1.2 破壊の分類(Classification of destruction)

1.2 破壊の分類(Classification of destruction)

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部材の損傷や破壊は、いろいろな応力が単独もしくは複合して、部材に作用することで生じます。従って、その破壊機構や破面形態も、複雑です。

破壊の分類についてはいくつかの異なった観点からの分類法があり、また厳密に定義することは困難で、お互いに重複して考えるべき場合もあります。ここでは、文献に示されているいくつかの分類法に基づいて、いっしょに考えて行きたいと考えます。

1.破壊の伝播経路による破壊形式(金属組織学的破壊様式)

一般に使用される金属部材は、通常多結晶組織です。この分類では、破断面のミクロフラクトグラフィにより観察される組織における破壊の経路により、粒内破壊(結晶粒内破壊:trans-crystalline fracture)と粒界破壊(結晶粒界破壊:inter-crystalline fracture)の2種類に分類されます。

粒内破壊は、結晶粒内をき裂が進展して生じる破壊をいいます。粒界破壊は、結晶粒界に沿ってき裂が進展していく破壊をいいます。これらはそれぞれ、延性破壊および、脆性破壊、疲労破壊に分類することができます。
ここでは、粒内破壊、粒界破壊のそれぞれの性状について概観した後、延性破壊や脆性破壊、疲労破壊等の現象的な破壊様式に沿った性状について、簡単に示します。

(1)粒内破壊

多結晶の粒内破壊は、図1.2.1に示すように、一つの結晶粒内の結晶面に沿って生じた破損が、結晶粒界で方向を変えて、隣接する結晶粒に伝播します。方向が変わる理由は、結晶方位が各結晶粒で異なり、粒界で変化するためで、すべり面上の 分応力が臨界値に達して、破損が隣接する結晶に侵入します。そのため破損の伝播経路は、ジグザグになりますが、同時に結晶粒界での破損に対する抵抗が増大します。そのため、結晶粒の細かい金属の方が降伏点が高くなります。
へき開形式の破壊の場合は、結晶粒度によって、破面に粗密が生じます。結晶粒内の破面はほぼ平面になります。隣接する結晶粒とは結晶方位が異なります。そのため、破面全体では結晶粒ごとに傾きが異なる微小な平面の集合体になります。このような破面を結晶質破面といいます。

[図1.2.1] 結晶粒内破壊

機械部品の損傷の大部分は粒内破壊に起因する、延性破壊や脆性破壊、疲労破壊によります。

1)粒内延性破壊
金属材料の延性破面の特徴は、ディンプル(dimple)と呼ばれる多数の小さいくぼみの存在です。塑性変形に伴い、材料中の介在物や析出物の微粒子が核となって、多数の微少な空洞が生成され、これらの空洞が三軸引張応力のもとで成長、合体して破壊に至る際にできます。

ディンプルの形状は、破壊の際の局所的な変形状態により変化します。均一な一軸の引張の場合、円形の等軸ディンプル(equiaxed dimple)、せん断もしくは不均一な引張(引裂き:tear)の場合は、その方向に伸びた伸長形ディンプル(elongated dimple)になります。図1.2.2にそれぞれ(a)等軸ディンプル、(b)伸長形ディンプルの例を示します。

[図1.2.2] (a)等軸ディンプル  (b)伸長形ディンプル

純度の高い金属でディンプルの核となる微粒子が少ない場合や疲労き裂先端、高圧下の破裂のように三軸引張応力が作用しない場合などは、微小空洞が発生せず、大きい塑性変形の後、すべり面分離(glide plane decohesion)をする結果、すべり線上の模様である蛇行すべり(serpentine glide)と呼ばれるうねりを持った縞状の模様(図1.2.3 (A,B)や、これを細かくしたさざ波状の模様(リップル:ripple,図1.2.3(C))が破面に認められます(図1.2.3)。

[図1.2.3] すべり面分離破面

2)粒内脆性破壊
脆性破壊の典型的なものは、へき開破壊といいます。ほとんど塑性変形を伴なわずへき開面で破損するため、破面はへき開ファセット(cleavage facet)と呼ばれる、結晶粒程度の微少破面単位より成り立っています(図1.2.4)。破壊は一つのへき開面では起こらずに、平行ないくつかのへき開面にまたがって起きるため、ファセットの面にはへき開段(cleavage step)を生じます。へき開段を形成する際のエネルギーの関係で、き裂が伝ぱする過程でへき開段が合流して、リバーパターン(river pattern)と呼ばれる川状模様を形成します。川が下流に行くにつれて合流するように、き裂伝播方向がわかります。

リバーと呼ばれる線は、隣接する結晶粒の方位の差のために粒界に発することが多いです。また、き裂伝ぱの際に機械的双晶が形成されるためタング(tongue)と呼ばれる舌状模様が、しばしば観察されます。

[図1.2.4] へき開ファセット

[図1.2.5] タング(低炭素鋼)

また、焼入れ焼き戻し鋼の脆性破面などで、破面がへき開面に沿った破壊であるかどうか明瞭でない場合は、擬へき開破面と呼ばれています(図1.2.6)。

[図1.2.6] 擬へき開破面

3)粒内疲労破壊
繰返し応力のサイクルに対応するストライエーション(striation)と呼ばれる縞模様が特徴とされます。通常は延性ストライエーション(ductile striation)と呼ばれます。これは、き裂伝ぱ方向に沿った帯状の部分の上に伝ぱ方向に直角にストライエーションがあります。応力繰返しの引張過程で、き裂先端の鈍化もしくは開口と、圧縮過程での再鋭化が繰り返されるために応力サイクルに対応して形成され、その間隔は1サイクルあたりのき裂伝ぱ速度を示します。

疲労破面は、巨視的には脆性的な破面ですが、延性ストライエーションの場合は、かなりの凹凸が認められ、蛇行すべりと本質的に同じものであるすべり模様が認められ、ミクロフラクトグラフィ的には著しい塑性変形を受けたことを示しています。

ストライエーションは、プラトー境界ではき裂進展が遅れるため、き裂伝ぱ方向に凸のゆるい曲線になっていることが多く、き裂の進行方向が判別できます(図1.2.7)。

[図1.2.7] 延性ストライエーション

さらには、延性ストライエーションとは別に、脆性ストライエーションと呼ばれるものもあります。脆性ストライエーションは、へき開面に沿って形成されます(図1.2.8)。硬い材料でしかも腐食性雰囲気での疲労破面や、き裂進展速度が速い場合、負荷応力が大きいときに観察されることが多いです。ただし、脆性ストライエーションは疲労破面で観察されることはまれです。

[図1.2.8] 脆性ストライエーション

疲労破壊には、ストライエーションの他に、延性ストライエーションと同様、プラトー上にあるが、応力サイクルには対応しない不規則なストライエーション状の模様が認められることがあります(図1.2.9)。この模様の発生要因は、破面が形成された後の塑性変形によるすべり線もしくは、き裂先端の塑性域に形成されたすべり帯などに沿って、き裂がジグザグに進んで形成されたと考えられます。この模様は、延性ストライエーションのように応力サイクルに対応しないため、き裂伝ぱ速度を定量的に解析はできませんが、実際の破面では、明瞭なストライエーションが残存していない場合も多いので、この模様の存在により疲労破壊と判定するための重要な指標となります。

[図1.2.9] ストライエーション状模様(S38C)

こちらもご参照ください。

5.3 粒内破壊

 

(2)粒界破壊

粒界破壊は、図1.2.10に示すように、結晶粒界に沿って破壊が進みます。形成される破面は、丸みを帯びた小曲面の集合になり、破断面の粗さは結晶粒度に影響されます。

[図1.2.10] 結晶粒界破壊

1)粒界脆性破面
粒界破壊は、粗大な結晶粒の金属に生じる脆性破壊が一般的です。その多くは粒界強度の低下に起因します。その原因は、結晶粒界における不純物の偏析や、第二相の析出などによります。現象としては、遅れ破壊(応力腐食割れ、水素脆性割れ)や、クリープ破壊(W型)、焼き戻し脆性、焼割れ、研削割れなどはこの破損形式が多いです。粒界脆性破壊の例としてオーステナイトステンレス鋼の応力腐食割れの例を示します(図1.2.11)。

[図1.2.11] 粒界脆性破面(18-8ステンレス鋼応力腐食割れ-塩化マグネシウム水溶液浸漬)

粒界に延性層が存在し、結晶粒が硬い場合、ミクロ的には粒界で塑性変形が起きていますが、マクロ的には脆性破壊とみなされます。

2)粒界延性破面
粒界にぜい弱層が存在しない場合の粒界破壊は、原子配列が乱れた非晶質領域の分離になります。粒界の厚さは数原子程度で、その強さは常温では一般的に粒内より強いです。粒界は一般的には非晶質ですが、温度の上昇に伴って強さが著しく低下して、溶融点付近ではほとんどゼロになります。これに対して粒内は結晶質で溶融直前まではある程度の強さを保持しています。従って、粒内破壊か粒界破壊は温度に対する、粒内と、粒界との強さの、いずれか弱いほうに支配されるので、粒内と粒界との温度による変化に従って、ある温度に対して上か下かにより、破壊の形式が粒内破壊か粒界破壊かの何れかの形式をとります。この温度を、ECT(等擬集力温度:equicohesive temperature)といい、ECT以下では、低温型の粒内破壊、ECT以上では高温型の粒界破壊が起こります。

粒界延性破面は、粒界に沿って微小な空洞が形成され、さらに合体して破壊に至るもので粒状の破面にディンプルが認められます。アルミニウム合金の例を示します(図1.2.12)。

[図1.2.12] 粒界延性破面(2219アルミニウム合金)

3)粒界疲労破面
粒界破壊の疲労破壊でも、粒界破面上にストライエーションまたはストライエーション状の模様が認められます(図1.2.13)

[図1.2.13] 粒界疲労破面(炭素鋼)

こちらもご参照ください。

5.4 粒界破壊

 

2.環境条件による分類

この項では、破壊を環境条件により分類する方法を示します。通常用いられる分類項目として、(1)延性破壊、(2)脆性破壊、(3)疲労破壊、(4)環境破壊、(5)高温破壊に分類してそれぞれ記述します。1項と一部重複する記述があります。

(1)延性破壊

この項で言う、延性破壊は部材に過大な荷重が負荷されて破壊する、いわゆる過荷重破壊(overload fracture)の中で、破壊までに大きな塑性変形をともなう破壊をいいます。延性破壊の最も基本的なものとして、延性材料の引張破壊の例を示します。

図1.2.14は、炭素鋼(S45C、焼きなまし材)の単純静的引張の結果で、カップアンドコーン型破壊の例です。カップアンドコーン型破壊としては、延性が小さい方に属します。それぞれ、(a)は破断部のマクロ組織、(b)はカップ底の中心部のSEM画像、(c)は周辺部のシャーリップ部のSEM画像を示します。
カップ底は、巨視的には引張方向に垂直で、細かい凹凸のある繊維状破面ですが、ミクロ的に見ればせん断やティアによりジグザグにき裂が伝ぱした結果、伸長形ディンプルが形成されています。また、シャーリップ部はせん断力によりディンプルが著しく引き伸ばされた伸長形ディンプルが形成されています。

[図1.2.14] 炭素鋼の単純静的引張の破面

図1.2.15は、二重カップ型破壊の破面で、工業用純アルミニウムの例です。(b)の破面中央部のSEM画像に示すように、大きなディンプルが認められます。これは比較的少数の空洞が大きく成長して合体し破壊したことを示しています。(c)は破面周辺部のSEM画像です。リップルが主体となり、少数のディンプルの痕跡が認められます。これは、変形の進行過程で少数の微小空洞が形成はされましたが、最終破断はそれらの成長合体により起こったのではなく、著しい塑性変形の後、すべり面の分離により破壊したことを示しています。

[図1.2.15] 工業用純アルミニウムの単純静的引張の破面

(2)脆性破壊

脆性破壊はき裂進展速度が速い場合に認められます。脆性破壊には、へき開破壊と、擬へき開破壊との2種類の破壊形態があります。この差異は、主にき裂進展速度の大小によります。

へき開破壊の破面であるへき開ファセットは、き裂進展速度が速い場合に観察されます(図1.2.16)。へき開ファセットと呼ばれる破面単位上に川が合流するような様相を示す川状の模様があります。この模様をリバーパターンといい、ほとんど塑性変形を伴わず、へき開面と呼ばれる特定の結晶面で破断します。

[図1.2.16] へき開破面

擬へき開破面は、へき開破壊より若干き裂進展速度が遅くなると観察されます(図1.2.17)。リバーパターンやタングと呼ばれる模様は、へき開破壊と同様に観察されますが、模様が細かく、へき開か否かは判断が困難なところから擬へき開といいます。

[図1.2.17] 擬へき開破面

.へき開破面,擬へき開破面のいずれの場合も、き裂進展速度の相違によって生ずる破面です。疲労破壊の場合は、粒内にデインプルが混在することもあります。その混在割合は速度が速いか、遅いかによって異なります。

(3)疲労破面

疲労き裂の発生伝播過程は、多くの場合、部材表面に作用する繰返し塑性すべりにより、引張応力の方向とおおよそ45°方向にすべり面に沿って形成されたき裂が、その方向に伝ぱする第一段階(通常は1結晶粒程度の距離)、これに続いて引張方向に垂直に伝ぱする第二段階、および最終的な静的破壊の3つの段階に大きく分けられます(4.4項を参照してください)。
これらの段階で、疲労破壊の特徴となるストライエーションなどの模様が認められるのは通常は第2段階です。

疲労破面について、アルミニウム合金材の低サイクル疲労破面の例を図1.2.18に、高サイクル疲労破面の例を図1.2.19に示します。

[図1.2.18] 低サイクル疲労破面

[図1.2.19] 高サイクル疲労破面

低サイクル疲労(図1.2.18)の場合、第一段階は切欠き部底部を示す(b)の中央部、右上方に認められるストライエーションのある部分が第二段階の開始点になります。(c)は切欠きの開始点から少し内側に入った点でのSEM画像です。この部分は明瞭にストライエーション及びタイヤトラックが観察されます。この写真のようにプラトー上にストライエーションがあり、その境界部の斜面上にタイヤトラックがあるのが普通です。(d)の最終破断部は通常の静的引張破面と同様にディンプルが認められます。

高サイクル疲労(図1.2.19)の場合、初期はき裂伝ぱ速度が小さいので(b)のように明瞭なストライエーションは観察されません。プラトーとストライエーション状の模様が破面の主要な模様であることが多いです。(c)は、疲労破壊の後期になり伝播速度が大きくなった時点での破面です。この場合は明瞭にストライエーションが観察されます。

図1.2.20に、延性ストライエーションの発生状態を示します。(a)は鋸歯状、(b)は平行溝状の形態を示します。(a)の鋸歯状型では、山と山、谷と谷、(b)の平行溝状型では溝同士が合対しています。これらより、ストライエーションの形成機構は、図1.2.21(a)に示すものと考えられます。

[図1.2.20]延性ストライエーション

[図1.2.21]ストライエーションの形成機構

最小応力状態(記号0)は、先端が閉じているき裂は、0→1→2と引張応力を増加すると、先端付近の応力集中により図に示すように最大せん断応力方向に近いすべり面に沿って塑性変形を生じます。き裂先端は開口もしくは鈍化してき裂が進展します。続いて除荷工程2→3→4では、逆方向の塑性変形のためにき裂先端の閉口、再鋭化が起こり、その形態は元の状態(4)にもどります。
以下、同様のサイクルを繰り返して、1サイクルごとにストライエーションを形成してき裂を進行させます。除荷工程での閉口は、周囲の弾性領域の拘束からくる圧縮応力により起こります。この圧縮応力の大小によりストライエーションの形態が変化します。
圧縮応力が大きい場合は、閉口が完全になるので平行溝型になります。一方、圧縮応力が小さい場合は閉口が不完全で、鋸歯状型になります。

ストライエーションの形成には、雰囲気が重要な役割を果たしています。例えば、アルミニウム合金においては、真空中の不活性雰囲気中では空気中の破面に見られる明瞭なストライエーションが認められません。
その理由としては、
1)真空中の不活性雰囲気中では破面が酸化しないため、一旦形成された破面が再結合する。
2)空気中では、湿気からくる水素の作用により、脆性ストライエーションと似た機構によって明瞭なストライエーションが形成される。
などの説があります。

脆性ストライエーション
脆性ストライエーションの形成機構を、図1.2.21(b)に示します。引張工程では、へき開面に沿って脆性的に進展した後、延性ストライエーションと同様にき裂先端で鈍化を起こして、進展が停止します。次に除荷工程で、き裂先端が再鋭化が行われて、次のサイクルの脆性的進展の準備がなされます。き裂の進展は、これを繰り返すことにより進行します。
脆性ストライエーションは、腐食性雰囲気で観察されることが多いです。

ストライエーションの発生は、アルミニウムや鉄などの広範な金属材料で観察されるばかりでは無く、高分子材料などでもストライエーションは観察されます。
材料によるストライエーションは面心立方金属では明瞭なストライエーションが発生しやすく、体心立方金属では発生しにくいといわれています。
また同じ結晶系でも、硬さの硬い材料はストライエーションが出にくい傾向があります。例えば、軸受鋼や超硬合金等の高硬度材は観察されません。また、同じ材料でも加工硬化した材料の方がストライエーションが出にくくなります。
高温疲労や低温疲労、高繰返し速度下の疲労(例えば、超音波疲労)、繰返し衝撃荷重下の疲労の意場合ではストライエーションが観察されます。

また、板材を繰返し引張荷重で疲労破壊させた場合、破面が引張方向に直角な第二段階の後に、板の表面から内部に向かって45°方向の破面が第三段階として現れます。これは、き裂が進展するにつれて、き裂先端の塑性域が大きくなって、平面ひずみ状態から平面応力状態に移行するため、最大せん断応力方向の45°方向のすべり帯が生じやすくなるためです。

(4)環境破壊

環境破壊とは、水素脆性による破壊を含む腐食雰囲気下での破壊現象です。腐食雰囲気中では、一般に材料の破壊強度は不足します。その理由は、材料表面の腐食やき裂先端の腐食、酸化、表面エネルギーの低下などによります。
また、破壊は時間依存性があり、遅れ破壊を生じます。破壊の様式は脆性的になります。電子顕微鏡で観察される特徴的模様は、脆性的なものが主体になっており、粒界脆性破面、擬へき開破面、脆性ストライエーションが主だった破壊の模様が観察されます。錆などの腐食生成物が認められることも多いです。
それらの現れ方は、極めて複雑で、材料、環境、応力など多くの条件が関係します。一般的には、応力が小さいほど、より脆性的破面を示します。

鋼の遅れ破壊の破面が応力によりどのように変化するかを示す例です(図1.2.22)。応力拡大係数の増加とともに破面形態は、粒界は脆性破面から、粒内擬へき開破面、ディンプル破面と変化しています。何れも水素ぜい化による割れです。この場合の擬へき開破面は、脆性破壊(へき開破面)の場合とかなり異なります。
それは、かなりの塑性変形を伴うことです。リバー状模様がティアリッジである場合や、ストライエーション状模様が現れる場合があります。水素擬へき開と呼ばれることもあります。水素割れの場合は、粒界破面上にティアラインなどの塑性変形の証拠が認められることがあります。

[図1.2.22] 遅れ破壊における応力拡大係数と破面形態の対応

図1.2.23に、ステンレス鋼の応力割れ破面の例を示します。この場合のリバー状模様は、破面の段である点ではリバーパターンに似ていますが、形成機構は異なります。特定の結晶面に沿った腐食溶解により形成されたと考えられ、流れ模様、ファンシェープドパターン(fan shaped pattern)などと呼ばれることがあります。

[図1.2.23] 18-8ステンレス鋼の応力腐食割れ破面

(5)高温腐食

高温破壊のフラクトグラフィは、破面の酸化が認められること、凹凸の著しいことなどの特徴があります。
高温になるとクリープが著しくなるとともに、粒界におけるすべりが起こるようになり、破壊は粒内破壊から粒界破壊へ移行していきます。

図1.2.24、図1.2.25にクリープ破壊の例を示します。応力が大きい場合は、粒界のすべりによって、粒界の三重点で応力集中が生じて、鋭いくさび形の空洞(W型空洞)発生(図1.2.26(a))して、これらが連結して破壊に至ると考えられます。その破面は、図1.2.24に示すように脆性的粒界破面で、W型空洞が観察されます。

[図1.2.24] クリープ破壊断面(高応力破面)

[図1.2.25] クリープ破壊断面(低応力破面)

[図1.2.26] クリープき裂形成機構

応力が小さい場合は、粒界の析出粒子などの位置に粒界すべりによる小さな空洞が形成されて、この部分に原子空孔が集積して成長し破壊に至るとされています(図1.2.26(b))。破面は、図1.2.25のように、高応力の場合と比較して、凹凸は顕著でなく、粒界面にディンプル状模様が認められます。図1.2.27は、破面の酸化を防ぐために、破断前の試料を低温破壊させて粒界面のディンプル状模様を残した例です。

高温疲労の場合は、クリープ破壊の場合と比べると、粒内破壊から粒界破壊への遷移温度が高くなり、常温の場合と同様のストライエーションが現れやすくなります。応力変動周期、応力保持時間が長い場合に粒界破壊が現れやすくなります(図1.2.28)。周期の短い(a)では、ストライエーションを主な特徴とする粒内疲労破面ですが、周期の長い(b)では粒界クリープ破面になっています。

なお、高温破壊において、クリープの他に酸化腐食の影響が大きくなります。

[図1.2.27] クリープ後、低温破壊により保存した粒界ディンプル状破面

[図1.2.28] 高温繰返し応力下の破面

3.ディンプルの形成過程について

部材に降伏応力以上の負荷応力が作用した場合、部材が塑性変形する際に、材料に含まれる析出物や非金属介在物を核として微小空洞(不純物のまわりは、結合エネルギーが小さいため、引張応力などが作用すると、その周りが空洞になります。)が多数形成されます。それらが合体して、破壊の際にディンプルが形成されます。
ディンプルは、純金属の場合は、数も少なく凹凸も小さいです。不純物が多い金属ほどディンプルの数が増加します。
ディンプルには、応力の負荷される方向により、等軸ディンプルと伸長形ディンプルの2種類に分類されます。伸長形ディンプルについては、負荷される荷重によって、せん断によるものと、引裂きによるものとに分けられます。

図1.2.29に負荷荷重別のディンプル生成機構を示します。このような破面の模様は、静的な引張破断面や疲労破面における最終破断部、また、比較的ゆっくりした繰返し応力(準静的)が作用した場合の破面にあらわれます。

[図1.2.29] ディンプル形成機構

[図1.2.30] 比較的負荷速度の遅い疲労破面

図1.2.30は、ディンプル模様が観察される疲労破面で、繰返し負荷速度が比較的遅い場合の破面を示します。

こちらもご参照ください。(重複するところもありますが、少し違った観点から書いています。)

5.3 粒内破壊
5.4 粒界破壊

<Index>
・”2.金属破断面の見方“の目次をみる

・1. 破壊の種類と負荷応力の作用
   1.1 機械部品の損傷
   1.2 破壊の分類
   1.3 負荷応力の種類
   1.4 フラクトグラフィ

 

 

 

参考文献
100事例でわかる 機械部品の疲労破壊・破断面の見方  藤木榮 日刊工業新聞社
フラクトグラフィとその応用   小寺沢良一   日刊工業新聞社
金属破断面写真集    小寺沢良一他    テクノアイ
機械部品の破損解析   長岡金吾   工学図書
Fractography   ASM Handbook Vol.12   ASM International

 

引用図表
[図1.2.1] 結晶粒内破壊     機械部品の破損解析
[図1.2.2] ディンプルの種類  (a)等軸ディンプル,(b)伸長形ディンプル 機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図1.2.3] すべり面分離破面      機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図1.2.4] へき開ファセット      機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図1.2.5] タング(低炭素鋼)     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.6] 擬へき開破面      機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図1.2.7] 延性ストライエーション フラクトグラフィとその応用
[図1.2.8] 脆性ストライエーション      機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図1.2.9] ストライエーション状模様(S38C)     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.10] 結晶粒界破壊        機械部品の破損解析
[図1.2.11] 粒界脆性破面(18-8ステンレス鋼応力腐食割れ)     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.12] 粒界延性破面(2219アルミニウム合金)     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.13] 粒界疲労破面(炭素鋼)     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.14] 炭素鋼の単純静的引張の破面     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.15] 工業用純アルミニウムの単純静的引張の破面     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.16] へき開破面      機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図1.2.17] 擬へき開破面      機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図1.2.18] 低サイクル疲労破面     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.19] 高サイクル疲労破面     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.20] 延性ストライエーション     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.21]ストライエーションの形成機構     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.22] 遅れ破壊における応力拡大係数と破面形態の対応     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.23] 18-8ステンレス鋼の応力腐食割れ破面     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.24] クリープ破壊断面(高応力破面)     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.25] クリープ破壊断面(低応力破面)     フラクトグラフィとその応用
[図1.2.26] クリープき裂形成機構    フラクトグラフィとその応用
[図1.2.27] クリープ後、低温破壊により保存した粒界ディンプル状破面   フラクトグラフィとその応用
[図1.2.28] 高尾繰返し応力下の破面    フラクトグラフィとその応用
[図1.2.29] ディンプル形成機構      機械部品の疲労破壊・破断面の見方
[図1.2.30] 比較的負荷速度の遅い疲労破面      機械部品の疲労破壊・破断面の見方

 

ORG.:2017/1/22
Correct:2017/7/6
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