3.1 延性金属の液体によるエロージョン過程
3.1 延性金属の液体によるエロージョン過程
図3.1.1は、延性金属について、液体によるエロージョンにおける、損傷量と時間との関係を模式的に示します。図3.1.1に示す曲線は、累積エロージョン-時間曲線(cumulative erosion-time curve)或いは、エロージョン曲線と呼ばれます。
一般に、縦軸は損傷量で質量減少(mass loss)として示されます。この他、体積減少(volume loss)や損傷深さ(erosion depth)を縦軸にとる場合もあります。横軸は通常は、ばく露時間(exposure time)を取りますが、単位面積当たりに衝突する液体の量や、単位面積当たりの液滴の衝突回数を取る場合もあります。
■ エロージョンの過程
エロージョンの過程は、大きく3つの領域(Ⅰ ~ Ⅲ)に分けられます。
Ⅰの領域は、潜伏期(incubation period)といいます。この領域では、質量は減少しません。但し、弾性変形や塑性変形は生じています。塑性変形した層(加工層)は、おおよそ30 ~ 40µmの深さで進行が止まります。塑性変形によって平滑な表面には、曇りが生じてきます。やがて、表面に小さな凹凸やくぼみ(直径は10µm、深さは1µm程度の微細なもの)を生じます。その結果、表面の不規則性が増して、平均応力は小さくても応力集中の効果が働いて損傷は徐々に増大してきます。
Ⅱの領域は、最大エロージョン速度期(maximum rate period)で、エロージョン速度が最大になる領域です。材料は急激の除去されてピットを形成します。時間の経過ととともに衝突表面全体を多数のピットが覆うように発生すると、表面は荒れてきます。
Ⅲの領域は、最終定常期(final steady period)といいます。エロージョン速度が減少して、やがて一定になる期間です。この期間は、材料表面が荒れてくるにつれ、くぼみに水が溜まって衝突する液滴の衝撃を和らげる効果(cushon effect)や、表面が荒れた結果液滴の衝突する方向が一定でなくなることが原因と考えられます。
以上のようなエロージョン過程により、材料は損傷されます。エロージョンの過程は、液滴の繰返し衝突による損傷が累積的に発生することより、疲労損傷の一種と考えられています。
■ 耐エロージョン性の目安
エロージョンにより損傷する機器や装置は、その寿命の大部分をⅢの領域で費やされます。従ってこの期間の定エロージョン速度(図3.1.1 (b)の⑤の領域)を、エロージョン損傷の目安とすることができますが、Ⅲの領域の損傷は極めて厳しいので、材料に有用性は損なわれています。
設計的な見地から考えると、領域Ⅱの最大エロージョン速度、或いは領域Ⅰの潜伏期の長さを耐エロージョン性の目安として考える方が適切です。
■最大エロージョン速度の見積もり
最大エロージョン速度の求め方について考えます。
損傷は、材料の全表面に均一に生じると仮定します。単位表面積当たりの質量減をm、時間tの時の単位表面積当たりの液滴の衝突回数(ばく露時間のかわり)をNとします。図3.1.1 (a) のエロージョン曲線の横軸を衝突回数にとり、さらに直線で近似して、図3.1.2のようにあらわすと、Ⅰ(潜伏期)とⅡ(最大エロージョン速度期)のいそれぞれの期間に対して、次のような関係が成り立ちます。
ここで、αは最大損傷速度(または最大エロージョン速度)で、α=です。
材料の密度を ρsとすると、平均損傷深さ(mean depth of erosion)hは、
で、求められます。従って、深さ基準のエロージョン速度 dh/dtは、
となり、式(3.1.2)と式(3.1.4)とから、
が得られます。ここで、dN/dtは単位面積、単位時間当たりの衝突回数です。
■エロージョン過程の別の考え方
エロージョン過程の分け方として、Ⅰ ~ Ⅲの3つの領域に分ける分け方の他に、ASTM G 40-83 では、6つの段階の分けています。その分け方は,、図3.1.1に示す、① ~ ⑥に分けられます。
すなわち、①は潜伏期(incubation period)、②は加速期(acceleration period)、③は最大エロージョン速度期(maximum rate period)、④は原則期(deceleration period)、⑤は終息期(terminal period)、⑥は終局期(catastrophic period)に分けられます。
Ⅰ ~ Ⅲの分類との対応は図より明らかですが、①がⅠ、② ~ ④がⅡ、⑤,⑥がⅢに対応します。
引用元:エロージョン・コロージョン