4.3キャビテーション損傷に影響する因子

4.3キャビテーション損傷に影響する因子(Factors affecting cavitation damage)

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キャビテーション・エロージョンによる損傷に:影響する因子は、色々考えられます。ここでは、参考文献に従って、試験条件、液体の性質、材料の3つの因子に分けて考えます。

1. 試験条件

キャビテーション・エロージョンに影響する試験条件は、試験方法によって異なることは推定されます。例えば、流動型装置では流速、振動型装置では振動数や振幅が主要因として考えられますが、どの装置でも共通に影響するものに、圧力、温度が考えられます。

(1)流速及び圧力

キャビテーション係数は、次式であらわされます。

   (式4.3.1)

流動型の装置では、キャビテーション係数Kを一定にして、P0(圧力),V(流速)を変化させて実験が行われています。

1)流速の影響については、Knapp等によれば、損傷速度(Damage speed)は流速のべき乗に比例します(K=一定)。

    (式4.3.2)

を示しています(図4.3.1)。ここでVoは損傷(ピット)が生じる最小速度です。図の場合でn≒6になります。

[図4.3.1] キャビテーション損傷に及ぼす流速の影響

2)圧力の影響については、Vを一定にして、Kを変化させることにより、損傷速度をの変化を求めると、ある圧力で最大値を示します(図4.3.2)。振動型装置でも、図4.3.2と同じ傾向が得られています。
圧力の低い範囲で損傷が小さい理由は、圧力と蒸気圧との差が小さいので容易に気泡を生じて、試験片の表面を水蒸気で覆うことになり、クッション効果が生じるためです。一方圧力が高い範囲では、溶存ガス量が多くなり、キャビティの発生が抑えられます。

[図4.3.2] キャビテーション損傷に及ぼす圧力の影響

(2)溶存ガス量

振動型装置での結果ですが、溶存ガス量が損傷に影響する程度を、図4.3.3に示します。

[図4.3.3] キャビテーション損傷に及ぼす溶存ガス量の影響

損傷速度は、溶存ガス量のある値で最大値を示します。これは、溶存ガス量が多いほど、気泡発生の核が増加して損傷が増加する効果と、ガスによるクッション効果が増加する効果との二つがお互いに影響するためと考えられます。
この結果を、利用して、キャビテーションの発生場所にガスを吹き込むことで、キャビテーション損傷を減少させる方法があります。

(3)温度

キャビテーション損傷に及ぼす温度の影響について、図4.3.4に示します。温度の変化により、液体の性質や溶存ガス量、材料特性なども変化します。そのため、損傷に及ぼす温度の影響を単純に説明することはできません。
ただ、低温側で損傷速度が低下するのは、低温側ほど溶存ガス量が多くクッション効果が大きいこと、高温での損傷速度の低下は、高温側ほど液の蒸気圧が高くなることで説明できます。さらに、低温側での損傷速度の低下については、2つの要因を考え、第一に液の粘度が増加すること、第二に表面張力が増加することと考える研究者もいます。

[図4.3.4] キャビテーション損傷に及ぼす温度の影響

(4)振幅および振動数

振動がtの試験装置では、試験片の振幅や振動数が重要な因子として作用します。
振幅については、大きくなればなるほど速度も増えるので、振幅が増加するほど損傷速度も増加します。一方の振動数については、次のように考えます。振幅と振動数とを考慮した因子として、単位時間、単位面積あたりに放射されるエネルギーはエネルギーフラックスI(J/m2・s)と圧力振幅Pmaxが考えられます。

エネルギーフラックスは、

I=2π2f2ρcA2     (式4.3.3)

圧力振幅は、

Pmax=2πfρcA     (式4.3.4)

で与えられます。

ここで、

f:振動数 (Hz=s-1)

ρ:液の密度 (kg/m3)

c:液中の音速 (m/s)

A:全振幅 (m)

式4.3.3、式4.3.4から、振動数の影響を考慮するためには、fxAを一定にして検討すれば良いことがわかります。図4.3.4に結果を示します。振動数、振幅により、大きな差異が生じていることがわかります。その理由は、振動数によって気泡群の挙動が異なるためと考えられます。例えば、振動数が増加すると気泡の発生から消滅までの時間が短く、消滅時の気泡の径が小さいと考えられます。

[図4.3.5] (振動数)x(振幅)を一定にしたときの損傷曲線

2. 液体の性質

キャビテーション損傷に関する損傷に及ぼす影響は、水に対するものがほとんどです。液体のどの性質が、キャビテーション損傷に影響を与えるかを知ることは、実用上重要です。しかし実際問題として、ほとんど明確にされていないのが現状です。
弊方は若いころに、石油化学向けターボポンプを主要製品とするメーカに勤務しておりました。その際、低沸点の炭化水素や、特殊な液体についのキャビテーション損傷に及ぼす液の性質について調査したことがありますが、情報の入手手段もなく、不完全な情報で設計したことを記憶しています。液体の物性を明確にするためには、色々ある物性を単独で変化させることが困難であることが一因です。

キャビテーション損傷に影響すると考えられる液体の物性は、粘度(μ)、表面張力(σ)、密度(ρ)、圧縮率(κ)、蒸気圧(Pv)などが因子として考えられます。

(1)蒸気圧(温度、ガス含有量)

キャビテーション損傷に対して、蒸気圧の影響を考えるとき、温度やガス含有量も一緒に考慮する必要があります。 Bebchunkは、いろいろな液体について蒸気圧を変化させて耐エロージョン特性を調べました(図4.3.6)。 これによれば、材料の損傷量は、蒸気圧がある値のときに最大量を示します。この理由については、以下のように考えられます。


[図4.3.6] キャビテーション損傷に及ぼす蒸気圧の影響

低温の場合、液体の蒸気圧は低いですが、ガス含有量も大きいです。ガスが多く含まれていると、キャビテーション気泡が崩壊する際にクッションの役割をします。温度が上昇すれば、ガスの含有量が減少し、一方蒸気圧は、まだそれほど高くならないのでクッション効果を示さないので、材料の損傷量は増加します。さらに蒸気圧が高いとキャビテーション発生の原因となる不安定な核も増加しますので破壊量は増加します。 さらに温度上昇が続ければ、蒸気圧は十分に高くなり、気泡崩壊に対して十分なクッション作用が作用して重量減少は再び減少します。

(2)表面張力

表面張力が大きくなるほど、破壊圧力は高くなります。従って、表面張力の大きい液体中での壊食量は大きくなると考えらえます。 Nowontyが、純Al試験片を用いて、表面張力の値が異なる液体中でのキャビテーション壊食による重量減少が表面張力値と密接な関係があることを示しました(図4.3.7)。


[図4.3.7] 純Al試験片のキャビテーション損傷に及ぼす表面張力の影響

(3)粘度

キャビテーション気泡の崩壊圧力は、粘度の小さい液体の方が大きい場合より大きい傾向があります。従って、キャビテーション損傷も、低粘度の低い方が大きいと推定されます。 WilsonとGrahamは、鉱物油と水、グリセリンの3種類の液体を混合することにより、液体の粘度を変えて液中で磁歪振動させ、振動エネルギーを一定にして実験を行いました。その結果は、図4.3.8に示しますが、粘度の増加と共に壊食量も小さくなる結果を得ました。しかし振動エネルギーを一定にする方法では、粘度が増加すると振幅も減少するので、キャビテーションの発生が弱くなる現象を加味していない結果になります。 次に、Al試料を用いて、振幅を一定にして試験すると、壊食量は粘度によらずほぼ一定になる結果を得ました。このことより、キャビテーション損傷に粘度が及ぼす影響は小さいと推定されます。


[図4.3.8] キャビテーション損傷に及ぼす粘度の影響

(4)圧縮性と密度

WilsonとGrahamは、液体の圧縮性及び密度の増加は、キャビテーション壊食量を増加させることを実験により確認しました(図4.3.9)。 液体の圧縮性は、音速と関連性がありますので、圧縮性を示す指標として音速vを採用します。図4.3.9の横軸は音速vと密度ρの積としています。この値が大きいほど、壊sh久料が増加する傾向が読み取れます。 これらの結果から、キャビテーション損傷は、主として機械的作用によるものと推定されます。


[図4.3.9] キャビテーション損傷に及ぼす密度x音速の影響

3.材料の耐エロージョン性

3.1 金属材料の性質の影響

種々の材料の耐キャビテーション・エロージョン性を比較するには、損傷速度の大小で評価することにりますが、図4.3.10 、図4.3.11に示す、ステンレス鋼の場合のように、ほぼ直線関係になっている場合は、この大小で比較できます。しかし、キャビテーション損傷の場合は、損傷速度が時間とともに時間とともに変化する場合が多いので、どの時点での損傷速度で比較するかによって、大きな差が出ることもあり、注意が必要です。 通常は、ある時間後の損傷量で比較されます。


[図4.3.10] いろいろな金属材料のキャビテーション損傷の時間依存曲線_Ⅰ


[図4.3.11] いろいろな色々な金属材料のキャビテーション損傷の時間依存曲線_Ⅱ

耐エロージョン・キャビテーション性と材料の性質と関連付ける試みが、研究されています。

(1)材料の硬さと耐エロージョン性について

Moussonは、流動型試験装置を用いて266種類の金属材料について実験を実施しました。損傷速度と、降伏強さ、引張強さ、延性、硬さとの関連性について検討しました。その結果、最も良い相関を示したものは「硬さ」でした。この結果をブリネル硬さとキャビテーション損傷量との関係についてまとめたものを図4.3.12に示します。 オーステナイト系金属とフェライト系金属の2系統について、系統毎に硬さが増加すると壊食量が低下することが示されています。この2系統の壊食量の差異は、材料粒子の大きさや結晶構造の差異、冷間加工性(加工硬化)に基づくものと考えられます。


[図4.3.12] キャビテーション損傷に及ぼす2系統の金属の硬さの影響

またRheingansは、磁歪振動式試験装置を用いて、マルテンサイト系ステンレス鋼のキャビテーション壊食量を求めています(図4.3.13)。ブリネル硬さが増加すると、損傷速度が減少する傾向があります。しかし、この関係は、図4.3.12の結果からもわかるように。同じ系統の材料については成り立値ますが、系統が異なる材料では、硬さは同じでも、耐エロージョン性に差異が認められるのが普通です。


[図4.3.13] キャビテーション損傷に及ぼす硬さの影響

さらに、Plesset 及び Ellis による実験結果を示します(図4.3.14)。いろいろな材料の時間経過によるキャビテーション壊食による傷痕の深さを求めたものです。その結果は、モリブデン(HB120)を除いて硬さが硬いほどキャビテーション壊食への抵抗が大きいことがわかります。モリブデンについては、硬さだけがキャビテーション損傷の重要な要因では無く、他の要因についても検討する必要があることを示唆します。


[図4.3.14] いろいろな材料のキャビテーションばく露時間とキャビテーションに起因する傷痕深さとの関係

(2)加工硬化性

キャビテーション損傷に対する抵抗は、材料に対して衝撃の繰返しに起因する加工硬化の影響があらわれるまでは、材料自身の抵抗能力によります。これを実証するものとして、Moussonによるステンレス鋼についての実験結果を表4.3.15に示します。これによれば、18-8オーステナイトステンレス鋼は硬さがHB145で、17%Crフェライト系ステンレス鋼の硬さHB201より低いにもかかわらず、損耗量は著しく少なくなっています。24-12、26-13ステンレス鋼も、オーステナイト系で、同じように損耗量は少ないです。この傾向は、図4.3.8の結果と一致します。


[表4.3.15] ステンレス鋼鋼種のキャビテーション損傷に対する影響

一般的に、オーステナイト系の鋼材が、キャビテーション損傷に対して優れた性質を示すのは、キャビテーションアタックに対する加工硬化性(加工誘起変態による強度の上昇)に優れているためと考えらえます。

(3)降伏遅れ

キャビテーション気泡が、発生から崩壊までの時間は非常に短く、高々1msec(1/1000秒)程度です。さらに、崩壊時の最大圧力の持続時間は百万分の1秒程度と考えられます。従って、降伏遅れが大きい材料はキャビテーション損傷に対する抵抗が大きいと考えられます。 図4.3.14に示した、モリブデンが硬さが低いにもかかわらず、損傷程度が低い理由として降伏遅れによる可能性があります。モリブデンは、作用する応力速度が早い場合、降伏遅れが大きい性質があります。

(4)引張強さ

引張強さの高い材料は、キャビテーション損傷に対する抵抗が高いとされています。 Tichlerらは、耐エロージョン性を損傷速度の逆数として定義すると、引張強さと良好な相関があることを示しています(図4.3.16)。図からわかるように、引張強さが大きいほど損傷に対する抵抗が大きくなります。


[図4.3.16] キャビテーション損傷に及ぼす引張強さの影響

図4.3.14から、ニッケル、黄銅、純チタンなどの軟らかい金属の場合、キャビテーションアタックに対して極めて短時間で塑性変形を起こしています。これらの材料の引張強さは、何れも35kgf/mm2(340N/mm2)程度です。このことからキャビテーションによって発生する応力は、少なくともこの程度はあると考えられます。一方、チタン合金(Ti-150A)やタングステンのような材料に対しては、破壊の進行が極めて遅いです。これらの材料の引張強さは、おおよそ90kgf/mm2(880N/mm2)です。従って、キャビテーションにより発生する応力はこれよりは小さいと推定されます。 このことから、キャビテーションによって発生する応力は、35kgf/mm2(340N/mm2)から90kgf/mm2(880N/mm2)の範囲にあると考えられます。従って、キャビテーションによる材料破壊については、疲労破壊や腐食によるものとの複合的な要因が作用すると考えるのが妥当と思われます。

(5)材料の弾性

キャビテーション損傷により発生する機械的な力の性質を考慮すると、弾性が大きいすなわちエネルギ吸収量の大きい材料は、損傷に対する抵抗が大きいと推定されます。 3.2項にも関連情報を示しますが、Rheigansの実験によれば、合成ゴムの一種は、引張強さの大きい金属と同等な抵抗を示します。ただ、ゴムのような架橋構造物は、キャビテーションの衝撃により内部に熱を発生し、焼損する可能性があります。従って、エラストマでキャビテーション損傷に対する抵抗性を高めるには熱の伝導性を高めることが有効と考えられます。

(6)結晶粒子の大きさ

結晶粒子の大きさが小さくなるとキャビテーション損傷に対する抵抗が増すことは多くの研究者により報告されています。 Moussonは、ほとんど同一の硬さで加工性もあまり異ならない2種の金属(銅合金)について試験しました(表4.3.17)。16時間キャビテーションにを暴露させた後の損耗量は、2倍近い開きがあります。これらの金属組織上の差異は粒子の大きさにあります。高抗張力ブロンズの粒子は、タービンメタルと比較してはるかに小さくその構造も緻密であるとのことです。


[表4.3.17] 機械的性質がほぼ同じ金属のキャビテーション損傷結果

この傾向は、他の非鉄金属についても認められます。粒子の微細化により、キャビテーション損傷に対する抵抗が増加することは、キャビテーション損傷が結晶を横切って割れの形で進行する場合(粒内破壊)に有効と考えられます。キャビテーションによる割れ(クラック)の進行は、結晶粒子の境界(粒界)で止められる傾向にあるためです。

(7)結晶粒子の境界(粒界)

粒子の境界が割れの進行を止めるとすると、結晶粒子境界自身の性質が破壊の進行速度を決定する重要な要因になります。結晶粒子の境界は、金属構造の不連続性を示すものです。従って、強いひずみがここに存在し、キャビテーションアタックによる強いひずみの影響は、結晶粒子境界において、特に大きいと考えられます。 結晶間物質が粒子より強度的に弱いか、あるいは結晶間物質の厚みが大きい場合、破壊は結晶間物質で始まるばかりでなく、結晶粒子の境界がクラックを防止する役割を果たさないことになります。 これとは逆に、境界物質が極めて薄い場合には、クラックに対する抵抗となります。また、このような薄い層は粒子が細かい構造の場合に認められます。 このことから、キャビテーション損傷の機構は、結晶粒子境界に最初に傷痕を与えるものと考えられます。

(8)金属の金相学的構造

以上に示した、各種要因の影響は、キャビテーション損傷に対する抵抗値にいろいろな程度で相互に影響しています。また、熱処理や、不純物、合金成分のような金属材料の各種処理による特性変化と関連しています。従って、各因子を単独に抽出して、その影響の度合いを確定することは非常に難しいです。 これらを統合した形で、金属の金相学的な構造から、キャビテーション損傷に対する抵抗を考えて見ましょう。 (1)項でも示しましたが、金属の結晶構造による比較です。Leith 及び Thompsonによる実験結果を図4.3.18、図4.3.19に示します。両方の図から読み取れることは、一般にフェライト系の金属はキャビテーション損傷に弱く、パーライト系及びオーステナイト系は強いといえます。 フェライト系とオーステナイト系との比較は、図4.3.8でも同様な傾向が得られています。


[図4.3.18] 金属組織によるキャビテーション壊食に対する抵抗の差異

[図4.3.19] ステンレス鋼圧延材によるキャビテーション壊食に対する抵抗の差異

3.2 有機材料

(1)コーティング材とバルク材の損傷挙動の差異

有機材料は、コーティング材として使用される場合と、バルク材料として使用される場合とがあり、夫々損傷挙動が異なる場合もあります。

1)コーティング材
表4.3.20、表4.3.21は、コーティング材の耐キャビテーション損傷性の実験結果を示します(Lichtman)。一般的には、プラスチック類よりエラストマーの方が優れた耐エロージョン性を示します。ただし、中には損傷が激しい場合があります。その原因としては、エラストマーの熱伝導性が低いことに起因する材料内部の温度上昇が考えられます。コーティングに共通する問題点は、素地金属との接着力です。実用的にはコーティング材自身の耐エロージョン性より、接着力を強固にする方が優れた特性を示します。


[表4.3.20] 有機材料のコーティング材のキャビテーション損傷性

[表4.3.21] エラストマーのコーティング材のキャビテーション損傷性

2)バルク材
北條らは、磁歪振動法を用いて、バルク材の耐キャビテーション損傷性の実験を行いました(図4.3.22)。


[図4.3.22] バルク材のキャビテーション損傷性

PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)やPS(ポリスチレン)、SAN(スチレンーアクリロニトリル共重合体)などの脆性材料は損傷量が大きくなります。一方、PE(ポリエチレン)やPOM(ポリアセタール)などの結晶性高分子材料では損傷が少なく、純鉄よりも耐エロージョン性に優れています。PF(フェノール樹脂)やFRP(繊維強化プラスチック)などの複合材料は、これらの中間の耐エロージョン性を示しています。
その理由は、複合材料が強化材や充填材などをマトリックスである樹脂の中に含んでいるので微視的には強度は場所によって不均一です。強度部が選択的に損傷が進行します。 図4.3.23は、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)の損傷面の電子顕微鏡写真を示します。ガラス繊維が残り、樹脂が選択的に損傷されている様子がわかります。


[図4.3.23] ガラス繊維強化プラスチックの損傷面

(2)硬さの影響

次に、有機材料の硬さと耐エロージョン性との関連を、Barlettaらが調査した例を示します(図4.3.24)。傾向的には、軟らかい材料ほど耐エロージョン性が高い傾向があります。ただし、硬さがHS80程度までは、ほとんど同じ損傷量を示していることより、硬さのみが耐エロージョン性能に対応するとは言えません。


[図4.3.24] 有機材料の硬さが耐エロージョン性に及ぼす影響

(3)粘弾性の影響

有機材料では、粘弾性的な性質も損傷に大きく寄与すると考えられます。衝撃圧の負荷周期が、材料の緩和時間より短ければ、脆性的機構での損傷を生じ、逆に衝撃圧の周期が長ければ、衝撃エネルギーの一部が弾性変形や、熱などに消費されます。このことから、損傷挙動に試験条件が寄与する可能性が大きい可能性があります。

3.3 無機材料

キャビテーションの影響を受ける無機材料として研究されてきたものとして代表的なものに、ダムに代表されるコンクリート構造物があります。 コンクリートのキャビテーション損傷の特徴は、コンクリート表面が多孔性であることが影響します。コンクリートは引張強さが小さいので耐エロージョン性は低いといわざるを得ません。耐エロージョン性を改善するために、組成(水-セメント比、骨材、空気含有量など)を変えたり、表面を滑らかにしたり、キュアリング(表面の養生)を調整します。 基本的には、強度の大きいものほど、耐エロージョン性が優れています。例えば、水-セメント比の小さいコンクリートほど、耐エロージョン性能が良好です(図4.3.25)。


[図4.3.25] コンクリートのキャビテーション損傷に及ぼす水-セメント比の影響

また 、骨材はなるべく小さい方が良いとされています。その理由は、骨材が大きすぎるとキャビテーションにより材料外に容易に放出されるためです。しかし、骨材だけでは強度を上げるのに限界があるため、鉄筋を入れる、ポリマーを加えたレジンコンクリートにする、金属や高分子のコーティングをするなどが、より有効な強度改善手段となります。図4.3.26にいろいろなコンクリートのキャビテーションによる損傷曲線を示します。この図から見て、鉄筋とレジンとの両方の強度改善手段を施したものが、非常に優れた耐エロージョン性能を示します。


[図4.3.26] いろいろなコンクリートの耐キャビテーション性能 

 

 

 

 

参考文献
(社)腐食防食協会    裳華房
キャビテーション工学   山崎卓爾   日刊工業新聞社

 

 

引用図表
[図4.3.1] キャビテーション損傷に及ぼす流速の影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.2] キャビテーション損傷に及ぼす圧力の影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.3] キャビテーション損傷に及ぼす溶存ガス量の影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.4] キャビテーション損傷に及ぼす温度の影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.5] (振動数)x(振幅)を一定にしたときの損傷曲線   エロージョン・コロージョン
[図4.3.6] キャビテーション損傷に及ぼす蒸気圧の影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.7] 純Al試験片のキャビテーション損傷に及ぼす表面張力の影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.8] キャビテーション損傷に及ぼす粘度の影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.9] キャビテーション損傷に及ぼす密度x音速の影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.10] 色々な金属材料のキャビテーション損傷の時間依存曲線_Ⅰ   エロージョン・コロージョン
[図4.3.11] 色々な金属材料のキャビテーション損傷の時間依存曲線_Ⅱ   エロージョン・コロージョン
[図4.3.12] キャビテーション損傷に及ぼす2系統の金属の硬さの影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.13] キャビテーション損傷に及ぼす硬さの影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.14] いろいろな材料のキャビテーションばく露時間とキャビテーションに起因する傷痕深さとの関係    キャビテーション工学
[表4.3.15] ステンレス鋼鋼種のキャビテーション損傷に対する影響    キャビテーション工学
[図4.3.16] キャビテーション損傷に及ぼす引張強さの影響   エロージョン・コロージョン
[表4.3.17] 機械的性質がほぼ同じ金属のキャビテーション損傷結果    キャビテーション工学
[図4.3.18] 金属組織によるキャビテーション壊食に対する抵抗の差異    キャビテーション工学
[図4.3.19] ステンレス鋼圧延材によるキャビテーション壊食に対する抵抗の差異    キャビテーション工学
[表4.3.20] 有機材料のコーティング材のキャビテーション損傷性   エロージョン・コロージョン
[表4.3.21] エラストマーのコーティング材のキャビテーション損傷性   エロージョン・コロージョン
[図4.3.22] バルク材のキャビテーション損傷性   エロージョン・コロージョン
[図4.3.23] ガラス繊維強化プラスチックの損傷面   エロージョン・コロージョン
[図4.3.24] 有機材料の硬さが耐エロージョン性に及ぼす影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.25] コンクリートのキャビテーション損傷に及ぼす水-セメント比の影響   エロージョン・コロージョン
[図4.3.26] いろいろなコンクリートの耐キャビテーション性能   エロージョン・コロージョン

 

ORG.:2017/6/3
REV.:2017/6/13