放電に強い特性は、エンジンを回して充電が可能な浮上の機会が⼀定では無い潜⽔艦の運⽤に適しています。鉛蓄電池の質量の大きさも、艦のバラストとして姿勢制御に利用できます。
ただ、リチウムイオン電池の性能向上、安全性向上に伴い、その放電特性の良好さも有り、電気自動車(EV)用や、従来の鉛蓄電の用途を、リチウムイオン電池が急速に置き換えが進んでいます。
4. 鉛蓄電池の劣化現象
サルフェーション:
鉛蓄電池は完全に放電すると、負極板の表⾯に硫酸鉛の硬い結晶が⽣じるサルフェーション(⽩⾊硫酸鉛化)と呼ばれる現象が発⽣しやすくなります(図5)。
鉛蓄電池は、電極の表⾯積を広げるために表⾯が粒状となっていますが、サルフェーションにより硫酸鉛が表⾯に付着して表⾯積が減少して起電⼒が低下します。硫酸鉛の結晶は溶解度が低く、⼀度析出すると充放電のサイクルで溶解することはありません。サルフェーションが発⽣した鉛蓄電池は、充電すると電圧は回復するものの内部抵抗が⼤きくなり、実際に使⽤可能な電池容量が低下してしまいます。
パルスを併⽤した充電でサルフェーションを除去する装置がありますが、電極が劣化したり脱落したものに対しては効果がありません。
図5 サルフェーション http://www.kannousuiken-osaka.or.jp/_files/00056687/reborn_document.pdf
脱落:
正極板の⼆酸化鉛が使⽤していくにつれて、徐々にはがれる現象が発⽣します。これを脱落といいます。はがれた二酸化鉛が電池底部にたまって、正極と負極とを短絡させる形となり、電圧が低下します。セル1個の電圧が約2ボルトですので、ショートしたセルの数だけ2ボルト単位で電圧が低下するのが特徴です。
電解液液面低下:
電解液の溶媒である⽔は、蒸発や充電時に⽔素と酸素に電気分解されることによって液量が減少します。液⾯が下がって電極と電解液の接触⾯積が減少すると起電⼒が低下するため、鉛蓄電池には液⾯⾼さを⽰す表⽰がされています。
下限に達するまでに、精製⽔を補充する必要があります。電解液が不⾜(液枯れ)状態では、充電中や衝撃等により⽕花(ショート)が発⽣し、⽔素ガスに引⽕すると爆発事故につながります。
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参考文献
鉛蓄電池 Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/鉛蓄電池
(一社)電池工業会HP https://www.baj.or.jp/battery/car/car02.html
(独法)大阪府立環境農林水産総合研究所HP http://www.kannousuiken-osaka.or.jp/_files/00056687/reborn_document.pdf
引用図表
図1 ガストン・ブランテによる鉛蓄電池 出典:Wikipedia
図2放電時の反応 ORIGINAL
図3充電時の反応 ORIGINAL
図4鉛蓄電池の構造 https://www.baj.or.jp/battery/car/car02.html
図5サルフェーション http://www.kannousuiken-osaka.or.jp/_files/00056687/reborn_document.pdf
ORG:2022/12/29