4.1 キャビテーションとは

4.1 キャビテーションとは

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4.1.1 キャビテーション

キャビテーションとは

ポンプや船舶のスクリューなどで、液体が加速或いは振動を受けて、液体の静圧がある限界より低圧になると、気泡(cavity)が発生します。この現象をキャビテーション(cavitation)と呼び、空洞現象とも言われます。
気泡の発生と崩壊はほぼ瞬時に起こります。この気泡の発生・崩壊が繰り返される際に発生する衝撃圧により、機器に大きな損傷が起こります。っこれをキャビテーション・エロージョン(cavitation erosion)と呼び、更にこれに腐食が関与する場合は、キャビテーション・エロージョン・コロージョン(cavitation erosion-corrosion)といいます。

キャビテーション現象の研究の歴史

さて、キャビテーションという現象を、一番最初に観察した人はニュートンだと言われています。ニュートンリングの研究をしているときに、凸レンズを平板のガラス板に押し付けると、リングの中央のところの内部の薄い水の層の中に白い斑点が現れることを記述しています。
その後、キャビテーション現象が工学的な問題として登場するのは、19世紀末のイギリスで、当時の大型船で、スクリューのまわりの圧力が或る限界値以下になってしまうと所定の推力が得られないことが頻繁に発生していました。
1894年、世界初のタービン船「タービニア号」の試運転の際に、スクリュー部に発生した大量の蒸気泡により、予想されていた性能が全くでない事態になりました。

性能が出ない原因であった気泡の発生現象に対して、キャビテーション現象と初めて命名されました。これをきっかけとして基礎研究のために、パーソンス(Persons)により、世界最初の小型のキャビテーショントンネル実験装置(回流水槽)が製作されました(1895年:図4.1.1)。

図4.1.1_世界最初のキャビテーショントンネル
流体機器の高速小型化の要求により、高速液流中では発生が避けられないキャビテーションの研究のために、1940年代ごろから、基礎実験用に各種のキャビテーショントンネルが、欧米を中心に建設されました。日本では、東北大学に設置された高速試験研究所での研究が有名です(図4.1.2)。

図4.1.2_東北大学高速力学研究所カスケードSCトンネル槽

 

この他、キャビテーションの際に発生する気泡の挙動についての理論的研究は、レイリー卿による単一真空気泡の解析に始まります。その後、プレセットにより気泡内部の圧力の実在効果を考慮したキャビテーション気泡の問題に一般化されるようになりました。これにより気泡力学の研究が急速に進展する様になりました。

4.1.2 キャビテーションの発生機構

翼型に発生するキャビテーション

スクリューに発生するキャビテーション現象を説明するために、翼型に発生するキャビテーションの様子について、図4.1.3に説明します。
翼型のまわりに振られた点1~4 (翼型の上側)はl – lで示される無限遠での圧力Poより低い値を取ります。また、m – mの線は絶対圧力が0 (真空状態)を示しています。このm – mより下の斜線に示す部分で気泡が発生します。この部分の気泡発生の状況は翼型断面の形状や、翼型に対する流れの入射角αによって異なります。流速が増加するとP1 - P4の圧力が低下して気泡発生部が拡大します。

翼_圧力分布03

図4.1.3 翼型に発生するキャビテーション

実際の液体の場合は、その液体の蒸気圧に相当する分だけ絶対圧力0より少し手前のn – nの圧力で気泡が発生します。気泡の内部には蒸気や空気などが含まれます。

キャビテーションの発生条件

キャビテーションは流れ場の局所圧力が臨界圧力(ほぼ蒸気圧に等しい)より低下すると液体が気体に相変化して気泡(キャビテーション気泡といいます)が発生する現象です。これは液体の温度が蒸発温度より高くなったときに気体に相変化する沸騰現象とは異なるところです。
キャビテーションの発生条件は次のようなものが考えられます。
(1)液体中に活性な気泡核が存在すること。
(2)局所圧力がその液体の蒸気圧力より低いこと。
(3)気泡核が、目視できる程度まで成長できるだけの時間、低圧力の場に滞在できること。

などが挙げられます。

4.1.2 色々なキャビテーション

キャビテーション現象は、研究者によって色々に分類されていますが、この項では、発生原因と発生状態から次の4つの分類を採用します。
(1)トラベリング・キャビテーション(traveling cavitation)
キャビティが物体の表面近くで発生、膨張、収縮する個々の遷移状態で主流に乗って移動していくキャビテーション。

(2)フィックスド・キャビテーション(fixed cavitation)
キャビティが物体の表面を部分的に覆うように張り付いていて、雲状で動かないように見えるキャビテーション。これが発達して物体全体がキャビティで包み込まれるようになった状態のキャビテーションをスーパー・キャビテーション(super cavitation)といいます。

(3)ボルテックス・キャビテーション(vortex cavitation)
台風でわかりますが、渦の中心部は低圧になっていますが、その部分に生じるキャビテーション。

(4)バイブラトリー・キャビテーション(vibratory cavitation)
超音波振動子の表面に生じるキャビテーションが典型例で、巨視的な流れが無く、振動子の振動に従って、その表面で気泡の発生・崩壊が繰り返されるキャビテーション。

4.1.3 キャビテーションの指標

キャビテーション数(cavitation number)

キャビテーション現象の影響因子としては、物体の形状、表面粗さ、流れの圧力と速度が重要な因子であり、その他液体の蒸気圧、密度、表面張力、液体に含まれる気体も影響すると考えられます。
キャビテーションの発達の程度を示す指標として無次元数のキャビテーション数を式4.1.1で定義します。

daum_equation_1463201265336       (4.1.1)

ここで、p、U は主流の圧力と速度、ρは液体の密度を示します。

流れ場の圧力と主流の速度を変化させたとき、キャビテーションが発生し始める状態のキャビテーション数を、初生キャビテーション数(incipient cavitation number)σi、発生したキャビテーションが消滅する状態のキャビテーション数を、消滅キャビテーション数(desinent cavitation number)σdと呼びます。
一般には、σi < σdになります。これは、発生条件の一つである気泡核の役割の程度が異なることに起因します。この現象はキャビテーションヒステリシス(cavitation hysteresis)と呼ばれています。

液体中の気泡核の存在にばらつきが多いため、σiの値はばらつきが大きくなります。一方、消滅キャビテーション数は比較的バラつきが少ないため、再現性の良い安全側の指標であるσdが用いられることが多いです。

トーマのキャビテーション係数

ポンプや水車などのターボ機械でも同様に、キャビテーションの発生具合をトーマのキャビテーション係数(Thoma’s sigma)σとして式(4.1.2)として定義します。
daum_equation_1463217442732                  (4.1.2)

ここで、NFPH:有効吸込みヘッド[m]

H:全揚程[m]

また、NFPHは、式(4.1.3)で定義されます。

daum_equation_1463217534811          (4.1.3)

ここで、Ha:大気圧[m]、 Hs:吸込みヘッド[m]、 Hloss: 損失ヘッド[m]、Hv:蒸気圧[m]です。

キャビテーション数の影響

キャビテーション数が十分に大きければ、キャビテーションの発生は少なく、機器の損傷量も少なくなりま
す。逆に十分小さければ、スーパーキャビテーションの状態になって、気泡の崩壊は物体から十分離れたところで行われるので、やはり損傷量は少なくなります。
ただし、この項の最初に述べたようにキャビテーション数を構成する因子以外の種々の要因の影響があります。従って、これらのキャビテーションは同一の機器におけるキャビテーションの発生や発達の尺度として、考える程度にとどめるのがよろしいです。

4.1.4 単一気泡の挙動

Knapp他は、高速度写真による気泡の崩壊過程を観測して、壁面付近で気泡が崩壊する際、気泡から固体表面に向かってジェットが発生することがわかっています(図4.1.4)。

図4.1.4_マイクロジェット

このジェットはマイクロジェット(micro jet)と呼ばれます。これマイクロジェットは、流れの系が非対称なときに、次の3つの場合に発生すると考えられています。
(1)流れ方向に圧力勾配がある。
(2)半球形の気泡が固体壁に付着している。
(3)固体壁の近くに球形気泡がある。
気泡は、高圧側あるいは壁から最も離れた部分から凹みはじめ、そこから2つに分離されます。その際、2つに分かれた気泡の間から高圧側あるいは壁面に向かってジェットが発生します。
壁面に接したマイクロジェットの速度を数値解析した結果では、圧力差が1HPa(1atm)の水蒸気の気泡で、最大130m・s-1になり、このマイクロジェットの動圧がそのまま壁面に付加されるとすると、おおよそ800HPa(800atm)になると推定されます。

4.1.5 キャビテーションによる材料の損傷過程

キャビテーションによる材料損傷については、従来はレイリー卿(L. R. Rayleigh)が、提案した衝撃波説(球状気泡が体積を減少したときに、気泡壁に高圧が発生することによる材料の損傷機構)が有力視されていましたが、衝撃波は距離に比例して減衰することと衝撃波の発生時間が1μsのオーダであることから疑問視されて、マイクロジェット説が有力になっています。
キャビテーションによる材料の損傷に対しては、衝撃圧の大きさや頻度、作用する時間、材料の機械的性質や組織、表面状態、媒質(液体)の性質など、色々な条件によって、さまざまな損傷過程が観察されます。
ここでは、一番実験が簡単で、材料の耐壊食性の評価によく使われる、磁歪振動法による蒸留水(腐食への影響が小さいと考えられます)中の、構造用炭素鋼の損傷過程を例にして考えましょう。損傷過程としては、潜伏期、増加期、定常期の3つのステージに分けられます。

(1)潜伏期
材料表面のフェライト組織に加工硬化が進行して、侵食が一時的に停滞する期間。すべり線がフェライト組織中に多数発生します。
さらに時間が経過すると、塑性変形が著しくなって、すべり線に沿ってき裂が発生します。このき裂は時間の経過とともに、材料の結晶粒内に広がっていきます。この塑性変形の原因は、主に気泡が崩壊する際の衝撃力によって、試験片表面に圧縮応力やせん断応力が発生するためと考えられます。

(2)増加期
質量減少率が増加し始めて一定になるまでの期間。結晶粒内に多数の亀裂が発生して、結晶が細分化されて試験片表面より脱落していきます。脱落する粒子の数µm程度です。これは結晶粒の大きさ(熱処理によりますが通常数十µm)より小さいです。

(3)定常期
侵食が試験片の全面に広がり、質量減少率はほぼ一定になります。結晶粒子全体が変形を受けて、同時に結晶の粒界に亀裂が生じ、、それが進展して、約25µm前後の大きさで、結晶粒自体が脱落します。

一般的にいえば、腐食環境の場合、潜伏期が不明確になることがあり、損傷速度は電気化学的な腐食作用により著しく増大します。一方、防食環境では、潜伏期が拡大して、また損傷速度は著しく減少することが観察されています。