ペロブスカイト太陽電池
ペロブスカイト太陽電池(PSC;Perovskite Sollar Cell)
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Contents
1. ペロブスカイト太陽電池とは
ペロブスカイト太陽電池は、2009年にハロゲン化鉛系ペロブスカイト(CH3NH3PbI3:ヨウ化鉛メチルアンモニウム)を利用した太陽電池として、桐蔭横浜大学の宮坂力教授により開発されました。その時点でのエネルギー変換効率は3.8%でした。その後、製法や変換効率の改良が進み、2011年のは中国で初めてデバイスの全固体化に成功し、2012年にはイギリスで変換効率10%を達成し、現在2021年時点で25.7%が報告されています。さらにシリコンベースの太陽電池と組み合わせたタンデムセルでは29.8%に達しました。その他製造コストが安い、基本的に印刷による製作が可能で製造コストが安価などの特徴があります。一方、長期の安定性を得ること、鉛のような毒性を持つ金属を削減するなどの問題点の解消へ、多くの研究者が参加しています。
種別としては、色素増感太陽電池の一種になります。従来の色素の代わりにペロブスカイト材料を利用したものがペロブスカイト太陽電池になります。
2. ペロブスカイトとは
ペロブスカイトとは灰チタン石(perovskite)のことで、これと同じ結晶構造をペロブスカイト構造といいます。さまざまな化学物質がペロブスカイト構造に合成することができます。ペロブスカイト構造を取る物質として有名なのは、圧電材料として用いられるチタン酸バリウム(BaTiO3)です。他方、有機物を含むペロブスカイト結晶は、電力を光に変換する発光材料として研究が行われてきました。
このペロブスカイト構造は、ABX結晶構造に由来しています。ここで、AとBはカチオン、Xはアニオンになります。最もよく研究されているペロブスカイト構造は、三ハロゲン化メチルアンモニウム鉛(CH3NH3PbX3:ここで、Xはヨウ化物(I)、臭化物(Br)、塩化物(Cl)のイオンです。)です。図1に、ハロゲンがヨウ素のヨウ化鉛メチルアンモニウムの結晶構造を示します。この他、ホルムアミジニウム三ハロゲン化鉛(H2NCHNH2PbX3)も研究されています。
環境的に問題があるのは、ペロブスカイト材料の成分として鉛が含まれていることで、代替としてスズ(Sn)から構成されるCH3NH3SnI3などのペロブスカイト構造も報告されていますが、電力変換効率は低いです。
図1ヨウ化鉛メチルアンモニウムの結晶構造 出典:光電変換の頂点へ挑むペロブスカイトの記載図を変更
3. ペロブスカイト太陽電池の構造と原理
ペロブスカイト太陽電池の構成例を、図2に示します。ペロブスカイト構造を正孔輸送層と電子輸送層とで挟み込むことで製作されます。正孔輸送層は、ペロブスカイト材料から発⽣した正孔を移動させる役割を果たし、電⼦輸送層は、ペロブスカイト材料から発⽣した電⼦を移動させる役割を果たします。
ペロブスカイト型太陽電池の発電原理は、以下のとおりです。
- ペロブスカイト結晶に光を照射します。
- 光のエネルギーによって、ペロブスカイト結晶中の電⼦e–と正孔h+が分離します。
- 電⼦は正極に、正孔は負極に移動し、電流を発⽣させます。
図2 ペロブスカイト太陽電池の構成例 参考:ペロブスカイト太陽電池の基礎
4. ペロブスカイト太陽電池の長所
ペロブスカイト太陽電池の優れた点について示します。
(1)ペロブスカイトの製造は、溶液処理により簡素化されており、ペロブスカイトは薄膜で製造されるため、印刷技術の応用が可能で、材料に使用量が少ない、製造技術がそれほど高度でない特徴があります。そのため製造コストを抑えることができます。
(2)材料にレアアースを用いません。主原料のヨウ素は日本では豊富に採取でき。世界の生産量の約30%になり、地政学的なリスクが小さいです。主原料が比較的手に入りやすいため、この面からも製造コストを抑えることができます。
(3)電力変換効率はシリコン結晶系太陽電池とそん色ないレベルまで得られています。さらにシリコン系太陽電池と組み回せてより高い変換効率が得られています。
(4)形状的に自由度が高いです。シリコン結晶系太陽電池のように、パネル状に限定されることは無く、曲面などフレキシブルな形状に製作できます。
(5)ゆがみに強いので軽量化が可能です。シリコン結晶系太陽電池の母材であるシリコンウエハは薄く割れやすいため、通常厚さ3 mm程度の強化ガラスに貼り付けてポリマーシートで挟む構造になっており、通常販売されている製品では1 m²あたり11 kgから13 kgくらいになります。
一方、ペロブスカイト太陽電池の場合は、微細な結晶の集合体が膜状になっているため、折り曲げやゆがみに強く、シリコン結晶系太陽電池の10分の1くらいの質量まで軽量化できるといわれています。
そのため、駐車場、工場、倉庫、仮設店舗など、耐荷重の大きくない建物の屋根などにも設置が可能です。
5. ペロブスカイト太陽電池の短所
ペロブスカイト太陽電池の課題として、以下の様なことが考えられます。
(1)ペロブスカイトは、水、光や酸素などの外的要因により劣化しやすいといわれています。また、加熱による劣化も内在的な不安定性として考えられます。これらについては、製造方法や材料の研究が数S目られています。
(2)鉛による毒性の懸念があります。鉛蓄電池やカドミウム電池と比較して、かなり少量しか使用されていませんが、太陽電池のように屋外で使用される環境では、破損による環境への溶出により有毒な鉛化合物への暴露の恐れを排除する必要があります。
そのため、鉛以外の代替材料(スズなど)が検討されていますが、現在までの所では電力変換効率に見劣りがあるのが現状です。
6. ペロブスカイト太陽電池の将来性
ペロブスカイト太陽電池は、前述のように日本で発明された太陽電池ですが、特許による権利確保に不十分な所があり、海外でも、比較的早い時期から研究が進んだことにより、海外でも応用特許を中心に日本を上回る特許が出願されています。特に、近年は中国の出願が多く、またいち早く商用化が開始されています。シリコン結晶系太陽電池の二の舞にならないよう、官民が協力して取組みを行う必要があります。現在、日本では、5つの企業・企業体が政府より委託を受けて開発を進めています。
実用面として、軽量なことや、フレキシブルな製品の製作が可能なことから、都市部の高層建築物の側壁など、シリコン結晶系太陽電池では設置が困難な個所への設置が検討されています。
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主要参考文献
光電変換の頂点へ挑むペロブスカイト 宮坂力 電気化学,90(2),2022年
ペロブスカイト太陽電池 Wikiprdia
ペロブスカイト太陽電池とは? 産総研マガジン 2022/11/24 https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20221124.html
ペロブスカイト太陽電池の発見の背景と学際研究の推進 宮坂力 応用物理Vol.88No.7 2019年
ペロブスカイト太陽電池の基礎 宮坂力他 Merck HP https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/photovoltaics-and-solar-cells/zknk-psc
引用図表
図1ヨウ化鉛メチルアンモニウムの結晶構造 出典:光電変換の頂点へ挑むペロブスカイトの生サイズを変更
図2 ペロブスカイト太陽電池の構成例 参考:ペロブスカイト太陽電池の基礎
ORG:2023/06/11